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170 ♢内見
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晃は、案内の不動産屋、部屋の間取りに興味津々の母、窓から外を覗いて家の周辺の状況を確かめている父の後を一太と二人でついて歩いていた。今、住んでいる部屋を決めた時もこんな感じだったな、と思いながら。違うのは一太がいることくらいだ。晃には、自分が住む家を決める時のこだわりなどなく、住む家を決める時に見なくてはいけないことが何かもよく分からない。だから、ただ大人たちの後ろをついて歩いているしかない。まあ、分かる人に任せるのが一番だろう。
一太は、晃よりしっかりと部屋を見ている様子だった。
内見は初めての経験らしく、始めは戸惑っていた。だが、次第に真剣に前のめりに部屋の中を確認し始めている。
「いっちゃん、どう?」
母に聞かれて、うんうんと悩む様子が可愛い。よく分からないよね? よく分からないという気持ちがよく分かるよ、と晃は思う。住む上で大事なことなんて、一人暮らし歴一年と少しの二人に分かるわけがないのだ。
今回は、寝室を一つにしたい、という希望があるからそこだけはしっかりチェックしているが、晃は他のことはどうでも良かった。父が、それぞれの部屋があるタイプを勧めてきているから、そこは強く言わねばならない。後は、家事リーダーの一太が使いやすい間取りになっていればいい。今、候補に上がっている部屋は全部、一人暮らし用と違ってキッチンが広いから、コンロが二つ欲しいという一太の希望は必ず叶いそうだ。
「ひ、広いですね」
一軒目。一太のひねり出した感想はそれだった。確かに広かった。築年数が古く、晃の感覚では昔風の間取りに見える。和室が二つと台所、洗面、トイレ。ベランダは、洗濯物を干せるようにはしてあるが広さはない。
二軒目も似たような感じで、和室一つと洋室一つに台所、洗面、トイレ。洗面とトイレは改築したらしく新しくて、浴室乾燥機が付いていた。
「色々あるんですね」
浴室乾燥機を見ての、一太の二軒目の感想だ。どちらも、陽子に聞かれるまで口は開いていなかった。
そして三軒目。一太は中に入るなり、晃から離れて自分でキッチンへ入っていった。
「この形……」
内見三つ目のこの部屋は、ここまでの二つより築年数が少し新しく、キッチンがオープンタイプだったのだ。
「陽子さんのとこと一緒だ」
水場やコンロが壁側でなくリビングダイニングの方を向いているなんて、こんな賃貸アパートでは珍しい。
一太の言う通り、松島家のキッチンとよく似ていた。皆の様子が見えるしカウンターに物を置けるしすごく気に入っている、と母がいつも言っている形だ。
「いいわね。コンロもIHだわ」
「これも、陽子さんちと一緒ですね」
部屋は、リビングダイニングの隣に和室が一つ。広めのベランダは、屋根がしっかりと全体を覆っていた。余程強い風が吹かない限り、急に雨が降っても洗濯物は濡れなくて済みそうだ。
これまで内見した二軒より狭いが、今、二人で暮らしている一人暮らし用の部屋のことを思えば、格段に広い。
「父さん。僕、ここがいいな」
「悪くないが、寝室が一つしかないぞ」
それがいいんじゃないか、というのは心の中でだけ言った。
「布団を二つ並べて寝るからいいよ」
「うーん。確かに、周辺も静かでいいが」
一軒家の建つ並びに、ぽつんと建っていて、一階と二階の二軒だけのアパートの二階。
晃の言葉を聞いて、不動産屋が詳しい説明を始めた。一階には、まだ子どものいない共働きの新婚夫婦が住んでいるらしい。大きい通りから一本中に入った通りだから、家の前の道路は基本的に周辺の住人しか通らない。隣の一軒家が大家さんの家。子どもも独立して仕事も定年退職した、老夫婦の二人暮らしだそうだ。
「悪くないな……。一太くんはどうだろう」
慎重な父は、すぐにこれだと決めたりはしない。けれど、先ほどまでの二軒とうってかわって、母と二人、うろうろと自主的に部屋を見て回っている一太の様子を見れば、聞くまでもない気がする、と晃は思う。
「いっちゃん。僕、ここ気に入ったんだけど、いっちゃんはどう?」
一太は、晃よりしっかりと部屋を見ている様子だった。
内見は初めての経験らしく、始めは戸惑っていた。だが、次第に真剣に前のめりに部屋の中を確認し始めている。
「いっちゃん、どう?」
母に聞かれて、うんうんと悩む様子が可愛い。よく分からないよね? よく分からないという気持ちがよく分かるよ、と晃は思う。住む上で大事なことなんて、一人暮らし歴一年と少しの二人に分かるわけがないのだ。
今回は、寝室を一つにしたい、という希望があるからそこだけはしっかりチェックしているが、晃は他のことはどうでも良かった。父が、それぞれの部屋があるタイプを勧めてきているから、そこは強く言わねばならない。後は、家事リーダーの一太が使いやすい間取りになっていればいい。今、候補に上がっている部屋は全部、一人暮らし用と違ってキッチンが広いから、コンロが二つ欲しいという一太の希望は必ず叶いそうだ。
「ひ、広いですね」
一軒目。一太のひねり出した感想はそれだった。確かに広かった。築年数が古く、晃の感覚では昔風の間取りに見える。和室が二つと台所、洗面、トイレ。ベランダは、洗濯物を干せるようにはしてあるが広さはない。
二軒目も似たような感じで、和室一つと洋室一つに台所、洗面、トイレ。洗面とトイレは改築したらしく新しくて、浴室乾燥機が付いていた。
「色々あるんですね」
浴室乾燥機を見ての、一太の二軒目の感想だ。どちらも、陽子に聞かれるまで口は開いていなかった。
そして三軒目。一太は中に入るなり、晃から離れて自分でキッチンへ入っていった。
「この形……」
内見三つ目のこの部屋は、ここまでの二つより築年数が少し新しく、キッチンがオープンタイプだったのだ。
「陽子さんのとこと一緒だ」
水場やコンロが壁側でなくリビングダイニングの方を向いているなんて、こんな賃貸アパートでは珍しい。
一太の言う通り、松島家のキッチンとよく似ていた。皆の様子が見えるしカウンターに物を置けるしすごく気に入っている、と母がいつも言っている形だ。
「いいわね。コンロもIHだわ」
「これも、陽子さんちと一緒ですね」
部屋は、リビングダイニングの隣に和室が一つ。広めのベランダは、屋根がしっかりと全体を覆っていた。余程強い風が吹かない限り、急に雨が降っても洗濯物は濡れなくて済みそうだ。
これまで内見した二軒より狭いが、今、二人で暮らしている一人暮らし用の部屋のことを思えば、格段に広い。
「父さん。僕、ここがいいな」
「悪くないが、寝室が一つしかないぞ」
それがいいんじゃないか、というのは心の中でだけ言った。
「布団を二つ並べて寝るからいいよ」
「うーん。確かに、周辺も静かでいいが」
一軒家の建つ並びに、ぽつんと建っていて、一階と二階の二軒だけのアパートの二階。
晃の言葉を聞いて、不動産屋が詳しい説明を始めた。一階には、まだ子どものいない共働きの新婚夫婦が住んでいるらしい。大きい通りから一本中に入った通りだから、家の前の道路は基本的に周辺の住人しか通らない。隣の一軒家が大家さんの家。子どもも独立して仕事も定年退職した、老夫婦の二人暮らしだそうだ。
「悪くないな……。一太くんはどうだろう」
慎重な父は、すぐにこれだと決めたりはしない。けれど、先ほどまでの二軒とうってかわって、母と二人、うろうろと自主的に部屋を見て回っている一太の様子を見れば、聞くまでもない気がする、と晃は思う。
「いっちゃん。僕、ここ気に入ったんだけど、いっちゃんはどう?」
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