【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

文字の大きさ
17 / 252

17 それぞれの心のうち

「お手伝いありがとう」
「助かったよー。また来てね」

 十三時、最後まで残っていた子どもが帰ると、玩具の片付けをしながら優子先生と昌江先生が言った。

「はい、また来ます」

 玩具の片付けを手伝いながら一太が言う。
 子どもたちの抱っこを堪能して、ずっとにこにこと笑顔だった一太は、笑い疲れた頬をむにむにと触りながら頭を下げた。

「楽しかったです」

 そんな一太に、ずっと笑顔だった優子先生が少し表情を引き締める。

「一太先生、ちゃんと水分を取ってご飯を食べるのよ」
「そうよー。この仕事、体力勝負なんだからね」
「はい」

 昌江先生にも笑顔のまま念を押されて、一太は神妙に頷いた。
 二人は、飲み物を持たずに来た一太と松島に、託児の人数が減って昼寝の子が増えたタイミングで、自販機で飲み物を買っておいでと言ってくれたのだ。自販機で買うなんて贅沢がどうしてもできなくて、大丈夫ですと固辞した一太を、心配してくれているのだろう。
 結局、松島が買ったお茶を分けあって事なきを得たが、ぽつぽつと一太と話していた昌江先生は何か察するものがあったらしい。
 巧みな話術に乗ってしまい、一太が朝食を食べていないことを白状すると、昨夜食べたもの、その前の昼ごはんまで根掘り葉掘り聞いてきた。じっと一太を見る昌江先生の目は、預かった子どもたちに向けられるものと同じで、嘘など吐けない一太が食事を蔑ろにしていることはすぐにバレてしまった。
 とりあえず、空のペットボトルか、百円均一ショップで水を入れられる水筒を手に入れよう。流石に、水分を取らないといけない季節だというのは一太にも分かる。

あきら先生もお疲れ様」
「はい」

 ブロックを丁寧に重ねて片付けていた松島に、優子先生が声をかける。

「あの、僕、全然お役に立てなくてすみませんでした」

 元気なく頭を下げる松島は、僕は何もできていない、と飲み物休憩の時から落ち込んでいた。

「何言ってるの。助かったわよー。けいとくん、お昼寝から起きた後はあきら先生ばかり見てたよ。きっと自分の担当の先生だって、覚えたんだわ」
「でもけいとくん、誰が抱っこしても泣くわけじゃないから。きっと先生方が抱っこしてたら、もっと居心地が良かったと思います。それに、とものりくんとかしゅんくんとか近寄っただけで泣かれてしまって……」
「あはは。あの子達は、ママ以外は誰が近寄っても泣くのよ。パパも駄目な時期かもよ? けいとくんはあきら先生が大好きだったのは間違いないから、自信持って」
「はい……」

 明るい優子先生の声にも、松島はしゅんとしたままだ。

「それじゃ、お疲れ様」

 松島のブロックの片付けが終わるのを待って、昌江先生が部屋の電気を消す。

「あー、お腹空いた。二人とも、ちゃんとお昼ご飯食べるのよ。あきら先生、一太先生と一緒に食べてあげてね」

 え?  と振り返る一太の肩を昌江先生はぽんぽんと叩く。ふ、と真顔になって、今度は両手で一太の両肩を掴んだ。目を見開く一太の顔をまじまじと見てから、また先ほどまでの笑顔に戻る。

「絶対に食べて帰りなさい。何なら、夜ご飯も二人で食べてからお家に帰して」
感想 682

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】優しい嘘と優しい涙

Lillyx48
BL
同期の仲良い3人。 ゆっくり進んでいく関係と壊れない関係。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

別れたはずの元彼に口説かれています

水無月にいち
BL
 高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。  なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。  キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。  だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?  「やっぱりアレがだめだった?」    アレってなに?  別れてから始まる二人の物語。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。