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第一章 初めての幸せ
17 緋色 5
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「殿下!」
幾つもの呼び声に、我に返った。
「ご無事ですか?」
「ああ、俺は、何ともない。だが……」
ぎりっと、舞台のすぐ近くに控えていた帝国側の交渉人を睨み付ける。
「帝国の意思は受け取った。降伏は、偽り。我が国と和解する気は毛頭ない、とのことで相違ないな」
銃を突きつけられ、どこか呆然とした様子の男が、頭を振った。
「ちが、違います。私たちは、もう、戦う気など……。ああ、ああ……」
そして、堪えきれない様子で体を折ると胃の中のものをぶちまけた。
「申し訳、申し訳……」
群衆の方へ目をやると呆然と立っていたり、膝をついて吐いていたりと似たような状況である。そういえば、と腕の中の成人を抱きしめなおす。吐くものもないのに……、と袖で口元をぬぐってやる。まだ、か細い息がある。
「その子は、なぜ、あんなことができたのか……。私たちは、帝国人は、国の上層部に逆らうことができないように、されております。微弱な信号で操られる。今回のことは、その、その男一人の意思……。信じて頂けなくても、ここでこのまま殺されても、構いません。もし、もし、もう一度開戦なさるなら、上層部を皆殺しにしてください。もう、戦いたくない……」
吐き終えた交渉人が、涙を滲ませながら声を絞り出した。これは、何かとんでもなく重要な……。
「この男を、執務室へ。交渉は決裂。抗議文を送り、返答次第ではこちらから宣戦布告する」
「はっ」
近くに寄っていた副官に、指示を出す。
「この場は、このまま解散。群衆は立ち去るまで見張りを。戦闘人形とこの陸軍大将は回収しておけ」
「御意」
「生松!」
「はい、こちらに」
「部屋へ戻る。治療を」
「はい」
「行くぞ、常陸丸」
辺りを警戒していた常陸丸が、成人の右手を見て何かを堪えるようにぐっと唇を噛みしめた。
幾つもの呼び声に、我に返った。
「ご無事ですか?」
「ああ、俺は、何ともない。だが……」
ぎりっと、舞台のすぐ近くに控えていた帝国側の交渉人を睨み付ける。
「帝国の意思は受け取った。降伏は、偽り。我が国と和解する気は毛頭ない、とのことで相違ないな」
銃を突きつけられ、どこか呆然とした様子の男が、頭を振った。
「ちが、違います。私たちは、もう、戦う気など……。ああ、ああ……」
そして、堪えきれない様子で体を折ると胃の中のものをぶちまけた。
「申し訳、申し訳……」
群衆の方へ目をやると呆然と立っていたり、膝をついて吐いていたりと似たような状況である。そういえば、と腕の中の成人を抱きしめなおす。吐くものもないのに……、と袖で口元をぬぐってやる。まだ、か細い息がある。
「その子は、なぜ、あんなことができたのか……。私たちは、帝国人は、国の上層部に逆らうことができないように、されております。微弱な信号で操られる。今回のことは、その、その男一人の意思……。信じて頂けなくても、ここでこのまま殺されても、構いません。もし、もし、もう一度開戦なさるなら、上層部を皆殺しにしてください。もう、戦いたくない……」
吐き終えた交渉人が、涙を滲ませながら声を絞り出した。これは、何かとんでもなく重要な……。
「この男を、執務室へ。交渉は決裂。抗議文を送り、返答次第ではこちらから宣戦布告する」
「はっ」
近くに寄っていた副官に、指示を出す。
「この場は、このまま解散。群衆は立ち去るまで見張りを。戦闘人形とこの陸軍大将は回収しておけ」
「御意」
「生松!」
「はい、こちらに」
「部屋へ戻る。治療を」
「はい」
「行くぞ、常陸丸」
辺りを警戒していた常陸丸が、成人の右手を見て何かを堪えるようにぐっと唇を噛みしめた。
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