【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

153 良い先生  成人

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「楽にしていいわよ。診察をしてしまう?」

 部屋の中に、俺と赤璃あかりさまと白威しろいだけになると、赤璃あかりさまはすぐに、ソファに深くもたれ掛かった。
 俺も真似して、伸ばしていた背中を預ける。
 うーん、疲れた。
 白威しろいが、そっと息を吐いている。あの二人といる方が、赤璃あかりさまといるより緊張するの?

「あの、祖父と父が、大変にご無礼を働きましたこと、重ねてお詫び申し上げます」
「あなたがした訳じゃないわ。診察をしてくれるのでしょう?」
「はい。失礼致します」

 床に置いていた、黒くて大きな鞄を持って、白威しろいはゆっくり赤璃あかりさまに近付く。隣に座っている俺を、ちらりと見た。

成人なるひとです」

 名前、言ってなかったな。名乗るすき間が無かったというか、誰も俺のこと気にしてなかったから、黙って見てたというか。

「あ、はい。その……、大国おおくに白威しろいです」

 うん。よろしく。

成人なるひとのこと、知ってるわよね?」
「ええと、その、お名前だけは聞いたことが……」
「あ、そうか。なるは城で診察受けないから、皇宮医たちは知らないか」
「俺は生松いくまつが、今日も元気?って調べてる」
「そうね、主治医がいるもんね」
睦峯むつみねも、すぐ人の顔の色とか見る」
「なるは大して顔色変わらないけどね。いや、調子悪いとき、白っぽくなるか」
「俺は見えないから、分かんない」
「そうね。自分の顔色って見えないわよね」

 白威しろいは、俺たちの会話を聞いて肩の力を抜いたようだ。もう一度、失礼します、と言ってソファの前に膝をつき、赤璃あかりさまの手を取った。手首に指を当てているので、黙って待っておく。
 これは、いつも生松いくまつがするから知ってる。脈が規則正しくあるか調べてるんだよね。
 しばらくそうしてから、白い紙に何か書き込んで、口の中も見て、

「あの、聴診器は、当ててもよろしいか?」

 と、聞いた。
 胸を出すやつね。
 赤璃あかりさまは躊躇いなく服を持ち上げる。
 心臓の音を聞くんだよね。俺も毎朝くらい、されてるよ。緋色ひいろもついでに調べられてる。

「特に気になることはありませんでした。食事はどうですか?」
「食べられないことはないわ。特定の食べ物をたくさん食べたくなったり、好みだったのに食べられなくなったものはあるけど」
「食べられているなら、良かったです。一度に入らないなら、何度かに分けて食事をおとりになればよいと思います」

 少し笑って言う白威しろいは、生松いくまつとおんなじくらい良い先生だと思う。

「妊娠は病気じゃないのに、良く調べているわね」
「……祖父が、すみません」

 赤璃あかりさまの言葉に、白威しろいは、はあ、と溜め息を吐いた。
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