白兎令嬢の取捨選択

菜っぱ

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第一章 大領地の守り子

23婚約解消には思わぬ弊害がありました

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 シュナイザー商会との取引のため、その後もわたくしと先生は、水の日の授業の前にシュナイザー商会を訪れました。

 決めることはたくさんありますし、やることもいっぱいあります。でも初めて自分を中心に物事が決まっていくのがわたくしにとってはとても楽しく、素晴らしい経験に感じます。

 わたくしは順調にハーブティーの商品化に向けて会合を行っていました。

「ではリジェット様が個人で育てている分のハーブティーをこちらでお預かりしますね」
「少なくて申し訳ありません」

 わたくしが鍛錬の間に管理しているハーブしか用意できていないので、商品としての量は十五袋ほどと本当に少ない量しかありません。
 本当はもっと大量に育てて大々的に売り出したいところですが、あまり大きく展開するとわたくしの手が回らなくなってしましますし、屋敷の敷地内で栽培しているのでお父様に見つかってしまう可能性があります。

 わたくしが資金を得ていることがバレてしまったら、これからの計画が頓挫する可能性があります。この資金はもしものための家出用の資金ですから。
 そうなると面倒なので、できるだけ内密に物事を進めたいのです。

「いいえ、最初は少なくて良いのですよ。珍しいものにはプレミアがつきますからね。
 もし人気が出てきたら、外部の農場に委託することも考えられますから」
「まあ! そうですね。そうなったらとっても良いですね」
「ええその際はぜひ農場を紹介させてください」

 ハーブティーの権利だけ持った状態で、生産は他に委託できれば、わたくしは何もしなくてもお金が入ってくることになります。
 夢物語のようですが、そうなっていただけると、今後がとても楽になりそうなのですが……。

 その後も販売に必要な契約書を確認したり、梱包資材の相談を片付けて行きました。

「気をつけてお帰りくださいね」
「ええ、ありがとうございます」

 会合が終わり、先生の家に転移で移動しようかと思った時、わたくしたちの前にわたくしより少し幼い感じの町人の少年が走ってきました。突っ込むように走ってきた少年の勢いににわたくしたちは驚いてしまいました。

 ……どうしたのでしょうか。

 少年は息を切らしながら、わたくしの方を睨みつけています。どうやら、先生ではなく、わたくしの方に用がある見たいです。

「あの……。何かわたくしに御用でもありますでしょうか?」

 遠慮がちに少年に問いかけると、少年はわたくしが口を開いたことに少し驚いた表情を浮かべましたが、すぐに表情を厳しいものに戻しました。
「白い頭……。お前領主の娘だな!」
「え……」

 シュナイザー本社からでてすぐ転移陣を使うつもりだったので、油断していましたが、わたくしは今日髪を水色にする魔法陣を使わずにこちらにきてしまいました。
 視界に入った先生も、予期していなかったようであちゃーという苦い表情をしています。先生は完璧に計画を遂行するタイプに見えて、結構うっかりするところがあるのです。

「お前のせいで、うちが大変なことになったんだよ!
 どうしてくれるんだ!」
「え?」
「ちょっと……落ち着いて。いつもの君らしくないじゃないかいきなりどうしたんだ?」

 どうやら子供は先生の知り合いのようです。それはそうと、少年の言葉の真意が気になります。
 わたくしのせいで? わたくし多分今までに色々やらかしたような気がいたしますが、果たしてどれのことを指しているのでしょう。
 考え込むような仕草をしていると少年が口を大きく開きます。

「お前が婚約破棄なんかするから、俺たちは大変なんだよ!」

 ……ああ、それでしたか。
 わたくしは納得をして、少年に問いかけます。
 わたくしにとってはすっかり過去のことのようになっていた婚約破棄も、まだ地方ではタイムリーな話題でしたよね。
 わたくしにとっては旨味のないギシュタール領もミームの町人たちにとっては大事な取引先なのかもしれません。

「あなたはわたくしの婚約破棄のせいで、何か迷惑を被ったのですね。
 詳しく聞かせていただけますか?」

少年はわたくしが要求を聞き入れる態度になったことに驚いていました。
 その口から発せられた現状はわたくしの予想していなかった彼の家の現状でした。





「俺たちの家族は、お前の嫁入り道具を仕立てる工房を経営している。
 お前は唯一の女の子供だからな。お前の父親はお前が生まれたときに全てを一級品で揃えろ、と俺たちに命令したさ!
 何年も何年も時間をかけて、拵えてきたんだ。それが今回の婚約破棄でみんなパアだよ!
 どうしてくれるんだ!」

 詳しく話を聞くと少年の話では彼の家は家具職人兼家具商人をしているそうです。
 おばあさまが領主を務めた時代に、彫刻を用いた家具作りの腕を評価され、領主御用達として長年経営を続けて来たお家柄だそうです。

 わたくしの婚約が決まったことで納期が近づき、やっと料金が支払われる、と思った最中、急にキャンセルの連絡が入り、そこで働くものは皆その事実に愕然としたそうです。

 少年の目には涙が溜まっていきます。悔しそうに震える拳から、やりきれない思いが伝わっていきます。

 お父様……そんなに前からわたくしの道具を仕立てていたのですか…‥。それよりも気になるところがあるのですが……。

「お父様は前金を払ったり、キャンセル手数料を払ったりはしてないのですか?」
「そんなことしてくれるわけがないだろう! だから貴族は傲慢で嫌いなんだ!」

 な、なんということでしょう……。思わずくらりとよろめいてしまいます。
 なんだか隣にいる先生もうわーと呟いて遠い目をしています。

 お父様に自分勝手なところがあって、人を振り回す気質があることは承知していましたが、自分の領民の時間を長時間拘束して最高級品の家具を作らせておいて、急にキャンセルして材料費も払わないクズだったなんて! 人間として良くないです!
 領民の生活くらいは保証してくださいよ!

 素敵なお父様がだんだん残念な人に思えてきます。ああ、わたくしの尊敬していたお父様はハリボテだったのですね……。

「全部、全部お前のせいだ!
 お前が身勝手にことを運んだせいで、俺たちは食うのも困る生活を強いられているんだ!
 どうしてくれるんだよ」

 わたくしは少年に投げつけられた言葉に目を見開いて驚きます。……まあ、いろいろ言いたいことはありますが、わたくしが大人しく嫁入りまで迎えれば、家具は納品されていたわけですし、広い目で見ればわたくしのせいかもしれません。

 さらっと短時間で婚約を破棄したつもりだったので、平民の暮らしにまで影響が及ぶなんて、夢にも思ってなかったのです。

 まあ、これは完全にお父様のせいですが、面と向かって言われなければ気がつけなかったわたくしも悪いと思います。次からはお父様の動向はきちんと把握しましょう。自分の領地でこのような不幸が何度も繰り返されたら溜まったものじゃありません。

 お父様のやっていることにもっと早く気がついていたら、こんなことにはならなかったかもしれません。
領主一族の娘として、思慮が足らない自分に呆れてしまいます。わたくしはお父様の意向で、屋敷からあまりでないように、多くを知らないでいるように教育されていましたが、それでも自分の身の振りがどこまで、影響を持つのか、知っておくべきでした。

「よしなさい、シェカ。この方は領主のご令嬢だ。今の発言で不敬を働いたと判断されて、殺されてもおかしくないんだぞ。
 ……それに上の階級の者の判断に、下のものが振り回されるのは仕方のないことだ」

 少年はわたくしに殴りかかりそうな勢いで話します。少年の前に手をかざし、先生が少年を諫めます。

「殺したきゃ、殺せばいい! 俺たちはどうせほっといても飢え死にするんだからな!」

 そんなことわたくしはさせたくありません。領民の手工芸は自領の宝です。おばあさまが育て上げた産業をわたくしの代で潰すわけにはいかないのです。

「そのようなことにならないようわたくしは手を尽くさねばなりませんね」
「この子だけを救っても意味がないことだよ?」

 先生はわたくしの暴走を察知したようで、慌てて言論を止めようとします。
 __先生に止められたってわたくしはやります。
 わたくしはオルブライトの娘ですもの!

「いいえ。わたくしはわたくしの婚約破棄で被害を被った全ての領民を救済する義務があります」
「口で言うのは簡単だけど、そんなこと一令嬢の君にできないでしょう?」

「お金がなければ、お金を生み出せばいいのです。わたくしたちで独自事業を立ち上げましょう!」

「は?」

 先生も少年も、わたくしの顔を見てぽかんとした顔をしています。

「君は善行でも行いたくなってしまったのかな?」
「いいえ善行などではないのです。
 わたくしは自由を得るためには責任はつきものだと考えています。
 おばあさまだって、領地にお金がない時代、領民の技術力を使って外貨を稼いだじゃないですか。
 わたくしも同じようにできると思うのです」
「いや、聞くところによると、君のおばあさまは大変にカリスマ性があって、領民をグイグイ引っ張っていくような気質の人だったらしいよ?
 周りをブン振り回す、と言う意味では君も似たようなところがあるけど、誰もが同じように成功できるとは思わない方がいい」
「先生? 大切なのはやるか、やらないかです。
 何かを成した人に共通しているのはまず何かを始めたこと。
 諦めなかったこと。辞めなかったことです。
 わたくしが無理かどうかも、やってみないとわたらないことなのですよ?」

 わたくしの勢いに押し切られた先生は言葉を失っていました。その隙にわたくしは少年に声をかけます。

「そうしたら……。話は早いほうがいいですね。
 あなた、お名前を教えてもらってもいいかしら?」

 グルンと首を勢いよく回して少年の方を見ると、いきなり話を振られるとは思っていなかったようで、びゃっと驚いて目を丸くしています。

「へっ⁉︎ ……お、俺の名前⁉︎ え、あ……。しぇ、シェカです」
「シェカ、ですね。いい名前です。早速ですけど、わたくし現在の状況を確認しておきたいので、あなたの自宅の工房に案内してもらってもいいかしら?」
「えっ? リジェット今日やるの?」
「こう言うものは早くやれば早くやるだけいいんですよ!」
「え、あっはい! こちらです!」

 素早い現場判断に気圧されたのか、シェカは言葉が敬語になり始めました。

 わたくしはスタスタと早歩きで工房に向かいます。歩くのが遅い先生は半歩遅れて、後ろからついて来ます。




 シェカの家族が営む工房は街の南に建っていました。黄色い土壁とオレンジのレンガで作られた
可愛らしい工房の中からは、何かを叩くような音が忙しなく聞こえてきます。

「ここが俺の家だけど……」
「まあ、素敵な工房ですね。入ってもよろしいかしら?」
「領主の娘にそれを言われて断れる平民はいませんよ」

 あまり中に入れたくはなさそうなシェカが渋々わたくしと先生を中に案内してくれました。中は作業工程別に区間が分けられているようで、工房の真ん中の道を挟んで両側に作業している職人の姿が見えました。そこにいる誰もが急にこの場を訪れた客人の私たちを見て驚いた表情を浮かべています。わたくしの服装を見て貴族だと悟ったのか、硬い表情をしているものも見えました。

 入り口の扉のすぐ横にはほぼ完成と言ってもいい出来栄えの箪笥が二つだけ並べられていました。きっとこれがわたくしの嫁入り時に納品されるはずだった箪笥でしょう。

「うーんなかなかいいですね……。花の彫刻がとっても素敵です」
「本当だ。こんな繊細な模様彫り、なかなかお目にかかれないよ?」

 そんなふうに、呑気に先生と箪笥を見ていると、お父様くらいの年代の男性が、シェカに引っ張られてこちらにやってきました。

「シェカ? どうしたんだいきなり……。ん? この方々は……?」

 わたくし達の服装から商人ではなさそうだと判断したのでしょう。シェカの父親は訝る様な視線は向けてはきませんでした。

「父さん、この人。本物のオルブライト家の領主の娘」
「は⁉︎」

 あまりにも簡潔なシェカの説明に、シェカのお父様は顔色を一気に失ってしまいました。

「父さん、この人のことボロクソ言ってたじゃん。何ビビってるの?」
「そ、そんなこと本人の前でバラすんじゃない! 不敬極まりないだろう‼︎」

 ブルブルと震え、涙目になってしまったシェカの父がなんだかかわいそうになってきました。シェカもそんなこと言わないであげたらいいのに……。

「いいのですよ。きっとわたくしに思うことはいくらでもあるでしょうから……。今日はこの工房の現状を確認しにきたので、情報は多い方がありがたいのです」

 わたくしに対して反感を持つ従業員がいる、というのも立派な情報だ、ということを伝えたかったのですが、何を勘違いしたのか、シェカの父はもっと顔色を悪くしてしまいました。……もう倒れてしまいそうな勢いです。

「ごめんなさい、リジェット様。父さんはちょっと体調が悪いみたいだから、俺がこの工房の説明と案内をします」
「あら? そう? シェカはしっかりしてますね。ではよろしくお願いします。手始めにわたくしに納品されるはずだった箪笥を詳しく見せてもらってもいいかしら?」
「あ、はい。これなんですけど……。まだ中の引き出しはいくつかはめてないんですけど、もうほとんど出来上がってますね。これが納品するはずだった箪笥です」

 そう言ったシェカが引き出しを動かしながら説明を加えてくれます。

「この箪笥を作るのに何年もかかった、って話をさっき道でしましたよね? この箪笥に使われている木材はキキグルという硬質で丈夫なものを使っています。キキグルは切る前は柔らかい材質をしているんですが、時間が経つにつれ、硬く変化していく木材なんです。一度形が整うと長持ちするので輿入れの家具としては最高の素材なんですよ」
「へえ。面白い木もあるんですね」

 わたくしは知らなかった木材を間近で見て、思わず感嘆の声をあげます。

「最高級の品を作ろうと思うと、どうしても時間をかけて木材を休ませないといけません。木材が歪まないように、重石の位置を変えながら調整をするのですが、縮み終わるまでにこれは丸十年かかりました」
「そ、そんなにかかったのですね……。ではこれを箪笥にできるようになったのはここ最近なのですね」
「はい。リジェット様が、ギジュタールに嫁ぐということだったので、ギシュタールに因んだ草花を彫り込んでいる最中でした……。こんな彫りが入っていると他に売り出すのも難しいので、どうしたもんかと頭を抱えていたのです」
「そうだったのですね……」

 思っていたよりも長い時間をかけてわたくしのために作られた箪笥。それを領主の一声でキャンセルされてしまった工房の従業員たちは、絶望したでしょうね。心を寄せると、わたくしまで辛い気持ちになってしまいます。

「これ、ちょっと触ってもいいですか?」
「どーぞ」

 どうせどこにも売ることが出来ないのだから、と投げやりな感じでシェカは答えました。

「この箪笥、結構抽斗が多いですね」
「嫁入り道具としてのオーダーだったので、アクセサリー収納が多くできるものを製作したんですよ。
 屋敷のクローゼットの中に入れても、外に出しても見栄えがするように、との注文でした」
「なるほど……。そうだったんですね」
「これ、直売所にあったら映えそうですね……」
「え? 直売所?」

 突拍子もない発言に目を白黒させる周りの人間は放置しておいてわたくしは想像を沸き立たせます。

 わたくしは頭の中で考えていた直売所計画を思い出します。
 もし、わたくしがハーブティーの直売所を展開するとしたら、什器にはこだわりたいと思っていたのです!
 抽斗がたくさんあれば、細々した茶葉も種類ごとに管理しやすいでしょうし、ぴったりじゃないですか!

「これ、おいくらですか?」
「え……。何聞いてるのリジェット?」
「え? ちょっと待って……。父さーん‼︎  これいくらだっけ?」

 大声で叫びながら、お父様に値段を聞きにいったシェカを待っていると、紙に値段を書いて持ってきました。

 そこに書かれた値段は、先ほど売った毒性の強い植物の買取価格とあまり変わっていません。貴重な植物は買取価格がとんでもなく高かったのです。
 ……これなら、わたくしの手持ちでも買えるではないですか。

「わたくしこの箪笥を買い取りたいと思います!」
「えっ⁉︎」
「ほんとうか⁉︎」

 シェカと工房の従業員たちはぱあっと明るい嬉しそうな顔を見せました。それに対してどんどん先生は表情を曇らせていきます。

「リジェット……。そんなこと言ったらもう取り消せないよ……。せっかく君は手持ちができたと喜んでいたじゃないか」

 先生は今後のために取っておいた方がいいのでは? と助言をしてくれます。ただ、わたくしは目の前でわたくしの起こしたことのとばっちりを受ける形で、苦しむ羽目になった領民がいるのに、そのお金を自分の蓄えにできるほど、図太い性格ではないのです。

「まあ、わたくしも来年には騎士学校に行かねば為しませんし、時間もないので、早く手をつけるに越したことはないでしょう? わたくし、ハーブティーを売るのに、シュナイザーに卸すだけでなく、直営店を作ったらどうだろうと思っていたところだったのです」

 挑戦的な口調で強めに言葉を放つと、先生は目を瞑ってはあ、と深いため息をつきました。それを見たシェカは本当に買い取ってくれるの? と言わんばかりの不安そうな表情を浮かべています。

「どこでやるつもり? 場所なんてないでしょう?」
「あら、オルブライト直轄地の街にはオルブライト家が経営する喫茶店があるのですよ。リベランと同じ通りにあるのですが、先生ご存知ないですか?」
「知っているけど、そこを使うとなるとセラージュの許可が必要でしょ?」
「あのカフェはお母様の派閥の強化を目的に開かれるサロンの本拠地としての利用がほとんどなので、経営権はお母様にあるのですよ。ちなみにお母様の許可はもういただいているのです」

 オルブライト家の娘として、領地内の人間とのつながりを強固にし、自分の派閥を作りなさい、と言ったのはお母様ですもの。まあお母様が言ったつながり、と言うのはきっと貴族間の連携だと思いますが、平民の協力者がいたっていいと思うのです。

「なるほど、思いつきで行ったのかと思っていたけど、あてはあるんだね」
「はい。そうなると、場所は問題ありませんが、商品がもう少し欲しいですね。クリストフに連絡して、農園を紹介してもらいましょう」

「直営店を本格的に始めるとなると、いろいろ考えることが増えていきますね……。売り方も工夫したいですし……」

 そう言って、工房を見渡すと端の方に切った木材の破片が集められている箱があることに気がつきました。その箱の中を覗くと、箪笥に使われていた木材の他にも、数多くの色とりどりの木材が入っていました。

「この木材はどうするのですか?」
「これは切れっぱしだからなあ。もう少し大きければ家具も作れるだろうが、これじゃあ無理だから薪にでもします。木材自体は高価なものも多いんですけどね」
「えええ! もったいない! こんなに色みが綺麗な板なのに! そうだ! これ、組み立ててお茶のパッケージに使えないかしら?」
「パ、パッケージ?」
「ええ。シェカ、これを等間隔に切ってこのくらいの大きさの木枠を作ってくれない?」

 わたくしは両手で四角を作ってシェカに見せ、大きさを伝えます。それを見たシェカは職人見習いらしく、あっという間に木枠を作ってくれました。

「この中にハーブティーを入れたら見た目がとっても可愛らしく、高級そうに見えない?」
「わあ! 本当だ! 端材なのに、高そうに見えますね! 色の違う端材でも、こう言う柄だと思えばなんだか可愛く見えますね」
「正直、わたくしがこれから売り出すハーブティーは単価はお茶ですから単価は低い商品です。だから贈答用として使っていただけるように、見た目にもこだわれたらな……と思っていたのです」
「うーん。それはもちろんいい考えだと思うけど、なんで君はそんな考えがすぐに浮かぶんだろうね……、君十一歳だったよね?」
「屋敷の中にずっといましたから、もしもなことを考えるのが好きだったんですよ」

 一瞬、ぎくりとしましたがうまくごまかせたようです。先生は納得したのか、ふうんと言ったっきり、追及はしてきませんでした。

「そうだ! この木枠にお店の焼印が入っていたらかわいいですよね。先生! お願いがあります。先生は字も絵も上手いですよね? こちらに商品ロゴを書いていただきたいのです!」

 ネックレスの中から魔法陣用に入れてあった紙とボールペンを取り出し、先生に手渡します。

「え、僕が書くの?」
「はい。魔法陣に書くときみたいに飾り文字できれいに書いてくださいね。お店の名前は何がいいですかね」
「僕、商品ロゴ書かされたの初めて……」
「シェカ、この工房の焼印を作った職人を紹介してくれます? このデザインで焼印を手配したいのです」
「え、あ、はい。それならこっちで頼んでおくけど……」

 シェカは突然の出来事に目をまあるくしていますが、なんとかついてきてくれているようです。

「はあ……。とんとん拍子で物事が進んでいくのってなんでこんなに嬉しいんでしょう!」

 思っていたより、わたくしのハーブティー事業は大規模になるようです。

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