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十
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「この、馬鹿者が!」
父の声に意識が浮上して。
「う。ううう。う、あ……」
体中を走る激痛に、伊之助はこらえきれずにうめき声を上げた。
父がなにか怒鳴っているが、それどころではない。
痛い痛い痛い……!
目尻からは涙が流れ、喉からはひぃひぃと泣き声のような音が漏れた。
これまでも伊之助は、兄に理不尽に殴られたり蹴られたりということはよくあった。だがまあ、それは手や足を使ってのものだった。頭を抱え、体を丸めて、兄の気が済むのを待っていれば、それですんだのだ。そりゃまあ痛かったが、動けなくなるほどじゃなかった。
こんな、こんな痛みは知らない。意識を失うほどの、動けないほどの、怪我を……?
伊之助は、痛い痛い、の合間にそのことに気づいてぞっとした。
動けなければ、余四郎の側にいられない。
許婚なのに。許婚は、ずっと共にいるものなのに。
「うわあああああ!」
誰かに腕を取られて、伊之助は悲鳴を上げる。体中がしびれるくらいの痛みが走った。
「う、うるさい! 何をそんなに大げさな……」
「お前は黙っておれ! で? どうなんだ?」
「い、痛い。いたいいたいいたい!」
兄や父の声が聞こえても、口を閉じることができない。
「こりゃあ、骨が傷んでますな」
伊之助の悲鳴になど頓着する様子もない声が言った。
「骨、だと?」
「はい、右の腕の骨にこう、びきびきとひびが入っとるかと。ぽっきり折れるとこまではいっとらんと思うんですが、まあ、なんにせよ、くっつくまでは動かんように添え木をして、なるべくじっと過ごさんとなりません。体のあちこちの打ち身もひどいもんですから、色んな箇所が熱を持って、数日はえらいこと発熱するでしょう。あんまり熱が上がりすぎると命にかかわります。湿布を出しますんでこまめに貼りかえて、それから傷にも悪いもんが入らんように清潔にして、水分をしっかりと取らせてください。とにかく、腫れが引くまでは油断なりません」
「ちっ。何て面倒なことを! このまま本当に、これが儚くなってしまったらなんとする! この、馬鹿者が!」
がつっ、ばたん、と大きな音がした。
「ぐっ、いたっ。ち、父上! 何故? こやつは、無礼にも私より上座に……」
「分からぬか? 本当に分からぬのか? こやつは、殿も認めた若君の許婚だぞ。我が家と主家を繋ぐ、大事な道具であろうが」
「しかし、男ですよ? 男が男に嫁ぐなど意味が分からない。それに、相手は余分の四郎で、」
「余分だろうが何だろうが若君だ。殿が、若君に男を嫁がせろと言うのだから、うちのこれはうってつけであっただろうが! それとも何か? お前が嫁ぐか? 直井家は、梅千代さまに請われて、嫡男小太郎を梅千代さまの許婚として差し出したそうだぞ」
「は? はあ? な、何を……」
「良いか、成正。これに何かあらば、お前が代わりに余四郎さまに嫁ぐことになると心得よ。その際は、はつに婿を取らせる」
伊之助は、痛みのあまりもうろうとする頭で、いやだいやだ、と思った。兄が代わりに余四郎さまに嫁ぐなんていやだ。余四郎さまとずっと共にいるのは自分でありたい、と。
父の声に意識が浮上して。
「う。ううう。う、あ……」
体中を走る激痛に、伊之助はこらえきれずにうめき声を上げた。
父がなにか怒鳴っているが、それどころではない。
痛い痛い痛い……!
目尻からは涙が流れ、喉からはひぃひぃと泣き声のような音が漏れた。
これまでも伊之助は、兄に理不尽に殴られたり蹴られたりということはよくあった。だがまあ、それは手や足を使ってのものだった。頭を抱え、体を丸めて、兄の気が済むのを待っていれば、それですんだのだ。そりゃまあ痛かったが、動けなくなるほどじゃなかった。
こんな、こんな痛みは知らない。意識を失うほどの、動けないほどの、怪我を……?
伊之助は、痛い痛い、の合間にそのことに気づいてぞっとした。
動けなければ、余四郎の側にいられない。
許婚なのに。許婚は、ずっと共にいるものなのに。
「うわあああああ!」
誰かに腕を取られて、伊之助は悲鳴を上げる。体中がしびれるくらいの痛みが走った。
「う、うるさい! 何をそんなに大げさな……」
「お前は黙っておれ! で? どうなんだ?」
「い、痛い。いたいいたいいたい!」
兄や父の声が聞こえても、口を閉じることができない。
「こりゃあ、骨が傷んでますな」
伊之助の悲鳴になど頓着する様子もない声が言った。
「骨、だと?」
「はい、右の腕の骨にこう、びきびきとひびが入っとるかと。ぽっきり折れるとこまではいっとらんと思うんですが、まあ、なんにせよ、くっつくまでは動かんように添え木をして、なるべくじっと過ごさんとなりません。体のあちこちの打ち身もひどいもんですから、色んな箇所が熱を持って、数日はえらいこと発熱するでしょう。あんまり熱が上がりすぎると命にかかわります。湿布を出しますんでこまめに貼りかえて、それから傷にも悪いもんが入らんように清潔にして、水分をしっかりと取らせてください。とにかく、腫れが引くまでは油断なりません」
「ちっ。何て面倒なことを! このまま本当に、これが儚くなってしまったらなんとする! この、馬鹿者が!」
がつっ、ばたん、と大きな音がした。
「ぐっ、いたっ。ち、父上! 何故? こやつは、無礼にも私より上座に……」
「分からぬか? 本当に分からぬのか? こやつは、殿も認めた若君の許婚だぞ。我が家と主家を繋ぐ、大事な道具であろうが」
「しかし、男ですよ? 男が男に嫁ぐなど意味が分からない。それに、相手は余分の四郎で、」
「余分だろうが何だろうが若君だ。殿が、若君に男を嫁がせろと言うのだから、うちのこれはうってつけであっただろうが! それとも何か? お前が嫁ぐか? 直井家は、梅千代さまに請われて、嫡男小太郎を梅千代さまの許婚として差し出したそうだぞ」
「は? はあ? な、何を……」
「良いか、成正。これに何かあらば、お前が代わりに余四郎さまに嫁ぐことになると心得よ。その際は、はつに婿を取らせる」
伊之助は、痛みのあまりもうろうとする頭で、いやだいやだ、と思った。兄が代わりに余四郎さまに嫁ぐなんていやだ。余四郎さまとずっと共にいるのは自分でありたい、と。
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