【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
544 / 1,325
第五章 それは日々の話

194 英雄の肩書き  緋色

しおりを挟む
緋色ひいろ殿下。ありがとうございます」

 幸せそうにアイスクリームを口に運ぶ成人なるひとばかりを見ていた。
 驚いて顔を上げると、早くもアイスクリームを食べ終えてジュースを貰っている孫を大切に抱えながら、四条がこちらを向いていた。

「…………」

 礼の意味が分からず、ただ見つめ返す。

「平和を……あなたが、くださった」
「…………」

 ああ。
 いや。もう終わりの見えかけていた戦だった。俺がたまたま、最後に行っただけだ。誰が行っても、終わっていただろう。

「殿下。負けはない、と言いながらも終わらせることができなかったのです」

 口には出していないというのに、まるで俺の胸のうちが聞こえたかのように、四条が言う。

「あなたは、全てを引き受けてくださった」

 その目は、成人なるひとへ向く。アイスクリームを味わっているその顔を、器を持てない左腕を。

「戦が終わった後の帝国での様子を、報告書で読んでおります」
「ああ。世話になっている」

 四条は、帝国の復興に私兵を派遣してくれている。もう操られることのない帝国民は、かなり協力的であると聞くが、それでも、敵地であった場所での作業は大変なことだろう。
 俺が、壊した国。
 
「諍いの終わった地でなお、怪我をして帰る者がいます。精神に不調を訴える者がいます」
「ああ」
「殿下がいらっしゃった頃は、怪我では済まなかった。不調では、済まなかったことでしょう」

 硝煙の臭い。
 様々なものが焼ける臭い。
 血の、臭い。
 一瞬たりとも気の抜けないあの場所。死は、隣にいた。
 思わず、成人なるひとを抱く右手に力が入る。

「ん?」

 振り返った成人なるひとが、スプーンを口に近付けてきた。溶けかけたアイスクリーム。反射的に口を開けて、広がる甘さに顔をしかめる。俺に食べさせて満足した成人なるひとは、自分の口にもまた一口運んで、んー、と嬉しそうに悶えている。
 成人なるひとの腹から手を離して、猪口に酒を注いだ。くっと温くなった酒を喉に流し込む。思い出した臭いと、口に広がる甘さを腹へ落とし込んでしまおう。
 
「戦から帰った殿下が屋敷へ隠遁されたのは、よほど精神に不調をきたされたのだと、誰ともなく言うており、私もまた、さもありなんという思いを強くしておりました」
「まあ、そんなようなもんだ」
「終戦のための、全てをあなたへ押し付けたようで、心苦しく、陛下も非常に気にやまれて……」
「別に」

 俺はただ、成人なるひとを救いたかっただけ。
 国民のために、戦争を終わらせる使命とか、敵国の人間の命を大量に奪う責任とか、考え抜く時間は無かった。
 目の前で失われつつあった大切なものを救う手段を、持てる限りの力で行使した、それだけだ。
 今も、行動原理はそれだけ。俺に権力が無くなれば、成人なるひとはあっさり殺されるだろう?俺が皇子である限り、誰も手出しはできない。皆が成人なるひとを俺の伴侶として大切に扱い、長生きするために手を尽くしてくれる。
 そうしたら、この可愛い笑顔を見ることができる。
 俺が皇子を、英雄をやっているのは、ただその為だけだ。
 
成人なるひとさまをお側に置くのも、殿下がどこか壊れてしまったからなのだと……心配しておりました」
「それで、構わん」
「いえ」

 四条は、ひたと俺を見る。

「私は、緋色ひいろ殿下個人に忠誠を誓いたく思います。あなたは、正しい道を歩いた」
「いらん。それは、父上と兄上に捧げてくれ」
「ええ。もちろん、四条の忠誠は皇家のもの。けれど、私個人の忠誠をどこに捧げようと私の勝手です。お心にお止め置きください」

 馬鹿だな、四条。
 俺は、英雄の肩書きを利用して、伴侶と快適に暮らそうとしてるだけの、とんでもない駄目な男だぞ?
 膝の上には、相変わらず口の中でアイスクリームを堪能する成人なるひと。俺の左手の器の中で、アイスクリームは、とろとろと溶けていく。
 四条は、優しく笑んでそれを見ていた。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...