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第12話 『失踪した先生を捜せ - 研究会メンバーの決死の調査』
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正元二年八月二十五日 弥馬壱国の宮処
考古学者、中村修一が古代の弥馬壱国に来て80日が過ぎていた。
生きる! と決心した修一ではあったが、いつ21世紀の日本に戻れるのか? どうやったら戻れるのか? なぜ飛ばされたのか? その考えが消えたことはない。
転生やタイムスリップ系のラノベ・漫画は散々読んできたが、そのどれもが主人公は転生先やタイムスリップ先で大活躍するのだ。修一は自分もそうなのか? と思いつつ、やはり望郷の念が消えることはない。
壱与とのつながりがなく、ただこの古代に放り投げられただけなら、余計な事は考えなかっただろう。しかし、不安があるとはいえ、権力者である壱与の庇護がある。
つまりは壱与に嫌われない限り、またはよほどの罪を犯さない限りは、放逐されたり断罪されて命の危険にさらされることはない。それどころか、ここにはインディ・ジョーンズも顔負けの冒険があるのだ。
遺跡の発掘ではなく、今ここで、生きているのだから。
「シュウよ、何をしておるのだ?」
「うわあ! びっくりしたあ!」
考え事をしながら宮処で一番高い櫓で周囲を眺めていると、いきなり壱与が後ろから声をかけて驚かしてきた。まったく、古代人の女の子も現代人と同じ事をするのかと、驚きと興味で修一は戸惑ってしまった。
手すりに掴まって後ろを振り向くと、壱与とイツヒメがニコニコしながら立っている。
壱与は金色の冠をかぶり、白地に赤い縁取りと円形模様の着物、幾何学模様の布を斜めに巻いている。腰には赤と金色の帯を巻き、黄色がかったベージュの袴を履いており、前面には緑と白の縞模様がある。
イツヒメも壱与ほどではないが、なにかの儀式か? という格好だ。
「何か考え事をしていたのか?」
両手を体の前で組むと、壱与が笑顔で尋ねた。
「うん、まあ、ちょっとね……それにしても、いかにも巫女って感じだね」
「……巫女だからな」
壱与は何を当たり前の事を、と言わんばかりの顔をしている。が、しかしすぐにいつもの壱与の笑顔に戻った。ツンデレなのかツンツンなのかは分からないが、修一の前では笑顔で時々ツンである。
「あはははは。だね。うーん、こっからの景色が素晴らしいから、つい見入ってしまったよ」
「そうか。宮処の景色は私も大好きだ」
壱与は頷いた。
「ここは車や雑踏、いろんな音もなくてメチャクチャ静かだ。人間の営みがすぐそこに息吹いている。それを肌で感じるんだ。ああ、本当に俺は古代に、255年に来たんだなって実感がわくよ」
「確かに。吾もシュウの時代に飛ばされていた時は、見るもの聞くもの全てが驚きであったが、あのうるさいのには驚いたぞ」
多分、最初に聞いたエンジンの音だろう。確かに、古代人が聞いたら化け物の咆哮に聞こえても仕方がない。
「少しは慣れたか?」
「うん、少しずつだけどね。でも、やっぱり21世紀のことが頭から離れないよ。どうやって戻れるのか、いつ戻れるのか……」
修一は頭の後ろで手を組みながら呟くように言った。
「其れは実に自然な事に御座います。生まれ育った土地を離れて過ごすのです。故郷に思いを寄せるのは悪しき事ではございませぬ」
イツヒメの慰めが本当に『慰めにしかならない』という日本語を表している。もしかするとその語源がこれなのか? と思う修一であった。
「ありがとう、イツヒメ」
修一は感謝の気持ちを込めて微笑んだが、それ以上の言葉は続かなかった。元に戻る方法がわからない今、そうやってこの時代を生きていくしかないのだ。
「ところで、此度は特別な事を知らせにまいった。ミユマ将軍が新しい発見をしたようなのだ。早速見に行かぬか?」
壱与がニコニコしながら言った。
「新しい発見?」
修一は興味津々で聞き返す。
「それは面白そうだ。ぜひ見に行きたい」
「じゃあ、行こう」
■2024/6/13/21:00 福岡市内の居酒屋
「中村先生が行方不明になってからもう5日も経ったんだよね……」
木花咲耶は憂鬱そうに呟いた。
居酒屋の賑やかな雰囲気の中で、彼女の声は沈んでいる。彼女を含めた6人が修一の古代史研究会の学生メンバーで、失われた4世紀と弥馬壱国の研究をしていたのだ。
「そうだね……。連絡もつかないし、部屋はそのまま。誘拐か何か事件に巻き込まれた線で警察も調査してるけど、手がかりが全然ないって。でも……先生、週末に長崎の遺跡、えーっと何て言ったっけ? そこに調査に行くっていってなかった?」
「そう言えば言ってた。遺跡で消えるなんてなんの事件かわからないけど……そう! 確か、宮田遺跡とか言ってたな。みんな、先生の事件と関係あるかわからないけど、長崎、遺跡に行ってみないか? ここ、ここだよ確か」
豊玉美保が続くと、宿名比古那がテーブルに地図を広げ、指を指した。
「でも、危険じゃねえか? それに先生の行方不明と遺跡なんて、多分なんの関係もないと思うぞ」
天日槍太が不安げに言うと、咲耶が強い口調で答える。
「そんなの行ってみなきゃわかんないじゃない! 警察は警察! だから私たちが行くんだよ。先生のことを知ってるのは私たちだけだし、誰かがやらなきゃならない」
どういう論理でそうなるのか、槍太は理解できないが、ここで口論しても面倒臭いだけなのでスルーした。
「行こう。先生を見つけ出そう。俺達ならできる」
仁々木尊が決意を固めるように言った。
「私も賛成だわ。先生のためにも、しっかり準備しようよ」
「そうだね。私たちの手で先生を見つけ出そう」
栲幡千尋が手を挙げて美保がうなずいてまとめるが、天日槍太は流される形で同意する。
六人は互いに目を合わせ、無言でうなずき合った。
彼らの決意は固まった。宮田遺跡を調査して、修一失踪の謎を解くのだ。それがもし、万が一不幸な結果になったとしても、この調査が修一の行方不明事件を解決すると信じて。
次回 第13話 (仮)『2024年の宮田遺跡』
考古学者、中村修一が古代の弥馬壱国に来て80日が過ぎていた。
生きる! と決心した修一ではあったが、いつ21世紀の日本に戻れるのか? どうやったら戻れるのか? なぜ飛ばされたのか? その考えが消えたことはない。
転生やタイムスリップ系のラノベ・漫画は散々読んできたが、そのどれもが主人公は転生先やタイムスリップ先で大活躍するのだ。修一は自分もそうなのか? と思いつつ、やはり望郷の念が消えることはない。
壱与とのつながりがなく、ただこの古代に放り投げられただけなら、余計な事は考えなかっただろう。しかし、不安があるとはいえ、権力者である壱与の庇護がある。
つまりは壱与に嫌われない限り、またはよほどの罪を犯さない限りは、放逐されたり断罪されて命の危険にさらされることはない。それどころか、ここにはインディ・ジョーンズも顔負けの冒険があるのだ。
遺跡の発掘ではなく、今ここで、生きているのだから。
「シュウよ、何をしておるのだ?」
「うわあ! びっくりしたあ!」
考え事をしながら宮処で一番高い櫓で周囲を眺めていると、いきなり壱与が後ろから声をかけて驚かしてきた。まったく、古代人の女の子も現代人と同じ事をするのかと、驚きと興味で修一は戸惑ってしまった。
手すりに掴まって後ろを振り向くと、壱与とイツヒメがニコニコしながら立っている。
壱与は金色の冠をかぶり、白地に赤い縁取りと円形模様の着物、幾何学模様の布を斜めに巻いている。腰には赤と金色の帯を巻き、黄色がかったベージュの袴を履いており、前面には緑と白の縞模様がある。
イツヒメも壱与ほどではないが、なにかの儀式か? という格好だ。
「何か考え事をしていたのか?」
両手を体の前で組むと、壱与が笑顔で尋ねた。
「うん、まあ、ちょっとね……それにしても、いかにも巫女って感じだね」
「……巫女だからな」
壱与は何を当たり前の事を、と言わんばかりの顔をしている。が、しかしすぐにいつもの壱与の笑顔に戻った。ツンデレなのかツンツンなのかは分からないが、修一の前では笑顔で時々ツンである。
「あはははは。だね。うーん、こっからの景色が素晴らしいから、つい見入ってしまったよ」
「そうか。宮処の景色は私も大好きだ」
壱与は頷いた。
「ここは車や雑踏、いろんな音もなくてメチャクチャ静かだ。人間の営みがすぐそこに息吹いている。それを肌で感じるんだ。ああ、本当に俺は古代に、255年に来たんだなって実感がわくよ」
「確かに。吾もシュウの時代に飛ばされていた時は、見るもの聞くもの全てが驚きであったが、あのうるさいのには驚いたぞ」
多分、最初に聞いたエンジンの音だろう。確かに、古代人が聞いたら化け物の咆哮に聞こえても仕方がない。
「少しは慣れたか?」
「うん、少しずつだけどね。でも、やっぱり21世紀のことが頭から離れないよ。どうやって戻れるのか、いつ戻れるのか……」
修一は頭の後ろで手を組みながら呟くように言った。
「其れは実に自然な事に御座います。生まれ育った土地を離れて過ごすのです。故郷に思いを寄せるのは悪しき事ではございませぬ」
イツヒメの慰めが本当に『慰めにしかならない』という日本語を表している。もしかするとその語源がこれなのか? と思う修一であった。
「ありがとう、イツヒメ」
修一は感謝の気持ちを込めて微笑んだが、それ以上の言葉は続かなかった。元に戻る方法がわからない今、そうやってこの時代を生きていくしかないのだ。
「ところで、此度は特別な事を知らせにまいった。ミユマ将軍が新しい発見をしたようなのだ。早速見に行かぬか?」
壱与がニコニコしながら言った。
「新しい発見?」
修一は興味津々で聞き返す。
「それは面白そうだ。ぜひ見に行きたい」
「じゃあ、行こう」
■2024/6/13/21:00 福岡市内の居酒屋
「中村先生が行方不明になってからもう5日も経ったんだよね……」
木花咲耶は憂鬱そうに呟いた。
居酒屋の賑やかな雰囲気の中で、彼女の声は沈んでいる。彼女を含めた6人が修一の古代史研究会の学生メンバーで、失われた4世紀と弥馬壱国の研究をしていたのだ。
「そうだね……。連絡もつかないし、部屋はそのまま。誘拐か何か事件に巻き込まれた線で警察も調査してるけど、手がかりが全然ないって。でも……先生、週末に長崎の遺跡、えーっと何て言ったっけ? そこに調査に行くっていってなかった?」
「そう言えば言ってた。遺跡で消えるなんてなんの事件かわからないけど……そう! 確か、宮田遺跡とか言ってたな。みんな、先生の事件と関係あるかわからないけど、長崎、遺跡に行ってみないか? ここ、ここだよ確か」
豊玉美保が続くと、宿名比古那がテーブルに地図を広げ、指を指した。
「でも、危険じゃねえか? それに先生の行方不明と遺跡なんて、多分なんの関係もないと思うぞ」
天日槍太が不安げに言うと、咲耶が強い口調で答える。
「そんなの行ってみなきゃわかんないじゃない! 警察は警察! だから私たちが行くんだよ。先生のことを知ってるのは私たちだけだし、誰かがやらなきゃならない」
どういう論理でそうなるのか、槍太は理解できないが、ここで口論しても面倒臭いだけなのでスルーした。
「行こう。先生を見つけ出そう。俺達ならできる」
仁々木尊が決意を固めるように言った。
「私も賛成だわ。先生のためにも、しっかり準備しようよ」
「そうだね。私たちの手で先生を見つけ出そう」
栲幡千尋が手を挙げて美保がうなずいてまとめるが、天日槍太は流される形で同意する。
六人は互いに目を合わせ、無言でうなずき合った。
彼らの決意は固まった。宮田遺跡を調査して、修一失踪の謎を解くのだ。それがもし、万が一不幸な結果になったとしても、この調査が修一の行方不明事件を解決すると信じて。
次回 第13話 (仮)『2024年の宮田遺跡』
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