【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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80 家族

 封印が成されたことを確かめたイズモが城へ戻ると、ヤクモがベッドでぐずっていた。

「おふよ……。」

 ぐったりとベッドに沈んだまま呟いている。ワカヒコが、タオルでヤクモの汗を拭いてから、傷だらけの皮膚に香油を塗り込んでいたのだろう。ヤクモヘ服を着せながら答える。

「お風呂ですか?一人で座れるようになったら入っていいですよ。」
「……や。ぃま、はいゆ。」
「その、先生?」

 トキが口を挟んだ。

「はい。」
「すみません。ヤクモ様が治療の前より具合が悪くなっているように見受けられるのですが。」
「ああ。」

 ワカヒコは、落ち着いた様子で頷いた。

「ヤクモ様の体の具合で言えば、今までの動きの方が驚きですよ。この体でそんなに動いたら死にます。」
「え?え?死?」 
「ええ。死にます。」
「そんな……。」

 部屋にいたトキとヌイ、そして帰ってきた三人にも言い聞かせるように、ワカヒコは言った。

「人には、これ以上無理をすると体が壊れる、心が壊れる、という限界があって、壊れる前に動けなくなったり、眠ったりして自分で自分を守るものなんです。それが、その機能が、ヤクモ様は働いていなかった。限界を超えすぎて、何度も死にかけたのでしょう。その度に、運良く生きてきた。だから、まだ大丈夫、と体や心が判断するのが人より遅いのです。ちっとも大丈夫じゃなくても、大丈夫と判断してしまうんです。」

 なんてこと、とヌイが呟いて、手で口を覆った。ヤクモの望むままに、掃除や料理をさせてきてしまった。

「これまでは、運良く生き残れた。でも、いつまでその幸運が続くか分かりませんからね。治療して、限界点を戻します。だから、暫くは動けないし、しょっちゅう眠くなったり苦しくなったりするかと思うんです。でも、悪くはなっていません。正常な反応を取り戻す過程だと理解して頂きたい。」

 ワカヒコが頭を下げると、トキが慌てて言った。

「ああ。すみません。差し出がましい真似を。あの、ヤクモ様を治療してくださって、ありがとうございます。」
「いえ、心配になるのは当然のことです。ご家族様の不安も取ってこそ、医者ですからね。」

 ワカヒコは、にっこりとカナメヅカの四人とイズモを見渡した。

「不安なことは、何でもおっしゃってください。」

 そして、ベッドでふて腐れた顔で寝息を立て始めたヤクモを見て、ほっと息を吐き、部屋を出ていった。

「家族……。」

 ぽつり、とベッドに腰掛けたイズモが呟く。

「家族だって……。」

 ヤクモの頭を撫でながら、しみじみと。
 遠く忘れていた言葉を聞いた。それは何だか、ひどくあたたかく響いた。

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