193 / 252
193 分かるわよ
しおりを挟む
ぐしょり、と濡れた感触が気持ち悪くて目が覚めた。頭痛が治まっていて、ほっとする。けれど、何の仕事もせずに寝直してしまったことを思い出して、一太は小さく溜め息を吐いた。せめて、洗濯機だけでも回せていればよかったのに。今、何時だろう。結局、今日は何日の何曜日なんだろう。
遮光カーテンの引かれた室内は、しっかりと陽を遮っていて暗い。少しだけ開いたカーテンの隙間が明るいから、夜は明けているのだろうと分かった。一度目を覚ました時は真っ暗だったから、かなり寝てしまったらしい。
一太は、ゆっくりと上半身を起こす。
うん。動ける。
汗をかいて熱が引いたのか、良かったと思うと同時に、ああ、洗濯物がまた増えた、と思った。
枕カバーは絶対に洗わなくてはならない。この様子では、枕もすっかり汗で濡れてしまっているだろう。パジャマとシーツ、上に掛けているタオルケットも汗を吸ってしまっている。量が多いから、いっぺんには洗えないかな。ああ、せめて一回、夜に目を覚ました時に洗濯機を回し終えていればなあ、と考えながら布団から出ようとして、一太は、ようやくそこが晃のベッドであることに気が付いた。
「ひえ……」
晃の上等なベッドを借りて寝ていた上に、汗で酷く汚してしまった。
足を下ろそうとした先に、本来、一太が寝るはずだった布団が見えた。晃が、そちらで寝息を立てている。どうして寝る場所を交換してしまっているのか、と一太は考えて、ああ、と昨夜のことを思い出した。
お風呂の後、何だか寒くて仕方なかったのだ。だから、晃に、一緒に寝る? と聞かれて頷いてしまった。一緒にベッドに入って、温かい晃の体に体を擦り寄せているうちに、ようやく寒くなくなって眠ることができた。晃に抱きついて眠るのは、とても……。そう、とても良かった。
昨日……。
昨日は、いつもよりたくさん、あの人の声が頭の中にあったから。頭の中があの声でいっぱいになると、俺は……。俺は……。
一太は、ふると頭を軽く振ってベッドから足を下ろす。膝に力が入らず、尻もちをついた。
「んん……」
床に敷いた布団で寝ている晃に衝撃が伝わってしまったのか、もぞもぞと動くのが見える。慎重にしなくては、と一太は尻もちをついた姿勢でベッドのシーツを剥がしにかかった。シーツを引っ張って枕もタオルケットも落とそう。
「いっちゃん?」
一太が、シーツを少し引っ張ったところで、ガチャッと部屋の扉が開いた。躊躇いなく電気がつけられて、陽子の姿が目に入る。
「おはよう……ございます……」
ベッドの横に座ってシーツを引っ張っている姿勢で、一太はとりあえず挨拶をした。
「おはよう。起きたのね。具合はどう?」
「あ……もう、大丈夫、です」
「大丈夫……には、見えないわねえ」
陽子の言葉に一太は、夜起きた時に陽子とした会話を唐突に思い出した。
今は、寝るのが仕事よ。
「あー。ええっと……」
「ベッドから、ちゃんと下りられなかったんでしょ」
「…………」
「下に音が響くから分かるのよ。晃も、調子悪い時にたまにやってた」
「え? 知ってたの?」
陽子が部屋の電気をつけたことと、二人の話し声が聞こえたことで目を覚ました晃が、驚いた声を上げる。
「知ってたわよ」
「そうだったんだ……」
「分かるよ。親だもの」
「うん……。ありがと……」
一太は、剥がしかけのシーツを手に二人の様子をぽけっと見ていた。
「いっちゃん。いっちゃんのことも、分かるんだからね。立てもしないのに、シーツの洗濯の心配をしなくてもよろしい」
「え。あ……」
「汗を拭いて、着替えなさい。晃、手伝ってあげて」
「うん」
シーツの洗濯の心配をしなくてよろしい……?
「シーツもパジャマも私が洗います。いっちゃんは、汗を拭いて着替えて、ご飯を食べたらまた寝なさい」
「また、寝る……」
一太が陽子の言葉に驚いている間に、暖房で暖まっている居間に連れて行かれた。晃に支えられて、ゆっくり階段を下りた。晃に汗で濡れたパジャマを脱がされ、温かいお湯で絞ったタオルで体を拭かれ、清潔な温かいパジャマを着せてもらった。
一太が、もたもたとトイレを済ませ、水分を取り、美味しい雑炊を食べている間に、シーツも枕も枕カバーもタオルケットもいい匂いのする乾いたものに取り替えられた布団の中で。布団乾燥機がごんごんと作動していた。
一太は、何が何だか分からなかった。
遮光カーテンの引かれた室内は、しっかりと陽を遮っていて暗い。少しだけ開いたカーテンの隙間が明るいから、夜は明けているのだろうと分かった。一度目を覚ました時は真っ暗だったから、かなり寝てしまったらしい。
一太は、ゆっくりと上半身を起こす。
うん。動ける。
汗をかいて熱が引いたのか、良かったと思うと同時に、ああ、洗濯物がまた増えた、と思った。
枕カバーは絶対に洗わなくてはならない。この様子では、枕もすっかり汗で濡れてしまっているだろう。パジャマとシーツ、上に掛けているタオルケットも汗を吸ってしまっている。量が多いから、いっぺんには洗えないかな。ああ、せめて一回、夜に目を覚ました時に洗濯機を回し終えていればなあ、と考えながら布団から出ようとして、一太は、ようやくそこが晃のベッドであることに気が付いた。
「ひえ……」
晃の上等なベッドを借りて寝ていた上に、汗で酷く汚してしまった。
足を下ろそうとした先に、本来、一太が寝るはずだった布団が見えた。晃が、そちらで寝息を立てている。どうして寝る場所を交換してしまっているのか、と一太は考えて、ああ、と昨夜のことを思い出した。
お風呂の後、何だか寒くて仕方なかったのだ。だから、晃に、一緒に寝る? と聞かれて頷いてしまった。一緒にベッドに入って、温かい晃の体に体を擦り寄せているうちに、ようやく寒くなくなって眠ることができた。晃に抱きついて眠るのは、とても……。そう、とても良かった。
昨日……。
昨日は、いつもよりたくさん、あの人の声が頭の中にあったから。頭の中があの声でいっぱいになると、俺は……。俺は……。
一太は、ふると頭を軽く振ってベッドから足を下ろす。膝に力が入らず、尻もちをついた。
「んん……」
床に敷いた布団で寝ている晃に衝撃が伝わってしまったのか、もぞもぞと動くのが見える。慎重にしなくては、と一太は尻もちをついた姿勢でベッドのシーツを剥がしにかかった。シーツを引っ張って枕もタオルケットも落とそう。
「いっちゃん?」
一太が、シーツを少し引っ張ったところで、ガチャッと部屋の扉が開いた。躊躇いなく電気がつけられて、陽子の姿が目に入る。
「おはよう……ございます……」
ベッドの横に座ってシーツを引っ張っている姿勢で、一太はとりあえず挨拶をした。
「おはよう。起きたのね。具合はどう?」
「あ……もう、大丈夫、です」
「大丈夫……には、見えないわねえ」
陽子の言葉に一太は、夜起きた時に陽子とした会話を唐突に思い出した。
今は、寝るのが仕事よ。
「あー。ええっと……」
「ベッドから、ちゃんと下りられなかったんでしょ」
「…………」
「下に音が響くから分かるのよ。晃も、調子悪い時にたまにやってた」
「え? 知ってたの?」
陽子が部屋の電気をつけたことと、二人の話し声が聞こえたことで目を覚ました晃が、驚いた声を上げる。
「知ってたわよ」
「そうだったんだ……」
「分かるよ。親だもの」
「うん……。ありがと……」
一太は、剥がしかけのシーツを手に二人の様子をぽけっと見ていた。
「いっちゃん。いっちゃんのことも、分かるんだからね。立てもしないのに、シーツの洗濯の心配をしなくてもよろしい」
「え。あ……」
「汗を拭いて、着替えなさい。晃、手伝ってあげて」
「うん」
シーツの洗濯の心配をしなくてよろしい……?
「シーツもパジャマも私が洗います。いっちゃんは、汗を拭いて着替えて、ご飯を食べたらまた寝なさい」
「また、寝る……」
一太が陽子の言葉に驚いている間に、暖房で暖まっている居間に連れて行かれた。晃に支えられて、ゆっくり階段を下りた。晃に汗で濡れたパジャマを脱がされ、温かいお湯で絞ったタオルで体を拭かれ、清潔な温かいパジャマを着せてもらった。
一太が、もたもたとトイレを済ませ、水分を取り、美味しい雑炊を食べている間に、シーツも枕も枕カバーもタオルケットもいい匂いのする乾いたものに取り替えられた布団の中で。布団乾燥機がごんごんと作動していた。
一太は、何が何だか分からなかった。
661
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】余四郎さまの言うことにゃ
かずえ
BL
太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。
これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる