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第2章
2-1 入学式当日
しおりを挟むいつの間にか寝ていたルカは、辺りが白け出した頃に一度目を覚ました。まだ寒い‥そういえば、昨日は本を読んでいて徹夜からの事件に巻き込まれて十分に睡眠を取れていなかった。瞼が重い‥‥もう一回寝よ、再び布団を被ろうとした時ソフィア先生がやってきた。
「おはようスィエーナ目覚めはどうだ?私が起こしにきてやったぞ、嬉しいか?」
「‥zzz」
パンっ!頭に軽く衝撃が走り寝たふりをするなと叩かれてしまう。一応病人なはず、許して貰えなかったのか?‥‥諦めて昨夜動かなかった身体を起こし、ソフィア先生に挨拶をした。
「おはようございます先生。おやすみなさいっ」
「完全に覚めるまで、叩いてやろうか?‥‥それより調子は?少しは回復したと思うが」
「えぇ身体が起こせるくらいには回復しました、魔法の行使はまだ出来そうにありませんけど‥‥」
一度まとまった睡眠を取ったからか、頭はスッキリしている。問題は身体が筋肉痛になっていることだ、ほぼ全身ときたか……此れでは候補生の職務どころか日常生活も十分に出来ないな、トイレに行くのも一苦労しそうだった。
「この体たらく、候補生として情けないっ訓練生に戻ります!」
「それは上が決めることだ‥‥今日正式に授与されるはずだったがまぁ、もう一日くらいは休ませてやる。多分明日くらいに呼び出されるだろう、報告文でも考えておけ。それと始業式前にコノシェンツァとカルーゾが顔を見にくるそうだ、寝たふりするなよ。では、また見にくる」
フィルとアルバートが来てくれるのか、昨日は顔を合わせてないしあと二人にお礼言わなきゃな。一人ではあの状況を乗り越えることがで出来なかっただろう。腕枕をし、天井を見上げて今後の予定を模索する、ルチアさんとノエミさんも誘ってご飯とかどうだろう‥‥
(まぁ二人も忙しいかな)
ーーーーーーーーーー
少し目を瞑ったつもりだったが、寝てしまっていたようだ。近くで誰かが話す声が聞こえ起きてしまう。良い気持ちで寝ていたのにな‥‥一体誰だ?
「寝ちまってるよっ起こすか?生きてるよな?寝てるように死んでないよな?」
「声が大きいぞ、あとよく見ろ、寝息を立てているだろうがっ‥‥‥‥‥‥心配になってきた」
「‥‥うるさい」
まぁそうだと思ったが、フィルとアルバートだ。なんでフィルまで自信無くなってんだよ!目を開けて身体を起こし生きていることを証明してやる。二人は慌てたように俺の背中に手を回して来た、大袈裟だ。
「二人とも、心配しすぎだ。ちょっと身体が筋肉痛なだけだからな」
「ちょっとじゃねぇよ!!ぶっ倒れただろうが!俺がどんだけ必死に走ったと思ってんだ?!!」
「ルカ、気を悪くしないでやってくれ、アルバートは本気で心配しているんだ。それに俺だって目を覚まさないんじゃ無いかって、気掛かりだった」
「お、おう」
すまない‥‥予想以上に心配をかけてたみたいだ。二人は同化の副作用を知っている、前回も俺は倒れてしまいここに運び込まれた。二日は眠っていたと聞かされ、自分でも驚いたのだから、二人が今回もこうなることを頭に入れておけば良かったな‥‥‥
「二人のおかげで助かった。ありがとう、もう大丈夫だ。この通り動いてるだろ?」
「ま、まぁその調子なら大丈夫だろうがよぉ‥‥」
「回復が早くて安心したぞ、他に身体の違和感が有ったらすぐ言えよ」
「あぁ、そうする。ーーーーーーすまん」
一瞬の静寂が過ぎ去り、朝七時を知らせる鐘がなる。アルバートが「ところでっ」と今までしんみりしていた空気を一変させた。
「あの可愛い二人はどう言う関係か聞こうじゃないか!ルカさんよぉ!!」
「あーそういえば忘れてた、今年から訓練生になる子達だ。話そうと思ってた」
「ずいぶん親身に心配してたぞ!何か有るんじゃないのか!!」
「そりゃルカは命の恩人みたいなものだろ、心配するだろ普通」
「ソフィア先生に帰れって言われたのに帰らなかったし、なんと言うか眼差しが熱かった!!泣いてたし!!」
「そりゃ泣いてたからな。ついでにお前も泣いてた」
「バラすな!!」
泣いていたのか、あの二人も‥‥‥昨日のルチアさんはそんな素振りはなかったけどな、あの二人も必要以上に気にしていなかったら良いがーーーーーー
「おい、お前ら朝からうるさいぞ、スィエーナ朝食の時間だ。私が食べさせてやろうか?」
「あ、大丈夫です」
「ルカお前!ソフィア先生が折角食べさせてくれるって言うのに!ソフィア先生!俺の口にあーんお願いします!」
「カルーゾ‥‥学院生たる者、品行方正、清廉潔白、方正謹厳でなければならん、お前も良い加減自分を正せっ。スィエーナ、暑いからふーふーして上げようか?」
「先生もご自分を律して下さい」
騒がしい朝になりそうだ‥‥いつもの日常に戻って来た実感がした。
フィルが呆れたように先生を説得する傍、アルバートは温度差に落ち込む。ずいぶん先生に気に入られたものだが、男女のソレではなく、未だ謎の多い『同化』を使える俺を貴重なサンプルとして見ている、興味本意と言うやつだ。ただソフィア先生は人一倍関心が強いらしく、俺の動作を細かく観察したいのだとか‥‥‥動物扱いだな。
同化を使えたことで、困難を乗り切ることが出来た、出来ればいつでも使えるように練習をしておきたいが‥‥‥‥
(しかし術の発動条件がわからない、これじゃあ練習の仕様もないな)
(出来ることは体力を上げることと、魔力を効率よく行使することぐらいか?これは勘だが前回よりも回復が早いことから、術者のレベルによって副作用も軽減できるのでは?いや、しかし俺の理想から遠のくぞ‥‥‥)
ハァーーとため息をついていると、新たにお客が二人訪れる。
「あのーお早う御座います。よろしいですか?」
「おはようございます!!」
ドアから少し覗く白髪と黒髪は昨日からよく知っている二人だった。俺が手をあげると入室し、そのまま一礼し改めて挨拶をかわす。
「フィル・ディ・コノシェンツァ先輩とアルバート・アウレリオ・カルーゾ先輩、ですよね?昨日は挨拶も十分に出来ず、申し訳ありませんでした。改めて私はルチア・ファリナ・カメリンと申します。ルチアとお呼び下さい、宜しくお願い致します」
「私はノエミ・エレナ・ネロです!よろしくお願いします!ノエミと呼んで下さい!!」
「昨日紹介しようと思っていたルチアさんとノエミさんだ、今年と言うか今日から訓練生だな、俺たちの後輩になる」
フィルとアルバートはそれぞれ軽く自己紹介していた。フィルは慣れた様子で相手に緊張感を与えないよう笑顔で丁寧に、アルバートは手を頭の後ろにやって何故か緊張していた‥‥いや鼻の下を伸ばしていた。まぁ気持ちはわからんでも無い、二人とも美少女という言葉が当てはまる容姿をしているし、性格も礼儀正しく品行方正、清廉潔白、方正謹厳が似合いそうだ。
「あの、宜しかったら朝食をご一緒しても良いですか?お弁当を作ってきたので」
「奇遇だな、俺たちも食堂で貰ってきたからここで食べようとしたところだ。良いですよね?先生」
「あぁ問題ない、但しスィエーナに食べさせるのは私だ!」
「ですから、自分で食べれますんで、自分の食べて下さいよ」
各々、自分の朝食を取り出し机や椅子に置いて食べ始めた。よく見ると、ルチアの持っているお弁当が一個多い、誰の分だろう?まさか顔に似合わず、二人前食べるのだろうか‥‥ルチアは俺の病院食を見てタイミングが悪そうに一つ差し出して来た。
「あの、やっぱり病院食ありますよね、先輩用に一つ作りすぎてしまって‥‥‥多いですよね?不要でしたらっ」
「頂こう(キリッ」
「えっでも、多いですよ?」
「貰う!せっかく作ってくれたんでしょ?食べない理由はないし」
「!はいっどうぞ召し上がれっ!」
今まで硬い面持ちしか印象に無かったが、一気に綻んだ彼女の笑顔はとても明るく、何故か此方が気恥ずかしくなってしまい、顔を背けてしまった。アルバートがさっきから、こちらの方を恨めしく見ている、メシを喰えメシを。
「ありがたく頂くよ、今はよく食べる事ぐらいしか出来ないからさ」
「お口に合うと良いのですが‥‥」
「ルーちゃんのご飯は最高ですよ!私が補償します!」
先生が食べさせようとしてくる病院食を遠ざけて、ルチアのお弁当を一口食べてみる。作ってから少し時間が経っているとは思えない位美味しい、寮のご飯が不味い訳ではないがこのお弁当には何処か特別な物を感じる。二口、三口と止まらなくなり、気づいたら残り半分になっていた。
「美味しいよ、ルチアさんありがとう」
「そ、そうですか!良かったぁ」
「そうでしょう?そうでしょう?美味しいに決まってます!」
「君が言うことでは無いと思うが‥‥‥」
「「気に食わない‥‥」」
二人して小言を呟いたのは、ソフィア先生とアルバートだ。「何故私のあーんを食べないんだ!」先生は俺に食べさせることによって何か得られる物が有るのか?面白半分にやっているとしか思えない‥‥アルバートはいつものことだから放っておく。
ルチアさんのお弁当を食べてしまい、病院食に自分で手をつける。しかし美味しい物を先に食べたからか食が進まない‥‥‥俺が手を止めているとここぞとばかりに先生が身を乗り出して来た。
「スィエーナ、やはり私の『あーん』が欲し」
「アルバートにしてやって下さいよ、お互いwin-winでしょう?」
「あの、先輩宜しければ私が‥‥」
「え‥‥えっと、大丈夫だよ?自分で食べれるから」
「あ、そ、そうですよね!余計なお世話ですよね、あはは‥‥‥」
「い、いやそう言うことでは無くて」
ここは食べさせて欲しいと言った方が良かっただろうか‥‥しばしの沈黙が訪れお互い口を開きかけた時、フィルが話題を変えてアシストしてくれた。
「アルバート、そろそろ食べ終わらないと間に合わないぞ。僕らも始業式のあと入学式に出席しなきゃいけないんだからな、先生も始業式は出席されますよね?早く食べ終えて下さい」
在校生、特に訓練生は式典などに出席させられる。通常訓練生から候補生になる場合等は式典で発表され、徽章が授与される仕組みだ。授与されるものは要出席だがルカは怪我のため、欠席扱いとなる。
(出られなくて良かった、一気に注目されるからな)
現在午前七時三十分、始業式は八時から、入学式は九時からとなるがしかし敷地が広いため、移動には時間がかかる。アルバートが「わかってるよ!」と一気に食事を口に掻き込み、先生のペースは変わらず「どうせ立っとくだけだから少し遅れても平気だ」などと言っている、良いのかそれで‥‥
「じゃあルカ!俺ら式行ってくるから!!ちゃんと寝てろよ!」
「ちゃんと飲み込んでから話せよ。ではお二人とも、ルカのこと宜しくお願いします。まて!走るな!」
走って行くアルバートをフィルが追いかけて行く。あいつらゴミ捨てて行けよ‥‥相変わらずだな。二人がいなくなったことで、病室はいつもの静けさを取り戻す。するとノエミさんがくすくすと笑っているのがわかった。
「賑やかだったね!笑っちゃった!!」
「えぇ、本当にっ」
「ちなみにスィエーナを混ぜるともっと煩いぞ」
「そうなんですかっ?先生?」
「ああ!訓練生の中じゃ目立っているな」
「俺は巻き込まれているだけです!」
アルバートが問題を起こして、フィルがお人好しで相談に乗り、近くにいる俺が割りを食う。だいたいいつもコレである。そのせいで有る意味顔がきく、良くも悪くもだ‥‥‥
今日から入る新入生達には悪い印象を与えないよう最大限努力しようと思うルカだった。
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