【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,316 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

107 遊びの思い出  朱実

 子ども達の遊びが、興に乗ってきたようだ。話し声が大きくなり、私の座る席まで声が届き始めた。子らは、末席の近くで遊び始めた為、はっきりと何を話しているのかまでは聞こえてこない。だが、話が聞こえている辺りの者たちがくすくす笑っている様子から、大層楽しんでいるらしい事は読み取れた。
 かるたをしている事は伝わっている。読み手の九条利胤としたねの声が大きいからだ。だがその声も、少し聞こえてはすぐに止まっていた。灯可とうか辺りが、あっという間に札を取ってしまっているのだろうと推測された。身に覚えがある。かるたというのは、札の配置を記憶してしまった後は、読み札はひと文字目を聞けばそれでよい。全ての文言を聞くまでもなく、勝負はつくのだ。……私とかるたで遊ぶのはつまらない、と文句を言ったのは赤虎せきとらだった。
 昔、とても昔の思い出だ。赤虎せきとらは、一枚も札を取れずに癇癪を起こして、毎回、もうやらない、と宣言していた。私たちより年長の朱可しゅかさんが、まあまあ、となだめて、福笑いやすごろくといった運に頼る遊びを提案して、また皆で新しい遊びが始まっていくのだ。
 そんな時もあった。ここにいる、若い当主たちと共に遊んだ時間。緋色ひいろ赤璃あかり緋椀ひまりたちとは歳が離れているからか、あまり思い出す何かは無い。遊んだ、というと、何故か、癇癪を起こす赤虎せきとらがはっきりと思い出された。あの、一人で全て取る勢いだったかるたも、私なりに楽しんでいたということなのだろう。少し年長の朱可しゅかさんなどもいるのだから流石に全てを取ることはできず、悔しい思いをしたものだが。
 そうであれば、あれは見可みか辺りが癇癪を? と様子を伺うが、見可みかは癇癪を起こすどころかやる気に満ち溢れているようだった。
 それぞれが話をしているのが見える。子らの中に入ってなんの違和感もない成人なるひとが、本日も真面目な顔で、ふんふんと話を聞いていた。
 かるた遊びとは、そんなに話すことがあっただろうか、と首を傾げる。読まれた札を取るだけの、単純な遊びだと認識していたのだが。読み手が読み上げる声をよく聞いて、はい、と返事をして札を取るだけの遊びのはず。
 やがて話がついたのか、利胤としたねが再び札を読み始めた。

「らいねんのことをいうとおにが」
「はいっ」

 幼い声が元気に響いて、わっと拍手が沸き起こる。

「とれた! とれました! くらまのらがとれた!」
「すごい、蔵磨くらまくん」
「おめでとう」
「やったな、蔵磨くらま!」

 遠慮もない大騒ぎ。子ども達だけでなく大人も拍手をして、本日初参加の八条蔵磨くらまを褒め倒している。
 利胤としたねが読んだ文字数が今までに比べて多かったから、さては灯可とうかが手心を加えたのだろう。先の話し合いはそれか?
 そんな遊び方で楽しいのか? との答えは、嬉しそうな蔵磨くらまの様子が答えだ。
 灯可とうかを見れば、成人なるひとと顔を見合わせて笑っている。成人なるひとの手元に、何枚もの札。ああ、そうか。灯可とうかには、敵わない年長の相手が。
 そこで、ふと思い出して振り返った。
 私たちが大きな声を上げて遊ばなくなったのは、何時からだったか。緋色ひいろたちとの思い出が薄いのは何故か。
 母は、箸も持たずにただ、大騒ぎの子らを見ていた。

 
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。