【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

82 使用人しかいない城?  椿

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「おはようございます、殿下。成人なるひとさま」
「おはようございます」
「おはよう!」
「おう……」

 幾つかの静かな挨拶の声が上がり、少し掠れた高い声が明るく返事を返す。成人なるひとさまと、それから、不機嫌な緋色ひいろ殿下の声。何か、殿下の機嫌を損ねるようなことが朝からあったのやろうか。
 そう思って、恐る恐るそちらへ視線をやったけれど、挨拶をした、使用人と分かるお仕着せを着た者たちは、気にした様子も見せずに食堂へと入っていく。
 今日は昨日と違って、とても分かりやすい。
 女性は、水瀬みなせさんと同じような、白い襟付きシャツに紺色の動きやすそうなスカート、膝までの靴下、脱ぎ履きしやすそうな室内ばき。男性も、上は同じで、下が紺色のズボン。
 食堂は畳敷きなので、室内ばきは脱いで中へと入る。昔ながらの様式と、新しい様式の使いやすい所を取り入れた、暮らしやすいぐうや。服装も然り。
 お仕着せの者の他には、軍服の者と、普段着のように見える同じ服装の男女がちらほらと。昨日、挨拶をした九条の方々も、ほとんどの方がお仕着せを着ていた。
 使用人と同じ……?
 何でやろ。それなりの服装を誂えたりはしないんやろうか。筆頭九家であるというのに。……殿下以外は皆、殿下に仕える使用人であるいうことなんやろか。
 よく見ると成人なるひと殿下も、お仕着せと似た仕様の服装だった。シャツは同じ形で、襟の縁に赤い色がさり気なく入っている。尊き赤がその身分を示してはいるが、お仕着せか……。紺色のズボンは半丈で、女性たちと同じような靴下を履いていた。
 殿下は、軍服。黒の軍服の襟に赤い線。これは、近衛の服や無いやろか?
 
「おはようございます」

 人が途切れるのを待って、包拳礼を取る。

「おはよ。できた?」

 成人なるひと殿下から、明るい声が返ってきた。
 できた?とは何のことやろ。

「この宮にいる間は、包拳礼は不要だ」

 首を傾げていると、変わらず不機嫌な殿下の声が降ってきて、身を固くする。

「は。申し訳ございません」

 そういえば、昨日、そう言われていた。

「殿下、おはようございます。相変わらず、寝起きが悪いなあ。新入りさんが怖がってますよ」

 陽気な声に顔を上げれば、近衛の制服が見えた。常陸丸ひたちまるさんにしては、細く小柄な……。

泉門院せんもんいん力丸りきまるです。はじめまして」
「は、はじめまして。六車むぐるま椿つばきです」
「聞いてる。新しい下働きなんだって?頑張って」

 同じ名字、よく似た顔。近衛の制服……。

力丸りきまる、おはよう」
「おはよ、成人なるひと。昨日まで旅行してたけど、しんどくないか?」
「元気」
「なら、良かった。無理すんなよ」
「うん」

 突然、殿下が力丸りきまるさんの頭を軽く叩いた。

「いてっ。何ですか」
「俺は眠い」
「それは、いつものことでしょ」
「今日も休むかなー」
「あーはいはい、どうぞどうぞ」

 ぱしん。

「いてっ。兄上まで何だよ」

 また横から別の手が伸びて、力丸りきまるさんの頭を叩く。いつの間にこんな近くに?この人は、昨日共に行動していた間は、常に気配があったというのに……!

「いい加減なこと言ってんなよ、力丸りきまる。休めるわけないだろー」
「ちっ」
「殿下、舌打ちしないでください」
「皆、お仕事がんばろー」

 成人なるひと殿下が明るく言って、緋色ひいろ殿下を引っ張って食堂へと入っていった。
 この兄弟と殿下は、仲が良いのやな。
 できた?の意味は、聞けんままやった。
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