義兄が部屋から出てこない

夏野目

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11 花柄上呂とお裾分け

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「こんにちは、お出かけ?」

 外に出ると、お向かいに住んでいる秀さんが挨拶をしてくれた。表の花壇に水をやっていたようだ。
 
 もう60は超えていると聞いたが、いつも背筋がシャキッとしていて、体格も良く、筋肉も全く衰えていないように見える。ロマンスグレーの髪を後ろに軽く撫で付けている姿は若者には出せない色気があり、ああ、こんな風に歳を取りたいな、と思う。
 ピンク色の花柄ジョウロを使っているのさえ、何だかお茶目で素敵だ。

「こんにちは、秀さん。ちょっと友達に会いに行ってきます。
 あ、昨日はお野菜ありがとうございました!採れたてはやっぱり美味しかったです」
「ああ、喜んでくれて嬉しいよ」
「お花も綺麗に咲いてますね」
「冬の間だけ咲く種類なんだ。知ってるかな?」

 花壇には淡いピンク色の大輪の花が沢山ほころんでいる。水滴でキラキラ光っていて、花に疎い俺でも思わず目を奪われる。

「これ……もしかして、アイリーンさんの好きなお花ですか?
 前に教えてもらいました。冬の花なのに、春の名前が付いてるのが素敵なのって。名前はなんでしたっけ?」

 アイリーンさんは、秀さんの奥さんだ。
 彼と同じくらいの年齢よ、と言っていたが、夫婦揃って10も20も若く見える。

「覚えていてくれるなんて、私も嬉しいよ。名前は春水花だよ。春を知らせる花、とも呼ばれているらしい」
「名前も可愛いですね。実物を見るのは初めてです」
「ああ、咲かせるのがかなり難しくて。今年は結構頑張って、植物系の魔法陣を持つ専門家にアドバイスを聞いてみたりね」
「じゃあ、アイリーンさんも大喜びですね」
「勿論。彼女のためだからね」

 そういってウインクしてくる秀さんは、やはり60代には全く見えない。女性陣が見ていたら黄色い悲鳴が上がっていたに違いない。

「そうだ、来週末色々事情があってマフィンを大量に作る予定なんです。甘いもの、お好きでしたっけ?」
「甘いものはアイリーンが専門だな。良かったら彼女に1つ、貰ってもいいかな?」
「勿論です!」

 アイリーンさんは甘いものが好き、覚えておこう。

「大量にってことは、どこかに持って行くの?」
「あ、そうなんです。ちょっと騎士団の皆さんにご迷惑をかけてしまってお詫びに」
「はは、こんな美人に迷惑をかけられるなんてむさ苦しい騎士団の奴らにはご褒美なんじゃないかな?おっと、これはお兄さんにも失礼かな」
「あはは、秀さんは元団員なのに全くそんな感じしないですけどね」

 秀さんは退役した元騎士団の団員だ。
 確か、前王の時代に第1騎士団にいたと言っていた。
 たまにライちゃんとすれ違うと、騎士団の近況を話していたりする。そんな時は、なんとなく部外者は聞かない方がいいのではないかと思って、聞き耳を立てないように気をつけている。
 
「そうだ、お友達は花なんて興味ないかもしれないが、珍しいものだから是非お裾分けしてあげてくれ」

 そう言って、2本、春水花を摘んで渡してくれる。

「沢山咲いたからね。菫くんの分と、お友達に。喜びは分かち合った方がいい」
「良いんですか?綺麗なものが好きな奴なので、きっと喜びます。ありがとうございます!」
「普通の花と違って、大気中の魔力を含んでいる花なんだ。摘んでしまっても春がくるまでは一冬中枯れないから安心して」
「だから、春を知らせる花……」
「うん、花びらが落ちた日が、春の1日目だとも言われているらしいよ。
 ……引き留めて悪かったね、友達と楽しんで」
「久しぶりにお話できて良かったです。良かったら今度、またお2人で遊びにきてください」 
「君のお目付役が許してくれたらね」
「お目付……?」

 ライちゃんの事だろうか。

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