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第6章 試しの門
4話
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優が永久を探して暗闇の間へ入った、ちょうどその頃、朱雀と吏紀は美空の様子を見に保健室にやって来ていた。
保健室では、保険医のマリー先生、こと、小林真理子先生が流和の手首を治療しているところだった。
「何よ、まさかあんたたちも怪我したんじゃないでしょうね」
保健室に入って来た朱雀と吏紀を見て、マリー先生がすごくイヤそうな顔をした。
「美空の様子を見に来ました」
「ああ、そう。そろそろ目を覚ます頃だと思うけど、まだ絶対安静なんだから、静かにしてあげてね」
マリー先生はベッドで眠る美空を顎でさしたのち、またすぐに流和の手首に向きなおった。
「いったい、どうやったらこんな傷をこしらえることができるのかしら。傷が動脈に達していなかったのが不幸中の幸いよ、おバカさんね」
青いドレスを優雅にまとったマリー先生は、流和の手首を縫合したのち、そこにグルグルと包帯を巻きながらしきりにぼやくのだった。
「さすがはマリー先生、処置が早いね」
流和の横で、空が腰に手をあてて見守っている。
「ありがとう、東雲君。それにしても、あなたが傍に居ながら、どうして彼女がこんな傷を負ったのかしらね」
包帯を巻き終えたマリー先生は、赤みがかった美しい巻き毛をかきあげて、ギロリと空を見つめた。
「昨日、ナイアードに噛まれて来たばかりじゃない? そんなにここが好きなのかしら? もしかして毎日ここに来るつもり? 3度目はないから覚えておきなさいよ」
マリー先生の目が恐い。
「空は悪くありません。私が油断して、デュエルに巻き込まれてしまっただけなんです」
「そもそもデュエルには、一人以上の教師の立会が必要のはずよ。喧嘩まがいの殺し合いを避けるためにね。近頃、怪我人が多くて本当に大変なんだから、これ以上私に手を焼かせないでもらいたいものだわ」
「そんな校則、守ってる奴なんていませんよ。だいいち、怪我人が多いって、今、美空しか居ないじゃないですか」
と、空が口答えする。
「黙りなさい、怪我人は一人いれば十分」
「で、美空の容態はどんな感じなんですか?」
医務室に6つあるベッドの一つを見下ろして、吏紀がマリー先生に聞いた。
「明らかに殺意のある魔法攻撃を受けた痕跡があったわ。具体的に説明すると、月桂樹の棘が心臓に絡みついていた……」
「え、それって」
「闇の魔法じゃない……月桂樹の棘を操れるのは、光の魔法使いだけだ」
流和、空、吏紀、朱雀の間に気まずい沈黙が流れた。美空に呪いをかけたのが、あのとき一緒に居た聖羅であるということが、いよいよ確信に変わって行った。
同世代の仲間が、同じ仲間を殺そうとしたという、にわかには信じがたい現実が、4人の心を締め付けた。
その心中を知ってか知らずか、マリー先生が沈黙を破った。
「一種の呪いね。棘は序所に心臓を締め付け、最後は死にいたらせる。酷い痛みと恐怖がこの子を苦しめたはずよ。この学校に偉大な光の魔法使い、業校長がいて良かったわ。業校長のおかげで、暁さんの心臓に絡みついていた呪いの棘を安全に取り除くことができたわけ。でも、しばらくは激しい痛みが残っているはずだから、今は薬で眠っているのよ。もうじき目を覚ますはず」
マリー先生がそう言った時、ベッドに横たわる美空がかすかに身じろいだ。
「美空」
朱雀が優しく呼ぶ。
マリー先生が忙しく動き回り、暖炉で沸かした薬缶からお湯を注いでミルトスのお茶を作った。陶器の茶碗に注いだミルトスのお茶に、マリー先生が黄色いヒマワリの粉を振りかけると、小さな煙がボッという音とともに立ち上った。
「朱雀」
ベッドの中で目を覚ました美空が、力なく微笑んだ。
「さあ! まずはこれを飲んで。 体が温まるわ」
マリー先生は美空の首を起こすと、今入れたばかりのミルトスのお茶をその口にあてがった。
「月桂樹の棘の魔法には、仮死に近い状態まで体温を下げる毒があるの。体温が正常に戻るまでは全身から痺れと痛みが抜けないから、絶対に安静が必要なのよ。無理に動くと、心臓麻痺を起して本当に死んでしまいますからね!」
「う……。私、生きているのね」
半ば無理に飲まされたお茶に顔を歪ませて、美空は苦しそうにベッドに横たわった。
「私、どうしてここに帰ってこれたの? 一体、何があったの」
美空の問いに、吏紀が簡潔に応えた。
「お前の救難信号を見て、俺たち全員で駆けつけたんだ。意識のないお前を連れて、公安部のポータルを使ってダイナモンに戻ったんだ」
「美空、一体何があったんだ?」
「闇の魔法使いが現れたの」
と、美空はゆっくりと事の顛末を話し始めた。
「私と聖羅が公安部の待機所に着くと、酷い死臭がして……、公安部の魔法使いはすでに殺されたのだと直感したわ。その時、闇の魔法使いが近くにいるから隠れよう、って聖羅が言ったの。だから私たち、公安部の屋敷の中に入ったのよ。酷い惨劇だった……。あちらこちらに死体が転がってて……」
「それで救難信号を上げたのか?」
「いいえ、私はそのとき、偶然に公安部が書き残していた日誌を見つけたのよ。その日誌には、魔法界に潜む闇の魔法使いのスパイについて書かれていた。その内容がとても重要なことに思えたから、私はその日誌をダイナモンに持ち帰ろうと聖羅に提案したの。そうしたら……」
美空が言葉を詰まらせたので、朱雀が静かに頷いた。
「聖羅がやったんだな」
核心をついた朱雀の言葉に、美空は瞳に涙をにじませ、口を閉ざした。
「何が起こったのか分からなかった。あれは、……あれは私の知っている聖羅ではなかったんだもの」
「美空、もういいわ」
流和が耐えられなくなって美空をなだめた。
「あなたに何が分かるの? ダイナモンから逃げ出した卑怯者のくせに! 聖羅は今までずっと傍にいた、私たちの仲間なのよ、裏切り者なんかじゃない!」
「聖羅と話したよ。あいつは、闇の魔法使いになることを望んでいた」
「そんなの嘘よ!」
「俺たちも、嘘だと思いたいさ。けど事実なんだ」
「やめてよ吏紀、そんなこと……」
「聖羅を連れて戻れなかったのは、俺の責任だ。聖羅の光は、まだ完全には消えてない。美空、よく聞け。まだ聖羅を取り戻すチャンスはある――俺たちは仲間を見捨てない、約束だ」
「朱雀……」
美空がすがるように朱雀の手を掴んだ。
その横で、流和が苦虫を噛んだような顔で呟く。
「かっこつけちゃって……。本当は、任務での失態を取り返したいだけのくせに」
「お前も協力してくれるんだよな、流和」
朱雀がニヤリと笑って流和に目配せする。
「ええ、そう、もちろん。私も協力するわよ、美空。約束よ」
「龍崎流和は信用できないわよ」
朱雀の手を握ったまま、美空が横目で嫌そうに流和を見た。
「ああそうですか。別にいいわよ? 信用なんかしてもらわなくたって」
流和がプイと美空に背を向けて、それから突然、思い出したように吏紀と朱雀を振り返った。
「ねえ、そういえば、優と永久はどうしたの?」
「知らない」
朱雀が即座に応えた。
「は?」
「知らない、な」
と、吏紀もきょとんとした顔で応える。
「知らないってどういうこと? まさか、北の塔に置き去りにして来たってわけ!? あの二人はダイナモンに来てまだ一日しかたってないのよ。自分たちで女子寮まで戻れるわけないじゃないの!」
「だから知らない、って。なんで俺たちがあいつらの子守をしなきゃならない? 意味が分からない」
朱雀が不機嫌に言った。優の話を持ち出されると、朱雀はたちまち不機嫌になる。
それまで黙っていたマリー先生が朱雀と流和を厳しく睨みつけた。
「そこまで! ここは病人が安静にする場所なんだから、喧嘩するなら表でやんなさい」
目を丸くして怒りをあらわにする流和に、今度は吏紀が弁明した。
「置き去りにしたんじゃなくて、あの二人は俺たちよりも先に石壁の間を出て行ったんだ。きっと今頃は、部屋に戻ってるさ」
だが、吏紀の言葉を最後まで聞く前に、流和は保健室を飛び出して行ってしまった。
「ちょ、流和! ……たく、俺は置き去りかよ。過保護だよなあ、まったく」
空が寂しそうにぼやいた。
「ねえ、試しの門の試験は、もう終わった?」
「いや、まだだ。明後日の早朝に執り行われるそうだ」
「そう。なら、間に合うかな」
「って、美空、もしかして試しの門を受けるつもりか? 無理するなよ」
「空は黙ってて。私も受けたいの。最初から受ける、って決めてた」
そう言って、美空は真っすぐに朱雀を見つめた。今まで美空は、朱雀の行くところならどこへでも一緒に着いて来た。そうやって朱雀を支え、そのためにならどんな努力だって惜しまなかったのだ。
「ねえ、いいでしょう? マリー先生」
「あなたがどうしても、って言うなら仕方ないわね。その代わり、今晩は絶対安静。薬もしばらく飲み続けるのよ」
「はい、先生」
「さあほら、あんたたちはもう部屋に戻りなさい。いいこと教えてあげる。入院患者の多くが容態を悪化させるのは、見まいに来た客のせいなのよ」
「ひどいなマリー先生。俺たちをバイ菌みたいに言ってさ」
「本当のことでしょうが」
「じゃあな、美空。お大事に」
3人はマリー先生に追い立てられるようにして保健室から出て行った。
「また来る」
最後に朱雀が美空にイタズラなウィンクを残して保健室を後にした。
きっと深い意味はないのだろうが、そんな朱雀を見るたびに美空の心は踊るように弾むのだった。
その頃暗闇の間では、優が一人で闇の中を彷徨っていた。
「永久?」
闇が濡れている。優は消えいりそうな松明の灯りをたよりに辺りを見渡した。
背後で重たい鉄の扉がガシャリと閉まった。
「とーわー」
声の反響から空間の広さを図れると思ったのだが、その意図ははずれ、優の声は闇に吸い込まれて全く響かなかった。
この闇は、音も光も全て吸いこんでしまうようだ。
保健室では、保険医のマリー先生、こと、小林真理子先生が流和の手首を治療しているところだった。
「何よ、まさかあんたたちも怪我したんじゃないでしょうね」
保健室に入って来た朱雀と吏紀を見て、マリー先生がすごくイヤそうな顔をした。
「美空の様子を見に来ました」
「ああ、そう。そろそろ目を覚ます頃だと思うけど、まだ絶対安静なんだから、静かにしてあげてね」
マリー先生はベッドで眠る美空を顎でさしたのち、またすぐに流和の手首に向きなおった。
「いったい、どうやったらこんな傷をこしらえることができるのかしら。傷が動脈に達していなかったのが不幸中の幸いよ、おバカさんね」
青いドレスを優雅にまとったマリー先生は、流和の手首を縫合したのち、そこにグルグルと包帯を巻きながらしきりにぼやくのだった。
「さすがはマリー先生、処置が早いね」
流和の横で、空が腰に手をあてて見守っている。
「ありがとう、東雲君。それにしても、あなたが傍に居ながら、どうして彼女がこんな傷を負ったのかしらね」
包帯を巻き終えたマリー先生は、赤みがかった美しい巻き毛をかきあげて、ギロリと空を見つめた。
「昨日、ナイアードに噛まれて来たばかりじゃない? そんなにここが好きなのかしら? もしかして毎日ここに来るつもり? 3度目はないから覚えておきなさいよ」
マリー先生の目が恐い。
「空は悪くありません。私が油断して、デュエルに巻き込まれてしまっただけなんです」
「そもそもデュエルには、一人以上の教師の立会が必要のはずよ。喧嘩まがいの殺し合いを避けるためにね。近頃、怪我人が多くて本当に大変なんだから、これ以上私に手を焼かせないでもらいたいものだわ」
「そんな校則、守ってる奴なんていませんよ。だいいち、怪我人が多いって、今、美空しか居ないじゃないですか」
と、空が口答えする。
「黙りなさい、怪我人は一人いれば十分」
「で、美空の容態はどんな感じなんですか?」
医務室に6つあるベッドの一つを見下ろして、吏紀がマリー先生に聞いた。
「明らかに殺意のある魔法攻撃を受けた痕跡があったわ。具体的に説明すると、月桂樹の棘が心臓に絡みついていた……」
「え、それって」
「闇の魔法じゃない……月桂樹の棘を操れるのは、光の魔法使いだけだ」
流和、空、吏紀、朱雀の間に気まずい沈黙が流れた。美空に呪いをかけたのが、あのとき一緒に居た聖羅であるということが、いよいよ確信に変わって行った。
同世代の仲間が、同じ仲間を殺そうとしたという、にわかには信じがたい現実が、4人の心を締め付けた。
その心中を知ってか知らずか、マリー先生が沈黙を破った。
「一種の呪いね。棘は序所に心臓を締め付け、最後は死にいたらせる。酷い痛みと恐怖がこの子を苦しめたはずよ。この学校に偉大な光の魔法使い、業校長がいて良かったわ。業校長のおかげで、暁さんの心臓に絡みついていた呪いの棘を安全に取り除くことができたわけ。でも、しばらくは激しい痛みが残っているはずだから、今は薬で眠っているのよ。もうじき目を覚ますはず」
マリー先生がそう言った時、ベッドに横たわる美空がかすかに身じろいだ。
「美空」
朱雀が優しく呼ぶ。
マリー先生が忙しく動き回り、暖炉で沸かした薬缶からお湯を注いでミルトスのお茶を作った。陶器の茶碗に注いだミルトスのお茶に、マリー先生が黄色いヒマワリの粉を振りかけると、小さな煙がボッという音とともに立ち上った。
「朱雀」
ベッドの中で目を覚ました美空が、力なく微笑んだ。
「さあ! まずはこれを飲んで。 体が温まるわ」
マリー先生は美空の首を起こすと、今入れたばかりのミルトスのお茶をその口にあてがった。
「月桂樹の棘の魔法には、仮死に近い状態まで体温を下げる毒があるの。体温が正常に戻るまでは全身から痺れと痛みが抜けないから、絶対に安静が必要なのよ。無理に動くと、心臓麻痺を起して本当に死んでしまいますからね!」
「う……。私、生きているのね」
半ば無理に飲まされたお茶に顔を歪ませて、美空は苦しそうにベッドに横たわった。
「私、どうしてここに帰ってこれたの? 一体、何があったの」
美空の問いに、吏紀が簡潔に応えた。
「お前の救難信号を見て、俺たち全員で駆けつけたんだ。意識のないお前を連れて、公安部のポータルを使ってダイナモンに戻ったんだ」
「美空、一体何があったんだ?」
「闇の魔法使いが現れたの」
と、美空はゆっくりと事の顛末を話し始めた。
「私と聖羅が公安部の待機所に着くと、酷い死臭がして……、公安部の魔法使いはすでに殺されたのだと直感したわ。その時、闇の魔法使いが近くにいるから隠れよう、って聖羅が言ったの。だから私たち、公安部の屋敷の中に入ったのよ。酷い惨劇だった……。あちらこちらに死体が転がってて……」
「それで救難信号を上げたのか?」
「いいえ、私はそのとき、偶然に公安部が書き残していた日誌を見つけたのよ。その日誌には、魔法界に潜む闇の魔法使いのスパイについて書かれていた。その内容がとても重要なことに思えたから、私はその日誌をダイナモンに持ち帰ろうと聖羅に提案したの。そうしたら……」
美空が言葉を詰まらせたので、朱雀が静かに頷いた。
「聖羅がやったんだな」
核心をついた朱雀の言葉に、美空は瞳に涙をにじませ、口を閉ざした。
「何が起こったのか分からなかった。あれは、……あれは私の知っている聖羅ではなかったんだもの」
「美空、もういいわ」
流和が耐えられなくなって美空をなだめた。
「あなたに何が分かるの? ダイナモンから逃げ出した卑怯者のくせに! 聖羅は今までずっと傍にいた、私たちの仲間なのよ、裏切り者なんかじゃない!」
「聖羅と話したよ。あいつは、闇の魔法使いになることを望んでいた」
「そんなの嘘よ!」
「俺たちも、嘘だと思いたいさ。けど事実なんだ」
「やめてよ吏紀、そんなこと……」
「聖羅を連れて戻れなかったのは、俺の責任だ。聖羅の光は、まだ完全には消えてない。美空、よく聞け。まだ聖羅を取り戻すチャンスはある――俺たちは仲間を見捨てない、約束だ」
「朱雀……」
美空がすがるように朱雀の手を掴んだ。
その横で、流和が苦虫を噛んだような顔で呟く。
「かっこつけちゃって……。本当は、任務での失態を取り返したいだけのくせに」
「お前も協力してくれるんだよな、流和」
朱雀がニヤリと笑って流和に目配せする。
「ええ、そう、もちろん。私も協力するわよ、美空。約束よ」
「龍崎流和は信用できないわよ」
朱雀の手を握ったまま、美空が横目で嫌そうに流和を見た。
「ああそうですか。別にいいわよ? 信用なんかしてもらわなくたって」
流和がプイと美空に背を向けて、それから突然、思い出したように吏紀と朱雀を振り返った。
「ねえ、そういえば、優と永久はどうしたの?」
「知らない」
朱雀が即座に応えた。
「は?」
「知らない、な」
と、吏紀もきょとんとした顔で応える。
「知らないってどういうこと? まさか、北の塔に置き去りにして来たってわけ!? あの二人はダイナモンに来てまだ一日しかたってないのよ。自分たちで女子寮まで戻れるわけないじゃないの!」
「だから知らない、って。なんで俺たちがあいつらの子守をしなきゃならない? 意味が分からない」
朱雀が不機嫌に言った。優の話を持ち出されると、朱雀はたちまち不機嫌になる。
それまで黙っていたマリー先生が朱雀と流和を厳しく睨みつけた。
「そこまで! ここは病人が安静にする場所なんだから、喧嘩するなら表でやんなさい」
目を丸くして怒りをあらわにする流和に、今度は吏紀が弁明した。
「置き去りにしたんじゃなくて、あの二人は俺たちよりも先に石壁の間を出て行ったんだ。きっと今頃は、部屋に戻ってるさ」
だが、吏紀の言葉を最後まで聞く前に、流和は保健室を飛び出して行ってしまった。
「ちょ、流和! ……たく、俺は置き去りかよ。過保護だよなあ、まったく」
空が寂しそうにぼやいた。
「ねえ、試しの門の試験は、もう終わった?」
「いや、まだだ。明後日の早朝に執り行われるそうだ」
「そう。なら、間に合うかな」
「って、美空、もしかして試しの門を受けるつもりか? 無理するなよ」
「空は黙ってて。私も受けたいの。最初から受ける、って決めてた」
そう言って、美空は真っすぐに朱雀を見つめた。今まで美空は、朱雀の行くところならどこへでも一緒に着いて来た。そうやって朱雀を支え、そのためにならどんな努力だって惜しまなかったのだ。
「ねえ、いいでしょう? マリー先生」
「あなたがどうしても、って言うなら仕方ないわね。その代わり、今晩は絶対安静。薬もしばらく飲み続けるのよ」
「はい、先生」
「さあほら、あんたたちはもう部屋に戻りなさい。いいこと教えてあげる。入院患者の多くが容態を悪化させるのは、見まいに来た客のせいなのよ」
「ひどいなマリー先生。俺たちをバイ菌みたいに言ってさ」
「本当のことでしょうが」
「じゃあな、美空。お大事に」
3人はマリー先生に追い立てられるようにして保健室から出て行った。
「また来る」
最後に朱雀が美空にイタズラなウィンクを残して保健室を後にした。
きっと深い意味はないのだろうが、そんな朱雀を見るたびに美空の心は踊るように弾むのだった。
その頃暗闇の間では、優が一人で闇の中を彷徨っていた。
「永久?」
闇が濡れている。優は消えいりそうな松明の灯りをたよりに辺りを見渡した。
背後で重たい鉄の扉がガシャリと閉まった。
「とーわー」
声の反響から空間の広さを図れると思ったのだが、その意図ははずれ、優の声は闇に吸い込まれて全く響かなかった。
この闇は、音も光も全て吸いこんでしまうようだ。
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