月夜にまたたく魔法の意思

ag_harukawa

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第8章 闇の襲撃

12話

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「ねえ、本当に私と一緒に舞踏会に行ってくれるの?」

 ダイナモンの舞踏会が前日に迫った金曜日の夜。
 いつものように炎魔法の特訓をしてくれる朱雀に、優がまた質問した。

「何度同じことを聞くんだ。いいかげんにしろよ」
「だって私、初めての舞踏会をとってもとってもとーっても楽しみにしてるんだよ! もし当日になって突然別の女の子と一緒して私に意地悪するつもりなら、今のうちに言って欲しいの」
「突っ込みどころ満載だ。もし俺が『意地悪』するつもりだとして、それを事前にお前に言うはずがないだろうが」
 朱雀は「意地悪」の部分を優の口真似をして言った。
 何度もしつこいので、もううんざりなのだ。

「だいいち、今から別の相手を見つけるのは難しいと思うぞ。大抵の奴はもう、相手を決めて準備してるんだからな」
「準備って?」
「たとえば、コサージュとか。パートナーと揃いのコサージュをつけていくのが習わしだ」
「嘘! 私コサージュなんて持ってないよ」
「それは俺が準備するからいい」
「もう準備してくれた?」
「いや、まだだ。お前のドレスの色を聞かないと花を決められない」
「いつ聞くつもりだったのよ、ピンクだよ! 薄桃色のピンク。ブルガリアローズみたいな色。でもなんでドレスの色が関係あるの? 今からでも間に合うの?」
 優が心底心配そうだ。

 他人から心配されるなんてまったくもって心外ではあったが、こと舞踏会のこととなると優があまりに必死なので、ちょっと可愛いとさえ思えてしまう。
「花は明日の朝摘みに行く。一番綺麗なのを」
「私も一緒に行く?」
「結構だ。俺一人で行かないと意味がない。それにお前は明日もドラゴンの所に行くんだろう」
「あ、そうだった。一人で行かないと意味がないって、また、何かの魔法?」
「そうだ」
「ふうん」
 納得したように頷いて、優がまた何かを思いめぐらして思案する顔になる。
「私が準備しておくものってある?」

 まったく、炎の防御壁を作り続けながら、よくもそう次から次に喋るものだ。
 ここ数日間で優の魔法は目覚ましく上達し、すでに炎の防御壁を完璧に作りだし、維持することができるまでになっていた。
 もうそろそろ、魔法と体術を組み合わせた戦闘訓練に入っても良さそうだ。

「今日の練習はここまでにする」
 防御壁の外から朱雀に言われ、優はすぐに魔法を解いた。

「合格?」
「一応。あとは実戦で応用を身につけていくしかない。次からは戦闘訓練だ。それと、」

 大広間から北の塔に続く出口に向かいながら、朱雀が付け加える。
「お前が準備しておくものはこれから言う2つだ」
「うん、何?」
「最高に俺好みに着飾ることと、明日は俺の物になることを覚悟しておくこと。しっかりやれよ、図書委員」

 朱雀は振り向きもせずにそう言い残すと、男子寮へ戻って行ってしまった。

「はあ……??」

 後に残された優は口をあんぐりと開けて、キザな朱雀に呆れて言葉がでない。
 近くに何か投げる物があれば、間違いなく投げていたと思う。
 このとき優はハッと我に帰ったのだった。そう、舞踏会に行けることになったけれど、一緒に行ってくれる相手はあの朱雀なのだ。キザで高慢で我がままで……手に負えない朱雀だ!
 最初に出会った頃よりはましになったし、何度も優を助けてくれた優しいところや、どの授業でも優秀な成績を収めているらしい朱雀はカッコよくも見えたが、優はもしかしたら、とんでもなく危険な人をパートナーにしてしまったのではないか……と、今さら後悔しても遅い。
 胃の辺りがキリキリと痛むのを抑えて、優は重たい足取りで女子寮に続く南の塔の階段を上って行った。

 螺旋階段を上り切り、イチジク、ブドウ、ザクロ、ヤナギ、樫の木の5つの廊下に分かれる踊り場まで来ると、ザクロ寮の廊下から美空が出て来た。
 普通の生徒はもう自室に入っている時間だったので、もしかしたら美空は優を待っていたのかもしれない。
 
「特訓はもう終わったの? いつもより早いのね」
「うん、炎の防御壁ができるようになったから。こんな時間に、どうしたの?」
「待ってたのよ。ちょっと、話したくて」

 医務室で二人きりだったときには話し相手にもなってくれなかった美空が、優と話したいというのは意外だった。
「なに?」
「明日の舞踏会、あなた、朱雀と行くのよね」
 階段の手すりに手をかけ、何気なく体を預ける美空の仕草は、シャクヤクの花を思わせた。
 女の優から見ても、美空は女っぽくてセクシーだと思う。それでいて下品でなくて、潔癖すぎるくらい高貴な雰囲気を漂わせているから、普通の男の子はきっと近寄りがたいとさえ感じるのかもしれない。

「うん、そうだよ。他に誰も誘ってくれなくて、多分、朱雀は面白半分で私に目をかけたんだと思うけど」
 優はちょっとふくれっ面をして、自分も階段の手すりに寄りかかった。

「美空は、誰と行くの? てっきり朱雀と行くと思ってたよ。違ったんだね」
 優の問いかけに、美空が一瞬、顔を曇らせた。
「ザクロ寮の早乙女と行くことになってるわ」
 優は早乙女という男子を知らなかったが、ザクロ寮に所属しているのならば、きっと美形なんだろうなと想像した。
「でも私、朱雀のことが好きなのよ」
 と、ズバリ美空が言ってのけたので、優はちょっと驚いた。
「だから本当は、今年も朱雀と一緒に行きたかったわ。なのに彼、今年は私を誘ってくれなかった」
 そう言って、美空は責めるような目で優を見てきた。

 ここは「ごめん」と謝るべきなのだろうか。
 でも考えてみれば、優にとっても朱雀がどうして自分と一緒に舞踏会に行ってくれるのかがよく分からなかった。
「もしかして朱雀は、美空に焼き餅をやかせるつもりなんじゃない?」
「あり得ないわね。彼はそんな小細工しない人だもの。あなたを誘ったのは、きっと私よりもあなたに興味があるからだと思う」
 美空はそこまで言うと、自分で言った言葉にショックを受けたようで、ガックリと項垂れて額に手を当てた。
「まったくもう、最悪だわ。……わからないの、どうして、あなたなのかしら。だってあなた、全然朱雀のタイプじゃないもの。痩せてて色気はないし」
 美空も結構ヒドイことを平気で言う人なのだ。
 しかし、優は複雑な気持ちで上手く反撃ができない。
「あら、失礼なことを言ってごめんなさい。でも本当のことなのよ。で、明日着るドレスの色は何色?」
「ピンクだよ」
「ほらね! そこからしてもう朱雀の好みじゃないもの。あの人ピンクは嫌いよ」

 ついさっき朱雀とドレスの話をしたが、そんなことは言っていなかった。
 まあ、朱雀が本当にピンクが嫌いだとしても、優は代わりのドレスを持っていないからどうしようもないのだ。

「美空は何色のドレスを着るの?」
「私は青よ。青と言っても、王族色の青で、帳がおりたばかりの夜空みたいな色。スカート部分にはスワロフスキーが散りばめられていて、星みたいに綺麗なの。朱雀のシュコロボヴィッツの瞳によく映えると思ってせっかく新調したのに……ガッカリだわ」
 そしてまた優を責める目。

 美空って案外と素直で可愛いな、と、優は思った。
 朱雀のことを好きな思いを、全然隠そうとしないのだ。本当に好きなんだろう。

「私ね、ダイナモンに入学した最初の頃からずっと朱雀を見て来たからわかるの。彼、今まで誰にも恋をしたことがない……それなのに」
 美空はキッと優を睨みつけると、ズバリ質問してきた。
「明王児優、あなたは朱雀を好きなの? 朱雀のすべてを愛せる?」

 唐突にそんなことを聞かれても困ってしまう。
 出会った頃よりは、優は朱雀のことが好きになって来ている。でも、全部じゃない。好きになれないところもいっぱいあるのだ。イジワルなところとか、すぐ怒るところとか。

「わからないよ、そんなの」
「それなら、彼には近づかないで。私は朱雀の全部を愛せるのよ。だから、朱雀のことを本当に好きじゃないなら、思わせぶりに朱雀に近づいたりしないで。きっとあなたは朱雀を傷つける。だって朱雀はあなたのことを、本当に……」

 美空は恐い顔で優を睨みつけ、その後はただ黙りこんでしまった。けれどもその瞳の奥には、朱雀のことを思う愛があるのだということが、優にはちゃんと分かった。
 優にはもちろん、そんな美空の恋路を邪魔しようという気持ちはない。
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