【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

163 礼儀  成人

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常陸丸ひたちまる、下ろして」
「大丈夫か?」

 常陸丸ひたちまる乙羽おとわを抱き上げたまま、下ろそうとしない。いつもは、きりっとした眉が、優しい目尻と同じようにへにょって下がっている。

「大丈夫」
「さっきふらついていた」
「寝起きだったから」
「なら、今も寝起きだろ」
「あら、そうね」
「なら、このまま城の中へ入ろう。ひと休みしてくれ」

 絶対、下ろさないつもりだな。

「寝ながら来たって言ってるでしょ? 寝起きのひと休みって何?」
「それは、あれだ。ほら。移動、移動で疲れてる」
「寝てたら着いたから、大丈夫」
「寝るのも疲れるからな」

 ふふ。そういう時もあるけどさ。今の乙羽おとわは、元気そうだけど?

「もうっ! 緋色ひいろ殿下にご挨拶するから下ろしなさいって言ってるの! だいたい、護衛のくせに職務中に殿下のお側を離れるなんてどういう事? 殿下に何かあったらどうするのよ」

 あーあ、怒られた。

「大丈夫だよ。守備範囲内だ」

 常陸丸ひたちまるがこちらへ近寄りながら言う。やっぱり乙羽おとわは下ろさない。
 少し距離が開いていたけれど、大丈夫な範囲内だったのか。敵の気配を感じてから動いて緋色ひいろを守れる範囲。かなり広い。流石、常陸丸ひたちまる。格好良い。
 乙羽おとわを抱いているから手が塞がっているけど、足が空いてるもんな。うん。さっきの速さならこのくらいの距離は詰められるし、足で攻撃できる。こっちに力丸りきまるもいるから、連携できるしね。
 常陸丸ひたちまるの言葉を聞いた香月かづきから、ぐうっておかしな音が聞こえた。
 ん? また眉間に皺を寄せてるな?

力丸りきまるさん。滞在中に時間があれば、手合わせ願いたく」
「ん?」
「是非」

 おお。香月かづきも手合わせしたい人? 鶴丸つるまる松吉まつきちと一緒だね。

「もちろん」

 力丸が笑って頷いた。いいな。楽しそうだな。
 常陸丸ひたちまるやじいじ、半助はんすけも呼んだらいい。今なら皆いるし、手合わせ、し放題だ。あ、鶴丸つるまる松吉まつきちもしたいかもしれないな。書類の息抜きに、皆で鍛錬所に顔を出すのもいいね。

「見たい」
「へ?」
「手合わせ、俺も見たい」
「おう。じゃ、後で行こうぜ」
「うん」
「はいっ」

 亀吉も、俺たちを見上げながら元気に返事をした。ん? 亀吉も行くの? 亀吉のお昼寝時間に行こうと思ってたんだけど。

「手合わせ見に行くの?」

 分かってるのかなーって思って聞いてみたら、亀吉は、にこにこで頷いた。手合わせ、分かるのかー。

「すえーしも」

 亀吉が、末良すえよしの手を繋いで言った。

「ん? 末良すえよしも行くの?」
「はいっ」
「ん? んー?」

 末良すえよしは、手合わせに興味ないんじゃないかなあ。ねえ? ほら、末良すえよし、首を傾げてるよ? まあ、いいんだけど。
 俺と末良すえよしが首を傾げているうちに、車から降りてきた人たちが目の前にずらりと並んだ。あ、東那とうなも来たんだ。他に一ノ瀬が二人。生松いくまつと源さんはいないな。後からかな? お留守番かな?
 あ、乙羽おとわが下ろしてもらって立っている。

緋色ひいろ

 名前を呼んだら、俺も下ろしてもらえた。
 末良すえよしが、あって言って亀吉の手を振りほどいて走って、広末ひろすえ斑鹿乃むらかのの間に立った。

緋色ひいろ殿下と成人なるひと殿下、並びに各務かがみの若君にご挨拶申し上げます。緋色ひいろ殿下のおめしにより、泉門院せんもんいん乙羽おとわが殿下方の家族を連れて、馳せ参じましてございます」

 乙羽おとわの挨拶が格好良くて、全員で一斉にする包拳礼が格好良くて、俺はすっかり見惚れてしまった。末良すえよしも周りを見て真似をして、ちゃんと包拳礼をしている。

乙羽おとわ、ご苦労。皆もよく来た。頼りにしている」

 緋見呼ひみこさま仕込みの、と緋見呼ひみこさまが言っていた乙羽おとわの挨拶も、緋色ひいろの返事も本当に格好良い。礼儀って大事なんだなあ。うん。大事だ。
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