【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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193 分かるわよ

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 ぐしょり、と濡れた感触が気持ち悪くて目が覚めた。頭痛が治まっていて、ほっとする。けれど、何の仕事もせずに寝直してしまったことを思い出して、一太は小さく溜め息を吐いた。せめて、洗濯機だけでも回せていればよかったのに。今、何時だろう。結局、今日は何日の何曜日なんだろう。
 遮光カーテンの引かれた室内は、しっかりと陽を遮っていて暗い。少しだけ開いたカーテンの隙間が明るいから、夜は明けているのだろうと分かった。一度目を覚ました時は真っ暗だったから、かなり寝てしまったらしい。
 一太は、ゆっくりと上半身を起こす。
 うん。動ける。
 汗をかいて熱が引いたのか、良かったと思うと同時に、ああ、洗濯物がまた増えた、と思った。
 枕カバーは絶対に洗わなくてはならない。この様子では、枕もすっかり汗で濡れてしまっているだろう。パジャマとシーツ、上に掛けているタオルケットも汗を吸ってしまっている。量が多いから、いっぺんには洗えないかな。ああ、せめて一回、夜に目を覚ました時に洗濯機を回し終えていればなあ、と考えながら布団から出ようとして、一太は、ようやくそこが晃のベッドであることに気が付いた。
 
「ひえ……」

 晃の上等なベッドを借りて寝ていた上に、汗で酷く汚してしまった。
 足を下ろそうとした先に、本来、一太が寝るはずだった布団が見えた。晃が、そちらで寝息を立てている。どうして寝る場所を交換してしまっているのか、と一太は考えて、ああ、と昨夜のことを思い出した。
 お風呂の後、何だか寒くて仕方なかったのだ。だから、晃に、一緒に寝る? と聞かれて頷いてしまった。一緒にベッドに入って、温かい晃の体に体を擦り寄せているうちに、ようやく寒くなくなって眠ることができた。晃に抱きついて眠るのは、とても……。そう、とても良かった。
 昨日……。
 昨日は、いつもよりたくさん、あの人の声が頭の中にあったから。頭の中があの声でいっぱいになると、俺は……。俺は……。
 一太は、ふると頭を軽く振ってベッドから足を下ろす。膝に力が入らず、尻もちをついた。

「んん……」

 床に敷いた布団で寝ている晃に衝撃が伝わってしまったのか、もぞもぞと動くのが見える。慎重にしなくては、と一太は尻もちをついた姿勢でベッドのシーツを剥がしにかかった。シーツを引っ張って枕もタオルケットも落とそう。

「いっちゃん?」

 一太が、シーツを少し引っ張ったところで、ガチャッと部屋の扉が開いた。躊躇いなく電気がつけられて、陽子の姿が目に入る。

「おはよう……ございます……」

 ベッドの横に座ってシーツを引っ張っている姿勢で、一太はとりあえず挨拶をした。

「おはよう。起きたのね。具合はどう?」
「あ……もう、大丈夫、です」
「大丈夫……には、見えないわねえ」

 陽子の言葉に一太は、夜起きた時に陽子とした会話を唐突に思い出した。
 今は、寝るのが仕事よ。

「あー。ええっと……」
「ベッドから、ちゃんと下りられなかったんでしょ」
「…………」
「下に音が響くから分かるのよ。晃も、調子悪い時にたまにやってた」
「え? 知ってたの?」

 陽子が部屋の電気をつけたことと、二人の話し声が聞こえたことで目を覚ました晃が、驚いた声を上げる。

「知ってたわよ」
「そうだったんだ……」
「分かるよ。親だもの」
「うん……。ありがと……」

 一太は、剥がしかけのシーツを手に二人の様子をぽけっと見ていた。

「いっちゃん。いっちゃんのことも、分かるんだからね。立てもしないのに、シーツの洗濯の心配をしなくてもよろしい」
「え。あ……」
「汗を拭いて、着替えなさい。晃、手伝ってあげて」
「うん」

 シーツの洗濯の心配をしなくてよろしい……?

「シーツもパジャマも私が洗います。いっちゃんは、汗を拭いて着替えて、ご飯を食べたらまた寝なさい」
「また、寝る……」

 一太が陽子の言葉に驚いている間に、暖房で暖まっている居間に連れて行かれた。晃に支えられて、ゆっくり階段を下りた。晃に汗で濡れたパジャマを脱がされ、温かいお湯で絞ったタオルで体を拭かれ、清潔な温かいパジャマを着せてもらった。
 一太が、もたもたとトイレを済ませ、水分を取り、美味しい雑炊を食べている間に、シーツも枕も枕カバーもタオルケットもいい匂いのする乾いたものに取り替えられた布団の中で。布団乾燥機がごんごんと作動していた。
 一太は、何が何だか分からなかった。
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