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24.現代〜都会の名探偵〜
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無機質で広く、夕方の暗い会議室。三人しかいないので余計殺風景に感じられる。といっても警察の建物ではなく、警察OBが管理している民間のビルだった。正直、警察署など二度と入りたくないし、向こうも来てほしくないだろうから俺にとっては好都合だった。
呼び出した瑞希は今日も制服ではなく、自前のスーツ姿だった。それが許されるのは彼女曰く人徳らしいが、俺にはもっと別の理由があるような気がしてならない。まあ、正直あまり知りたくもなかったが。
部屋の隅っこで、瑞希は俺と上村を前にして言った。
「それじゃあ、ドア・グリハムの事件について、新たに分かったことを教えてもらえるかしら?」
上村がニコニコしながら答える。
「その前にジョン・ダグラスさんの事件については?」
「大丈夫よ。もう署長を通して聞いてるから」
そう言って瑞希は艶やかに微笑んだ。赤のルージュに白い並びのいい歯のコントラストが鮮やかだった。
上村は傍から見ていて心配になるほど、露骨にその笑みに見惚れる有様だった。
「え~っと、ドア・グリハムさんですが、職場は被害にあった現場から500mほど先にあるビルのなかのIT会社です。日本の企業ですが、社員の半分は外国人です。半年ほど前から勤務しているようですが、人間関係でいさかいがあったという話はありません。ちなみに最初に襲われたジョン・ダグラスとも面識はなかったと思われます。また借金や金銭トラブルも特にないようです。本人はアメリカ国籍ですが、もとはインドの出身らしく家族は今もインドにいるようです。ただ音信はとれませんでした」
「音信がとれない? どういうこと?」
そこに関しては俺が答えた。
「どうやら、ドアはインドではかなり貧しい家庭の出身だったらしいですね。努力して大学を卒業したようですが、お金を稼ぐようになると家族への仕送りが面倒になったようです。最近はいわば絶縁状態でした。そのうち家族も出稼ぎやら結婚やらで、完全にバラバラになってしまったと考えられます」
これを調べるために、在日インド人のコミュニティにかなり協力してもらった。
インドの階層社会システムは現代でもあるし、実際その闇はかなり深い。ドアが家族と連絡を取らなくなったのは、どうやらそこも関係しているようだった。
「じゃあ、恋人とかは?」
「映画を一緒に観に行く友達はいたようですが、特に深い関係だった人はいませんね」
「貴重品が取られたわけでもない、かといって怨恨の筋も考えにくい。となると……厄介ね」
瑞希は少し頬を膨らませると、しなやかに足を組んだ。
もし外国人を狙った無差別犯行だとすると、国際問題になりかねない。
「ひょっとして海外から何か言われましたか?」
インドはともかく、アメリカのメディアあたりは敏感に感じ取ってニュースにしていてもおかしくはない。連中が日本と日本人をどう見ているかは、俺も知らないわけではない。自分達が日本人を差別することは許されても、日本人が自分達を粗末に扱うことは決して許されないと本気で信じている奴らだ。
「いいえ。何も言われてないわ」
瑞希は俺の目を真正面から見て言った。その声は少し驚くくらい冷たかった。
何も言われてない。
本来ならばいいことなのだろう。余計なプレッシャーを上層部からかけられずにすむのだから。
だが俺は言葉の裏に何か気配を感じ取った。
何かある。
俺が口を開く前に上村が言葉を発した。
「あ、何か裏があるんですね」
なかなか勘のいいやつだ。
呼び出した瑞希は今日も制服ではなく、自前のスーツ姿だった。それが許されるのは彼女曰く人徳らしいが、俺にはもっと別の理由があるような気がしてならない。まあ、正直あまり知りたくもなかったが。
部屋の隅っこで、瑞希は俺と上村を前にして言った。
「それじゃあ、ドア・グリハムの事件について、新たに分かったことを教えてもらえるかしら?」
上村がニコニコしながら答える。
「その前にジョン・ダグラスさんの事件については?」
「大丈夫よ。もう署長を通して聞いてるから」
そう言って瑞希は艶やかに微笑んだ。赤のルージュに白い並びのいい歯のコントラストが鮮やかだった。
上村は傍から見ていて心配になるほど、露骨にその笑みに見惚れる有様だった。
「え~っと、ドア・グリハムさんですが、職場は被害にあった現場から500mほど先にあるビルのなかのIT会社です。日本の企業ですが、社員の半分は外国人です。半年ほど前から勤務しているようですが、人間関係でいさかいがあったという話はありません。ちなみに最初に襲われたジョン・ダグラスとも面識はなかったと思われます。また借金や金銭トラブルも特にないようです。本人はアメリカ国籍ですが、もとはインドの出身らしく家族は今もインドにいるようです。ただ音信はとれませんでした」
「音信がとれない? どういうこと?」
そこに関しては俺が答えた。
「どうやら、ドアはインドではかなり貧しい家庭の出身だったらしいですね。努力して大学を卒業したようですが、お金を稼ぐようになると家族への仕送りが面倒になったようです。最近はいわば絶縁状態でした。そのうち家族も出稼ぎやら結婚やらで、完全にバラバラになってしまったと考えられます」
これを調べるために、在日インド人のコミュニティにかなり協力してもらった。
インドの階層社会システムは現代でもあるし、実際その闇はかなり深い。ドアが家族と連絡を取らなくなったのは、どうやらそこも関係しているようだった。
「じゃあ、恋人とかは?」
「映画を一緒に観に行く友達はいたようですが、特に深い関係だった人はいませんね」
「貴重品が取られたわけでもない、かといって怨恨の筋も考えにくい。となると……厄介ね」
瑞希は少し頬を膨らませると、しなやかに足を組んだ。
もし外国人を狙った無差別犯行だとすると、国際問題になりかねない。
「ひょっとして海外から何か言われましたか?」
インドはともかく、アメリカのメディアあたりは敏感に感じ取ってニュースにしていてもおかしくはない。連中が日本と日本人をどう見ているかは、俺も知らないわけではない。自分達が日本人を差別することは許されても、日本人が自分達を粗末に扱うことは決して許されないと本気で信じている奴らだ。
「いいえ。何も言われてないわ」
瑞希は俺の目を真正面から見て言った。その声は少し驚くくらい冷たかった。
何も言われてない。
本来ならばいいことなのだろう。余計なプレッシャーを上層部からかけられずにすむのだから。
だが俺は言葉の裏に何か気配を感じ取った。
何かある。
俺が口を開く前に上村が言葉を発した。
「あ、何か裏があるんですね」
なかなか勘のいいやつだ。
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