【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

160 その呼び名には  成人

「他にできる仕事ある?」

 書類はできなかった。護衛や警備もできなさそう。他に何かできる仕事があるのか心配になる。
 元真中も、その周りの人も、これからどうやってお金を稼いで生きていくのだろう?

「料理……は一番難しそうだし、掃除とか、かなあ……」
「ぷっ」

 考えていたら、近寄ってきた力丸が俺の頭をがしがし撫でた。
 何笑ってんの?
 この人たち、このままだとお金が無くて暮らせないよ? 大変だ。

「この人らの処遇は、竹光たけみつさまや鶴丸つるまるさまがお決めになる。お前は心配しなくてもいいよ」

 まあ、そうなんだけどさ。
 
正一郎しょういちろうは書類できるの?」

 読んでたもんね。今も、手に書類を持っている。それなら、少しは鶴丸つるまるたちの仕事が減るかな?

「いえ。私は……」

 正一郎は、小さな声で言って目を伏せた。

「何の役にも立たん、です」
「そう?」
「はい……」

 そっか。残念。書類はできるのかなって思ってたんだけど。ほら、三郎さぶろうはさ、礼儀とか書類とか得意だったから。緋色ひいろ弐角にかく鶴丸つるまるも、書類は苦手だぁって言いながらできるじゃん? もちろん、壱鷹いちたか竹光たけみつも。殿様とか若様って呼ばれている人って、そういうの得意なのかなって思ってたんだよ。まあ、元真中はできなかったから、そう呼ばれている人が皆できる訳じゃない、ってのも今回でよく分かったけど。
 礼儀なんて、本当に駄目駄目だったし。

鶴丸つるまるってすごいね」

 苦手でも、ちゃんとやるとこがすごい、偉い。

弐角にかくもさ、三郎も、皆すごいよ。もちろん緋色ひいろも」
「はは、そうだな。今の、殿下が聞いたら喜ぶぞ」
「何で?」
「好きな人に褒められたら嬉しいだろ?」
「そっか。うん」

 そうだな。俺も、緋色ひいろに褒められたら嬉しい。あ、力丸りきまるに褒められても嬉しいよ? 好きな人だからさ。

「若様は」

 香月かづきが、とてとてと部屋の中を動き出した亀吉を追いかけながら口を開く。

「若様、と呼ばれるたびに、ちゃんとせななって思う、て仰っとったことがあります」
「ふーん」
「うちらの事を頼みますね、って言われとるような気ぃがする、て」
「そっか」

 上様も若様も殿様も殿下も、国を治めている人の呼び名で。そう呼ばれることには何かの意味があって……。
 あ、俺も。
 俺も、殿下って呼ばれるようになったから、ちゃんと勉強して仕事をしなくちゃいけない。

「うん」
「ん、どうした?」
「ん? んー?」

 力丸に、なんて言えばいいのか分からないんだけれども。

「亀吉。頑張ろうね」
「はいっ」

 俺は緋色ひいろの横にいたい。
 そう呼ばれることから逃げたいとは思わないから。だから、頑張ろ。
 何だか静かだなって思ったら、元真中は口に布を噛まされていた。取れないように手も拘束してある。
 うるさいから黙らせてたのか。力丸、相変わらず素早いね。

「じゃ、戻ろ」
「はいっ」

 亀吉が、また元気にお返事をした。
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