【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

53 王との顔合わせ

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 次は謁見ね……。
 まあ、そうか。
 王女が亡くなって、それどころでは無いかと思ったけれど、王にとっては王女の一人や二人、特別な出来事ではなかったのかもしれない。それとも、神託とはそれほどの重要度なのだろうか。
 国は、魔王を倒す勇者をずっと求めている。神託という曖昧な情報から、国に生まれるすべての子どもに鑑定の儀を行い、決して見逃さないように体制を整えて。
 だが、未だに勇者と鑑定された者はなく、勇者に関わる何かがもたらされたこともなかった。今回のセナの鑑定も、誰より光の魔力量の多い治癒魔法の使い手、くらいの認識ですんだはずだ。それが、勇者を助ける聖者、との神託により大事おおごとになってしまっている。
 事実だとしても、勇者が見つかるより前に言う情報では無かっただろう。
 ただでさえ、国は、鑑定の儀を利用して光の魔力量の多い治癒魔法の使い手を囲い込み、聖女だと持ち上げて使い潰しているのだから。勇者に繋がる者だからと言って、セナの扱いを他の聖女と変えることができるわけではないことは、亡くなった王女の件で証明されている。
 もし、セナが王女を癒すことができて、けれど代わりに倒れていたら、どう言い訳するつもりだったのだろうか。
 そんなことを考えながら頭を下げていると、

おもてを上げよ。」

 と横の方から声がかかった。
 前世で何度か顔は合わせている。
 が、こんな顔だっただろうか。
 王のその無表情に、首を傾げた。

「神託の聖者はどちらだ?」
「あ、おれ……。」
「セナ。」

 王の問いに答えようとするセナを小さな声で止める。直接言葉を交わすことはできない、というマナーがあったはずだ。ここへ来るまでに教えられていないのは、わざとかもしれない。横の侍従から、王の口から出たのと同じ言葉が、もう一度告げられた。セナがこちらを向くので頷くと、

「俺です。セナと申します。」

 と答える。

「もう一人は何だ?」

 また、侍従が言うのを待って、

「聖者の護衛として参りました。」

 と返した。その言葉も、侍従が王へ伝える。聞こえているだろうに、面倒なことだな。

「以後の護衛は、こちらで準備しよう。帰ってよい。」
「いえ、俺たちは離れません。」 
「陛下のお言葉である。」
「聞けません。」

 これだけの会話?をするために、かなりな時間を使い、王はすっかり機嫌を損ねた。

「不敬である。そちらの聖者も姫を癒せなかったと聞いた。二人ともに不要。」

 その言葉で、気付いた。王には言い訳も何もいらないのだ。自分の役に立たない者、思い通りにならない者は全て、神託すらも不要なのだ。
 勇者であった俺は、王の言う通りに魔物退治に行き、自分を鍛え、魔王を倒すために動いていた。だから必要で、こんな目付きで見られたことは無かったから、今の王の顔が、別人に見えたのだろう。
 そして、謁見室から追い出されて息を吐く。これで、俺たちのことを王が忘れ去ってくれたなら良いのだが。
 
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