【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

50 格好良かったよ  成人

「くそ。えらい目にあった」

 俺が行くって言ったら、緋色ひいろもしぶしぶ鍛錬についてきた。ついてきたらもちろん、見ているだけなんて有り得ない。
 じいじと常陸丸ひたちまるの相手をした後は、汗だくで座り込んでいた。

緋色ひいろ殿下。あの、うちも手合わせ……」
「ああん?」

 緋色ひいろに睨まれても、寿々丸すずまるはへっちゃら。

「ひと休みしてからでええです」

 えへ、と笑って言った。

「あー、くそ。これだから西賀さいかの奴らは」

 緋色ひいろが、ぱっと立ち上がる。

「ええんですか?」
「ひと休みしたら、負けた時の言い訳が立たん」
「ひと休み無しでも、勝ったら一生自慢します」
「そんな恥をかいてたまるか」

 ふふ。緋色ひいろ、楽しそう。俺も楽しい。緋色ひいろの格好良い姿がたくさん見られて、楽しくて嬉しい。
 じいじや常陸丸ひたちまるには結局やられちゃったけど、でも、だいぶ頑張った。緋色ひいろ、やっぱり強い。守られているだけじゃない皇子様、格好良い。
 千寿せんじゅぼうが、二人がかりでじいじの所へいった。おお、速い。でも、軽い。あれじゃ、当たってもじいじには効かないなあ。じいじは硬いから。同じ場所を狙って打って、ダメージを貯めていくしかない。難しい。一発当てるのも難しいのに、同じ所を狙わなきゃならないの、大変だ。
 お風呂屋さんまでひとっ走りしてきてくれたさくが、常陸丸ひたちまるに声をかけている。やすさんの所から帰ってきてそのままこちらに来たのに、元気だなあ。
 お風呂屋さんは、四時から五時の一時間、貸し切りにしてくれる、とのことだった。平日はいつも空いている時間だから構わないよって、やすさんは言ってくれたんだって。
 後でお風呂屋さんに行った時、たくさんお礼を言おう。掃除をいつでも手伝うからねって言っておこう。
 あ。寿々丸すずまるがあっという間に吹っ飛んだ。ちょっと疲れている緋色ひいろの手加減が甘かったらしい。

「しまった。無事か」
「くぅうっ。大丈夫ですぅ」

 うんうん、よしよし。ちゃんと自分でも後ろに飛んでたね。衝撃逃がすの大事。
 二人が俺の近くに戻ってきたら、周りにいつの間にか集まってきていた何人かの兵士っぽい人が、そわそわとしている。順番待ち?

「俺はもういい。疲れた。充分だ」
 
 緋色ひいろが、ちょっと大きい声で言った。
 ふふ。怪我させたら大変だもんね。優しい。
 周りの人、がっかりしなくてもいいよ。じいじと常陸丸ひたちまるはまだまだ元気一杯だから。
 ほら、千寿せんじゅぼうが、武器にしていた棒をじいじに取られてしまった。お終いだ。
 さくは速い。強い。でも、常陸丸ひたちまるはいつも、速い力丸りきまると鍛錬をしていて速い動きに慣れている。速さに頼る動きだけで一発入れるのは難しいよ?
 がんば……? ん?

緋色ひいろ、見えない」
「見すぎると疲れるから、ほどほどにしろ」

 ええー? 今日の俺は元気一杯なのに。

「大丈夫」
「風呂の時、疲れていたら困るだろ」

 それは……うん。……困るな?
 お風呂。せっかくのお風呂屋さんでのお風呂だ。疲れてたら楽しめない。
 鍛錬をまだまだ見たかったけど、俺の目を塞いだ緋色ひいろに大人しくもたれておいた。

 
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