910 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え
34 楽しみじゃないか? 広末
しおりを挟む
「兄上。師匠に謝罪を。先ほどから、あまりにも師匠に礼を失した態度と思われます」
ああ。気にすんな、矢渡さん。長幼の序ってやつを持ち出されて、あんたが後から酷い目にあっちゃ、目も当てられねえ。どっちかってえと、師匠が弟子を守るってのが筋だろう。
「師匠、師匠、とよそ者に何を言っている、矢渡。この一族の恥晒しが。我らが師事するは、公里の年長者のみ。父上があらぬ誤解を受けて動けぬ今、お前は私の指示に従え。決して逆らうことは許さぬ」
「それはできません。父上の件は誤解ではないし、受けるべくして受けた罰と心得ます。それに!私は先ほど、離宮のメニューを作成する際の責任者となりました。役職持ちです。役職の無い兄上たちより、立場が上です!」
「このっ」
志雄さんの振り上げた手は、なんの躊躇もなく矢渡さんに振り下ろされた。ぐ、と目をつぶる矢渡さんの反応も早く、これが日常的に行われていることを表している。もちろん、素早く間に入り込んだが、予想していた衝撃はこなかった。
志雄さんの手は、一ノ瀬の活動着を着た男の人に止められていたから。
「父親と同じ場所で、一泊するか?」
名前は知らねえが、何度か離宮で見かけたことがあるお人だ。淡々とした口調と表情は、激しく詰め寄られるより恐ろしい。仕事中はこんな顔してんだなあ。うちで飯食ってる時は、ゆるっと頬が緩んでるから別人みてえだな。
一ノ瀬の方々は、うちの飯を喜んでたくさん食べてくれるから、大層作りがいがある。なかなか一人一人の好みは把握しきれちゃいねえが、うちで飯を食えるのはご褒美だ、って言ってくれた方がいて嬉しかったね。いくらでも、食べに来て欲しいもんだ!あ、事前連絡は頼むな。足りないってなったら悲しいから。
「な、なにを……」
「緋色殿下から、うちの大切な料理長の護衛を頼まれている」
志雄さんが、呆然とこちらを見た。
分かる、分かる。大袈裟だよなー。一介の料理人に護衛だってよ。ああ見えて、うちの殿下って心配症なんかね。なる坊にだけ過保護な訳じゃなかったみてえだ。
「まあまあ。せっかくの機会なんだし、仲良く料理しましょうや。普段一緒にできない方と一緒に料理できるとか、何だかわくわくしませんか。俺は結構、楽しみなんですよ」
「私もです!」
「やっぱり、矢渡さんとは気が合うなあ。俺は、弟子ってのは村次しかいねえからよ。そうやって言ってくれるのは嬉しいねえ。矢渡さんのこと、二番弟子って思っててもいいかい?」
心の中で呼ぶのは自由かもしれねえが、一応、許可は取っておかねえとな。うっかり誰かに言ってしまって、矢渡さんに不快に思われちゃいけねえ。
げ。矢渡さん、目に涙溜めてるぞ?不快だったか?しまったな。
「こ、こ、こ」
「こ?」
「光栄です!これからも一生ついて行きます!」
そ、そうか。それなら良かった。
あ、いや、待て。一生ついていくのは、こちらの料理長にしてやってくれねえか。弟子を名乗るのは構わねえから。
ああ。気にすんな、矢渡さん。長幼の序ってやつを持ち出されて、あんたが後から酷い目にあっちゃ、目も当てられねえ。どっちかってえと、師匠が弟子を守るってのが筋だろう。
「師匠、師匠、とよそ者に何を言っている、矢渡。この一族の恥晒しが。我らが師事するは、公里の年長者のみ。父上があらぬ誤解を受けて動けぬ今、お前は私の指示に従え。決して逆らうことは許さぬ」
「それはできません。父上の件は誤解ではないし、受けるべくして受けた罰と心得ます。それに!私は先ほど、離宮のメニューを作成する際の責任者となりました。役職持ちです。役職の無い兄上たちより、立場が上です!」
「このっ」
志雄さんの振り上げた手は、なんの躊躇もなく矢渡さんに振り下ろされた。ぐ、と目をつぶる矢渡さんの反応も早く、これが日常的に行われていることを表している。もちろん、素早く間に入り込んだが、予想していた衝撃はこなかった。
志雄さんの手は、一ノ瀬の活動着を着た男の人に止められていたから。
「父親と同じ場所で、一泊するか?」
名前は知らねえが、何度か離宮で見かけたことがあるお人だ。淡々とした口調と表情は、激しく詰め寄られるより恐ろしい。仕事中はこんな顔してんだなあ。うちで飯食ってる時は、ゆるっと頬が緩んでるから別人みてえだな。
一ノ瀬の方々は、うちの飯を喜んでたくさん食べてくれるから、大層作りがいがある。なかなか一人一人の好みは把握しきれちゃいねえが、うちで飯を食えるのはご褒美だ、って言ってくれた方がいて嬉しかったね。いくらでも、食べに来て欲しいもんだ!あ、事前連絡は頼むな。足りないってなったら悲しいから。
「な、なにを……」
「緋色殿下から、うちの大切な料理長の護衛を頼まれている」
志雄さんが、呆然とこちらを見た。
分かる、分かる。大袈裟だよなー。一介の料理人に護衛だってよ。ああ見えて、うちの殿下って心配症なんかね。なる坊にだけ過保護な訳じゃなかったみてえだ。
「まあまあ。せっかくの機会なんだし、仲良く料理しましょうや。普段一緒にできない方と一緒に料理できるとか、何だかわくわくしませんか。俺は結構、楽しみなんですよ」
「私もです!」
「やっぱり、矢渡さんとは気が合うなあ。俺は、弟子ってのは村次しかいねえからよ。そうやって言ってくれるのは嬉しいねえ。矢渡さんのこと、二番弟子って思っててもいいかい?」
心の中で呼ぶのは自由かもしれねえが、一応、許可は取っておかねえとな。うっかり誰かに言ってしまって、矢渡さんに不快に思われちゃいけねえ。
げ。矢渡さん、目に涙溜めてるぞ?不快だったか?しまったな。
「こ、こ、こ」
「こ?」
「光栄です!これからも一生ついて行きます!」
そ、そうか。それなら良かった。
あ、いや、待て。一生ついていくのは、こちらの料理長にしてやってくれねえか。弟子を名乗るのは構わねえから。
1,217
あなたにおすすめの小説
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる