【完結】皮肉な結末に〝魔女〟は嗤いて〝死神〟は嘆き、そして人は〝悪魔〟へと変わる

某棒人間

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㉔ 「もう後戻り出来ない」と彼女は泣いた

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「回夜さん……貴女の言う通りだった。
 私が、絶対だと思っていた〝絆〟は、美しいものじゃなかった。
 私は……〝人〟じゃなくて〝家畜〟側の人間だった」

 素直に、私は……凪いだ海の様に『敗北』を受け入れることが出来た。

「母は、十六年一緒に暮らして来た実の娘よりも男を選んだ。よりにもよって、娘の私に手を出すような男を選んだ。
 あんなに一緒に笑って暮らして来たのに、男の方が大事だった。〝絆〟を大事にとか言いながら、自分が一番〝絆〟を蔑ろにしてした」

 親子という〝絆〟で繋がった母と私も、

「晴子達もそうだった。今までずっと一緒だったのに……『友情は一生』だって言っていたのに、嘘だった。気分次第で大切にし、気に入らなくなったら捨てて、また気が変わったら拾ってと、ペットの犬や猫よりも軽かった」

 友情という〝絆〟で結ばれた晴子達グループも、



「結局……私は、〝絆〟で繋がれた家畜側の存在だった……!」



 ――いとも簡単に取り換えられる存在でしかなかったのだ。

「…………………そう。辛いわね」

 回夜さんは、笑わなかった。ただ淡々と目を瞑り、感情を押し殺した風な声を出してくれた。
 それが今の私には救いだった。

「でも……私は、〝絆〟が無かったなんて、思わない」
「……と、言うと?」

 目を開き、相槌を打って先を促してくれる回夜さん。それに私は――ほんの少し涙で潤みながら答える。

「母も、晴子達も、『変わってしまった』だけで〝絆〟が最初から無かったなんて思わない。ただ、〝絆〟の大事さを、尊さを、その繋がりを、忘れてしまっただけだと思う。
 そうじゃないと……」

 そうじゃないと。
 私の頬を一滴の涙が伝う。無理矢理笑顔を張り付けて、ぎこちない笑顔を回夜さんに向けて――続ける。

「そうじゃないと………………



 私はもう、生きていけない。〝絆〟を大事にしなさいと言われて十六年も育って来たのに、その〝絆〟が偽物だったなんて、最初から無かったなんて、そんな事実には耐えられない。
 今更私は、〝絆〟無しでこの世界を生きてはいけない。
 だから私は〝絆〟を信じる。〝絆〟に生きる。
 例え、母や晴子達に裏切られても、母や晴子達との〝絆〟が無かったなんて、偽物だなんて、思わない。変わってしまっただけで、〝絆〟は確かにあったと信じるわ。それがどんなに滑稽でも、愚かでも、馬鹿でも、道理に背いたことでも……私にはもう、それしか残っていないから」

 泣きながら笑う私。馬鹿げた話だ。自分でも分かる。散々母や晴子達向こう側から否定されたのに、それでも尚〝絆〟を信じようというのだから。
 きっと私は間違っている。それぐらいは分かる。だけど、仕方ない。私には、もう本当に――それしか残っていないのだから。

「………………」

 回夜さんは何も言わず、ただ黙して私を見つめていた。
 そして――ゆっくりと口を開く。
「音無さん、貴女は強いのね」
「えっ?」

 予想外の言葉に思わず聞き返す。

「今まで信じて来たモノに裏切られても、それでも貴女は尚信じようとする。
 〝絆〟を信じる貴女は、きっと強くて素敵な女性だわ」

 そう言ってスッと道化じみた動作で一礼してくれる。

「〝絆〟を否定されても尚、〝絆〟を信じる音無希津奈。私は貴女を讃えるわ。例え世界の誰も彼もが貴女の答えを否定し、間違っていると非難しても、私は貴女を支持するわ。
 どれだけ裏切られても、どれだけ否定されても、それでも尚〝絆〟を信じ続ける貴女の生き様は、きっと世界で一番美しい」

 そして顔を上げてニッコリと微笑んだ。

「どうか、貴女の道行きに祝福あれ」
「――――――っ!」

 私は――正直、愕然とした。
 きっと否定されると思った。間違っていると、愚かだと言われると思っていた。
 だけど――回夜さんは、称賛してくれるという。自分でも、決して正しい選択だと思わないこの道を歩くことを、祝福してくれるという。
 それは……〝絆〟を失った今の私にとって、何ごとにも勝る励ましだった。

「あり、がとう……回夜さん……」
 
 強張る顔が、自然と緩み……笑顔を形作る。まさか、〝絆〟を失った自分が、こんな自然な笑顔を作れるとは……正直思わなかった。

「……感謝ついでに、一つ頼みごとをしてもいいですか?」
「あら。何かしら?」

 クスッと悪戯っ子のように笑う回夜さん。私は引っ張っていた旅行鞄の他に、肩から掛けていたトートバッグから、飾りもそっけもない膨らんだ茶封筒を取り出す。
 
「…………………」

 それを、じっと眺める。どうしようか、ずっと悩んでいた。これをどうするか。
 これをどうするべきか、どうするのが正しいのか。いや、そもそも選ぶことに正解や間違いがあるのかどうか。
 だけど――此処で知り合いに会えたなら、渡してみるのもいいと、思えた。
 自分はもうどうすることも出来ない。これが後々どんな影響を与えるのか、分からない訳ではない。しかし、後々どうなろうと、もう自分は知ったこっちゃないのだ。
 自分は、もう、選んだのだから。

「…………………」

 随分と眺めていたようで――その実ほんの少ししか経っていないようにも思う。

「回夜さん、これ――」

 意を決して話そうとしたところに、





「音無⁉」






 また、知り合いの声がした。

「っ!」

 弾かれた様に声のした方を向く。そして、やはり予想通りの人物が居た。

「光輝、君……」

 呆然とした私の声が嫌に大きく響く。クラス、いや学校でも人気の男子生徒、回夜光輝君が目を見開いて立っているのが見えた。
 そして、

「お前、大丈夫か⁉」

 ぎょっと顔色を変えて走って近付いて来てくれる。
 そして――






「お前――血まみれじゃないか⁉」







「…………………」

  心配してくれる声に、思わず泣きそうになった。
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