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第三章 幸せの行方
15 緋色 41
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成人が手術室に運ばれてから、俺ができることは無かった。何もしていなければ余計に気になるからと思い、朱実に押し付けられた仕事を広げてみるが、読んでいる筈の文章がただの文字の羅列のように思えて意味をなさない。
手術は八時間かかって終わった。
目を覚ました、との連絡をもらってほっと息を吐いた。しばらく会えない、との話を聞いて一時間もしないうちに、俺だけ呼ばれた。
泣き止まないのだと言う。
成人が?
あれが泣き止まないとは、相当辛いのだろうか。
「穏やかにいてほしいのですが、ずっとぐずっていて」
生松はそう言って、俺に除菌した上着を着せ、頭にも帽子を被せた。扉が二重になっている特別ルームに入る。ピッピッと機械の音がする部屋で、ひー、ひーという細い呼吸音がした。
ベッドで横向きになり、頭は包帯でぐるぐる巻きだ。右腕に点滴の管と、指先や足先にクリップで止めて機械の線が繋がっていた。頭からも管が出て、何やら袋に液体が落ちている。
顔は浮腫んで丸くなっていた。目元も腫れて、目が開かないらしい。
「触れてもいいのか?」
「ええ、動かないようにお願いします」
俺の声に、ぴくりと反応した。
「成人」
成人の喉からのひー、ひーという音が止まった。しゃがみこんで、頬に手を当てる。ひいろ、と口が動いた。
覚えていた。
俺の声を覚えていてくれた。
思わずこみ上げてくるものがあって、必死に飲み込んだ。
生きてさえいてくれたら、俺のことを忘れてしまっててもいい、と思っていたが、そのまま帰ってきてくれたらしい。
嬉しくて嬉しくて、かさかさと渇いている唇にキスをした。必死に吸い付いてくる。ちゅうちゅうと俺の口の中の水分を吸っているようだ。
「緋色殿下。興奮させないでください」
生松の声がして、しぶしぶ離れると成人がまた、ひ、と喉を鳴らした。
「喉が渇いているんじゃないか。水は?」
「駄目です」
「たぶん、ぐずぐずの原因はそれだぞ。どうする」
「……ちょっとお待ちください。なだめておいてくださいね。穏やかに、穏やかに」
生松が無茶を言って部屋を出ていく。
「成人。頑張ったなあ」
そう言って頬を撫でると、少し強張りが解けた。
生松が小さく砕いた氷をコップに入れてくる。口に含んで成人の口にキスして押し込んだ。嬉しそうにべろべろ舐めて、あめ、と呟く。
「飴じゃない。氷って言うんだ」
俺がそう言った頃には、穏やかな表情をして、呼吸が寝息に変わり始めていた。
手術は八時間かかって終わった。
目を覚ました、との連絡をもらってほっと息を吐いた。しばらく会えない、との話を聞いて一時間もしないうちに、俺だけ呼ばれた。
泣き止まないのだと言う。
成人が?
あれが泣き止まないとは、相当辛いのだろうか。
「穏やかにいてほしいのですが、ずっとぐずっていて」
生松はそう言って、俺に除菌した上着を着せ、頭にも帽子を被せた。扉が二重になっている特別ルームに入る。ピッピッと機械の音がする部屋で、ひー、ひーという細い呼吸音がした。
ベッドで横向きになり、頭は包帯でぐるぐる巻きだ。右腕に点滴の管と、指先や足先にクリップで止めて機械の線が繋がっていた。頭からも管が出て、何やら袋に液体が落ちている。
顔は浮腫んで丸くなっていた。目元も腫れて、目が開かないらしい。
「触れてもいいのか?」
「ええ、動かないようにお願いします」
俺の声に、ぴくりと反応した。
「成人」
成人の喉からのひー、ひーという音が止まった。しゃがみこんで、頬に手を当てる。ひいろ、と口が動いた。
覚えていた。
俺の声を覚えていてくれた。
思わずこみ上げてくるものがあって、必死に飲み込んだ。
生きてさえいてくれたら、俺のことを忘れてしまっててもいい、と思っていたが、そのまま帰ってきてくれたらしい。
嬉しくて嬉しくて、かさかさと渇いている唇にキスをした。必死に吸い付いてくる。ちゅうちゅうと俺の口の中の水分を吸っているようだ。
「緋色殿下。興奮させないでください」
生松の声がして、しぶしぶ離れると成人がまた、ひ、と喉を鳴らした。
「喉が渇いているんじゃないか。水は?」
「駄目です」
「たぶん、ぐずぐずの原因はそれだぞ。どうする」
「……ちょっとお待ちください。なだめておいてくださいね。穏やかに、穏やかに」
生松が無茶を言って部屋を出ていく。
「成人。頑張ったなあ」
そう言って頬を撫でると、少し強張りが解けた。
生松が小さく砕いた氷をコップに入れてくる。口に含んで成人の口にキスして押し込んだ。嬉しそうにべろべろ舐めて、あめ、と呟く。
「飴じゃない。氷って言うんだ」
俺がそう言った頃には、穏やかな表情をして、呼吸が寝息に変わり始めていた。
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