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【Episode 07】 略取
隠れ家に着く頃には、シロはすっかり眠りこけていた。
俺は自室のベッドにシロを寝かせ、その額に浮かんでいた冷や汗を拭った。
そして、先程の出来事を思いだしていた。
シロが使っていたあの力には見覚えがある。
アレは俺の紫焔とよく似ている。
能力の差異はあれ、アレは紛れもなく炎だ。
シロが発した光は、まさしく炎だった。俺の紫焔が全てを焼き尽くす昏い炎であるのに対し、シロのそれは、機能不全に陥れるというよりも、能力の無効化をする白い炎。まるで、炎の極致が二つの異なる形を取っているかのようだ。この事実が、俺の記憶の空白に新たな疑問を投げかけた。俺はなぜ、シロの力にこれほどまでの既視感を覚えるのか。そして、この紫焔は一体何なのか。答えは、この【隔離世奈落】のどこかに隠されているのだろうか。
そんなことを思い巡らしながら、夜を明かした。
いつの間にか眠っていたのだろう。目を覚ますと眼前で俺の顔をシロが覘いていた。
「やっと、起きました」
俺は昨夜のことを思い出しながらシロの顔を抓った。
「痛いれすぅ~」
昨日のことを覚えていないのか?
そんなことを思いながらシロの顔を抓っていると、シロが涙目になりながら俺を突き飛ばして離れた。
「いきなり何するんですか? 痛いじゃないですか! 私に恨みでもあるんですか!?」
そんなシロの批判に俺は呆れながら答えた。
「目開けて目の前にいきなりアホ面が覘いていたら、誰だってそうするわボケ」
「誰がアホ面で!? ボケですって!?」
ワー、ギャー吠えるシロを傍目に俺は出かける準備をする。
朝食は適当に済ませた。パンのような硬いものを齧り、水で流し込む。シロは不満そうだったが、文句を言う前に俺は隠れ家を出た。
この【隔離世奈落】で生きる俺たちには、呑気に朝食を味わう余裕などない。昨夜の襲撃は、シロの能力の片鱗を見せることになったが、同時に【百鬼夜行】がシロを狙っていることを明確に突きつけられた。奴らが「力ずくでは難しい」と言ったとはいえ、決して諦めるはずがない。
「で? 今日は何処へ行くのですか?」
隠れ家の扉を閉め、歩き出した俺に、シロが尋ねる。その顔には、先ほどの怒りはなく、いつもの好奇心が戻っていた。
「……今日は、【多財】の他の地区を探索する。何か面白いものが見つかるかもしれないからな」
俺はそう答えた。危険は承知の上だ。だが、シロの力の詳細を知るためにも、そして何より、この「弱肉強食」の【隔離世奈落】で生き抜くために、俺は立ち止まるわけにはいかない。
俺たちは再び裏通りを歩き始めた。昨日とは違う道を選び、人通りの少ない裏路地を選んで進む。そんな折、シロがとある店の前で立ち止まった。
中を見ると、雑貨屋のようだ。
そして、シロが真剣に見ているものは赤いリボンだった。
俺はそれを無視して先に進もうとする。
「行くぞ」
シロは俺の言葉を聞くや名残惜しそうにおずおずと俺の後ろに付いてくる。
俺はそんなシロを見て溜息を吐きつつ問う。
「いくらだ?」
俺の意外な言葉にシロは困惑した声を出す。
「――……え?」
俺は自分の言動に苛々しながら問う。
「だから、アレはいくらだ?」
「5₩₩?」
早足で引き返して店に入りソレを買った俺は自分の行動に矛盾を感じ苛立った。
何やってんだ……俺は?
そして、シロの待つ場所に戻りソレを渡した。
すると、シロは困惑と歓喜の眼差しで俺とソレを交互に見て尋ねる。
「コレ……、私に?」
俺はどう返答するか一瞬考え、答える。
「なんだよ? 要らないんだったら買ってこなきゃよかった」
シロは首を横にブンブンと振り笑って言う。
「ううん、ありがとう!」
その笑顔と白い髪に映える赤いリボン、そして、自分の無駄な行動に胸がざわつくのを感じた。
そんな時だった。
「――微笑ましい光景ですね」
聞き覚えのある声が裏路地の奥から響いてきた。
俺は咄嗟にシロを背後に隠しつつ『紅月』に手を掛ける。
裏路地の影から姿を現したのは、昨夜のセンジュ・マンダラだった。その顔には、相変わらず感情の読めない微笑が浮かんでいる。その隣には、昨日よりも数が増えた蜘蛛型ドローンが、今度は完全に機能している状態で控えていた。
「昨夜の忠告を忘れたわけではないでしょうに」
センジュの声は、静かだが、その響きには明確な敵意が込められていた。その視線は、俺の背後に隠れているシロに釘付けになっている。
俺は警戒を怠らず、視線だけで周囲を探る。逃げ道は限られている。この裏路地は袋小路ではないが、先には人通りの多い大通りがあるが、そこで事を起こすのは得策じゃない。
何より人が多い方が逆に戦いにくい。
「お前らも忙しいな、こんな小娘一人に躍起になって」
俺は低い声で挑発する。
「目的のためには、手段は選びませんから。それに、上からの命令で邪魔するものは殺していいとのことなので、貴殿のような邪魔者は排除させていただきます」
そう言うと、センジュは指を小さく鳴らした。
すると、蜘蛛型ドローンが動き出し、壁や地面を滑るように這い。一丸となってこちらに向かってくる。
ドローンが迫る。その機敏な動きは、狭い裏路地では厄介だ。俺はシロを背中に庇い、即座に『紅月』を抜き放った。
最初のドローンが飛びかかってきた。俺はそれを紙一重でかわし、『紅月』を一閃。ドローンの胴体が真っ二つに切り裂かれ、内部の配線がスパークしながら地面に落ちた。
続けて、ドローンが二体左右から挟み込む形で襲い掛かってくる。俺は咄嗟にシロを抱えて後ろに跳躍した。
俺らを追うようにドローンが津波のように押し寄せる。
「避けてばかりでは、疲れるでしょうに」
センジュの声が、どこか楽しげに響いた。彼女は微動だにせず、ただ腕組みをして、俺たちの動きを観察している。その瞳の奥には、俺の全ての動きを読んでいるかのような冷徹さがあった。
俺はドローンの波をいなし、『紅月』で斬りつける。一体、また一体とドローンを破壊していくが、その数は減るどころか、どこからともなく補充されているかのように感じられた。
シロを抱えながらの戦闘は、想像以上に体力を消耗する。一歩間違えれば、昨夜のように組み付かれて動きを止められてしまう。それは俺にとって、何よりも避けるべき事態だった。
「ごめんなさい……私がいるから……」
シロの声が、俺の耳元で震える。コイツは、自分が足手まといになっていることを痛感しているのだろう。
「バーカ、気にすんな! テメェはテメェの心配だけしてろ」
俺は必死に言葉を絞り出す。だが、内心では焦りが募っていた。このままではジリ貧だ。
俺は奥歯を噛みしめる。この窮地を脱するためには、何か策を講じなければならない。この状況を打開するには……。
脳裏に、この【隔離世奈落】で生き抜くために培ってきた、あらゆる知識と経験が駆け巡る。そして、一つの可能性にたどり着いた。
「しっかり、掴まってろよ!」
俺は叫ぶと、裏路地の壁へと駆け上がった。ビルの壁の凹凸に足場を見つけ、まるで蜘蛛のように垂直に一気に屋上まで駆け上がっていく。シロは驚きに声を上げた。
「無駄な足搔きを……」
センジュの声が下から聞こえる。ドローンがすぐさま俺たちを追って壁を登ってくる。そして、センジュもドローンに乗って屋上へと登ってきた。
「さて、そろそろ鬼ごっこもこの辺に致しましょうか? 死神……」
「応、俺も逃げるのは厭きてきたところだ」
俺は抱きかかえていたシロを降ろし、『紅月』を構える。
「お前は離れてろ……」
そうシロに告げると、シロは心配そうな顔をしながらも俺の戦いの邪魔にならないように後ろに下がる。
俺が本気になったのを察した、センジュもまた臨戦態勢へと移った。
「怖い、恐い、そんなに殺気を出されると、私も本気にならざる負えませんね」
そう言うとセンジュは僧衣を脱ぎ、指を軽く鳴らす。すると、蜘蛛型ドローンたちがセンジュの背部コネクターに繋がる。
まさに名前の通り千手というのがしっくりくる姿となった。
「さぁ……、本気で遊びましょう?」
その言葉を皮切りに俺とセンジュは互いに間合いを詰めた。
そして、互いに選んだのは超接近戦。俺の『紅月』とセンジュが隠し持っていた無数の『金剛杵』が激しく激突しあう。
そこからは互いの剣筋の読みあい。一刀対千腕という構図。それは、誰がどう見ても一刀のほうが圧倒的に不利だろうと思うのが世の常だろう。
だが、多勢に無勢はこの街の常。俺自身も何度か経験がある。
ゆえに、一対多数という戦闘には慣れてはいる。しかし、一対一でありながら多数という戦闘は俺の記憶の知る限りではない。
そのため、この戦いは一瞬たりとも気が抜けない。そして、一時でも防戦に回れば攻めに転じるのは困難だろうと俺の経験則からくる直感が告げていた。
だから、俺は防御を捨てて攻めにのみ集中した。
†††
――ネロの考えは概ね正しいと言えるだろう。
だが、それは、あくまでネロの想定した勝利条件が遠のくのみであって、ネロの勝利条件と敵の最終勝利条件が必ずしも一緒ではない。
よって、ネロはこの時点で見落とし負けている。
†††
――俺が防御を捨てて攻めにのみ集中したその時だった。
「キャァアアアア!?」
シロの悲鳴が屋上に響き渡る。
悲鳴の方向を見ると、シロがセンジュの蜘蛛型ドローンに拘束されていた。
シロの方に気を取られていると、センジュの金剛杵の剣先が伸び俺を串刺しにした。
「――ッ!?」
そして、さらに雷にも似た電流が流れ込み、全身を駆け巡り、俺を焼き尽くした。
そのあまりの衝撃に俺の意識は明滅し、視界が暗転を繰り返した。
「ネロ――ッ!!」
俺は気力を振り絞ってシロの方へ手を伸ばすも、センジュの金剛杵の剣先が伸び止められた。
センジュが拘束されているシロの方へ歩いていき、金剛杵をシロの腹部に押し当て電流を流す。
「キャァアアアア……ッ!」
苦痛の悲鳴はシロが意識を失うと同時に途切れた。
そして、センジュはシロを抱えながらこちらに振り向き言葉を述べる。
「もし、貴殿がこの御方を助けるために追ってくるのならば、その時は、全力で殺して差し上げます」
そう言うと、センジュは気絶したシロを抱えて去っていた。
「――ま……て……ッ!」
明滅する意識の中俺は、センジュの去っていく背中を見ることしかできなかった。
俺は自室のベッドにシロを寝かせ、その額に浮かんでいた冷や汗を拭った。
そして、先程の出来事を思いだしていた。
シロが使っていたあの力には見覚えがある。
アレは俺の紫焔とよく似ている。
能力の差異はあれ、アレは紛れもなく炎だ。
シロが発した光は、まさしく炎だった。俺の紫焔が全てを焼き尽くす昏い炎であるのに対し、シロのそれは、機能不全に陥れるというよりも、能力の無効化をする白い炎。まるで、炎の極致が二つの異なる形を取っているかのようだ。この事実が、俺の記憶の空白に新たな疑問を投げかけた。俺はなぜ、シロの力にこれほどまでの既視感を覚えるのか。そして、この紫焔は一体何なのか。答えは、この【隔離世奈落】のどこかに隠されているのだろうか。
そんなことを思い巡らしながら、夜を明かした。
いつの間にか眠っていたのだろう。目を覚ますと眼前で俺の顔をシロが覘いていた。
「やっと、起きました」
俺は昨夜のことを思い出しながらシロの顔を抓った。
「痛いれすぅ~」
昨日のことを覚えていないのか?
そんなことを思いながらシロの顔を抓っていると、シロが涙目になりながら俺を突き飛ばして離れた。
「いきなり何するんですか? 痛いじゃないですか! 私に恨みでもあるんですか!?」
そんなシロの批判に俺は呆れながら答えた。
「目開けて目の前にいきなりアホ面が覘いていたら、誰だってそうするわボケ」
「誰がアホ面で!? ボケですって!?」
ワー、ギャー吠えるシロを傍目に俺は出かける準備をする。
朝食は適当に済ませた。パンのような硬いものを齧り、水で流し込む。シロは不満そうだったが、文句を言う前に俺は隠れ家を出た。
この【隔離世奈落】で生きる俺たちには、呑気に朝食を味わう余裕などない。昨夜の襲撃は、シロの能力の片鱗を見せることになったが、同時に【百鬼夜行】がシロを狙っていることを明確に突きつけられた。奴らが「力ずくでは難しい」と言ったとはいえ、決して諦めるはずがない。
「で? 今日は何処へ行くのですか?」
隠れ家の扉を閉め、歩き出した俺に、シロが尋ねる。その顔には、先ほどの怒りはなく、いつもの好奇心が戻っていた。
「……今日は、【多財】の他の地区を探索する。何か面白いものが見つかるかもしれないからな」
俺はそう答えた。危険は承知の上だ。だが、シロの力の詳細を知るためにも、そして何より、この「弱肉強食」の【隔離世奈落】で生き抜くために、俺は立ち止まるわけにはいかない。
俺たちは再び裏通りを歩き始めた。昨日とは違う道を選び、人通りの少ない裏路地を選んで進む。そんな折、シロがとある店の前で立ち止まった。
中を見ると、雑貨屋のようだ。
そして、シロが真剣に見ているものは赤いリボンだった。
俺はそれを無視して先に進もうとする。
「行くぞ」
シロは俺の言葉を聞くや名残惜しそうにおずおずと俺の後ろに付いてくる。
俺はそんなシロを見て溜息を吐きつつ問う。
「いくらだ?」
俺の意外な言葉にシロは困惑した声を出す。
「――……え?」
俺は自分の言動に苛々しながら問う。
「だから、アレはいくらだ?」
「5₩₩?」
早足で引き返して店に入りソレを買った俺は自分の行動に矛盾を感じ苛立った。
何やってんだ……俺は?
そして、シロの待つ場所に戻りソレを渡した。
すると、シロは困惑と歓喜の眼差しで俺とソレを交互に見て尋ねる。
「コレ……、私に?」
俺はどう返答するか一瞬考え、答える。
「なんだよ? 要らないんだったら買ってこなきゃよかった」
シロは首を横にブンブンと振り笑って言う。
「ううん、ありがとう!」
その笑顔と白い髪に映える赤いリボン、そして、自分の無駄な行動に胸がざわつくのを感じた。
そんな時だった。
「――微笑ましい光景ですね」
聞き覚えのある声が裏路地の奥から響いてきた。
俺は咄嗟にシロを背後に隠しつつ『紅月』に手を掛ける。
裏路地の影から姿を現したのは、昨夜のセンジュ・マンダラだった。その顔には、相変わらず感情の読めない微笑が浮かんでいる。その隣には、昨日よりも数が増えた蜘蛛型ドローンが、今度は完全に機能している状態で控えていた。
「昨夜の忠告を忘れたわけではないでしょうに」
センジュの声は、静かだが、その響きには明確な敵意が込められていた。その視線は、俺の背後に隠れているシロに釘付けになっている。
俺は警戒を怠らず、視線だけで周囲を探る。逃げ道は限られている。この裏路地は袋小路ではないが、先には人通りの多い大通りがあるが、そこで事を起こすのは得策じゃない。
何より人が多い方が逆に戦いにくい。
「お前らも忙しいな、こんな小娘一人に躍起になって」
俺は低い声で挑発する。
「目的のためには、手段は選びませんから。それに、上からの命令で邪魔するものは殺していいとのことなので、貴殿のような邪魔者は排除させていただきます」
そう言うと、センジュは指を小さく鳴らした。
すると、蜘蛛型ドローンが動き出し、壁や地面を滑るように這い。一丸となってこちらに向かってくる。
ドローンが迫る。その機敏な動きは、狭い裏路地では厄介だ。俺はシロを背中に庇い、即座に『紅月』を抜き放った。
最初のドローンが飛びかかってきた。俺はそれを紙一重でかわし、『紅月』を一閃。ドローンの胴体が真っ二つに切り裂かれ、内部の配線がスパークしながら地面に落ちた。
続けて、ドローンが二体左右から挟み込む形で襲い掛かってくる。俺は咄嗟にシロを抱えて後ろに跳躍した。
俺らを追うようにドローンが津波のように押し寄せる。
「避けてばかりでは、疲れるでしょうに」
センジュの声が、どこか楽しげに響いた。彼女は微動だにせず、ただ腕組みをして、俺たちの動きを観察している。その瞳の奥には、俺の全ての動きを読んでいるかのような冷徹さがあった。
俺はドローンの波をいなし、『紅月』で斬りつける。一体、また一体とドローンを破壊していくが、その数は減るどころか、どこからともなく補充されているかのように感じられた。
シロを抱えながらの戦闘は、想像以上に体力を消耗する。一歩間違えれば、昨夜のように組み付かれて動きを止められてしまう。それは俺にとって、何よりも避けるべき事態だった。
「ごめんなさい……私がいるから……」
シロの声が、俺の耳元で震える。コイツは、自分が足手まといになっていることを痛感しているのだろう。
「バーカ、気にすんな! テメェはテメェの心配だけしてろ」
俺は必死に言葉を絞り出す。だが、内心では焦りが募っていた。このままではジリ貧だ。
俺は奥歯を噛みしめる。この窮地を脱するためには、何か策を講じなければならない。この状況を打開するには……。
脳裏に、この【隔離世奈落】で生き抜くために培ってきた、あらゆる知識と経験が駆け巡る。そして、一つの可能性にたどり着いた。
「しっかり、掴まってろよ!」
俺は叫ぶと、裏路地の壁へと駆け上がった。ビルの壁の凹凸に足場を見つけ、まるで蜘蛛のように垂直に一気に屋上まで駆け上がっていく。シロは驚きに声を上げた。
「無駄な足搔きを……」
センジュの声が下から聞こえる。ドローンがすぐさま俺たちを追って壁を登ってくる。そして、センジュもドローンに乗って屋上へと登ってきた。
「さて、そろそろ鬼ごっこもこの辺に致しましょうか? 死神……」
「応、俺も逃げるのは厭きてきたところだ」
俺は抱きかかえていたシロを降ろし、『紅月』を構える。
「お前は離れてろ……」
そうシロに告げると、シロは心配そうな顔をしながらも俺の戦いの邪魔にならないように後ろに下がる。
俺が本気になったのを察した、センジュもまた臨戦態勢へと移った。
「怖い、恐い、そんなに殺気を出されると、私も本気にならざる負えませんね」
そう言うとセンジュは僧衣を脱ぎ、指を軽く鳴らす。すると、蜘蛛型ドローンたちがセンジュの背部コネクターに繋がる。
まさに名前の通り千手というのがしっくりくる姿となった。
「さぁ……、本気で遊びましょう?」
その言葉を皮切りに俺とセンジュは互いに間合いを詰めた。
そして、互いに選んだのは超接近戦。俺の『紅月』とセンジュが隠し持っていた無数の『金剛杵』が激しく激突しあう。
そこからは互いの剣筋の読みあい。一刀対千腕という構図。それは、誰がどう見ても一刀のほうが圧倒的に不利だろうと思うのが世の常だろう。
だが、多勢に無勢はこの街の常。俺自身も何度か経験がある。
ゆえに、一対多数という戦闘には慣れてはいる。しかし、一対一でありながら多数という戦闘は俺の記憶の知る限りではない。
そのため、この戦いは一瞬たりとも気が抜けない。そして、一時でも防戦に回れば攻めに転じるのは困難だろうと俺の経験則からくる直感が告げていた。
だから、俺は防御を捨てて攻めにのみ集中した。
†††
――ネロの考えは概ね正しいと言えるだろう。
だが、それは、あくまでネロの想定した勝利条件が遠のくのみであって、ネロの勝利条件と敵の最終勝利条件が必ずしも一緒ではない。
よって、ネロはこの時点で見落とし負けている。
†††
――俺が防御を捨てて攻めにのみ集中したその時だった。
「キャァアアアア!?」
シロの悲鳴が屋上に響き渡る。
悲鳴の方向を見ると、シロがセンジュの蜘蛛型ドローンに拘束されていた。
シロの方に気を取られていると、センジュの金剛杵の剣先が伸び俺を串刺しにした。
「――ッ!?」
そして、さらに雷にも似た電流が流れ込み、全身を駆け巡り、俺を焼き尽くした。
そのあまりの衝撃に俺の意識は明滅し、視界が暗転を繰り返した。
「ネロ――ッ!!」
俺は気力を振り絞ってシロの方へ手を伸ばすも、センジュの金剛杵の剣先が伸び止められた。
センジュが拘束されているシロの方へ歩いていき、金剛杵をシロの腹部に押し当て電流を流す。
「キャァアアアア……ッ!」
苦痛の悲鳴はシロが意識を失うと同時に途切れた。
そして、センジュはシロを抱えながらこちらに振り向き言葉を述べる。
「もし、貴殿がこの御方を助けるために追ってくるのならば、その時は、全力で殺して差し上げます」
そう言うと、センジュは気絶したシロを抱えて去っていた。
「――ま……て……ッ!」
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