イベリス

森 うろ子

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「リッカ、流石にそろそろ手伝いの者でも使えさせたらどうだ?仕事が回らないだろう。」

 王の右の側近、同僚のトウカが言ってきた。
俺は鬱陶しそうにトウカを睨みながら言った。

「何度も言っているが、いらない。仕事も十分回せている。お前のとこのアリアみたいなのならいいかもしれんがそういないだろう。」

 俺は使えないやつを傍に置くつもりはない。よく知りもしないやつをそばにおいても煩わしいだけだろう。
 それに、最近は近隣諸国との揉め事があって忙しいだけでいつもはここまで忙しくない。
いつもの小言と思い、軽く流して目の前の仕事に取り掛かるとまたトウカが口を開いた。

「ギリギリ、回せているの間違いだろう。アリアは特別だからアレだが、お前の疲労が日に日に目立ってきている。部下たちが機嫌の悪いお前にビビって俺に仕事の伝達を頼んできて面倒臭いんだ。なんとかしてくれ。」

 それは部下たちに問題があるんじゃないか?ため息混じりに言われイライラする。トウカとは幼い頃からの付き合いで俺より少しばかり勉学ができるから、昔からチクチクと嫌味なことを言われ続けてきた。正論をチクチクと言われ続けると腹が立つのも仕方ないだろう。

「上司の不機嫌くらいでビビってるほうがおかしいだろう。使えない奴を傍に置く気はない。手伝いの奴はいらない。」

 これでこの話は終わりだと冷たく言い放てばまたトウカがわざとらしくため息をついた。

まったく、イライラする奴だ。

 話をやめて執務室で黙々と仕事をしていると王のレオナもまたイライラとした様子で入ってきた。
王といってもレオナも幼い頃からの付き合いで対して敬う気持ちも尊敬の気持ちもない。が、一応、この国の王なので立ち上がり礼をする。
幼馴染3人しかいないため、トウカがレオナに普通なら不躾になるような言い方で尋ねた。

「どうした、レオナ?なにイライラしてるんだ?珍しいな。」

 レオナはあまりイライラしない、というか感情を露骨に出すようなことはしない。確かに珍しいと思いレオナに視線を向けると俺の方を睨みながら言ってきた。

「忙しい、最近気が狂いそうなぐらい忙しい。忙しくてヨネとの時間が全く取れない。ここ3日、起きてるヨネの姿を見ていない。リッカ、仕事のスピードをもっと上げろ。お前が一番遅い。お前だけだ、側近の立場で手伝いの者が誰もいないのは。いいか、すぐにだ、すぐに誰でもいいから使えさせろ。そして仕事を早く終わらせろ。」

あまりの言われようにさすがに俺も反論する。

「手伝いの者が増えたからって仕事が早く終わるとは限らないだろう!だいたい俺は自分の傍に誰かを置きたくない。仕事も遅くはないだろう!ヨネに会いたいからって公私混同するな!」

 こいつは嫁のヨネを溺愛していて、毎日愛でている。2、3日忙しくて会えないからと言ってそのストレスを俺のせいにするのはいかがなものか。トウカだって同じことを言っていたが、本心はレオナと一緒で愛でているアリアに会いたいだけだ。仕事が忙しくて家に帰れないなんて今までもよくあっただろうに。2人とも嫁ができた途端にこんな感じでイライラする。

「俺は手伝いの奴はいらねぇ。」

 王だろうと関係ない。レオナを睨みながら静かに言うとレオナが勝ち誇ったような顔で言ってきた。

「王命。仕事の効率が悪いからリッカは手伝いの者をすぐに見つけてこい。」

 こいつ!王になる時、縋り付いてこれまでと同じ関係を続けてくれって言ってきたくせに。権力を振りかざしやがって、こいつ・・・汚ねぇ・・・なんて奴だ‼︎


「…わかったよ。」


 さすがに王命とまで言われたら左の側近の俺では従うしかない。渋々承諾する俺にレオナとトウカが悪い微笑みを浮かべている。

…こいつら、仕組みやがったな。
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