【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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79 封印

「素晴らしい……。」

 イズモが呟くように言った。
 はっと我にかえった宰相が、イズモを振り返る。

「わ、私は、てっきりノバラ様が封印をされるものだと……。」
「封印は成された。」
「塔でのイズモ様のように、離宮で封印の管理をされながら過ごされるのだとばかり……。」
「僕が渡した術式はそうだったよ。」
「では何故、ノバラ様は……。」

 イズモは少し笑った。

「素晴らしい。本当に凄い術士だよ。ヤクモヘの仕打ちを許すことは未来永劫無いけれど、この術式にだけは、惜しみ無い称賛を。」
「は、あ……。」

 宰相には神力などなく、それに関わる術式学も勉強したことはないため、イズモの言葉を掴みきれない。

「僕が渡したのは、確かにあなたの言った通りのものだった。けれど、その術士はこの短時間でそれらを書き換えて、自らの血を使って、くろをほとんど持っていった。」
「持っていった?」
「長く生きて此処に在ることを嫌ったんだ。その心のままに術式を編み直し、血による浄化で、くろをほとんど消滅させたよ。」
「では、ではもう、封印と封印のための城は要らぬのですか?」
「ほとんど、と言ったろう?残りは、あの中だ。」

 イズモが指差したのは、ノバラの血を浴びて呆然と座り込む国王ハバキだった。

「なんと……。では、陛下は、陛下が、くろ?なのですか?」
「そう。そういうことだね!」

 ぽん、と手を打って朗らかにイズモが答える。上手く言うなあ、とでもいうように。
 とんでもないことになった、と真っ青になる宰相を余所に、イズモはまた、離宮を上から下まで眺めて感心している。

「僕の血ではできなかったとはいえ、この手段は思いついてもいなかったなあ。」

 ぶつぶつと呟く。
 
「この中には、入れますか?」

 不測の事態に備えてイズモの隣に立っていたミカゲが尋ねた。

「いや。塔と同じで、血筋の者か、加護を貰っている者でないと寿命が削られるだろうな。くろはほとんど力を失って其処に在るだけだから、削られるのも少しずつだと思うが、何とも断言はできない。」
「わしらは、行けるのですか?」
「いや。僕の加護では駄目だよ。ここは、僕の領域じゃない。手を出さないようにね。」
「なるほど。」

 その会話も聞こえていて、宰相はますます蒼白となった。

「つまり、この中にはムラクモ様の血筋の者しか入れない、と?……加護とは?」
「領域を持っている者が、神力で中に入る者を指定して保護するんだよ。そうしたら、その者は寿命を削られることはない。」
「つまり、陛下が神力でそれを成さねばならぬ、と。……陛下は出ることはできますか。」

 あはは、とイズモは可笑しそうに笑った。

「苦労して閉じ込めたのに、出してしまうの?」

 ああ、そうか、と宰相は気付いた。イズモ様にはもう、陛下はくろに見えているのだ。くろが、陛下の姿をしているに過ぎないのだ。
 では、そのように、手を打たねばならない。陛下は離宮から出ることは叶わず、王妃殿下は亡くなってしまわれた。
 まずは、あの場を片付けねばならないが、おちおち中に入ることもできぬと言う。
 リンドウ様。そう。リンドウ様に知らせを。ミタマ様は、どちらにいらっしゃるだろうか。
 封印が成され、爽やかに晴れ渡っていく空の下で、宰相の心のうちは暗雲に満ちていた。
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