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第六章 家族と暮らす
115 私の立ち入れない場所 朱実
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「あれ?書類は置いてこなくていいんですか?」
緋色の執務室を出ると、扉の前に待機していた力丸が私の手元を見て言った。離宮に伴った際の力丸には、緊張感の欠片もない。共にいるもう一人、禅院武瑠は、私の護衛にしては大きめの体をがちがちに強張らせて警戒しているというのに。
昨日、一昨日は弥壌を連れていたから、この新しい護衛が離宮に来るのは初めてか。離宮での弥壌の様子にいつもと違うところは見受けられなかったが、武瑠はあきらかな緊張を見せていた。この若さで私の護衛に抜擢されたほどの強さだ。離宮の恐ろしさを肌で感じているということなのだろう。……私に分かるものではないが。
「緋色殿下、執務室にいなかったでしょ?その書類、俺が緋色殿下に届けましょうか?それとも、ここに呼んできましょうか?」
その言葉に少し呆ける。
そうか……。
この子は、常陸丸の言う、うちの者の一人。私が先ほどあっさりと拒否された、緋色の部屋を訪ねる権利を持っている。
「私が行くのは?」
「部屋ですか?駄目です。たぶん成人、寝てるんで」
「お前は行くのに?」
「……?そうですね、行きますけど?」
当たり前のように頷く私の護衛。私の入れない場所がこの国にあることを、少しは疑問に思え。いや、私が入れるように尽力しろ。
「……部屋の前まで共に行くというのは?」
「ええ……。俺が怒られるやつじゃないですか……」
力丸は、隠す気もなく渋面で呟いたけれど、それ以上拒絶はしなかった。
「武瑠。階段の下で待て」
「は?いや、しかし」
戸惑う武瑠の返事は聞かず、とんとん、と軽快に階段を上がる力丸に付いていく。力丸はいくつも部屋がある廊下を進んで、迷わず一つの扉を叩いた。廊下には誰もいない。護衛は……。
そういえば常陸丸は、執務室で書類の仕分けをしていたじゃないか。しかし、半助も置かないのか?私には強者の気配を察知することなどできないが、荘重がどこかにいるのか?
「殿下ー、俺です、俺。成人どうっすか?」
「うるさい、馬鹿」
中から緋色の声が聞こえて、力丸が扉を開けた。
今のは了承なのか?開けていいのか?
「皇太子殿下、待っててください。怪しい動きしないでくださいよ?中からじゃ流石に間に合いません」
振り返った力丸が言う。つまり、私が怪しい動きをすれば、すぐに攻撃を受けるということか。少し距離があるとはいえ、最速が間に合わないほどの。
「成人ー。今日は熱ないのか?頭痛いの、薬飲んだ?ん、そっか。偉いな。ミックスジュースもらってきてやろっか?」
やがて開いたままの扉から力丸の甘い声が聞こえてくる。
「お前、戸閉めろ。何か連れてきてるだろ、城に戻れ。あ、戻る前にミックスジュース持ってこい。俺は熱いお茶な」
緋色……。これが、家に居るときの……。
「あー、はいはい。俺、仕事中なんすけどー。皇太子殿下が殿下に書類渡したいそうですよ」
「下に置いていけばいいだろ」
「殿下にお会いしたいらしいので、ご自分でそう言ってくださいー」
「は?あ、待て」
力丸が部屋を飛び出して階下へ降りていく。
「こら、馬鹿。逃げるな」
くそ、と吐き捨てながら出てきた弟は、にっこりと笑みを作った。
「すみません、皇太子殿下。伴侶の調子が悪いのが心配で、部屋で仕事をしておりました。作業に支障はありませんのでご心配なく」
緋色の執務室を出ると、扉の前に待機していた力丸が私の手元を見て言った。離宮に伴った際の力丸には、緊張感の欠片もない。共にいるもう一人、禅院武瑠は、私の護衛にしては大きめの体をがちがちに強張らせて警戒しているというのに。
昨日、一昨日は弥壌を連れていたから、この新しい護衛が離宮に来るのは初めてか。離宮での弥壌の様子にいつもと違うところは見受けられなかったが、武瑠はあきらかな緊張を見せていた。この若さで私の護衛に抜擢されたほどの強さだ。離宮の恐ろしさを肌で感じているということなのだろう。……私に分かるものではないが。
「緋色殿下、執務室にいなかったでしょ?その書類、俺が緋色殿下に届けましょうか?それとも、ここに呼んできましょうか?」
その言葉に少し呆ける。
そうか……。
この子は、常陸丸の言う、うちの者の一人。私が先ほどあっさりと拒否された、緋色の部屋を訪ねる権利を持っている。
「私が行くのは?」
「部屋ですか?駄目です。たぶん成人、寝てるんで」
「お前は行くのに?」
「……?そうですね、行きますけど?」
当たり前のように頷く私の護衛。私の入れない場所がこの国にあることを、少しは疑問に思え。いや、私が入れるように尽力しろ。
「……部屋の前まで共に行くというのは?」
「ええ……。俺が怒られるやつじゃないですか……」
力丸は、隠す気もなく渋面で呟いたけれど、それ以上拒絶はしなかった。
「武瑠。階段の下で待て」
「は?いや、しかし」
戸惑う武瑠の返事は聞かず、とんとん、と軽快に階段を上がる力丸に付いていく。力丸はいくつも部屋がある廊下を進んで、迷わず一つの扉を叩いた。廊下には誰もいない。護衛は……。
そういえば常陸丸は、執務室で書類の仕分けをしていたじゃないか。しかし、半助も置かないのか?私には強者の気配を察知することなどできないが、荘重がどこかにいるのか?
「殿下ー、俺です、俺。成人どうっすか?」
「うるさい、馬鹿」
中から緋色の声が聞こえて、力丸が扉を開けた。
今のは了承なのか?開けていいのか?
「皇太子殿下、待っててください。怪しい動きしないでくださいよ?中からじゃ流石に間に合いません」
振り返った力丸が言う。つまり、私が怪しい動きをすれば、すぐに攻撃を受けるということか。少し距離があるとはいえ、最速が間に合わないほどの。
「成人ー。今日は熱ないのか?頭痛いの、薬飲んだ?ん、そっか。偉いな。ミックスジュースもらってきてやろっか?」
やがて開いたままの扉から力丸の甘い声が聞こえてくる。
「お前、戸閉めろ。何か連れてきてるだろ、城に戻れ。あ、戻る前にミックスジュース持ってこい。俺は熱いお茶な」
緋色……。これが、家に居るときの……。
「あー、はいはい。俺、仕事中なんすけどー。皇太子殿下が殿下に書類渡したいそうですよ」
「下に置いていけばいいだろ」
「殿下にお会いしたいらしいので、ご自分でそう言ってくださいー」
「は?あ、待て」
力丸が部屋を飛び出して階下へ降りていく。
「こら、馬鹿。逃げるな」
くそ、と吐き捨てながら出てきた弟は、にっこりと笑みを作った。
「すみません、皇太子殿下。伴侶の調子が悪いのが心配で、部屋で仕事をしておりました。作業に支障はありませんのでご心配なく」
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