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第44話 『槍太救出と各国機関』
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2024年11月28日 SPROの地下会議室
昨夜からSPROの専門スタッフによって槍太救出作戦の具体的な計画が練られていた。藤堂は大型スクリーンに廃工場の3Dマップを映し出す。
「偵察部隊の報告によると、地下には大規模な研究施設が存在します。槍太君はおそらくここで拘束されています」
「なん、じゃこりゃ! ……日本にこんな……。外国の施設があるなんて」
「残念ながらこれが日本の現状です。建築基準法や消防法をクリアし、仮に表向きであっても目的を明確にして定期的な監査をクリアしさえすれば、可能なのです」
比古那のセリフに答えつつ、藤堂はため息をついて顔をしかめた。
「警備の状況は?」
修一が眉をひそめながら言った。
「かなり厳重です。銃を所持した武装警備員が常駐し、最新の監視システムも導入されています」
藤堂はリモコンで画面を切り替えた。
画面には監視カメラの静止映像が映し出される。研究室のベッドに横たわる槍太が映しだされ、意識を失ったまま様々な計器類を取り付けられて検査を受けているようだ。
「あれ? これ写真? 動画は?」
比古那が素朴な疑問を投げかけるが、尊が遮った。
「セキュリティ、ですね」
そうです、と藤堂は言って続ける。
「ハッキングすれば必ず痕跡が残り、リスクが上がります。それを最小限にするために静止画像のみにとどめたのです。ですからこれは約3時間前の画像になりますが、救出の際は、できる限り映像とリンクさせて作戦を実施します」
藤堂は険しい表情だ。
「我々の情報によると、施設内には少なくとも20名の武装警備員が常駐しています。彼らは最新の武器を所持し、高度な訓練を受けています。さらに、施設全体に張り巡らされた監視カメラと、最新のセキュリティシステムが我々の侵入を困難にしています」
「……じゃあ正面から突入するのは無理そうですね。他に方法は?」
修一はふう、と一息ついて尋ねた。
「はい。そこで、我々は二段階の作戦を考えています」
藤堂はそう言って、スクリーンを切り替える。
「まず、施設の警備システムをハッキングし、一時的に無力化します。同時に、偽の警報を発生させ、警備員の注意を分散させます。その隙に、特殊作戦部隊が地下通路を通じて潜入します」
比古那が不安そうに尋ねる。
「でも、そんな簡単にハッキングできるんですか?」
「簡単ではありません。難しい作戦です。しかし、我々は施設のセキュリティシステムの脆弱性を特定しました。それを利用すれば、短時間ながら侵入の機会を作り出せると考えています」
情報管理部の工藤が答えた。
「ただし、時間との戦いになります。システムのダウンは最大でも10分程度。その間に槍太君を救出し、脱出しなければなりません」
藤堂はうなずいている。
「わかりました。私たちに何ができるでしょうか?」
「皆さんには後方支援をお願いします」
修一が決意を固めた様子で言うと、藤堂は全員を見渡して説明した。
「吾らも力になりたい」
そう言ったのは壱与だ。
藤堂は少し考えてから答える。
「皆さんの存在自体が貴重ですが、危険に巻き込むわけにはいきません」
「吾らは戦える。槍太を救うためなら、どんな危険も厭わぬ」
イサクが剣に手をかけながら言うが、藤堂は深刻な表情で遮る。
「皆さんの勇気は理解します。しかし、この作戦は現代の技術と戦術を駆使して行われます。あなたたちの力を別の形で活かす方法を考えましょう」
「みんな、藤堂さんの言うとおりだ。オレたちにできることをしよう。槍太のために」
修一がそう言うと、誰も何も言わなくなった。
槍太が心配なのはみんな同じなのだ。各人がやれることをやるしかない。
「では、具体的な救出計画とそれぞれの役割を発表します」
藤堂が全員を見渡して言った。会議室の静まり返った空気を察し、手元の資料を整理しながら口を開く。
「セキュリティシステムの脆弱性を利用し、短時間で槍太を救出する計画を練っています」
「ええっと……つまり……例えば停電を起こしたり、本当は侵入者がいるのに、監視カメラの映像には1時間前の映像が映ったりしてるとか……そういうこと?」
「そうです」
美保の言葉に杉は短く答えた。まさか正解だとは思わなかったようで、少しだけ驚いた顔をしている。
「実際にはもっと複雑な手法を用いますが、基本的な考え方は同じです」
「でも、そんな高度なシステムを簡単に突破できるのかな?」
咲耶が不安げに尋ねた。
「先ほどもいいましたが、難易度は低くはありませんが、システムの脆弱性をついて侵入し、無力化します。これで短時間ながら侵入の機会を作り出せると考えています。それに、なにも最先端の技術が人間の目をくらますとは言えないんです」
工藤が前に出て説明を始めた。
「? ? いったいどういうことなの?」
千尋が興味深そうに聞いたので工藤は詳細を話す。
「端的に言えば、人間は全方位に注意を巡らすことは難しいんです。特に長時間は。たとえば人間が生活している以上、その施設にいる人間だけで全てを賄うことは難しい。なんらかの形で外部の人間と接触しないと生活できないのです」
「どういう事?」
「例えば……そうですね。普通の生活で言えば宅急便とか、あとはウーバーイーツとか。利用頻度にもよりますけどいちいち担当者の顔と名前なんて覚えていないでしょう? 企業となればその数は膨大になります。よくあるでしょう? 清掃スタッフや電気業者、パソコンの業者などが侵入して監視カメラを設置する……そういった事です。意外に効果的なんですよ」
「まさか!」
そのまさかです、と、尊の驚きの声に即座に反応する杉である。
「そうさせまいと、すべてのことを施設内・人員でまかなおうと思えばできなくはありません。病院から果ては美容室まで……。でもそこまでしている企業が、施設がありますか? 必要性がありません。逆に不自然なのです。ですからそこがウィークポイントなんです」
「具体的にはどうするんですか?」
修一が聞いた。
「まず、我々の職員が清掃業者として潜入し、爆薬をしかけます。これはダミーではなく熱源反応が出るように本当に爆破します。火災が発生しますから、消火に相当数の人員が割かれるでしょう。その隙に監視カメラの電源を落とします。火災の影響で配線が切れ、それによってカメラが使えなくなったと思わせるのです。ここで潜入し、槍太君を救出します」
「うまく、いくでしょうか」
比古那が問う。
「うまくやるしかありません。それが我々の仕事です」
土方がそう言って杉を見る。
「心配いりません。杉はこう見えて、うちのエースですよ。アメリカやロシアのエージェントにもひけは取りません」
それを聞いて修一たちに少しだけ笑顔が戻った。
槍太救出作戦が、決行される。
次回予告 第45話 『槍太救出』
昨夜からSPROの専門スタッフによって槍太救出作戦の具体的な計画が練られていた。藤堂は大型スクリーンに廃工場の3Dマップを映し出す。
「偵察部隊の報告によると、地下には大規模な研究施設が存在します。槍太君はおそらくここで拘束されています」
「なん、じゃこりゃ! ……日本にこんな……。外国の施設があるなんて」
「残念ながらこれが日本の現状です。建築基準法や消防法をクリアし、仮に表向きであっても目的を明確にして定期的な監査をクリアしさえすれば、可能なのです」
比古那のセリフに答えつつ、藤堂はため息をついて顔をしかめた。
「警備の状況は?」
修一が眉をひそめながら言った。
「かなり厳重です。銃を所持した武装警備員が常駐し、最新の監視システムも導入されています」
藤堂はリモコンで画面を切り替えた。
画面には監視カメラの静止映像が映し出される。研究室のベッドに横たわる槍太が映しだされ、意識を失ったまま様々な計器類を取り付けられて検査を受けているようだ。
「あれ? これ写真? 動画は?」
比古那が素朴な疑問を投げかけるが、尊が遮った。
「セキュリティ、ですね」
そうです、と藤堂は言って続ける。
「ハッキングすれば必ず痕跡が残り、リスクが上がります。それを最小限にするために静止画像のみにとどめたのです。ですからこれは約3時間前の画像になりますが、救出の際は、できる限り映像とリンクさせて作戦を実施します」
藤堂は険しい表情だ。
「我々の情報によると、施設内には少なくとも20名の武装警備員が常駐しています。彼らは最新の武器を所持し、高度な訓練を受けています。さらに、施設全体に張り巡らされた監視カメラと、最新のセキュリティシステムが我々の侵入を困難にしています」
「……じゃあ正面から突入するのは無理そうですね。他に方法は?」
修一はふう、と一息ついて尋ねた。
「はい。そこで、我々は二段階の作戦を考えています」
藤堂はそう言って、スクリーンを切り替える。
「まず、施設の警備システムをハッキングし、一時的に無力化します。同時に、偽の警報を発生させ、警備員の注意を分散させます。その隙に、特殊作戦部隊が地下通路を通じて潜入します」
比古那が不安そうに尋ねる。
「でも、そんな簡単にハッキングできるんですか?」
「簡単ではありません。難しい作戦です。しかし、我々は施設のセキュリティシステムの脆弱性を特定しました。それを利用すれば、短時間ながら侵入の機会を作り出せると考えています」
情報管理部の工藤が答えた。
「ただし、時間との戦いになります。システムのダウンは最大でも10分程度。その間に槍太君を救出し、脱出しなければなりません」
藤堂はうなずいている。
「わかりました。私たちに何ができるでしょうか?」
「皆さんには後方支援をお願いします」
修一が決意を固めた様子で言うと、藤堂は全員を見渡して説明した。
「吾らも力になりたい」
そう言ったのは壱与だ。
藤堂は少し考えてから答える。
「皆さんの存在自体が貴重ですが、危険に巻き込むわけにはいきません」
「吾らは戦える。槍太を救うためなら、どんな危険も厭わぬ」
イサクが剣に手をかけながら言うが、藤堂は深刻な表情で遮る。
「皆さんの勇気は理解します。しかし、この作戦は現代の技術と戦術を駆使して行われます。あなたたちの力を別の形で活かす方法を考えましょう」
「みんな、藤堂さんの言うとおりだ。オレたちにできることをしよう。槍太のために」
修一がそう言うと、誰も何も言わなくなった。
槍太が心配なのはみんな同じなのだ。各人がやれることをやるしかない。
「では、具体的な救出計画とそれぞれの役割を発表します」
藤堂が全員を見渡して言った。会議室の静まり返った空気を察し、手元の資料を整理しながら口を開く。
「セキュリティシステムの脆弱性を利用し、短時間で槍太を救出する計画を練っています」
「ええっと……つまり……例えば停電を起こしたり、本当は侵入者がいるのに、監視カメラの映像には1時間前の映像が映ったりしてるとか……そういうこと?」
「そうです」
美保の言葉に杉は短く答えた。まさか正解だとは思わなかったようで、少しだけ驚いた顔をしている。
「実際にはもっと複雑な手法を用いますが、基本的な考え方は同じです」
「でも、そんな高度なシステムを簡単に突破できるのかな?」
咲耶が不安げに尋ねた。
「先ほどもいいましたが、難易度は低くはありませんが、システムの脆弱性をついて侵入し、無力化します。これで短時間ながら侵入の機会を作り出せると考えています。それに、なにも最先端の技術が人間の目をくらますとは言えないんです」
工藤が前に出て説明を始めた。
「? ? いったいどういうことなの?」
千尋が興味深そうに聞いたので工藤は詳細を話す。
「端的に言えば、人間は全方位に注意を巡らすことは難しいんです。特に長時間は。たとえば人間が生活している以上、その施設にいる人間だけで全てを賄うことは難しい。なんらかの形で外部の人間と接触しないと生活できないのです」
「どういう事?」
「例えば……そうですね。普通の生活で言えば宅急便とか、あとはウーバーイーツとか。利用頻度にもよりますけどいちいち担当者の顔と名前なんて覚えていないでしょう? 企業となればその数は膨大になります。よくあるでしょう? 清掃スタッフや電気業者、パソコンの業者などが侵入して監視カメラを設置する……そういった事です。意外に効果的なんですよ」
「まさか!」
そのまさかです、と、尊の驚きの声に即座に反応する杉である。
「そうさせまいと、すべてのことを施設内・人員でまかなおうと思えばできなくはありません。病院から果ては美容室まで……。でもそこまでしている企業が、施設がありますか? 必要性がありません。逆に不自然なのです。ですからそこがウィークポイントなんです」
「具体的にはどうするんですか?」
修一が聞いた。
「まず、我々の職員が清掃業者として潜入し、爆薬をしかけます。これはダミーではなく熱源反応が出るように本当に爆破します。火災が発生しますから、消火に相当数の人員が割かれるでしょう。その隙に監視カメラの電源を落とします。火災の影響で配線が切れ、それによってカメラが使えなくなったと思わせるのです。ここで潜入し、槍太君を救出します」
「うまく、いくでしょうか」
比古那が問う。
「うまくやるしかありません。それが我々の仕事です」
土方がそう言って杉を見る。
「心配いりません。杉はこう見えて、うちのエースですよ。アメリカやロシアのエージェントにもひけは取りません」
それを聞いて修一たちに少しだけ笑顔が戻った。
槍太救出作戦が、決行される。
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