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15 主神と契約神
しおりを挟む歩いて15分ほどで、碧の家に到着した。小さいが綺麗なアパートだ。赤い煉瓦造りで、蔦が這っていて雰囲気がある。
碧の部屋は1番上のフロア全部らしく、外観から想像されるものよりかなり広そうだ。
螺旋状の階段を登って、4階。
「1人暮らしの男の家だからさ、あんま期待しないでね」
「おじゃまします……って滅茶苦茶きれいじゃないか」
「そお~?」
部屋の中は物が少ない。その代わりに、綺麗な物が好きと普段から言っているだけあって、花や観葉植物が所狭しと飾られている。
小さいバルコニーもあるようだ。玄関口から見える範囲でも、手入れの行き届いた緑で覆われているのが分かった。
「わっ」
リビングに通された直後、不意に黒い塊が飛びついてきた。思わず押し倒される形になり、後ろにあったソファに倒れ込む。不幸中の幸いだ。
「アテ!やめろ!」
碧が珍しく鋭い声を飛ばした。
「犬……?」
自分にのし掛かる生き物を見ると、真っ黒でかなり大型の犬、のようだった。
モップのように長い毛から覗く目が赤く光っている。
……目が赤い?
そういえば、犬特有の興奮したような荒い息は聞こえず、不気味なほどの静寂だ。
「もしかして、契約神か?」
「そーそー、よく分かったね。犬みたいな見た目だけど。
俺の魔法陣、コイツとの契約なんだよねえ」
「契約神との契約そのものが魔法陣なのか!?それってかなり珍しいよな」
「うん、全く居ないってわけじゃないけど、まあまあ珍しいよね」
「いや、これ1つで何本も論文書けるくらいのものだろ……俺に話して良かったのか?」
「うん、すみすみならいい」
アテ、と呼ばれた契約神は俺に乗ったまま、仄暗い赤い目でじっと見つめてくる。
不思議な感覚だ。
その時、ほんの一瞬だけだが頭の中を覗かれているような奇妙なざわめきを感じた。
「っ……?」
人間への攻撃性が高い契約神もいると聞いたが、今のところ何かをしてくる気配はない。
一連の流れに動揺を隠せないのと同時に、碧がこれまで自分の魔法陣について沈黙を貫いていたのはこういうことだったのかと腑に落ちた。
体内の魔法陣については、強い力を持つ者ほど隠したがる傾向にある。
例えばお向かいの秀さんの話に出てきた、植物の成長を助ける力を持つような魔法陣は然程珍しくない為、公表し生業に使う者も多い。
原因は、この世界の神話に遡る。
ーーー昔、神々は人間に神力を与えた。
その力は千種万様だったが、どれも人間の繁栄を手助けするようなものだった。
そのうちに、平和に暮らす人間の様子を眺めているだけではつまらなくなり、どの神が1番強い人間を作れるか競うようになった。
下級の神との契約が出来るようになる神力。動物そのものの特性を持つようになる、人間の遺伝子そのものを変えてしまうような神力。同胞である人間を傷つけ、命を奪うことに特化した神力。
次第に人間に強い自我が芽生え、自分に力を与えた神が1番強いのだと、力を誇示し始めた。
退屈だった神界に、娯楽ができた。
神々は過激で人間には過ぎる力を与え続けた。
人間を最初に創り出したといわれる主神は、その様子を静かに何百年と見守っていたが、その間ずっと悲しみの淵にいた。
人間が大きな戦争を始めその数を半数に減らした時、遂に自らが選んだ人間"愛し子"に自らの神力を分け与え、人間が滅びないように手助けした……
人間は平和を取り戻し、その後何千年も人口を一定数に保ち続けているが、一度覚えた勝利の味を忘れる事はできず、今でも同胞殺しをやめない。国と国は小競り合いを続け、諍いの末に殺人を犯す者も絶えない。
主神が人間を見放すのか、もう一度救いの手を伸ばしてくださるのか、それは誰にも分からない……
と、ざっくりこんな感じのものが世界で1番ポピュラーな神話だ。
神力というのは現代では魔法陣と呼ばれている。神話を信じるかどうかは人それぞれであることや、研究によってある程度解読することが出来るようになったことから、その名前を変えた。
この国の主な宗教は主神教だが、研究が進むにつれ魔法陣は昔のようないきすぎた神聖視をされなくなりつつある。
それが原因で、俺たちの仕事は神殿や主神を信仰する人々からはかなり疎まれている。
あまりに強力な魔法陣を持つ者は、主神が望まなかった残虐な力を持つ者として差別されることもある。逆に、主神以外の神を信仰する国では神の使いだと異常なまでに崇められたり。
兎に角面倒が尽きないので、隠す者が多い。
ライちゃんも珍しい魔法陣を持っているので小さい頃は頑なに隠していたそうだが、今ではその力で人を救えるならと公にしている。
彼の同僚たちに、その力を妬むものや差別するものはもちろん居ない。
ローレンス様は魔法陣の違いによって起こる生きにくさを、政治の力で無くしてみせる公言している。
俺たちの研究所も彼に代替わりしてから国営になった。国が管理することで、間違った方向に研究を進める者を出さないことが目的らしい。
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