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26.現代〜都会の名探偵〜
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「まず、とっかかりをつくったほうがいいですね。そもそも青森で起きた誤射事件について知っていることは?」
上村が聞くと、瑞希はあきらめろとでもいうように手を軽く振った。
「分かっているのは、青森のM市にあるM基地のフェンス越しに、お稽古の帰り道だった小学生の森川環ちゃんが米兵の誤射で撃たれたっていうことだけよ。誰がやったのかも、なぜフェンス越しに誤射してしまったのかも向こうは言わないんだもの。ただ訓練中の出来事だっていうだけ。それ以外はほとんど明らかになっていないわ」
「じゃあこっちで起きた事件の被害者と米軍、あるいは青森としてくくってみた場合に何か接点はないかな?」
「仕事の内容、家族関係、人間関係。その他もろもろでっていうことよね? 岩音君」
「ええ、そうです。例えば最初の被害者、ジョン・ダグラスは不動産会社勤務だったが、扱っている物件に米軍関係の物件はなかったか? とか、二人目の被害者ドア・グリハムはIT会社勤務だが、仕事の内容は具体的にどんなだったんだ? 軍や兵器に関係した仕事はなかったのか?」
「残念ですが、答えはどちらもNOですね」
即答だった。
上村は続けて言った。
「ジョンの会社が扱っているのは普通の土地やマンションが中心です。それも関東の。米軍どころか公的機関との取引もないでしょうね。もっぱら民間の富裕層が相手です」
「その富裕層の客の中に関係者がいた、あるいはいる可能性は?」
「一応顧客リストは見ましたが、ほとんどがアジアの金持ちでしたよ」
「なるほど。じゃあもう一人の被害者の方は?」
「ドアの方ですが、こちらは色々やってますね。スマホ用アプリの設計からゲーム制作、最近は仮想通貨の日本での展開を請け負うプロジェクトまで様々です。二人の家族や友達に軍人がいるかは分かりませんが、特に話題に上った形跡はありません。ただ……」
「お、何だ?」
「何かしら?」
急に声のトーンを落とし、かしこまった上村を前に俺と瑞希が身を乗り出す。
「ドアは過去に何度か会社の機密情報を家に持ち帰ろうとして、アメリカ政府から注意を受けていたみたいです。その際、情報によってはスパイ罪に問われることもあるぞ、とかなりキツく言われたようです」
スパイ天国の日本とは違い、アメリカでは民間企業であっても情報の漏洩にはかなり厳しい対処がなされる。
その場合、調査に赴くのは基本的にCIAだが内容によっては米軍の諜報機関が調査するとも聞いたことがある。
「ドアは実際、情報を誰かに売り渡していたのかしら?」
「というより、本人の意識の問題みたいですね。単純に認識が甘かったみたいです」
「どうしますか? そっちのほうの調査を進めてみますか?」
俺は瑞希の方を向いて尋ねた。
「そうね……それよりもまず……」
瑞希は少し考え込んでから口を開いた。形のいい唇に真っ赤なルージュがよく映えている。
「上村君。あなた、ジョンとドアは面識はないって言ってたけど、それは確かなの? 日本に暮らす外国人は独自のコミュニティを持っているものよ」
上村は首を振った。
いくら美人の妙齢の女性が相手とはいえ、上村にも刑事としての誇りがあるらしい。調査結果については、そう簡単には譲れないようだ。
「メールや各種SNSでもいっさい、交流している影はありません。もちろん会社どうしも接点はないですし、共通の知り合いなどもいません」
「直接の接点はなくても、二人には共通の知り合いはいないのかしら?」
「そこまではちょっと……」
「調べてみて」
「了解です」
上村は嬉々として返事をする。
「スパイ容疑よりも共通の知り合いがいるかが気になりますか?」
「どちらも殺しきれてない。もし本物のスパイやら何やらが絡んでいたらそうはいかないでしょう」
「確かに」
ブラックジャックでの犯行も少し古い感じがするし、どうにもプロの犯行とは思えないのだ。
ただ単なる無差別傷害事件とも思えない。
何とももどかしい気持ちでいる俺に少しだけ笑いかけて、瑞希は部屋を出ていった。
上村が聞くと、瑞希はあきらめろとでもいうように手を軽く振った。
「分かっているのは、青森のM市にあるM基地のフェンス越しに、お稽古の帰り道だった小学生の森川環ちゃんが米兵の誤射で撃たれたっていうことだけよ。誰がやったのかも、なぜフェンス越しに誤射してしまったのかも向こうは言わないんだもの。ただ訓練中の出来事だっていうだけ。それ以外はほとんど明らかになっていないわ」
「じゃあこっちで起きた事件の被害者と米軍、あるいは青森としてくくってみた場合に何か接点はないかな?」
「仕事の内容、家族関係、人間関係。その他もろもろでっていうことよね? 岩音君」
「ええ、そうです。例えば最初の被害者、ジョン・ダグラスは不動産会社勤務だったが、扱っている物件に米軍関係の物件はなかったか? とか、二人目の被害者ドア・グリハムはIT会社勤務だが、仕事の内容は具体的にどんなだったんだ? 軍や兵器に関係した仕事はなかったのか?」
「残念ですが、答えはどちらもNOですね」
即答だった。
上村は続けて言った。
「ジョンの会社が扱っているのは普通の土地やマンションが中心です。それも関東の。米軍どころか公的機関との取引もないでしょうね。もっぱら民間の富裕層が相手です」
「その富裕層の客の中に関係者がいた、あるいはいる可能性は?」
「一応顧客リストは見ましたが、ほとんどがアジアの金持ちでしたよ」
「なるほど。じゃあもう一人の被害者の方は?」
「ドアの方ですが、こちらは色々やってますね。スマホ用アプリの設計からゲーム制作、最近は仮想通貨の日本での展開を請け負うプロジェクトまで様々です。二人の家族や友達に軍人がいるかは分かりませんが、特に話題に上った形跡はありません。ただ……」
「お、何だ?」
「何かしら?」
急に声のトーンを落とし、かしこまった上村を前に俺と瑞希が身を乗り出す。
「ドアは過去に何度か会社の機密情報を家に持ち帰ろうとして、アメリカ政府から注意を受けていたみたいです。その際、情報によってはスパイ罪に問われることもあるぞ、とかなりキツく言われたようです」
スパイ天国の日本とは違い、アメリカでは民間企業であっても情報の漏洩にはかなり厳しい対処がなされる。
その場合、調査に赴くのは基本的にCIAだが内容によっては米軍の諜報機関が調査するとも聞いたことがある。
「ドアは実際、情報を誰かに売り渡していたのかしら?」
「というより、本人の意識の問題みたいですね。単純に認識が甘かったみたいです」
「どうしますか? そっちのほうの調査を進めてみますか?」
俺は瑞希の方を向いて尋ねた。
「そうね……それよりもまず……」
瑞希は少し考え込んでから口を開いた。形のいい唇に真っ赤なルージュがよく映えている。
「上村君。あなた、ジョンとドアは面識はないって言ってたけど、それは確かなの? 日本に暮らす外国人は独自のコミュニティを持っているものよ」
上村は首を振った。
いくら美人の妙齢の女性が相手とはいえ、上村にも刑事としての誇りがあるらしい。調査結果については、そう簡単には譲れないようだ。
「メールや各種SNSでもいっさい、交流している影はありません。もちろん会社どうしも接点はないですし、共通の知り合いなどもいません」
「直接の接点はなくても、二人には共通の知り合いはいないのかしら?」
「そこまではちょっと……」
「調べてみて」
「了解です」
上村は嬉々として返事をする。
「スパイ容疑よりも共通の知り合いがいるかが気になりますか?」
「どちらも殺しきれてない。もし本物のスパイやら何やらが絡んでいたらそうはいかないでしょう」
「確かに」
ブラックジャックでの犯行も少し古い感じがするし、どうにもプロの犯行とは思えないのだ。
ただ単なる無差別傷害事件とも思えない。
何とももどかしい気持ちでいる俺に少しだけ笑いかけて、瑞希は部屋を出ていった。
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