【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

56 俺が足りない  成人

「金物屋、違うぞ。この若様が、今日のお客様の一人だ。西賀さいか国のご領主のお孫さんだよ」
「へ? 旦那のお子さまじゃねえんですか? 姫様に似て天使のようにべっぴんさんなのに」
「まあ、乙羽おとわが天使なのと美人なのは間違いねえんだが、亀吉かめきちさまをよーく見ろ。同じように天使でも、乙羽おとわとはちょっと顔が違うだろう?」
「はあ。まあ、言われてみれば、若様はこう、どことなく目尻が涼やかなような……」
「だろ? 乙羽おとわの目尻はこう、もっと柔らかいだろ? 俺もどちらかと言うと、下がり気味だ。だから、どちらにも似てねえ」
「はあ。まあ、そうなりますねえ」

 そうか。常陸丸ひたちまる乙羽おとわに子どもが生まれたら、子どもの目尻は優しく下がるのか。うん。なんか分かる。ふにゃって笑いそう。天使みたいに可愛いだろうなあ。やっぱり強いかな。優しい顔して強いのかな。体の大きい常陸丸ひたちまると体の小さい乙羽おとわの間をとって、中くらいの体の大きさになるのかな。
 何だかそんなことを考えるのは楽しい。俺と緋色ひいろなら? どこがどっちに似るんだろう? ああ、でも俺、緋色ひいろにそっくりな格好良い子どもがいいな。全部、緋色ひいろに似てほしい。朝起きるのが苦手な所も全部、緋色ひいろと一緒でいいなあ! 俺が二人とも起こしてあげるから。ん? でも、そうしたら俺の大好きな人が二人になる? それは困る。一番に助ける相手が二人もいたら、俺が足りない。やっぱり俺は、緋色ひいろがいればそれでいいや。
 
「で? 本日のご用命は?」

 源さんが、しゃきっと背筋を伸ばして言った。
 あ、そうだそうだ。

「源さんの名前って、俺聞いたっけ?」
「へ? 名前?」
壱臣いちおみのお父さんの源さんは源之進げんのしんだから源さんで、清さんは清太せいただから清さんだって」
「ええっと? 清さん……清さん? 八百屋か? 八百屋が何だって? 壱臣いちおみさんのお父さんって何だ?」
「源さんは源之進げんのしんなんだって。源さんも源之進げんのしん?」
「……源太?」

 源さんが、ちょっと考えてから言った。
 源太? 源太が名前? 

「おお。清太と似てる」

 源太さんが源さんになったのか。そーか、そーか。うん、すっきり。

「ありがと。じゃーね」
「用事終わったのか?」
「うん」

 店内をうろうろし出した亀吉かめきちの後ろを、危ないものに触らないように付いて回ってた常陸丸ひたちまるが戻ってきた。亀吉かめきちがこっちに向かって歩くようにするの、上手だなあ。

「次、駄菓子屋さん行こう!」
「いこー」
「おー」
「おー」
「いやいやいや。待て待て待て! 説明! 旦那、説明してってくれ」

 源さんは源太さん。
 すっきり。
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