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19.現代〜都会の名探偵〜
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「山本さん、こっちです」
待ち合わせの喫茶店で、俺は上村と再会した。といっても、前回一緒に聞き込みに行ってから、まだ一週間しか経っていない。
「待たせたな」
「いや、僕も今来たところなんで」
俺はカフェオレを注文し、上村はメロンソーダを頼んだ。見た目通り、子供っぽい奴だ。
「それでジョン・ダグラスの事件について新たな情報はあったのか?」
上村は美味しそうにメロンソーダを一口ゴクリと飲むと、手帳を開いた。
「その前に本人の容態ですが、昨日確認を取った時点でもまだ意識は戻ってないそうです。家族もお見舞いに来たそうですが、結局次の日には帰国していきました」
「家族が来たのか? 何か聞き出せたのか?」
「正直、目ぼしい情報はなかったですね。学生時代から日本のアニメや漫画に興味はあったようですが、いわゆるオタクというほどでもなく、特にその方面で付き合いのあった人もいません。大学には奨学金を借りて入学していますが、返済が滞っているという話も聞きません。ちなみに経営学を専攻していたようです。はっきり言えば、人畜無害っていうところでしょうか?」
「奨学金の返済は順調っていう話だったが、それは給料からだけで返済してたのかい? それとも別のところからお金を借りて?」
「給料から毎月天引きされてますね。ちなみに他に借金をしていた様子はありません」
アメリカの大学の学費は近年高騰しており、返済できずに破産する人もいる。そのため奨学金の返済のためにローンを組む人もいるほどだ。金銭面で何かトラブルがあったかと思っていたのだが、その線は消えたらしい。
「山本さんのほうは何か分かりましたか?」
「ああ」
俺はスマホを取り出した。
「SNSで奴の子供時代の友達と連絡を取った。小学校まで一緒に過ごしたとかいう男でな。今回の事件の事は聞いていたらしい。けっこうショックを受けてたよ」
「へー」
「そいつが言うには、ジョンは子供の頃から大人しくて、周りの人間とはもちろん親や兄弟ともケンカしたことはほとんど見たことないそうだ。怒鳴ったのも、せいぜい小学校に入る前にペットを買いたいと言って、断られた時くらいだそうだ」
「ペットですか」
話しながら、俺は子供の頃飼っていた柴犬のことを思い出していた。そういえばあいつも名前はジョンだったけ。
「どちらにしても人から恨みを買うタイプじゃないですね」
「ああ」
もちろん、人間どこで恨みを買っているかは分からない。ただ怨恨ならもっと滅多打ちにしていただろう。しかし貴重品も盗まれていないとのことだった。となると……
「おい、お前ら。ちゃんとお金は払ったのか?」
突然、向かいに座る上村が童顔に似合わない、ドスのきいた声を出した。
すぐに振り返ると、高校生らしき三人組の男子が、入口付近でギョッとした顔でこちらを見ている。どうやら無銭飲食をしようとしていたらしい。
上村は普段からは想像もできないような冷たい目で睨みつけている。
すぐに店員がやってきたので、三人も財布を出して会計を始めた。その表情はどこかほっとしているようにも見えたが、上村は視線を外さなかった。三人が店を出ていくまで睨み続けていた。
「さすがだな」
「一応刑事ですからね。最近急にああいうのが増えてて、生活科の奴らもかなり困ってましたよ」
「街から警察官が減ったからか? 青森に機動隊員を送ってるせいで? あれ、まだ収まってなかったのか?」
俺の問いかけに上村は軽くため息をついた。
「どうやらそうみたいです。まあ、それだけを理由にするのは言い訳なんでしょうけどね」
少し疲れたような表情になって上村は言い、またメロンソーダに口をつけた。緑色の毒々しいまでに鮮やかな液体ごしに、高級ブランドのスーツが透けるのはいささかシュールな光景だった。
「被害者の意識が戻るのを待つしかないんでしょうかね」
「そうだな」
俺はそう答えたが、そうはならなかった。
次の日、また別の外国人が襲われたのだ。
またしてもブラックジャックで。
待ち合わせの喫茶店で、俺は上村と再会した。といっても、前回一緒に聞き込みに行ってから、まだ一週間しか経っていない。
「待たせたな」
「いや、僕も今来たところなんで」
俺はカフェオレを注文し、上村はメロンソーダを頼んだ。見た目通り、子供っぽい奴だ。
「それでジョン・ダグラスの事件について新たな情報はあったのか?」
上村は美味しそうにメロンソーダを一口ゴクリと飲むと、手帳を開いた。
「その前に本人の容態ですが、昨日確認を取った時点でもまだ意識は戻ってないそうです。家族もお見舞いに来たそうですが、結局次の日には帰国していきました」
「家族が来たのか? 何か聞き出せたのか?」
「正直、目ぼしい情報はなかったですね。学生時代から日本のアニメや漫画に興味はあったようですが、いわゆるオタクというほどでもなく、特にその方面で付き合いのあった人もいません。大学には奨学金を借りて入学していますが、返済が滞っているという話も聞きません。ちなみに経営学を専攻していたようです。はっきり言えば、人畜無害っていうところでしょうか?」
「奨学金の返済は順調っていう話だったが、それは給料からだけで返済してたのかい? それとも別のところからお金を借りて?」
「給料から毎月天引きされてますね。ちなみに他に借金をしていた様子はありません」
アメリカの大学の学費は近年高騰しており、返済できずに破産する人もいる。そのため奨学金の返済のためにローンを組む人もいるほどだ。金銭面で何かトラブルがあったかと思っていたのだが、その線は消えたらしい。
「山本さんのほうは何か分かりましたか?」
「ああ」
俺はスマホを取り出した。
「SNSで奴の子供時代の友達と連絡を取った。小学校まで一緒に過ごしたとかいう男でな。今回の事件の事は聞いていたらしい。けっこうショックを受けてたよ」
「へー」
「そいつが言うには、ジョンは子供の頃から大人しくて、周りの人間とはもちろん親や兄弟ともケンカしたことはほとんど見たことないそうだ。怒鳴ったのも、せいぜい小学校に入る前にペットを買いたいと言って、断られた時くらいだそうだ」
「ペットですか」
話しながら、俺は子供の頃飼っていた柴犬のことを思い出していた。そういえばあいつも名前はジョンだったけ。
「どちらにしても人から恨みを買うタイプじゃないですね」
「ああ」
もちろん、人間どこで恨みを買っているかは分からない。ただ怨恨ならもっと滅多打ちにしていただろう。しかし貴重品も盗まれていないとのことだった。となると……
「おい、お前ら。ちゃんとお金は払ったのか?」
突然、向かいに座る上村が童顔に似合わない、ドスのきいた声を出した。
すぐに振り返ると、高校生らしき三人組の男子が、入口付近でギョッとした顔でこちらを見ている。どうやら無銭飲食をしようとしていたらしい。
上村は普段からは想像もできないような冷たい目で睨みつけている。
すぐに店員がやってきたので、三人も財布を出して会計を始めた。その表情はどこかほっとしているようにも見えたが、上村は視線を外さなかった。三人が店を出ていくまで睨み続けていた。
「さすがだな」
「一応刑事ですからね。最近急にああいうのが増えてて、生活科の奴らもかなり困ってましたよ」
「街から警察官が減ったからか? 青森に機動隊員を送ってるせいで? あれ、まだ収まってなかったのか?」
俺の問いかけに上村は軽くため息をついた。
「どうやらそうみたいです。まあ、それだけを理由にするのは言い訳なんでしょうけどね」
少し疲れたような表情になって上村は言い、またメロンソーダに口をつけた。緑色の毒々しいまでに鮮やかな液体ごしに、高級ブランドのスーツが透けるのはいささかシュールな光景だった。
「被害者の意識が戻るのを待つしかないんでしょうかね」
「そうだな」
俺はそう答えたが、そうはならなかった。
次の日、また別の外国人が襲われたのだ。
またしてもブラックジャックで。
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