【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

文字の大きさ
153 / 188

百五十二

しおりを挟む
 行成は、ぱちりと目を瞬かせた。何かに驚き、そして考えている時の仕草だ。名の呼び方や話し方についてではないだろう。伊良が、行成やその他の家臣たちに対しても、態度や言葉遣いを改めようと努力する姿は、皆におおむね微笑ましく見守られている。
 義兄にいさまと呼ぶのは、伊良が行成を呼び捨てにすることがどうしてもできなかったからだ。同じ年齢で、生まれ月でいえば伊良の方が早いのだからおかしなことであるのだが、関係性としては合っている。伊良の苦肉の策を、行成は、まあその辺りか、と笑って受け入れた。

「悪くはないな。だが……」

 伊良は、行成の思案が終わるのを待つ。
 軽微な罪の者を、労役に就かせるのはよくあることだ。それはもちろん、武家以外の身分の者の話であるのだが、武家に適用してはいけないという決まりがあるわけではない。もし、決まりがあったとして、そんな決まりは取り払ってしまえばよい。ここにいるのは、常から藩の運営に関わっている、藩主と前藩主の伴侶であった。良い思い付きを藩主に奏上すれば、他の者より簡単に採用される。

「面を上げよ」

 しばし考えた行成は、取り押さえた三人の浪人に向かって声を掛けた。
 一人の首元に刀を当てていた藤兵衛が、刀を引いて下がる。三人は、刀を取り上げられて地面に膝をついたまま、顔を上げた。

「聞いたか。堤や街道の修繕をするための人足としてであれば扶持を渡すことができる。各地からの請願書は常に途切れることは無い故、この後、職を失うことはないであろう。どうか?」

 浪人たちは、大きく目を見開いた。一人は、かっと顔色を真っ赤にして叫ぶ。

「人足となれ、だと? 馬鹿にしおって!」
「……いっそ、切れ。何故、生き恥を晒さねばならぬ……」

 一人は顔を青白くして呟いた。もう一人も、嘆息してうつむく。

「と、いうことだ、伊良」

 がくり、と伊良はうなだれた。武士の矜持の、なんと高くて重たいことか。三つ子の魂百まで、というが、武士として育てられた者が刀を捨てて生きていくことは、かように難しいことであるようだった。逆に、幼い頃に武士として育てられていなかった伊良には、とんと理解できぬことである。これもまた、三つ子の魂百まで、なのであるのかもしれなかった。
 しかし、武士として雇ってやりたくとも、雇える余裕が伊良たちにはない。相馬が彼らを雇うことは問題ないのやもしれぬが、その先に企んでいる何かが、藩や玉乃川家に害をもたらすものであれば見逃すことができぬ。
 うまくいかないものだな……。

「もしも気が変わったら、城まで来るといい。修繕組をやりたい、と伝えれば話を通すように、門番には伝えておくから」

 伊良は三人に、しょんぼりと告げるしかなかった。
しおりを挟む
感想 284

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...