【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

186 いい男  成人

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「懐妊?」
「お腹に赤ちゃんができたって」

 赤璃あかりさまが教えてくれた。寧子やすこさんのお腹に?え?すごい。赤ちゃんに会えるのが、楽しみだなあ。

「つわりは大丈夫?」

 赤璃あかりさまは、もう治まったって聞いた。今もご飯を美味しそうに食べてるけれど、少し前まで辛そうだった。斑鹿乃むらかのはあんまり食べられなくて、吐いて弱って、大変だった。寧子やすこさんは大丈夫?
 俺がそう尋ねると、急に部屋がしん、とする。
 え?なに何?俺、何か変なこと言った?寧子やすこさんは向かい側の、そんなに遠くない席に座っているから、大きな声は出してないんだけど。

「ご心配、ありがとうございます。今のところ平気なんですよ。ご飯も美味しく頂いております」
「良かった」

 あれは本当に辛そうだからね。お腹の赤ちゃんが、ここにいるよって教えてくれてるらしいんだけど、もう少し別の方法で教えてほしいと思う。人は食べなきゃ死んじゃうのに、食べられなくなったり、食べたものを吐いたりしてたら、その人も赤ちゃんも死んじゃうよ。

「なるー」

 赤璃あかりさまが、俺に抱きついた。ふわりといい匂い。綺麗に結い上げた髪の毛の匂いかな?こういう、少しだけのいい匂いは好き。

「なるは、本当にいい男ね」

 え?そう?
 いい男って嬉しい。
 いい子じゃなくて、いい男!いいな、それ。
 嬉しくて赤璃あかりさまを見上げると、顔の前に大きな手が置かれた。もう一つの手で、腰がぐいっと引かれて、居心地の良いいつもの場所に体が収まる。緋色ひいろの膝の上。

「前が見えない」
「ちょっとこっち向け」

 なに?
 振り返ったら、手を顔から外してくれた緋色ひいろがじっとこっちを見て、よし、と言った。
 ……なにが?
 はあー、と赤璃あかりさまが大きな溜め息を吐く。

「嫉妬深い男は嫌われるわよ」
成人なるひとが俺を嫌うなんて、ありえない」
「じゃあもっと、でんと構えていなさいよ」
「それとこれとは別」
「発言には一貫性を持って」
「俺がブレたことなんてあったか?」
「今、ブレてますう」

 緋色ひいろ赤璃あかりさまが話し始めた。仲良しね。

緋色ひいろ、行儀が悪い。成人なるひとを下ろしなさい」

 朱実あけみ殿下が、緋色ひいろの方に体を傾けている赤璃あかりさまの体に手を触れながら言った。

「羨ましいなら、朱実あけみもやればいい」
「子どももいるんだよ。大人が手本を見せなくてどうする」

 俺たちの目の前には、一条朱可しゅかさんの二人の子どもが、朱可しゅかさんと茉璃まつりさんに挟まれて、お行儀よく座っている。
 これはいかん。
 俺はお兄ちゃんだから、ちゃんとしなければ。

緋色ひいろ、下ろしてー」
「ちっ。残念」

 こちらを見て、二人の男の子がにこって笑った。

成人なるひとさま、ご飯を食べたら一緒に遊びましょう」

 大きい方の子が、誘ってくれた。嬉しい。

「福笑い、しよう」

 隣の、少し小さい男の子も声をかけてくれた。
 え?嬉しいな。
 福笑いってなんだろう。分からないけど、遊びならしてみたい。
 うんうんと頷くと、大きい方の子が俺たちの列の少し後ろにも顔を向けて、

美鶴みつるちゃんも、しようね。鶴来つるぎくんも」

 と、言った。今日参加している子どもは四人。俺も入れて五人で遊ぶらしい。
 楽しみだな!
 
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