平和がもたらしたもの

秋川真了

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平和がもたらすもの

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「遂に世界全ヶ国が武装解除」
「世界から銃声、遂に消える」
そんな見出しで連日メディアは嬉々としてこのことを報道する。
その報道を横目に男は一服していた。男は煙草などほとんど吸わない。最後に吸ったのはいつだろうか、もう何年も前、友達に誘われ何度か試したが結局吸わなくなった。
自分でもなぜ吸おうと思ったか明確な理由は分からない。ただ誰もが口を揃えて言う「歴史的な日」に何かをしていないとこの世界から置いていかれそうな気がしたからだ。
男の右耳からは「平和万歳」という声が高らかに響き渡ってくる。「もう何日あれをやっているのだろうか」そんな呆れにも近い思いを久しぶりの煙草で覚めた頭の中で感じていた。その喧騒に若干の鬱陶しさを感じているところ聞き慣れない鈍い音が割り込んできた。
先程までの笑みが浮かんできそうな空気が一変、あちこちで悲鳴と止むことのない鈍い音で満たされていく。
男は吐き出すように煙草を捨て音の方へ走った。周りの空気とは裏腹に男は頭が更に冴えていくのを感じた。やっとそこへたどり着くとそこには人間ではない「なにか」が大量の人間を「なにか」で殺している光景だった。醜い光景。それ以外の何でもない。男は悟る。我々はこの宇宙においてとんでもないことをしたのではないかと。
この冴えた頭は計算結果を冷酷に突きつけてくる。抵抗など無駄、という結論を。
男は決意する。息を大きく吸い込み目を瞑る。そしてゆっくりと歩き出す。
男は両手を広げゆっくり近づいていく。アスファルトを踏む音に「なにか」は気付く。こちらを向く。そしてなにか言語を呟いた後、引き金を引く。刹那、音が速いか、痛みが早いか。
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