月夜にまたたく魔法の意思

ag_harukawa

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第6章 試しの門

6話

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流和は気も狂わんばかりに食堂に駆けこんだ。
 優と永久の二人を探して保健室を飛び出した流和は、すぐに北の塔に向かったが、石壁の間には誰もいなかった。
 もしかして、という希望を抱いて自分たちの寝泊まりしているイチジク寮にも帰って見たが、二人が戻った様子はなかった。

 流和には、優と永久がどこに行ってしまったのかがまったく分からなくなってしまった。
 
 すでに夕食の席についていた朱雀、吏紀、空の3人を見つけると、流和は息も絶え絶えに詰め寄った。

「優と永久がどこにもいないの!」
「本当に手のかかるお友達だな」
 空が流和の話を聞きながら、フィンガーボウルで手を洗ってから、ゆっくりとナプキンで口元をぬぐった。
「ちゃんと探したのか? どこに行ったんだろう」
 吏紀がナイフとフォークをテーブルに置いて、隣に座る朱雀を見た。朱雀には魔力探知能力があるが……。
「どこにもいないというのは間違いだ。あの二人がここから逃げ出せるわけがないんだから、どこかにはいるさ」
 と、朱雀は目の前の鴨料理を堪能しながら言った。

「ねえ、朱雀。あなたの力を貸してくれない? 探知魔法で、優と永久の居場所をすぐに見つけられるでしょう」
「嫌だ、どうして俺が」
「朱雀、お願いだから」
 すがって頼み込む流和に、朱雀はイヤイヤと首を振る。
「きっと今頃は、楽しく学内見学でもしてるんだろう。少しは経験によって学ばせてやればいいのさ、ダイナモンのことをな」
 朱雀の言葉に、流和がムッとして睨みつける。
「俺のカラスは屋外専用だしなあ」
 と、我関せずの顔で空がぼやく。
 吏紀だけが少し心配そうに、「俺も一緒に探そうか」と言って、席を立ち上がった。
 だが、そんな吏紀を朱雀が不機嫌に牽制した。
「探す必要なんかない」
「朱雀、本当はお前、二人がどこにいるのかもう分かってるんじゃないのか」
「……」
 朱雀が急に黙り込んだ。

 吏紀の言ったことは本当だった。
 事実、朱雀は優と永久の居場所を知っていたのだ。
 本来、朱雀の探知魔法は意識しなければ使えないものだが、どういうわけか、優がダイナモンに来てからというもの、朱雀は優の炎の香りを、まるで意識していないのに常に感じ取れるようになってしまった。
 そのせいで朱雀は、朝から晩までとても気持ちが落ち着かず、イライラするのだ。優の炎を感じるたび、朱雀は自分の胸がドキドキするのを抑えられなかった。

 吏紀が流和に向きなおった。
「北の塔には石壁の間の他に、三つの闘技場がある。全部探したのか?」
「そっか、もしかしたらそこに迷い込んでるのかも。すぐに行ってみる!」
「あー……。もう、言うなよ吏紀。つまんないな」
「やっぱりだな、朱雀。お前はどうして優のことになるとムキになるんだ。大人げないぞ」
「俺のどこがムキになってるって?」
「じゃあもう一度聞く。優と永久はどこにいる?」
 吏紀が厳しい顔で朱雀を問い詰めた。
 しばらくの間があって後、朱雀が嫌そうに大きく溜め息をついた。
「きっと学内見学をしているのさ。そうでないなら、とんでもない方向音痴か……。最初に木製の間、次に水の間、そして今は、……暗闇の間に入ったみたいだな」
「暗闇の間?」
「暗闇の間……? あんな不気味なところに、あの二人が入るわけない」
「だが間違いない、優は暗闇の間にいる」
 朱雀がきっぱりと断言した。

「そうか。あそこにはゴブリンがいる。大して危険じゃないが、甘くみられると悪戯をしたり、噛みついたりするぞ」
「あれ、ダイナモンのゴブリンて人肉を喰うんだっけ?」
 空がグラスから葡萄ジュースを飲んで、呑気に言った。
「いや、人肉は食べないように調教されているはずだ」
「大変! すぐに迎えに行ってくる」

 流和が踵を返し、駆けだそうとした。
 そのとき、
 ガシャンッ!
 と、それまで優雅に食事をしていた朱雀が突然、ナイフとフォークを取り落とした。
「まさか……どこから入ったんだ」
 先ほどまでとは一変、朱雀の声が急に緊迫感を帯びる。
 ビュンッ!
「へ?」
「朱雀、どうしたんだ?!」
 突然席から立ち上がり、空中からルビーの杖を取り出した朱雀を、空と吏紀がビックリして見つめた。
 朱雀の眼が紅く輝きを放つ。

「空、すぐに業校長を呼んで来い。暗闇の間で何かが起きている。あれは……、ゴブリンなんかじゃない!」

「え、ちょ……優と永久は無事なんでしょう?」
 という流和の言葉を最後まで聞くことなく、朱雀の体は炎に包まれて、そのまま光の速さで食堂から飛び出て行った。
 食堂にいる他の生徒たちが驚いた顔で見つめる中、空が立ちあがった。
「まったく、次から次へと、一体何だって言うんだ」
「あの様子から察するに、どうやらあまり猶予はないようだな」
 空と吏紀が機械的に杖を出し、スケボーのように宙を駆って朱雀と同じように食堂から出て行った。

「な、ちょっと、……なんなのよ……」
 後に残された流和が、戸惑いがちに朱雀の後を追いかけて走り出した。
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