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快璃の章

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「手柄を横取りか、快璃かいり。」

 苛立ちを押さえきれないその声は、甲高い少年のものであるのに、大人びて響いた。
 見分けも聞き分けもつかないほどそっくり、と言われてきたのが嘘のようだ。

「とんでもございません、兄上。」
「誰にお救い頂いたかはしっかりと理解しております。ありがとうございました、玻璃皇子はりのみこ。」

 俺の返事と被るようにして透子とうこが答え、綺麗な仕草でお辞儀をする。

あけの国の透子とうこでございます。」
玻璃はりだ。小柄だな。なるべく側で守ってやろう。」

 は?
 そう思ったのは俺だけではないようだ。そこにいた者が皆、ぎょっとした顔をする。もちろん、透子とうこも。
 ごくりと唾を飲み込んでいるのが見えた。

「こ、小柄と言われるのは、私が皆様より歳若いせいでございましょう。姉が病で来られなくなりましたため、私が代わりに参りました。二歳下となります。皆様に遅れぬよう精進致しますので、よろしくお願い致します。」
「ふむ。それは心配だな。何か困り事があれば、私を頼ると良い。」
「は。あの、勿体ないお言葉にございます。」

 畳み掛ける兄上に対して、あくまで臣下としての礼を取る透子とうこ。俺は、ほっとしてその様子を見守った。
 これなら、兄上狙いの姫君たちの悋気も買うまい。しかし兄上は、そんなことはお構い無しな様子で、透子とうこの手を取って教室へ向かおうとする。

「兄上。」

 俺はたまらず声をかけた。

「俺たちは、皇子みこだ。初めて会った姫君にそのような態度を取ることは、あまりよろしくないと思う。真鶴まなづる、如何に?」

 言葉の途中で、兄上の顔が険悪な様子に変わったので、兄上の側仕えを呼びつけた。この騒ぎなら聞こえる範囲まで来ている筈だ。

快璃かいり皇子みこのおっしゃる通りかと。」

 淡々とした声が聞こえた。
 苦虫を噛み潰したような表情を一瞬だけ見せて、兄上は踵を返す。後を真鶴まなづると学友たちが続いた。
 ほっとして見ると、すっかり怯えている透子とうこと彼女の側仕えの少女が残っている。

「すまなかった。」

 と言うと、安心したように笑顔を見せた。
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