【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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九十四

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 そうして、着々と婚姻の準備を進めた時行は、内々での式を強行した。普段、滅多に我を通さない時行が、珍しくその権力を使っても反対を許さなかったのである。そこにある強い意志を、誰もが感じざるを得なかった。
 元より、殿の決めた縁談だ。殿のおらぬ間に勝手なことをしてよいものか、との意見が通るわけもない。将軍様のお膝元へ出かけたまま体調を崩し領地へ戻らぬ殿からは、出した文の返事が戻ってくることもなくなって久しかった。最後に届いた文にあった「時行の良きに計らえ」との文言が、時行の強い後ろ盾となっていた。
 時行は、城で重臣たちに告げる前に、良庵の屋敷で三々九度を行った。
 それはもう、本当に内々の、ままごとのような小さな小さな祝いの宴だった。

「伊良の元服の儀の時のように、心安い者たちだけで祝いたい」

 それが、婚儀に当たっての時行の望みであったのだ。
 だが、もちろん、藩主代行を務める時行の婚儀を、そんな小さな祝いの席で済ませるわけにはいかぬ。そこで、いつものように休日に良庵の屋敷を訪ねている間に祝いを行う算段となったのだった。休みの日に合わせたので大安吉日とはいかなかったが、厄日だけは避けて予定は立てられた。
 宴のやり方などはすべて、良庵の屋敷の使用人たちに任せられた。元服の時の伊良の衣装は見事であったし、仕出し料理も大層うまかった、と時行が手放しで褒めたので、同じところに注文された。伊良の元服の時より金子きんすに余裕があったため、この家でできる最高に贅沢な宴が開催されることとなった。
 たみさんは、そりゃあもう大張り切りで、張り切りすぎて倒れてしまいやしないかと皆が心配したほどだ。しかし、心配する面々に、

「うるさい。このくらいの忙しさで倒れるもんかね。あたしゃねえ、四郎さまと伊良ちゃんの婚儀も仕切らなきゃいけないんだから。本番はこれからだよ」

 と、啖呵を切っていたので、まだまだ大丈夫そうである。伊良を孫のように可愛がるたみさんにとっては、藩主代行の婚儀は本番ではなかったようだ。その、少々問題のありそうな言葉は、使用人仲間や良庵、草庵に苦笑いで流された。
 緊張した面持ちで三々九度を交わした後、

「私と行成はもう夫婦めおとだ」

 と、宣言した時行の顔は晴れやかで、本当にめでたいなあ、と伊良は涙ぐんでしまった。
 二人は、揃いの紋付き袴を着ており、それはもう凛々しかった。
 行成殿はさぞかし白無垢が似合うのだろうなあ、などとからかっていた者らに見せてやりたいくらいの、立派な若武者ぶりであった。
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