チートスキル『学習（ラーニング）』で異世界最強 ～Malice・Awaking～

28 ゼ ン ト ア ク

「ハァッ！」

先手を取ったのはタダシ。
大剣を右斜め上から袈裟懸けに振り下ろすも、それは難なく防がれてしまった。
マリスは左腕を軽く振るい裏拳で打ち払うと、がら空きになった胸部へと触れる。
すかさず《分解》を発動する彼女。しかし――

「……？」
何故か分解が始まらず、困惑するマリス。そんな彼女を見て、タダシは鼻で笑う。
「何故通じない、そう言いたげな顔だな？当然だ。この装備は君のデータを基に作られている。君の使うスキルはすべて、対策済みという訳さ！」
そう言いつつ、その腕を振り払って腹を蹴りつけるタダシ。
不意に喰らった一撃に、マリスは後ずさる。

「ぬん！」
その隙を逃さず、タダシは《火球》を連続発射。矢継ぎ早に繰り出される攻撃は爆発を生み、黒煙を巻き起こす。
そしてマリスの姿が見えないほどに煙が立ち込めた時、ようやく発射は止まる。

（まさかこれで倒れるはずは無いだろう……さぁ、どう来る？）

しかし慢心はせず、反撃を冷静に待ち構えるタダシ。その予感は、見事的中した。
「そこかっ！」
彼の背後から先端が鋭く尖った触手が３本、彼目掛けて襲い掛かってきたのだ。
地面から突き出たそれは蛇の如く不規則な軌道を描き、迫りくる。
後ろに飛びのきつつ、《生成》を使って作り出した銃を用いて全てを撃ち落とすタダシ。
全触手の撃墜を確認した彼は、すかさず背後を見る。
その視界には、既に自分の側へと接近していたマリスの姿があった。
右脚にエネルギーを纏い、蹴りを繰り出そうとする彼女。

「くっ！」
すんでのところで反応したタダシは、頭部を左腕で庇う。直撃は免れたものの吹き飛ばされ、何度か地面を跳ねる彼。
「ぬぅ！」
《生成》で剣を2本作り出し、突き刺してブレーキをかけるタダシ。急増のため強度が足りずへし折れてしまうも、勢いを殺すには十分であった。体勢を立て直し、再び追加で生成した2対の剣を構える。

「ぐ！」
そしてすぐさま、追撃が彼を襲う。大剣を手にしたマリスが、彼目掛けてそれを振り下ろしたのだ。
双剣を交差させて切り抜けるが、その重量とパワーとが重なり、次第に押され始めるタダシ。
その時。

「！」
彼を攻撃するマリスの背中が、突如火花を吹いた。
彼女が目線を動かすと、そこにはライフルを構え並ぶ複数体のレイヴンテクターの姿。
そう、レイヴンズの隊員たちである。
「第２射、放て！」
号令とともに打ち出される弾丸。


「ぐわぁぁ！」
「がっ……！」
今度はその全てを触手で薙ぎ払い、そのまま向かわせて彼らを串刺しにしてゆくマリス。
しかし、一瞬気を取られたために、隙が生じた。
視線をタダシの方へと戻すと、そこには――

「かかったな！」
大口径のショットガンを構えた彼の姿があった。
その銃口をマリスの胸元へ押し当てると、彼はそのまま引き金を引く。
打ち出された弾丸は大きく彼女を吹き飛ばし、地面を舐めさせた。

「どうかね？これが正義の力だ！」
反動でよろめきつつも、大仰に腕を振り上げつつ叫ぶタダシ。
この光景を中継で見守っている民衆に向けてのパフォーマンスでもあった。
彼は雄弁に語り続ける。

「君たち《転生者》は持ち込んだ力を振るいこの世界の理を乱す侵略者……即ち悪。世界にあってはならぬ存在。だからこそ、我々は正義をもって抗うのだ。侵略者を打倒し、平和をもたらすこと。それこそが正義！古今東西、悪が正義に勝てた試しは無い。最後に悪は滅びる定めなのだよ。故に君には、再び死んでもらうぞ――アヤツジ・ケイトォ！」
マリスを指差し、叫ぶタダシ。
その言葉に、民衆もまた湧き上がる。

「いいぞレイヴンズ、侵略者を殺せーっ！」
「そうだそうだ！侵略者は消えろぉーっ！」

口汚く罵りの言葉を浴びせる彼ら。
それを受け、タダシは彼女へ歩み寄りつつ言う。

「聞こえるかね？この声が。この国が、いやこの世界そのものが君の死を待ち望んでいる声が……君はこの世界にとって排除すべき異物なのだよ」

しかし、マリスは何も返さない。
そんな彼女を、タダシはひたすらに煽り続ける。

「何なら、元の世界へと帰ってみるか？だが、元の世界も決して君を受け入れようとはしない。理由？そんなものはわかりきっているだろう？君の持つ力はどんな世界であっても異端。つまり君にもう、居場所などないのだよ。君にできることは……」

彼はその肩へそっと手を置き、顔を眺めつつ言った。
「悪として、死ぬことだけだ」

そして高々と笑うタダシ。そんな時。

「……ラーニング完了」
彼女が一言、ぽつりと呟いた――！