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第13話 三蔵の租税教育
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三蔵一行は、旅の途中である町に立ち寄った。
その町は、ひどく荒れていた。
道は穴だらけで、橋は壊れかけている。
町の見回りをする役人の姿は見えず、盗賊が堂々と歩き回っている。
「この町は、どうしてこんなに荒れているのですか」
三蔵が町人に尋ねると、男は諦めたような顔で答えた。
「領主が税を取るだけ取って、何もしてくれないからです。道の修理も、治安の維持も、すべて放置されています」
三蔵は、心を痛めた。その様子を、孫悟空は複雑な思いで見つめた。
宿に戻ると、孫悟空が珍しく黙り込んでいた。
「悟空、どうしたのですか?」
「……いや、何でもない」
孫悟空は五百年前の自分を思い出していた。
天界で暴れ、税収をかすめ取り、民の苦しみを顧みなかった日々を。
「三蔵様」
猪八戒が口を開いた。
「今日の町のことで、学んでおくべきことがあります」
「学ぶこと……ですか?」
「はい。税についてです」
猪八戒は、真剣な表情で言った。
「税が正しく使われないと、どうなるか。そして、税の本来の目的は何なのか。それを理解することは、将来のあなたにとって重要です」
沙悟浄も頷いた。
「お前はいずれ、多くの民を導く立場になるかもしれない。税の仕組みを知っておくことは必要だ。まず、税とは何か、分かるか?」
沙悟浄が尋ねた。
「民から集めるお金……ですか?」
三蔵が答えると、猪八戒が補足した。
「それだけではありません。税は、みんなで共通の費用を負担するための仕組みです。一人では負担できない大きな事業を、みんなで協力して実現するのです」
「では、税は何に使われるべきか?」
沙悟浄が続けた。
「道路や橋の建設・修理」
「治安を守るための兵士や役人の給料」
「学校や病院の運営」
「災害が起きた時の救助活動」
「貧しい人々への支援」
猪八戒が付け加えた。
「つまり、一人ではできないけれど、みんなにとって必要なことです。『公共』のためのお金、と言えるでしょう。では、今日見た町の問題は何だったのでしょう」
三蔵が考えながら言った。
「税は集めているのに、道路も治安も放置されている……」
「その通りです」
猪八戒が頷いた。
「領主は税を私的に使っているのです。民のためではなく、自分の贅沢のために」
沙悟浄が厳しい口調で続けた。
「これは、税の本来の目的を裏切る行為だ。民から預かった税を、横領している」
「ところで、税はどの程度が適正なのですか」
三蔵が疑問を口にした。
「多すぎても、少なすぎても問題があります」
猪八戒が説明した。
「多すぎれば、民の生活を圧迫します。今日食べるものにも困るほど税を取るのは、間違いです」
「しかし少なすぎれば、必要な公共事業ができないのですね」
三蔵の言葉に沙悟浄が頷いた。
「道路が整備されず、治安が悪化し、結果的に民が困る」
「バランスが大切なのです。それから、公平性も重要です」
猪八戒が続けた。
「豊かな者からは多く、貧しい者からは少なく。これが基本的な考え方です。同じ金額でも、豊かな者にとっては少額でも、貧しい者にとっては大金です。生活に与える影響が全く違うのです」
沙悟浄が具体例を挙げた。
「富豪が100文払うのと、貧農が100文払うのでは、意味が違う。富豪には痛くも痒くもないが、貧農は家族が飢える。」
「為政者には、税を預かる責任も生じます。税は、民のために、正しく使わなければならないのです。」
三蔵は、深く頷いた。
「はい。必ず覚えておきます」
「それから、もう一つ大切なことがあります」
猪八戒が付け加えた。
「税を使う側だけでなく、使われ方をチェックする仕組みも必要です」
「チェック……ですか?」
「はい。権力者は、どうしても誘惑に負けやすいものです」
沙悟浄が説明した。
「だから、民が税の使い道を監視できる仕組みが必要だ。会計を公開する、議会で審議する、民からの意見を聞く――。そういった透明性が、不正を防ぐ」
「そして、民にも権利があります」
猪八戒が力強く言った。
「税の使い道について質問する権利」
「不正があれば抗議する権利」
「適切でない統治者を交代させる権利」
「税を払う以上、民は統治に参加する権利があるのです」
三蔵は、目を輝かせた。
「それは、とても大切なことですね。民と統治者は、対等な関係であるべきだと。では、理想的な税制とは、どのようなものでしょう」
三蔵が尋ねた。
沙悟浄が答えた。
「適正な負担で、公平に集め、透明に使う。そして、その結果として、民の生活が向上する」
猪八戒が続けた。
「道路が整備され、治安が保たれ、教育や医療が充実する。つまり、民が『税を払って良かった』と思えるような結果が出ること。それが理想です」
「でも、現実は難しいのですね」
三蔵が、今日見た町を思い出して言った。
「そうだ」
沙悟浄が頷いた。
「人間には欲がある。権力を持つと、つい私利私欲に走りがちだ。だからこそ、常に注意深く、制度を整える必要がある。だから、一人に全ての権力を集中させてはいけない。分散させ、相互にチェックする仕組みが必要だ」
「ただし、三蔵様」
猪八戒が付け加えた。
「税制は複雑で、常に変化します。経済状況、社会情勢、技術の進歩――様々な要因で変わります。ですから、常に学び続けることが大切です」
沙悟浄も頷いた。
「今日の学びは、始まりに過ぎない。これからも、様々な地域を見て、経験を積んでいくといい」
「はい。大切な教えをありがとうございました」
二人は素直に学ぶ三蔵にかつての安仁を重ね、温かく微笑んだ。
孫悟空は、そっと宿を抜け出していた。
三蔵が真っ直ぐに、健全に育ってゆくことは、孫悟空の幸せでもある。
しかし、三蔵が健やかに成長するほど、かつて犯した罪が重くのしかかる。三蔵を育て、教えを施す資格などないと、五百年前の自分が責め立てる。
「俺がいくら変わっても、過去を無かったことにはできない…」
孫悟空はひとり呟いた。
月明かりが、優しく頬を照らしていた。
その町は、ひどく荒れていた。
道は穴だらけで、橋は壊れかけている。
町の見回りをする役人の姿は見えず、盗賊が堂々と歩き回っている。
「この町は、どうしてこんなに荒れているのですか」
三蔵が町人に尋ねると、男は諦めたような顔で答えた。
「領主が税を取るだけ取って、何もしてくれないからです。道の修理も、治安の維持も、すべて放置されています」
三蔵は、心を痛めた。その様子を、孫悟空は複雑な思いで見つめた。
宿に戻ると、孫悟空が珍しく黙り込んでいた。
「悟空、どうしたのですか?」
「……いや、何でもない」
孫悟空は五百年前の自分を思い出していた。
天界で暴れ、税収をかすめ取り、民の苦しみを顧みなかった日々を。
「三蔵様」
猪八戒が口を開いた。
「今日の町のことで、学んでおくべきことがあります」
「学ぶこと……ですか?」
「はい。税についてです」
猪八戒は、真剣な表情で言った。
「税が正しく使われないと、どうなるか。そして、税の本来の目的は何なのか。それを理解することは、将来のあなたにとって重要です」
沙悟浄も頷いた。
「お前はいずれ、多くの民を導く立場になるかもしれない。税の仕組みを知っておくことは必要だ。まず、税とは何か、分かるか?」
沙悟浄が尋ねた。
「民から集めるお金……ですか?」
三蔵が答えると、猪八戒が補足した。
「それだけではありません。税は、みんなで共通の費用を負担するための仕組みです。一人では負担できない大きな事業を、みんなで協力して実現するのです」
「では、税は何に使われるべきか?」
沙悟浄が続けた。
「道路や橋の建設・修理」
「治安を守るための兵士や役人の給料」
「学校や病院の運営」
「災害が起きた時の救助活動」
「貧しい人々への支援」
猪八戒が付け加えた。
「つまり、一人ではできないけれど、みんなにとって必要なことです。『公共』のためのお金、と言えるでしょう。では、今日見た町の問題は何だったのでしょう」
三蔵が考えながら言った。
「税は集めているのに、道路も治安も放置されている……」
「その通りです」
猪八戒が頷いた。
「領主は税を私的に使っているのです。民のためではなく、自分の贅沢のために」
沙悟浄が厳しい口調で続けた。
「これは、税の本来の目的を裏切る行為だ。民から預かった税を、横領している」
「ところで、税はどの程度が適正なのですか」
三蔵が疑問を口にした。
「多すぎても、少なすぎても問題があります」
猪八戒が説明した。
「多すぎれば、民の生活を圧迫します。今日食べるものにも困るほど税を取るのは、間違いです」
「しかし少なすぎれば、必要な公共事業ができないのですね」
三蔵の言葉に沙悟浄が頷いた。
「道路が整備されず、治安が悪化し、結果的に民が困る」
「バランスが大切なのです。それから、公平性も重要です」
猪八戒が続けた。
「豊かな者からは多く、貧しい者からは少なく。これが基本的な考え方です。同じ金額でも、豊かな者にとっては少額でも、貧しい者にとっては大金です。生活に与える影響が全く違うのです」
沙悟浄が具体例を挙げた。
「富豪が100文払うのと、貧農が100文払うのでは、意味が違う。富豪には痛くも痒くもないが、貧農は家族が飢える。」
「為政者には、税を預かる責任も生じます。税は、民のために、正しく使わなければならないのです。」
三蔵は、深く頷いた。
「はい。必ず覚えておきます」
「それから、もう一つ大切なことがあります」
猪八戒が付け加えた。
「税を使う側だけでなく、使われ方をチェックする仕組みも必要です」
「チェック……ですか?」
「はい。権力者は、どうしても誘惑に負けやすいものです」
沙悟浄が説明した。
「だから、民が税の使い道を監視できる仕組みが必要だ。会計を公開する、議会で審議する、民からの意見を聞く――。そういった透明性が、不正を防ぐ」
「そして、民にも権利があります」
猪八戒が力強く言った。
「税の使い道について質問する権利」
「不正があれば抗議する権利」
「適切でない統治者を交代させる権利」
「税を払う以上、民は統治に参加する権利があるのです」
三蔵は、目を輝かせた。
「それは、とても大切なことですね。民と統治者は、対等な関係であるべきだと。では、理想的な税制とは、どのようなものでしょう」
三蔵が尋ねた。
沙悟浄が答えた。
「適正な負担で、公平に集め、透明に使う。そして、その結果として、民の生活が向上する」
猪八戒が続けた。
「道路が整備され、治安が保たれ、教育や医療が充実する。つまり、民が『税を払って良かった』と思えるような結果が出ること。それが理想です」
「でも、現実は難しいのですね」
三蔵が、今日見た町を思い出して言った。
「そうだ」
沙悟浄が頷いた。
「人間には欲がある。権力を持つと、つい私利私欲に走りがちだ。だからこそ、常に注意深く、制度を整える必要がある。だから、一人に全ての権力を集中させてはいけない。分散させ、相互にチェックする仕組みが必要だ」
「ただし、三蔵様」
猪八戒が付け加えた。
「税制は複雑で、常に変化します。経済状況、社会情勢、技術の進歩――様々な要因で変わります。ですから、常に学び続けることが大切です」
沙悟浄も頷いた。
「今日の学びは、始まりに過ぎない。これからも、様々な地域を見て、経験を積んでいくといい」
「はい。大切な教えをありがとうございました」
二人は素直に学ぶ三蔵にかつての安仁を重ね、温かく微笑んだ。
孫悟空は、そっと宿を抜け出していた。
三蔵が真っ直ぐに、健全に育ってゆくことは、孫悟空の幸せでもある。
しかし、三蔵が健やかに成長するほど、かつて犯した罪が重くのしかかる。三蔵を育て、教えを施す資格などないと、五百年前の自分が責め立てる。
「俺がいくら変わっても、過去を無かったことにはできない…」
孫悟空はひとり呟いた。
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