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刃の章

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「ちょっと、一回出しなさいよ。話が違うわ。子どもだなんて聞いてない。私は、降りるわ。」

 皇子みこの監禁されている部屋の中から、女の喚く声が聞こえる。出入り口の戸の側には、兵士が一人立っているが、答える様子はない。うるさそうに、顔をしかめている。
 俺は、食事を載せた盆を持って近づいた。朝食の時間より早目を狙ってある。夜通し、このような状態だったとしたら、夜番のこの兵士はさぞかし嫌になって、注意力散漫になっていることだろう。まだ時間が早い、などという些細なことには、気付くまい。

「すみません。お食事をお持ちしました。」
「あ?ああ。」

 少し、ほっとした様子で、すぐに戸を開けてくれた。飛び出してこようとする女を乱暴に部屋の中へ突き飛ばす。

「ちょっと、いい加減にしてよ。私は降りるって言ったのよ。出して。出しなさいよ。」

 俺は、料理を持ったまま、困った振りをする。兵士は、とっとと机に置いてこい、と言った。

「はい。」

 と、しおらしく返事をして、室内を伺う。
 皇子みこは、着物を何とか身に纏い、膝を両手できつく抱えて、うずくまっていた。顔を上げる気力も無いのか、膝に顔を埋めたままだ。
 布団が一組と、座卓が一つ。奥に戸が見えるから、厠はあるようだ。
 座卓の上には、食べ終えた皿と、手付かずの皿が並んでいた。女の方は、食事はしっかりと取っているようである。皇子みこは、何日食べていないのか……、と俺は溜め息をついた。連れ出すときに、足が立たないような状態では難儀する。俺が、もう少し屈強な体なら担いでいけるのだが、と悔しく思った。
 同年代と比べて、小柄な体が恨めしい。側仕えなどに偽装するときは、違和感が無くて便利なのだが、人を担ぐようなことには向いていない。力はあるが、持ち上げて移動するには、やはり背の高さは重要なのだ。
 運んできた皿を机に置いて、昨日の皿を片付けていると、苛々した男の声が、まだか、と言った。女を押さえておくのが疲れたのだろう。

「後で合図をするので、戸を閉めてもらって構いません。」

 と、俺が言うと、二人ともに驚いた顔でこちらを見る。

「大声を出しても疲れるだけでしょう。少し、僕とお話をしてみませんか。」

 兵士は、すぐに何かを勝手に察して、女を部屋に押し込むと戸を閉めた。
 女も、仕方なく、こちらへやってくる。

「まずは、食事をどうぞ。」

 俺は、自分なりに上品に微笑んでみせた。
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