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ヴァントロア(23) 「最後の戦い」
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翡翠、アリス、そして私の前に立ち塞がる事になった、遣いの光也。その魔力は、魔術師サンサラーから供給される、神の魔法と呼んでも良い程の力を宿していたの。
でも、神の力を魔法として使っていた遣いは以前にもいたのだけれど、光也が放つ神魔法は桁が違い過ぎていたわ。翡翠も、このままでは負けてしまうと考えていた様なのだけれど、天使のアキナに最大限の魔力を使おうと助言され、実行する事になったの。
そこで翡翠を遣いにした、魔術師であるアグリッタからの魔力供給は出来ていた翡翠だったのだけれど、それと同時にアキナは、光也の放った光の矢で消されてしまっていたわ。
そしてその事により、翡翠は怒りに満ちた魔力で光也を攻撃していたのだけれど、それでも通じなかったの。そこで私とアリスは、翡翠に加勢する事となったわ。
「アリス、もし私がやられてしまった時は、貴女が私を遣いに呼び戻しなさい」
「こき使ってあげるわ。それが嫌なら、アイツに勝って来る事ね、ソフィー」
「やれるだけの事はやってみるけど……」
先ずはアリスが翡翠を援護する為、魔力を供給しようとしたわ。だけど、今のままではどうする事も出来なかった為、翡翠を自分の遣いにする事で供給出来る様になるとアリスは考えた様なの。
「若竹 翡翠、アリス クイーンの遣いにならんっ!」
「アリスちゃん? うんっ、よろしくね」
アリスはまだ見習い魔術師ではあったのだけれど、今まで翡翠と過ごして来た信頼があった為、いとも容易く翡翠を遣いとして受け入れる事が出来ていたわ。
これで翡翠は、2人の魔術師に魔力を供給される事になり、更なる力を身に付けていたの。
そして、私も翡翠に近付き、作戦を伝えたわ。
「翡翠、私が囮になるから、貴女はその隙に彼を倒しなさい」
「はい、ソフィーさん」
私は翡翠にそう告げたのだけれど、実際に上手く行くかは保証出来なかったわ。翡翠の最大限になった魔力でも敵わない相手に、通じる技などあるのかも怪しかったからね。だけど今は、2人の魔術師の力を得た翡翠に、私は賭けるしかなかったの。
「全く、厄介そうな相手だけど……アンっ! ドゥーズ、続いてオンズっ!」
先ず、光也の実力を測る為、牽制魔法で私は試す事にしたわ。アンは数字の『1』 を示し、『思考を現実にする』 の能力を持つの。そしてオンズの能力である『強い力』と、ドゥーズの『発芽』 能力を組み合わせた攻撃を放ったわ。
「何だこの魔法は? 逆に魔力が湧いて来たぞ。あんた、俺の味方なの?」
「そうであったら、楽だったかも知れないけれど……オンズ、破裂させなさいっ!」
私は、光也に攻撃するのでは無く、逆にその魔力を増幅させていたわ。そしてある程度、光也自身の魔力が溜まったとこで、その魔力を一気に破裂させ、ダメージを与える事にしたの。簡単に言えば、風船をパンパンに膨らませ、破裂寸前に針で刺した時の状態ね。
「痛って。でも中々面白い魔法の使い方をするんだな、アンタ」
多少のダメージは与えたであろうけど、致命傷を与えるには、程遠い私の攻撃であったわ。
でも、その攻撃は光也の注意を私に向けさせる作戦であり、その間に光也の背後に回っていた翡翠が、攻撃を繰り出す事になったの。
「マリ君、放ってっ!」
翡翠は天使のマリエルが持つ能力の『無垢』 を使い、純白の槍を精製していたわ。その槍は、言葉の如く汚れの無い槍であり、あらゆる物質を貫通させる力があるそうなの。
そして翡翠が放った純白の槍は、光也の身体を貫通させる事に成功したのだけれど、やはりそれでも、痛み与える程の効果しか無かったわ。
そこで光也はもう終わりにしようと翡翠に告げ、ヘルモスの魔法を発動させてしまったの。ヘルモスは『死者の案内者』 であり、魔法の世界全てを闇に包んでしまう能力を持っているらしいわ。
そして次の瞬間、魔法の国は闇と化していたのだけれど、直ぐに光は戻る事になっていたらしいの。だけどそこには、翡翠と光也以外の者は全員存在していなかったそうだわ。
私やアリス、翡翠に力を貸していた、天使達までもが消えてしまっていたらしいの。この状況は翡翠にとって、正に……絶望的であったでしょうね。
でもそんな状況の中、翡翠に異変が起き始めてしまったらしいわ。
「翡翠、終わりだ。翡翠?」
「我に……宿りし……その力……今この時……この瞬間……開放へと……導かん……翡翠…………」
翡翠は仲間達を消され、怒りの感情が爆発してしまった様なの。でも、翡翠は既に変身してるのだけれど、今唱え様としている言葉は、2度目の変身呪文であったらしいわ。
「何をする気だ、翡翠っ!」
「エボリューションっ!!!」
その呪文により、翡翠の身体はドス黒い闇の輝きに覆われてしまったそうなの。
そしてその頃、消されてしまった筈の、私はどうしていたかと言うと。
「ここは……」
「な~」
「ゼロ? 私……間に合ったの?」
少し時間を戻し、光也がヘルモスの魔法を放った瞬間。
「翡翠、もう終わりにしようぜ。……ヘルモス」
ヘルモスの能力により、魔法の国は闇に包まれ掛けていたわ。でも、その時ゼロは、私にメッセージを送っていたの。
「ソフィー、直ぐに一般世界に戻るんだっ!」
「ゼロっ!?」
そして私は、魔法の国が完全に闇で包まれ、消されてしまう前に一般世界へと帰還出来ていたの。
だけど……アリスは間に合わず、記憶を消されてしまい、一般人になってしまったらしいわ。
「ソフィー、危機一髪だったね」
「……ゼロ、私の脳に直接、魔法の国の状況を見せられる?」
ゼロは能力の1つには、離れた場所の状況を見る事が出来る力があるの。そして魔法の国での状況を、私の脳に伝える事で、翡翠達がどうなってしまったかを見る事が出来ていたわ。
だけど、そこに映された状況は、2度の変身呪文を唱えてしまった翡翠が、魔術師アグリッタの魔力全てを吸収してしまい、翡翠自身が神黒翡翠へと凝固してしまっている状態であったの。
そしてそこに、光也を遣いにした魔術師のサンサラーが現れてしまい、ある事に気付いていた様だわ。
「……そうか、そう言う事か。漸く理解したぞ。神黒翡翠の創り方をな」
サンサラーは神黒翡翠の正体に気付いていたらしいの。
神黒翡翠は、魔術師の魔力を遣いが全て吸収し体内で凝縮させ、己の肉体を犠牲にする事により誕生する、『命の石』 であったと言う事を……。
そして、翡翠の身体は闇に包まれたまま、神黒翡翠本来の形である『十字剣』 に変形してしまっていたわ。
「翡翠が、神黒翡翠に……」
「ソフィー、僕も初めて見たけど、彼女が完全に凝固してしまったら、多分……元の姿には戻れない筈だ」
そして翡翠は暗闇の中、1人きりで苦悩していたらしいわ。自分の甘さでアリスや私を巻き込んでしまい、自身もこうして動けなくなってしまっていたのだから。
その苦しみは、更に翡翠を凝固させてしまい、後少しで完全な神黒翡翠が誕生しようとしていた様なの。そうなってしまえば、翡翠の前にいる光也と、サンサラーが神黒翡翠を手にしてしまう事になり、魔法の国を支配する事になってしまうわ。
「……ゼロ、私がもう1度魔法の国に行って翡翠を、神黒翡翠を奪って来るわ」
「それは無理だ、ソフィー。君の魔力では、彼の力に勝てないよ」
もし私が魔法の国へ戻ったとしても、光也にやられてしまう事になり、最悪の場合、私も神黒翡翠にされてしまうかも知れないと、ゼロは告げたの。
そして、2つの神黒翡翠をサンサラーが手に入れてしまうと、どんな魔力を宿している遣いであろうと、敵わなくなってしまうでしょうね。
だけどその時、神黒翡翠になり掛けていた翡翠に変化が起こり始めたの。魔術師アグリッタは最後の魔力で、消えてしまっていた天使アキナの意識だけを創り直していたらしいわ。
そこでアキナは翡翠に、神黒翡翠の魔力を逆にその身体へ、吸収すれば良いのだと助言をした様なの。でも、今の翡翠にそんな事が出来るのかは保証出来なかったでしょうね。それでも翡翠は、アキナに貰った少しの希望により遣って退けたわ。
「神黒翡翠が、翡翠の身体に戻ったわ」
「これなら彼女は、あの魔術師にも勝てるかも知れないよ」
復活した翡翠は、サンサラーと直接対決をする事になっていたわ。
「貴方は……貴方だけは、この身に代えても成敗しますっ!」
「もう1度、神黒翡翠になるが良いっ。サンサラー レボリューションっ!」
サンサラーは、『エボリューション』 では無く、『レボリューション』 と唱えていたわ。これは魔術師がその能力を、最大に発揮する時に唱える呪文であるらしいの。
そしてレボリューションは、『すでに備わりし力の発揮』 を意味し、エボリューションは、『その者が持つ、本来の可能性である進化』 を意味するそうだわ。
即ち翡翠とサンサラーの戦いは、『力』 と『可能性』 のぶつかり合いであったの。
そこで翡翠は、新たに獲得した魔力により、消されてしまっていた天使達を創造し直し、戦いに挑んでいたわ。
「ウエルさん、私に勝利する力を与えて下さいっ!」
「アラゴス、スパンクス、ラドーン、奴を喰らい尽くせっ!」
サンサラーは『ハーラー』 の魔法で3体の怪物を召喚させたらしく、翡翠に襲い掛からせていたわ。だけど翡翠は完全防御魔法を発動させていた為、怪物達の攻撃では傷1つ与える事が出来なかった様なの。
「何なの。翡翠のあの強さは……」
私ですら、身震いしてしまう程であった翡翠の力。翡翠は、アグリッタの魔力を全て吸収していた事と、一旦神黒翡翠になり掛け凝縮した事により、真っ新な魔力を得る事になっていたらしいの。
魔力は魔術師や遣いが使い続けていると、その者の癖が付いて来てしまうわ。そしてその癖は相手に見切られてしまう事があり、弱点となってしまう場合があるの。だけど、今翡翠が宿した魔力はサンサラーに見切られる事無く、力を発揮出来ていた様だわ。
更にサンサラーは、この戦いを行う以前に、光也を含め3人の遣いを選定してしまっていたらしいの。その事により、魔力が残り少なくなってしまっていて、全力の攻撃を出す事が出来なかったらしいわ。多分、神黒翡翠の力で、その魔力も復活させ様としといたのかも知れないわね。
「ラム君、光也君が放った、光の矢を精製出来る?」
「うん。今の翡翠さんの力があれば余裕だよ」
翡翠は天使ラムビエルの能力で、光の矢を精製していたわ。しかも、その矢の能力は光を放つだけでは無く、物質を一瞬にして消し去る力を宿していたらしいの。
そして翡翠は弓と矢を握り締め、サンサラー目掛け放ったわ。だけど、サンサラーもジッとしているだけでは無く、その場を移動する事で翡翠の放った矢を避けてしまったの。
「その程度の魔力で、俺を撃ち抜けると思っていたのか?」
「アキナ君っ、お願いっ!」
アキナの名を叫ぶ翡翠。それと同時にアキナは、翡翠が放った矢を粉砕させていたの。その事より矢は粉々に砕け散り、粒子状になっていたわ。
そしてその粒子は、サンサラーに降り注ぐ事になったの。
と言うか、アキナは私との同化を拒んだのだけれど、翡翠とは同化したみたいね……。
「何だこの光はっ!?」
粒子はサンサラーに浸透して行き、その身体は完全に消え去って行ったわ。
「翡翠が……サンサラーを倒したのね?」
「うん。彼女は身も心も、あの魔術師を超えていたんだ」
こうして今回の戦いは、終結する事となったの。だけど私は、またしても神黒翡翠を手にする事が出来なかったわ。
神黒翡翠の創り方は、私も理解出来たのだけれど、それは余りにも犠牲が大き過ぎる為、易々と実行出来る事では無いの。であるならば、既に存在しているかも知れない神黒翡翠を、また1から探すしか手は無かったわ。
だけど、それでは見つけ出すまでに、どれだけの時間が掛かるのかも、検討すら出来ない状態であったの。
「でも……このまま遣いを続けていたら、いつかは私も……」
私は、今回の戦いで実感させられてしまっていたわ。自分よりも強い遣いがいる事に。それは翡翠の事であり、若しくはこれから遣いになる者達が、私を超える魔法を使い、神黒翡翠は永遠に手に出来ないかも知れないと言う思いであったわ。
もしそうなってしまうと、隼の記憶を取り戻す事も完全に出来なくなり、その繋がりは断ち切らなければならなくなってしまうでしょうね。勿論、記憶を失った隼と、新たな縁を結ぶと言う方法もあるのだけれど、私の性格上、恩を返せなかった事がこの胸に残ってしまう為、出来ない事であったわ。
そして、サンサラーを倒した事により、光也は一般人に戻り、魔法の国には現時点で私とその魔術師エリファス、翡翠の3人だけになってしまっていたの。
「ゼロ、広い庭が出来たから、好きなだけ遊んで良いわよ」
「な~」
「さて……これからどうしたものかしらね」
他の領土が減った事により、私がいる領土は少しだけ広がっていたわ。
と、そこへ、翡翠がやって来たの。
「ソフィーさん、入っても良いですか?」
「翡翠、ええ、入りなさい」
翡翠は遣い達が減ってしまった事で、ある事を考えていたらしいわ。
でも、神の力を魔法として使っていた遣いは以前にもいたのだけれど、光也が放つ神魔法は桁が違い過ぎていたわ。翡翠も、このままでは負けてしまうと考えていた様なのだけれど、天使のアキナに最大限の魔力を使おうと助言され、実行する事になったの。
そこで翡翠を遣いにした、魔術師であるアグリッタからの魔力供給は出来ていた翡翠だったのだけれど、それと同時にアキナは、光也の放った光の矢で消されてしまっていたわ。
そしてその事により、翡翠は怒りに満ちた魔力で光也を攻撃していたのだけれど、それでも通じなかったの。そこで私とアリスは、翡翠に加勢する事となったわ。
「アリス、もし私がやられてしまった時は、貴女が私を遣いに呼び戻しなさい」
「こき使ってあげるわ。それが嫌なら、アイツに勝って来る事ね、ソフィー」
「やれるだけの事はやってみるけど……」
先ずはアリスが翡翠を援護する為、魔力を供給しようとしたわ。だけど、今のままではどうする事も出来なかった為、翡翠を自分の遣いにする事で供給出来る様になるとアリスは考えた様なの。
「若竹 翡翠、アリス クイーンの遣いにならんっ!」
「アリスちゃん? うんっ、よろしくね」
アリスはまだ見習い魔術師ではあったのだけれど、今まで翡翠と過ごして来た信頼があった為、いとも容易く翡翠を遣いとして受け入れる事が出来ていたわ。
これで翡翠は、2人の魔術師に魔力を供給される事になり、更なる力を身に付けていたの。
そして、私も翡翠に近付き、作戦を伝えたわ。
「翡翠、私が囮になるから、貴女はその隙に彼を倒しなさい」
「はい、ソフィーさん」
私は翡翠にそう告げたのだけれど、実際に上手く行くかは保証出来なかったわ。翡翠の最大限になった魔力でも敵わない相手に、通じる技などあるのかも怪しかったからね。だけど今は、2人の魔術師の力を得た翡翠に、私は賭けるしかなかったの。
「全く、厄介そうな相手だけど……アンっ! ドゥーズ、続いてオンズっ!」
先ず、光也の実力を測る為、牽制魔法で私は試す事にしたわ。アンは数字の『1』 を示し、『思考を現実にする』 の能力を持つの。そしてオンズの能力である『強い力』と、ドゥーズの『発芽』 能力を組み合わせた攻撃を放ったわ。
「何だこの魔法は? 逆に魔力が湧いて来たぞ。あんた、俺の味方なの?」
「そうであったら、楽だったかも知れないけれど……オンズ、破裂させなさいっ!」
私は、光也に攻撃するのでは無く、逆にその魔力を増幅させていたわ。そしてある程度、光也自身の魔力が溜まったとこで、その魔力を一気に破裂させ、ダメージを与える事にしたの。簡単に言えば、風船をパンパンに膨らませ、破裂寸前に針で刺した時の状態ね。
「痛って。でも中々面白い魔法の使い方をするんだな、アンタ」
多少のダメージは与えたであろうけど、致命傷を与えるには、程遠い私の攻撃であったわ。
でも、その攻撃は光也の注意を私に向けさせる作戦であり、その間に光也の背後に回っていた翡翠が、攻撃を繰り出す事になったの。
「マリ君、放ってっ!」
翡翠は天使のマリエルが持つ能力の『無垢』 を使い、純白の槍を精製していたわ。その槍は、言葉の如く汚れの無い槍であり、あらゆる物質を貫通させる力があるそうなの。
そして翡翠が放った純白の槍は、光也の身体を貫通させる事に成功したのだけれど、やはりそれでも、痛み与える程の効果しか無かったわ。
そこで光也はもう終わりにしようと翡翠に告げ、ヘルモスの魔法を発動させてしまったの。ヘルモスは『死者の案内者』 であり、魔法の世界全てを闇に包んでしまう能力を持っているらしいわ。
そして次の瞬間、魔法の国は闇と化していたのだけれど、直ぐに光は戻る事になっていたらしいの。だけどそこには、翡翠と光也以外の者は全員存在していなかったそうだわ。
私やアリス、翡翠に力を貸していた、天使達までもが消えてしまっていたらしいの。この状況は翡翠にとって、正に……絶望的であったでしょうね。
でもそんな状況の中、翡翠に異変が起き始めてしまったらしいわ。
「翡翠、終わりだ。翡翠?」
「我に……宿りし……その力……今この時……この瞬間……開放へと……導かん……翡翠…………」
翡翠は仲間達を消され、怒りの感情が爆発してしまった様なの。でも、翡翠は既に変身してるのだけれど、今唱え様としている言葉は、2度目の変身呪文であったらしいわ。
「何をする気だ、翡翠っ!」
「エボリューションっ!!!」
その呪文により、翡翠の身体はドス黒い闇の輝きに覆われてしまったそうなの。
そしてその頃、消されてしまった筈の、私はどうしていたかと言うと。
「ここは……」
「な~」
「ゼロ? 私……間に合ったの?」
少し時間を戻し、光也がヘルモスの魔法を放った瞬間。
「翡翠、もう終わりにしようぜ。……ヘルモス」
ヘルモスの能力により、魔法の国は闇に包まれ掛けていたわ。でも、その時ゼロは、私にメッセージを送っていたの。
「ソフィー、直ぐに一般世界に戻るんだっ!」
「ゼロっ!?」
そして私は、魔法の国が完全に闇で包まれ、消されてしまう前に一般世界へと帰還出来ていたの。
だけど……アリスは間に合わず、記憶を消されてしまい、一般人になってしまったらしいわ。
「ソフィー、危機一髪だったね」
「……ゼロ、私の脳に直接、魔法の国の状況を見せられる?」
ゼロは能力の1つには、離れた場所の状況を見る事が出来る力があるの。そして魔法の国での状況を、私の脳に伝える事で、翡翠達がどうなってしまったかを見る事が出来ていたわ。
だけど、そこに映された状況は、2度の変身呪文を唱えてしまった翡翠が、魔術師アグリッタの魔力全てを吸収してしまい、翡翠自身が神黒翡翠へと凝固してしまっている状態であったの。
そしてそこに、光也を遣いにした魔術師のサンサラーが現れてしまい、ある事に気付いていた様だわ。
「……そうか、そう言う事か。漸く理解したぞ。神黒翡翠の創り方をな」
サンサラーは神黒翡翠の正体に気付いていたらしいの。
神黒翡翠は、魔術師の魔力を遣いが全て吸収し体内で凝縮させ、己の肉体を犠牲にする事により誕生する、『命の石』 であったと言う事を……。
そして、翡翠の身体は闇に包まれたまま、神黒翡翠本来の形である『十字剣』 に変形してしまっていたわ。
「翡翠が、神黒翡翠に……」
「ソフィー、僕も初めて見たけど、彼女が完全に凝固してしまったら、多分……元の姿には戻れない筈だ」
そして翡翠は暗闇の中、1人きりで苦悩していたらしいわ。自分の甘さでアリスや私を巻き込んでしまい、自身もこうして動けなくなってしまっていたのだから。
その苦しみは、更に翡翠を凝固させてしまい、後少しで完全な神黒翡翠が誕生しようとしていた様なの。そうなってしまえば、翡翠の前にいる光也と、サンサラーが神黒翡翠を手にしてしまう事になり、魔法の国を支配する事になってしまうわ。
「……ゼロ、私がもう1度魔法の国に行って翡翠を、神黒翡翠を奪って来るわ」
「それは無理だ、ソフィー。君の魔力では、彼の力に勝てないよ」
もし私が魔法の国へ戻ったとしても、光也にやられてしまう事になり、最悪の場合、私も神黒翡翠にされてしまうかも知れないと、ゼロは告げたの。
そして、2つの神黒翡翠をサンサラーが手に入れてしまうと、どんな魔力を宿している遣いであろうと、敵わなくなってしまうでしょうね。
だけどその時、神黒翡翠になり掛けていた翡翠に変化が起こり始めたの。魔術師アグリッタは最後の魔力で、消えてしまっていた天使アキナの意識だけを創り直していたらしいわ。
そこでアキナは翡翠に、神黒翡翠の魔力を逆にその身体へ、吸収すれば良いのだと助言をした様なの。でも、今の翡翠にそんな事が出来るのかは保証出来なかったでしょうね。それでも翡翠は、アキナに貰った少しの希望により遣って退けたわ。
「神黒翡翠が、翡翠の身体に戻ったわ」
「これなら彼女は、あの魔術師にも勝てるかも知れないよ」
復活した翡翠は、サンサラーと直接対決をする事になっていたわ。
「貴方は……貴方だけは、この身に代えても成敗しますっ!」
「もう1度、神黒翡翠になるが良いっ。サンサラー レボリューションっ!」
サンサラーは、『エボリューション』 では無く、『レボリューション』 と唱えていたわ。これは魔術師がその能力を、最大に発揮する時に唱える呪文であるらしいの。
そしてレボリューションは、『すでに備わりし力の発揮』 を意味し、エボリューションは、『その者が持つ、本来の可能性である進化』 を意味するそうだわ。
即ち翡翠とサンサラーの戦いは、『力』 と『可能性』 のぶつかり合いであったの。
そこで翡翠は、新たに獲得した魔力により、消されてしまっていた天使達を創造し直し、戦いに挑んでいたわ。
「ウエルさん、私に勝利する力を与えて下さいっ!」
「アラゴス、スパンクス、ラドーン、奴を喰らい尽くせっ!」
サンサラーは『ハーラー』 の魔法で3体の怪物を召喚させたらしく、翡翠に襲い掛からせていたわ。だけど翡翠は完全防御魔法を発動させていた為、怪物達の攻撃では傷1つ与える事が出来なかった様なの。
「何なの。翡翠のあの強さは……」
私ですら、身震いしてしまう程であった翡翠の力。翡翠は、アグリッタの魔力を全て吸収していた事と、一旦神黒翡翠になり掛け凝縮した事により、真っ新な魔力を得る事になっていたらしいの。
魔力は魔術師や遣いが使い続けていると、その者の癖が付いて来てしまうわ。そしてその癖は相手に見切られてしまう事があり、弱点となってしまう場合があるの。だけど、今翡翠が宿した魔力はサンサラーに見切られる事無く、力を発揮出来ていた様だわ。
更にサンサラーは、この戦いを行う以前に、光也を含め3人の遣いを選定してしまっていたらしいの。その事により、魔力が残り少なくなってしまっていて、全力の攻撃を出す事が出来なかったらしいわ。多分、神黒翡翠の力で、その魔力も復活させ様としといたのかも知れないわね。
「ラム君、光也君が放った、光の矢を精製出来る?」
「うん。今の翡翠さんの力があれば余裕だよ」
翡翠は天使ラムビエルの能力で、光の矢を精製していたわ。しかも、その矢の能力は光を放つだけでは無く、物質を一瞬にして消し去る力を宿していたらしいの。
そして翡翠は弓と矢を握り締め、サンサラー目掛け放ったわ。だけど、サンサラーもジッとしているだけでは無く、その場を移動する事で翡翠の放った矢を避けてしまったの。
「その程度の魔力で、俺を撃ち抜けると思っていたのか?」
「アキナ君っ、お願いっ!」
アキナの名を叫ぶ翡翠。それと同時にアキナは、翡翠が放った矢を粉砕させていたの。その事より矢は粉々に砕け散り、粒子状になっていたわ。
そしてその粒子は、サンサラーに降り注ぐ事になったの。
と言うか、アキナは私との同化を拒んだのだけれど、翡翠とは同化したみたいね……。
「何だこの光はっ!?」
粒子はサンサラーに浸透して行き、その身体は完全に消え去って行ったわ。
「翡翠が……サンサラーを倒したのね?」
「うん。彼女は身も心も、あの魔術師を超えていたんだ」
こうして今回の戦いは、終結する事となったの。だけど私は、またしても神黒翡翠を手にする事が出来なかったわ。
神黒翡翠の創り方は、私も理解出来たのだけれど、それは余りにも犠牲が大き過ぎる為、易々と実行出来る事では無いの。であるならば、既に存在しているかも知れない神黒翡翠を、また1から探すしか手は無かったわ。
だけど、それでは見つけ出すまでに、どれだけの時間が掛かるのかも、検討すら出来ない状態であったの。
「でも……このまま遣いを続けていたら、いつかは私も……」
私は、今回の戦いで実感させられてしまっていたわ。自分よりも強い遣いがいる事に。それは翡翠の事であり、若しくはこれから遣いになる者達が、私を超える魔法を使い、神黒翡翠は永遠に手に出来ないかも知れないと言う思いであったわ。
もしそうなってしまうと、隼の記憶を取り戻す事も完全に出来なくなり、その繋がりは断ち切らなければならなくなってしまうでしょうね。勿論、記憶を失った隼と、新たな縁を結ぶと言う方法もあるのだけれど、私の性格上、恩を返せなかった事がこの胸に残ってしまう為、出来ない事であったわ。
そして、サンサラーを倒した事により、光也は一般人に戻り、魔法の国には現時点で私とその魔術師エリファス、翡翠の3人だけになってしまっていたの。
「ゼロ、広い庭が出来たから、好きなだけ遊んで良いわよ」
「な~」
「さて……これからどうしたものかしらね」
他の領土が減った事により、私がいる領土は少しだけ広がっていたわ。
と、そこへ、翡翠がやって来たの。
「ソフィーさん、入っても良いですか?」
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黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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