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玻璃の章

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 快璃かいり深剣みつるぎ、その側仕え達が行方不明となった。皇子みこが行方不明となった上、深剣みつるぎも属国の王子であり、耶麻やまの国から預かっている形となっている。父は捜索隊を出した。
 私は、出張から帰ってきたと言って玻璃皇子はりのみことして城を歩く。透子とうこは、体調不良で城に留まっていることになっている。

快璃かいりを何処へやった?」
「どうして私に聞かれるのです?」
「お前が知っていると知っているからだ。」

 父は、私と二人の時でさえ、みかどとして完璧だった。感情を抑えて静かに話す。隠しきれない怒気を感じていても、こちらも素知らぬ顔を通す。私も、次期みかどとして訓練を受けているのだ。父を相手に、滅多と感情を見せたりしない。

「私は出張しておりました。城にはおりませんでしたので、何が起こっているのかさっぱり。」
「儀式の時にはもう、快璃かいりを?」
「何をおっしゃっているのです?儀式は終わりましたか?」
「お前が儀式に出たことで、透子とうこ姫を怒らせた。お前と儀式ができるわけがない。婚姻するのは快璃かいり透子とうこである。」

 腹の奥から、黒い感情がせりあがってくる。

「ええ。知っておりますよ。」
「いいや、お前は理解していない。快璃かいりを何処へやった?」
「おっしゃっている意味が分かりません。」
透子とうこに会わせろ。」
「体調を崩しておられます。」
「それでも、だ。これは命令である。」

 そうだな。あの姿を見せるのもまた、一興か。

「では、参りましょう。」

 すぐに連れ立って透子とうこの元へ向かう。父は、訝しげにしながらも、護衛と側仕えを連れて付いてきた。
 透子とうこは、部屋の中に置いてやった椅子に座り本を読んでいた。部屋に入っても、顔をこちらに向けることはない。私しか出入りしないと思っているのだろう。
 小さな体格のまま、不自然にせりだした腹が、どんどん大きくなってきている。若すぎ、小さすぎて、その重さに耐えられなくなるかもしれない。それでもまだ、医者に診せる気になれず放っておいた。
 父は、その姿を黙って見ていた。絶句しているのかもしれない。じっとその様子を観察する。目が合うと、何かを言いかけて口をつぐみ、また開いた。

「まさか、お前……。」

 私は何も反応しない。
 少し考えれば分かることだ。この愛しの姫は、快璃かいり以外の子を宿して、こんなに大人しく守るわけがない。
 誤解するなら勝手にすればよい。
 それは、貴方の判断。
 
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