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第九章 礼儀を知る人知らない人
8 人は変わる 朱実
「何の話?」
午後の会議が始まるほんの少し前の時間を見計らって会議室へと足運べば、入り口前で緋色と赤虎が会話を交わしていた。
緋色と赤虎?しかも、緋色が笑い声を立てている?自然、足は早まって、二人の後ろから早口で声を掛けていた。
「あ、あけ、いや、これは皇太子殿下。どちらにいらっしゃったのですか?」
「ぶっ」
赤虎の言葉に吹き出した緋色の脇腹に、赤虎の肘が咎めるように飛ぶ。当たった肘を緋色の肘がぺっと払いよけた。お互いそんなに強くない力で行われるそれは、仲の良い者同士がじゃれあっているようなやり取りだ。
この二人が?
困惑を隠して笑顔を向ける。
「部屋で昼食をとってきたよ。何か用があった?」
「あー。いや、その、いつも会議期間中は、皆と同じ昼食会場にいらっしゃったように思ったものですから」
「ああ、すまないね。今日は部屋で少し休みたい気分だったから、部屋に食事を運んでもらうよう我儘を言ったんだ」
「そうですか。あー。ええっと、もしかして夕食も陛下方とは別々に?」
「最近はそうであることが多いようだ。何故?」
「……何故、別々に?」
尋ねているのはこちらだというのに、質問に質問で返すとは礼儀がなっていないのじゃないかい?
笑みを深めると、赤虎は何かに気付いた顔になってため息を吐いた。
「あー、その、陛下から共に夕食をとのお誘いを受けたので。わざわざお、いや、私にお誘いをかけられるとは如何したものかと」
「へえ」
父はまた母に、寂しいとでも言われたものか。何故、そういった事態になっているのか説明もせずに、私と赤璃、緋色と成人以外のあの食卓に呼べる人間を探した結果が赤虎?
「まあ、久しぶりなのだし、たまには付き合って差し上げたらよいのじゃないか?」
「はあ?あ、いや、いやいやいや」
随分、否定の言葉を重ねたね。
「ぶっ。はっ、はは」
「ちょっ、お前、さっきから何なんだ。色々と笑い過ぎだろ。お前が城に食べに行かない理由は予想つくけど、あっちは何だ?」
予想つくのか。まあ、まあそうだな。母上の矛先が幼い緋色に向いていることで助かっていたのは私だけじゃない。あの食卓は、子ども時代から任される仕事の中でもあまりやりやすいものではなかった。今も、そのままだということだ。
あと、声を潜めているつもりだろうが聞こえてるよ。五条が皇族へ話す言葉遣いではないようだね?
「赤虎?」
咎めるように声を上げれば、赤虎は、はあとため息を一つ。
「命じられれば断れない。それで良けりゃ行きますけど、それでいいんですかね?」
「それでいいのかどうか、受けて確かめるという手もあるよ」
「遠慮します。あなたがそう言うってことは、よくないってことだ。……俺はもう、あっちでいい」
「そう」
人は、変われば変わるものだ。皇族であることをあんなに誇りにしていた赤虎が、あちらでよい、とは。
ああ、だから、緋色ともこのように話せるようになったのか。……私とも。
父と母もまた、いつまでもひとつ所にいては状況は好転しないのだと気付いてくれればよいのだが。
午後の会議が始まるほんの少し前の時間を見計らって会議室へと足運べば、入り口前で緋色と赤虎が会話を交わしていた。
緋色と赤虎?しかも、緋色が笑い声を立てている?自然、足は早まって、二人の後ろから早口で声を掛けていた。
「あ、あけ、いや、これは皇太子殿下。どちらにいらっしゃったのですか?」
「ぶっ」
赤虎の言葉に吹き出した緋色の脇腹に、赤虎の肘が咎めるように飛ぶ。当たった肘を緋色の肘がぺっと払いよけた。お互いそんなに強くない力で行われるそれは、仲の良い者同士がじゃれあっているようなやり取りだ。
この二人が?
困惑を隠して笑顔を向ける。
「部屋で昼食をとってきたよ。何か用があった?」
「あー。いや、その、いつも会議期間中は、皆と同じ昼食会場にいらっしゃったように思ったものですから」
「ああ、すまないね。今日は部屋で少し休みたい気分だったから、部屋に食事を運んでもらうよう我儘を言ったんだ」
「そうですか。あー。ええっと、もしかして夕食も陛下方とは別々に?」
「最近はそうであることが多いようだ。何故?」
「……何故、別々に?」
尋ねているのはこちらだというのに、質問に質問で返すとは礼儀がなっていないのじゃないかい?
笑みを深めると、赤虎は何かに気付いた顔になってため息を吐いた。
「あー、その、陛下から共に夕食をとのお誘いを受けたので。わざわざお、いや、私にお誘いをかけられるとは如何したものかと」
「へえ」
父はまた母に、寂しいとでも言われたものか。何故、そういった事態になっているのか説明もせずに、私と赤璃、緋色と成人以外のあの食卓に呼べる人間を探した結果が赤虎?
「まあ、久しぶりなのだし、たまには付き合って差し上げたらよいのじゃないか?」
「はあ?あ、いや、いやいやいや」
随分、否定の言葉を重ねたね。
「ぶっ。はっ、はは」
「ちょっ、お前、さっきから何なんだ。色々と笑い過ぎだろ。お前が城に食べに行かない理由は予想つくけど、あっちは何だ?」
予想つくのか。まあ、まあそうだな。母上の矛先が幼い緋色に向いていることで助かっていたのは私だけじゃない。あの食卓は、子ども時代から任される仕事の中でもあまりやりやすいものではなかった。今も、そのままだということだ。
あと、声を潜めているつもりだろうが聞こえてるよ。五条が皇族へ話す言葉遣いではないようだね?
「赤虎?」
咎めるように声を上げれば、赤虎は、はあとため息を一つ。
「命じられれば断れない。それで良けりゃ行きますけど、それでいいんですかね?」
「それでいいのかどうか、受けて確かめるという手もあるよ」
「遠慮します。あなたがそう言うってことは、よくないってことだ。……俺はもう、あっちでいい」
「そう」
人は、変われば変わるものだ。皇族であることをあんなに誇りにしていた赤虎が、あちらでよい、とは。
ああ、だから、緋色ともこのように話せるようになったのか。……私とも。
父と母もまた、いつまでもひとつ所にいては状況は好転しないのだと気付いてくれればよいのだが。
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