私とお母さんとお好み焼き

white love it

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 なんと言っていいか分からなかった。
 そもそも今まで、お母さんと商売の話なんてしたことはなかったのだ。
 まさかお母さんが、商売に関してここまで色々考えていたとは。ひょっとしたら、亡くなった父よりはるかに商才はあるのでは……

「だからね、私が操ちゃんのせいで我慢をしてるなんて思い込まないで。私が自分のためにお金を使わないのは、単純にあなたやお店のために使うのが楽しいからで、使えないわけじゃないんだから」
「お母さん……」
「私、子供の頃からお金の心配なんてしたことがなかったわ。でも今こうやって、自分で商売をしてみて分かったの。本当はこういう生き方が向いてたんだって。自分でお金の計算をして、色々アイデアを出して、そしてそれがうまくいくのを見るのがどんなに好きかって」

 そう話すお母さんの顔は強がってはいなかった。決して奢ってはいないけど、卑屈にもなっていない。社会と対等に渡り合う一女性経営者の顔だった。

「さっき、あなたのことを養子にしたこと、後悔してないって言ったのは本当よ。もし商売がうまくいかなかったら、あなたに今よりさらに経済的負担をかけていたら、私のほうこそ申し訳なさでいっぱいだったと思う。こんなお母さんでごめんなさいって。でも今言いたいのはね、感謝の言葉なの。あなたがいたから、私は自分の可能性を切り開くことができた」

 そう言って、お母さんはペコリと頭を下げた。

「ありがとう。操ちゃん」

 私はピアノの発表会で、一人色落ちしたスーツのお母さんを見た時に感じた気持ちの正体が分かった。ずっと気になっていたものの正体が。
 内心、責められている気がしたのだ。あなたのせいよ。あなたのせいで、こんなスーツしか着れないのよって。
 あの優しくて、穏やかなお母さんをそんな風に思うまで、追い詰めさせてしまったって。
 そんなことあるわけないじゃないか。
 そもそもお母さんは、私が思い込んでいたようなか弱い女性じゃない。機転と行動力で社会を生き抜く力を持った一人前の女性だった。
 なんで勘違いしてたんだろう?
 あの日、父のお葬式で親族を向こうに回したお母さんの目が力強いものだったこと、誰よりも知っていたはずなのに。

「ねえ、操ちゃん。もっと色々なこと話せばよかったね。お金のことももっと」
「うん」

 私はお母さん肩に頭をあずけて、寄り掛かった。
 柔らかくて暖かくて、とても穏やかな気持ちになれる、そんな肩だった。
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