月夜にまたたく魔法の意思

ag_harukawa

文字の大きさ
44 / 134
第5章 ダイナモン魔術魔法学校

4話

しおりを挟む
 蛙はそっとやってくれた。
左右の胸の間にできた深い切り傷に、直接水が当たらないよう、蛙は上手く優の首筋に水を当てた。
水は優の首筋から胸の谷間に流れ、優しくその傷口を洗い流した。

痛みはすぐに消えた。
それどころか、柔らかな金色の水が肌を伝っていく感触は、温かくて、気持ちが良かった。
優は目を閉じて、蛙の口が吐き出す水に身を任せた。

そうやって、どれくらいの時間がたっただろうか。
身体が十分に温まり、急に眠気が強くなってきたので、優は目を閉じたまま蛙にお礼を言った。

「ありがとう、とっても良くなったみたい。なんだか、すごく、眠くなって来ちゃった」

「それは良かった。 で、さっきから、誰と話してるんだ?」

 優は驚いて目を開いた。それは蛙の声ではなく……

「きゃああ!!」

 優は慌てて上半身をローブで覆い、水の中に飛び込んだ。
蛙の背後にある六柱殿の中に、朱雀、空、吏紀の3人が立って、こちらを見ていたのだ。

「い、いつからそこにいたの!?」

ひきつった顔で、優は六柱殿の中にいるローブ姿の3人を見つめた。
3人ともカラフルなローブをゆるくまとっていて、胸元が大きく肌蹴ている。
優は水の中に顎まで浸かって、自分のローブの胸元をきつく抑えつけた。

「ああ、いつもならサルーテにいるんだが、今日は空の傷を癒すために神殿に来てたんだ。それから少し、ここで休んでたんだけど……」
 吏紀が紳士的に振る舞おうとしながらも、気まずそうに優から目をそらした。

「せっかく気持ちよく寝てたのに、お前の声で目が覚めたんだ」

 そう言った空は、優の裸を見たことよりも、自分の眠りを妨げられたことの方が気になっているようだった。
朱雀だけが、挑戦するように優を見て笑った。

「俺はお前がこの神殿に近づいて来たときから気付いてたぞ」

と。

「見たの? わ、私の……」
「いや、俺は、気づかれる前にここを出ようって言ったんだけど」
「見たの!?」
「朱雀と空が、面白そうだからしばらく見守ろうって言って」
「誰かと話しているように見えたからな」
「見たのね」
「頭でもイカれたんじゃないかと思って、心配して見てやったんだぞ」

「最低! そういうの、覗き見って言うのよ。見たんでしょ、はっきり言って。その方がスッキリする」

「それって、感想を述べて欲しいって、ことなのかな……」
 吏紀が困ったように肩をすくめて優を見た。
「痩せてるな。ちゃんと、食べた方がいいと思う」

 その言葉に、優は唖然とした。
すると、空がフンと鼻で笑う。

「あんな子ども体型、見たうちに入らない」
「最低!」
 優が怒って空に水をかけた。

「そう怒るなって、もしかしてお前、処女か」
 朱雀が呆れたように溜息をついて、自分の緋色のローブをその場で脱ぎ捨てた。

「きゃあ!」
 優が両手で顔をおおって、朱雀に背を向けた。
と、同時に、朱雀が水の中に飛び込んで来た。

「ちょっと何考えてるの!? こっちに来ないで!」

 優は大慌てで蛙の神殿から外に逃げ出した。

神殿の外に出ると、すぐそばで流和と永久が水をかけあって遊んでいた。

「優、どう? 傷の調子は、良くなった?」
 優に気づいた流和と永久が楽しそうに振り返った。
だが、二人の顔を見るなり、優はめそめそと泣き出した。

「ちょっと、優? 一体どうしたのよ」
 優は鼻をすすりながら、水の神殿を指差した。
「中にあの3人がいたの。私、身体を見られた。ひどい辱めを受けたわ……もう、最低」

「なんですって!?」
 流和と永久が目を丸くして顔を見合わせた。
直後、神殿の滝の中から朱雀、空、吏紀の3人が出て来た。しかも、朱雀は裸のままだ。

 その瞬間、流和が恐ろしい声で怒鳴った。
「朱雀! ……ローブを着なさい! あんたたち、何考えてるの!? 優に何したの」
「何もしてない。いや、正確には、何もする気が起こらなかった」
 朱雀がケロっとした顔で流和たちの方へ泳いできた。
流和がひどく怒った顔をしたので、吏紀が朱雀を引き止めた。

「ここはレジーナだ、ローブを着ろ」
 空が朱雀に緋色のローブを投げつけた。

「話があるんだ、流和、聖羅のことで」
「話? 話なら、ここじゃなくても出来るでしょ。私たちはもう上がる、じゃあね」
「俺たちは聖羅を諦めない! それだけ、伝えておこうと思って」
「今回の任務で、俺たちが取り返しのつかない失敗をしたとすれば、それは聖羅を置いて帰って来たことだ」
「それは……そうかもしれないけど、でも聖羅は闇の魔法使いに心を奪われていたじゃない」
「聖羅の光は、まだ完全には消えてなかった。それにあいつ……、ポータルのことを烏森の連中に話してなかっただろ。俺たちがポータルで逃げることを知ってたはずなのに、言わなかったんだ。そのおかげで、俺たちはダイナモンに戻ることができた」

 空の言葉に、流和が振り返った。
「あんたたちが、聖羅を置いて帰って来たことを後悔してるのは分かった。でも、どうやって? 私たちに何ができるの」
「それはまだ分からない」
 空が言葉を詰まらせた。

「だが、聖羅を見捨てないという共通の意識を持っていれば、いつか何かできるはずだ。それを伝えたかった」
 と、吏紀が後をついだ。

「そうなんだ。で、朱雀はどう思ってるの?」
「俺の感情は問題じゃない。聖羅を引きずり戻して、目を覚まさせてやるだけだ。チャンスがあれば、何度でもやるつもりだ」
「それって、ただのエゴなんじゃない? 任務で失敗するなんて初めてだから、取り返したいだけじゃないの?」
「その通り。中でも仲間を見捨てる行為は、最低の失態だ。このままじゃ、校長に示しがつかないだろ」
 朱雀がニヤリと笑った。

「やっぱりね。あんたが聖羅のことを本気で心配してるなんて、信じられないもの。良く分かったわ。動機はいろいろあるだろうけど、私も聖羅には助けてもらったことがある。だから、聖羅のことで何かできることがあれば、もちろん協力するわ。それと、今後、私の親友に酷いことしたら、絶対に許さないわよ、その時こそ、長年の恨みを根ほり葉ほり全て猿飛先生にぶちまけてやるから、覚悟しなさい。 じゃあ、これで」

 流和はクルリと3人に背を向けると、まだメソメソ泣いている優と、優の肩をさすって戸惑った顔をしている永久を連れてレジーナに帰って行った。


「面倒な掟だよな」
 流和の後ろ姿を見送りながら、空がぼやいた。
その隣で、吏紀が頷く。
「そうだな。『仲間を見捨てるな』という掟が、『仲間を裏切るな』という掟よりも優先される。業校長が定めた中で、最も厳しい掟だと思う。だから、仲間が裏切り者だと分かっていても、俺たちにはその仲間を見捨てることは許されない」
「でも、あの場合可能だったのかな。聖羅を連れて帰って来ることは」
 空の疑問に、朱雀がこたえた。

「馬鹿だな、不可能か可能かは問題じゃない。俺たちは聖羅を連れて帰るべきだった、それだけだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...