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第3章
フェムドム契約書
[第三章/フェムドム契約書]
ー予約客はフェムドム新婚中ー
午後からの雨が上がり、外は梅雨時期の長い薄暮が広がっていた。休憩を終えた早川佑樹は、五時半からのクライアントの治療準備に入っていた。
葉沢FDクリニックでは完全予約制で行われるフェムドム・カウンセリングの来院者を一般の保険診療の患者とは区別する意味で客またはクライアントと呼んでいる。
夕方からの予約客は昨年秋に籍を入れ現在、新婚生活九ヵ月目を過ごしている三十一歳の望月麻耶婦人とその夫、二十六歳の僚介氏だ。
今日の昼過ぎに洗浄とミルキング処置で来院した榎萊美子と桐山タツヤのカップル程、歳の差はないものの年上妻と年下夫の典型的なフェムドム素地を備えた組み合わせである。
夫人である望月麻耶は、夫、僚介の配偶者であると共に東欧のプラハ音楽大学をストレートで卒業した実力派チェロ奏者で、国内屈指のフルハーモニー楽団に所属する、いわばエリート音楽家である。
一方、麻耶より七歳年下の僚介は防衛大学を優秀な成績で卒業した後、エスカレーター式に幹部候補生として自衛官の道へ進んだ、こちらもエリート公務員ではあった。
しかし配属先の陸自部隊の厳しさに馴染めなかったのか僚介は数年で退職し、現在は都内に本社を置く大手民間警備会社に勤めている。
もともと二人の共通点には音楽があった。高校時代からブラスバンド部でトランペットにいそしみ、防衛大学ではメディアにも度々取材される自衛官音楽隊の学生予備メンバーとして所属していた僚介が妻である麻耶と接点を持ったのも、そんな音楽活動の縁であった。
麻耶と付き合い始めて間もない頃、僚介は
彼女から或る悩みを打ち明けられた。それは思春期の頃より女尊男卑的指向という性癖が心を支配するようになり、大人になってからも人格を疑われないよう、意図的に男性との関わりを避けて来たという悩みだった。
そして数年前から、葉沢FDクリニックで専門カウンセリングを受けている事を打ち明けられた。
そんな麻耶の真剣な告白に対し僚介は、自身も女性に主導される方がどちらかと言うと好きだと真摯に伝えた。
事実、母子家庭環境で育てられた影響か、僚介もまた物心が付く時期より心の奥に強い年上の女性への憧憬が強く芽生えていた事を自覚していた。
麻耶はそれまで誰にも打ち明けた事のない悩みを明るく受け止めた僚介に、初めて異性に対する安心感を覚え、好意的な感情は愛情へと進展していった。
二人の仲が急速に発展したのは、僚介の心の深層に仕舞い込まれていた甘酸っぱい女尊主義的嗜好が、麻耶のフェムドム指向の告白によって鮮やかに輪郭を得た思いを感じたからに他ならない。そして昨年の秋、式を挙げた際にフェムドム婚のプランニングを葉澤遥香に依頼したのは麻耶の強い要望によるものだった。
壁上の採光用の凹凸ガラスが夕陽に明るく輝いて診療室をほのかに照らし始め、空の雲が切れて四散した事を知らせてせた。
助手の早川佑樹はパラパラと望月夫婦のカルテを捲りながら見ていた。日頃から院長の葉澤遥香から、事前準備の際には予約客のカルテに目を通して置くように指示されているためだ。
二人は婚姻届を役所へ出す際、院長である葉澤遥香のプランニングによるフェムドム婚をスタートさせた数少ないカップルのひとつであった。麻耶にとって夫の僚介は2回目の配偶者で、僚介は婿入りしたのかどうかは定かではないが、配偶者である妻の姓を選んでいる様子である。
佑樹は望月夫婦のカルテの中に、妻である麻耶個人の単独ページが綴られている事にふと気が付く。
(そうか、彼女は独身時代からのクライアントなんだ……)
そこには異性とのコミュニケーションに於いて、可憐な顔立ちと女性的で柔和な容姿が、生来の勝気な性格とは逆の優しく奥ゆかしい印象を与えてしうまうというギャップに悩む麻耶の葛藤が記されていた。
またそれとは別に、それまでの恋愛経験がすべて上手く行かない事に悩み続けていた経緯や一度目の婚姻生活を破綻させている事などがヒアリング項目に記されていた。
そして、その経緯の中で遥香の提供するフェムドム・カウンセリングが、彼女の心の奥で渇望していた価値観を実現するための手段としてリスペクトされた事を佑樹は数ページに渡るカルテの内容から読み取った。
二人が署名捺印をした「結婚契約書」は、先の榎カップルが交わしている婚姻前の覚書きに比べ、より細分化された決まり事が網羅されたもので、フェムドム生活の実践における基本約款とされるものだ。
内容は財産の所有権や家計や仕事分担、離婚時の慰謝料など一般的な取り決めの他に、女性配偶者の肉体への崇拝・奉仕や隷属に関する定款が百数十ページからなる条項として盛り込まれている。
そこには家庭では炊事洗濯等を率先してこなす事やフットマッサージ、爪の手入れ、頭髪のブラッシング等々女性配偶者への日々の献身的ケアを怠らない事が定められており、その他、求められたケースに応じた所作など事細かな生活スタイルにおける規制が文章として明記されている。
更には重要事項として、許可のない射精によるオルガズムスの禁止、アナル調教受諾等など、フェムドム特有の規約が厳格に記されており、当然、そこには貞操器具を使用したチャスティティ管理も含まれている。
また、服装に関しては女性配偶者側にすべての権限がある事や、常時ブラジャーと女性用ショーツを着用する事なども強制出来る内容が記されている。
仔細に渡る制約の条文の後半には、守られなかった場合のペナルティが、やはり同じ様に事細かに綴られているのだった。
(こんな内容が本当に実行されているのだろうか……)
カルテの直近のページには女主人への従属度合いを示すサブミッシブ度というパーセンテージの表記が院長遥香の診断結果として記されてあり、前回の来院時の最後のページにはサブ±30%と記されていた。
佑樹は望月夫妻のフェムドム・マリッジのカルテ資料に目を通し終えると、不思議な高揚感が無意識に心の底に湧いているのを感じた。
ー契約は履行されてー
望月麻耶と僚介のカップルは予約の定刻通りに来院した。
長身で可憐な顔立ちに足元のベージュ色のパンプスのヒールから背筋がスッと伸びた姿勢は、チェリストという弦楽器奏者の職業柄なのだろう。姿勢の良さとは対照的な、なで肩の曲線を包むリバティ柄のワンピースは初夏の季節らしさを感じさせる。夫の僚介は妻に比べて背丈は頭半分低いが、鍛え上げられた元自衛隊員らしい逆三角の骨格にグレー地のサマースーツをノーネクタイで着こなしていた。
このクリニックの特殊性からか、見た目にその組み合わせは、いかにも女性主導の主従関係を感じさせる。
ただ、何かギクシャクした二人の雰囲気から助手の早川佑樹は、カルテに院長遥香の字で記されたサブミッシブ度に進捗停滞気味である状況を示す、プラスマイナス符号が付いていた理由がなんとなく頷けた。
「お待ちしていました。そのままカウンセリング診察室へどうぞ」
エルメスのショルダーバッグから取り出したID診察カードを窓口でスキャンした妻の麻耶を佑樹は診察室へと案内した。夫の僚介はその後ろを付いてくる。
二人は前回の来院時には居なかった早川佑樹を一瞥した後、無言のまま奥へ進んでいく。きびきびした仕草の妻の麻耶に対して、夫の僚介は、後ろをなびくように付いて歩く動きが緩慢で少しおどおどしている様にも見える。
「いらっしゃい。麻耶さん、どうぞ座って」
院長の遥香が出迎え、二人をカウンセリング用のロングソファーへ促した。
「新しい男性の受付が入ったのね。先生」
「ああ、インターン研修医の早川佑樹君よ。いろいろ手伝わせているわ」
「うちの夫と同じ位の年齢かしら」
「そうね。僚介さんは、おいくつでしたかしら」
麻耶の横で静かに座っていた僚介へ、ふいに院長の言葉が振られた。
「えっ」
「あなた、遥香先生が歳はお幾つって、訊いてるわよ」
一瞬、何を尋ねられたのか聞いていなかった様子の僚介に麻耶が、遥香に気を遣う口調で言い直す。
「あ、25です」
「本当に今日は朝からボ―ッとしてるんだから」
妻の麻耶が呆れたように首を軽く振った。
「何か心配事でもある雰囲気ね。話してごらんなさい」
ボーッとしているよりも、さっきから何か落ち着かない表情を見せている夫の僚介に、遥香はカウンセラー医としての観察眼を光らせる。
「あっ、い、いえ。何もないです」
診察室の傍らで待機する助手の佑樹にも、大げさに首を左右に振る僚介の仕草が余計、滑稽に見える。
そんな夫の隣で妻の麻耶が淡々とした口調で唐突に喋り始めた。
「遥香先生、実は契約の決まりごとが最近、ことごとく破られてるんです。大目に見ていた部分もあるんですけど…… 」
そう切り出した麻耶はショルダーバッグから薄手のハンカチで包んだ貞操具を取り出し、テーブルの上に開き始めた。
「あらあら、破損してるわね。ふーん、これは無理やり工具か何かで壊したという感じね」
壊れた貞操具の樹脂製パーツを目の前に出された僚介は罰が悪そうに俯いている。
遥香は、深刻な事態だと言わんばかりの怪訝な表情になり経緯を訊ね始める。
「麻耶さん、これはいつ頃のことかしら?それとペナルティは実行したのかしら」
少しの間を置いた後、妻の麻耶が困ったように状況を説明し始めた。
「実は、このところの演奏旅行で私が家に居ないのをいいことに好き勝手放題で……お仕置きもしてはいるんですが、効いていないみたいです……」
テーブルに置かれた鈍器で叩き壊された様子の強化樹脂製貞操具は、まさしく自身の股間にも嵌め込まれている同タイプの物だと、部屋の隅で待機している佑樹にも一目で判別出来た。
(あれは、余程の力を加えないと、あそこまで割れないはず……)
軍事用の防弾チョッキにも採用される特殊な合成化学繊維で成形された貞操具は、ちょっとやそっとの衝撃を加えたぐらいではひびさえ入らない事を佑樹は身をもって知っている。佑樹はクライアントであり同年齢の僚介が、股間を四六時中苛まれる辛さに耐えられず本気で外したかったのだろうと察した。
ただ、麻耶夫人のドミナとしての雰囲気に似つかわしくない困惑した表情と、おどおどしながらもそれほど悪びれている様子が窺えない夫の僚介を見た佑樹は、根拠はないものの自虐的嗜好の男性のフィーリングとして、主導権を握る妻に対し、むしろワザと事を起こしている情況のようにも思えた。
(これって、実は虐められたいという甘えの願望なんじゃないのか……)
「麻耶さんから、ペナルティのお仕置きは受けているのね僚介さん」
「は、はい……そうです」
ややきつい声音で続けて尋ねる院長の遥香の顔から、反射的に目を反らした僚介の小さな声が返ってくる。
「お仕置きは、どの程度のものを受けているのかしら、僚介さん」
「あ、私、夕べも寝る前に乗馬鞭で30回叩きました」
フォローするように妻の麻耶の返答が入るが遥香はそれを遮った。
「カウンセリングは始まったと思って、麻耶さん。本人の口から答えて欲しいわ。どうなのかしら僚介さん」
「は、はい。い、いつもキツイ鞭打ちを受けてます……」
始終、おどおどした仕草を相変わらず見せながら夫の僚介は院長の問いに答えている。
その表情や声の大きさ、言葉の抑揚、更には全体の雰囲気をつぶさに観察する遥香は、妻の麻耶を困惑させている一連の反抗的行動は、自己承認欲求的な心理が要因のひとつとして働いている事を洞察した。
それはある意味、部屋の隅で一部始終を見ている助手の早川佑樹の僚介に対する印象とも一致した事にもなる。
「キツイって表現じゃ判らないわね。僚介さん、裸になって全身を見せてもらえるかしら」
「えっ、ここでですかっ」
「そうよ。立って下着も全部脱ぐのよ。早くしなさい」
院長の険しい口調と妻の麻耶の無言の圧力に気圧され、僚介はソファーテーブルの前でそそくさとシャツとグレーのスラックスを脱ぎ始めると、すぐに可愛らしい刺繡をあしらったブラジャーとショーツが診察室の照明に晒された。
どちらも筋肉質な僚介の躰には小振りのサイズで、特に股間を包むショーツは中央のクロッチ部分が僚介の男性器をぴったりと締め上げて異様な形に盛り上がっている。
(あ、あんな下着をいつも着けさせられているんだ……)
僚介の筋骨たくましく整った肉体に貼り付く淡い桜色のブラとショーツに佑樹は、自身の躰がきゅうっと締め上げられるような錯覚を覚えた。
「ブラとショーツ着用は守っている様ね。ピンクは麻耶さんの趣味かしら」
「ええ、まあ」
麻耶が照れながら遥香に答える。女性用下着の常時着用はフェムドム婚姻契約書の遵守事項として契約要綱に定められている。
「ブラは外さなくていいわ。その可愛らしいショーツだけ脱ぎなさい」
背中に手を回して、ピッタリ胸にフィットしているレースの花柄模様をあしらった紅いブラジャーを外そうする僚介に遥香はストップを掛けた。
「はい……」
僚介は恥ずかしそうに同じ色の小さめのショーツをおずおずと膝下まで降ろし、片足立ちで脱ぎ取った。
「はーっ……」
僚介は深いため息を吐いて、恥ずかしそうに両手で股間を隠した。部屋の隅でこちらを見ている助手の早川佑樹の視線も気になる様子だ。
この葉沢FDクリニックに於いて、クライアントの男性がこの洋風リビング調に造られた診療室で下半身をさらけ出す光景は、日常的なものであり、数ヵ月前に研修医として着任した佑樹にとっても最近では見慣れた場面だ。但し、裸に剥かれた男性は例外なく、その後に狂乱の悲鳴を上げている。
助手を任せれれた佑樹が院長遥香より伝えられた二人に対する本日の内容は、近況聴取と軽い対処的カウンセリングが主であったが、妻の麻耶の申し出により急遽、診察内容が変えられる予感がよぎった。
(ああ、今日はこれから、どんな展開になるんだろうか……)
「先ず、回ってお尻を見せて頂戴。両手は腰の後ろに」
院長に尻を突き出すように指示され、僚介はくるっと半回転して背中を向けると尻を差し出した。
「お仕置きは、例の鞣し革の乗馬鞭だったわね。見たところでは、しっかり受けている様子ね」
筋肉質で張りのある、地黒肌の僚介の双つの尻の丸みには、背中に近い腰部から大腿部の境目辺りまで、妻の麻耶により付けられた五百円玉程の黒ずんだ乗馬鞭のスパンキング痣が無数に広がっていた。
「腫れはほとんど引いてるわね。痛みはどうかしら」
僚介の痣だらけの尻朶を遥香の手が撫でるように軽く触れてくる。
「はい、ありません……ふぅ」
ため息混じりの声が僚介の喉から漏れる。
当然ながら佑樹の目にも、その浅黒く傷ついた僚介の尻の様子が飛び込んで来た。
(なんて痣だらけの尻なんだ。いったい何発受けたらあんなになるんだ……ああ)
数時間前、院長遥香から受けたケインでの尻打ちの火照りと、妻の麻耶から厳しいスパンニングを日常的に受けているという僚介の痛々しい双臀が頭の中でリンクし、治まっていた尻の疼きが再びピリピリと熱を帯びてざわつくのを覚えた。
「もういいわよ。前を向きなさい」
スパンキング痣で凸凹した臀部の肌を軽く撫でるように触診した遥香は、納得したような表情で僚介を自分の方へ向かせた。
俯き加減の僚介の顔色に同調しているように、股間のペニスもだらんと下を向いている。
その股間は丁寧に剃毛処理がされており、ドミナント妻の麻耶の几帳面な性格が見て取れた。
「ところで、僚介さんに訊くけど、どうして貞操具を壊したのかしら」
目の前のテーブルには、妻の麻耶が証拠の物件を提示するかのように広げた貞操具の破損した部品が置いてある。
「そ、それは、その」
妻の麻耶と院長遥香の視線に硬直するかのように口ごもる僚介は押し黙り、その数十秒の沈黙の間が診療室の空気を重くする。
「遥香先生、実を言うともう一つ大きな問題があるんです……これがその証拠です」
ソファの隣に並んで座り夫の僚介を静観していた妻の麻耶が、沈黙を突いて声を上げるとバックの中から一枚の派手なカードを取り出しテーブルの壊れた貞操具の横に並べた。
その銀色にコーテイングされた見た目に豪奢なカードには、最近都内を中心にチェーン展開しているハイクラスな会員制シティホテルの名前が洒落たレタリング文字で入っている。
「あら、旅行でもないのに洒落たホテルへ行かれてるのね僚介さん」
「あっ、それはっ……い、いえ、これは違うんですッ」
いつの間にか財布の奥に忍ばせるように隠し持っていたカードを妻の麻耶に抜き取られていた事実に、僚介は職場の同僚に貰ったものなどと言い訳をして取り繕う。
「……僚介さん、違うわよね。本当のことを言って」
「えっ、ほ、本当のことって」
「何を言ってるかわからない?じゃあ教えてあげるわ」
やや俯き加減で発した妻の麻耶が声が、どことなく哀しみを帯びている様に佑樹は思えた。取り繕う僚介に対して麻耶はため息を吐きながら言葉を並べ始めた。
ーカウンセリングは陰部剥き出しでー
窓に薄暮の採光が徐々に弱くなり、天井の照明が明るさを増した診察室のソファーで、妻、麻耶の事細かな説明が始まった。
二人で所有する小型高級輸入車で買い物へ外出した際、助手席のフロアマットに僚介の財布が落ちていた事に気づいたのは、土日を挟んだ数日間の演奏旅行から、ひとり戻った三日前の火曜の午後の事だった。
車は普段、麻耶が演奏旅行の間は夫の僚介が終日使用しており、車内の忘れ物は互いによくある事だと言う前置きの後、更に麻耶の説明が続いた。
十数枚近いカードが重ね入れられ厚みが増した僚介の財布から、不審な銀色のカードがはみ出ているのを偶然に見つけた麻耶は、そのカードだけを抜き取り財布はリビングのテーブルに戻しておいた。
麻耶はその夜、以前にも何度かセッションに呼ばれている警視庁と近隣県警を含む一都三県合同で編成された警察音楽隊との音楽祭イベントのリハーサルのため出かけた際、気心の知れた友人の夏目美優に相談を持ち掛けた。演奏会では軽快なフルート奏者の彼女の日頃の業務は事件現場の証拠品解析が主だという。
麻耶は無理を承知で夫が財布に忍ばせた銀色のカードの件を話し、利用履歴のチェックが出来ないかと訊ねてみた。同世代の夏目美優は以外にも気さくに分析を快諾してくれ、その日の内に解析結果が麻耶の元へ届いた。
結果はカードを見つけた前日の昼間に使用した磁気記録が残っているとの事だった。前日の月曜は夫の警備会社勤務が非番の日だ。
つまり、僚介は平日の昼間、ホテルに居た事になる。
説明を終えると麻耶は哀しい目でキッと夫の僚介を睨んだ。
「ああっ、麻耶さん、そんな、なんで解析なんか」
「僚介さん。確か月曜は警備会社の仕事は休暇日だったはずよね。どういうことか納得いくように報告して……」
ソファーの横に座る妻の麻耶は哀愁を帯びたような声音で、夫に向かって静かに言葉を綴る。
「ああっ、それは、そのっ」
「あらあら、これは言い訳ができないわねぇ、僚介さん。いったい誰とホテルに居たのかしら?説明の義務があるわねぇ」
院長の遥香が輪をかけて僚介に言葉をかぶせる。二人のフェムドム・カウンセリングの主治医である遥香は横で聞きながら意外な展開に興味をそそられていた。
「い、いえっ、それは、そのっ、誤解です」
狼狽しながら窮する僚介は、テーブルに置かれている破損した貞操具と銀色の高級シティホテルの会員カードを目の前に俯いて押し黙ってしまった。
胸板にピッタリ貼り付いた赤いブラジャーと下半身を剥き出しにした姿で直立のまま、焦燥に身を小刻みにブルブル震わせている僚介の様子はどこか滑稽に映る。
(えっ、この償いは……、いったい、どうなるんだ)
単に僚介のマゾヒステックな嗜好から、愛しい配偶者のスパンキングをもっと多く受けたいがためにフェムドム婚姻契約をわざと破ったのだろうと、漫然とした推察をしていた佑樹だったが、事態はそんな生易しいものではないという展開に他人事ながらハラハラし始めていた。
そして院長遥香の眼が心無しか輝きを増してゆくような気がした。
「貞操具を壊す行為のみなら、多少大目に見ることもあるけど、これは問題ね。婚姻解消になった場合はどうなるか、覚えているかしら僚介さん」
遥香にとって、僚介が妻の目を盗んで誰とホテルに居たのかを問い詰める事自体は、それ程の意味は持たなかった。が、敢えて罪に対する刑罰を本人に納得させた上で償わさせるという心理的負荷のプロセスを重要視した。
「黙っていては、解らないわよ僚介さん。あなたは今、明日からの人生が180度マイナスに動くか、それとも回避できるかの選択に迫られているのよ」
「……」
俯いたままの僚介に院長の遥香が更に言葉を載せてくる。
これまでの臨床データの中でも、フェムドム婚が離婚に至る場合に於いてペナルティ・プランを実行できるケースはそれ程多くは無い。
遥香はそのプランを実行に移せる可能性が出てきた二人の意外な展開を目の当たりにし、日頃心の奥深くに閉じ込めている個人的な嗜虐性を密かに膨らませていた。
「そうね。遥香先生の言う通り、僚介さんの弁解次第では、離婚も含めて色々考えなくてはならないかしら」
ソファーに背筋を伸ばし姿勢よく座っていた妻の麻耶の真摯で抑揚のない言葉の響きが診療室の壁に反響した。
二人が合意して取り交わしている結婚契約の離婚に纏わる条件は、公証している部分でさえ、夫の僚介にとっては経済的に一生涯の負債を背負う程、極めて不利なものである。
更にはフェムドム部分の公約条件では、実際に履行することは現実的では無いと思える程、過酷なものである事は遥香の説明によって二人共に一応は理解している。
離婚時の条件を定めた過失度合いによって、
一部または全部の睾丸摘出手術を受けなけらばならない、というフェムドム条項などは、僚介にとって実際には書面上だけのものと思っているふしがあったが、自分達のフェムドム婚プランニングを管理している、この葉沢FDクリニックの臨床現場では現実に実行されてしまいそうな怖さがある事を僚介は改めて思い出した。
「いや……そ、そのっ、正直に言うから離婚だけは……」
目の前の遥香と妻の麻耶へ弱弱しい表情を向けながら、僚介は観念したように話し出した。
「た、確かにホテルに行った。けど、誓って浮気なんかしてない」
僚介の口から出た最初の言葉に院長の遥香は首を傾げ、妻の麻耶は眉間に皺をよせた。
「僚介さん、そんなこと訊いているわけじゃないわ。昨日誰と居たの」
隣で妻の麻耶の声が高ぶる。
「うう、それは……」
麻耶の夫を睨みつける圧力が更に僚介の自白を引き出す。
「デ、デリヘルでっ、じょ、女性を呼んだ、呼びましたっ」
「まあっ。デリヘルって何よ、どちらにしてもホテルに呼んだのは、きっと知り合いの女性なんでしょ」
(ははぁ……大体のことが読めたぞ)
傍らで一部始終を見聞きしていた佑樹は、夫の僚介が性欲を抑えきれず、貞操具を破壊してまで風俗サイトにアクセスし、デリバリー型のヘルス嬢をホテルに呼んだのだろう経緯をすぐに理解できた。同様に院長の遥香も
それを感じている風だ。
しかし、一般社会とは壁を隔てたチェロ演奏家という多忙な日常を過ごしてきた麻耶夫人にとっては風俗業界のことなど知るはずもなかった。ましてや、HPへアクセスして予約した初対面の風俗嬢が、ホテルの部屋まで訪ねてくるシステムなど到底理解できる訳もなかった。
「どんな店からデリ嬢を呼んだのか、話してもらえるかしら」
戸惑う麻耶夫人を横に遥香が僚介へ質問を始める。
「そ、その、専門サイトで探した店で……」
「店の名前は? 」
「五反田のア、アグネスジュエル」
遥香に矢継ぎ早に問い質され、僚介も答えざるを得なくなった風体でボソボソッと口に出した。
「早川さん、アグネスジュエルを検索してみて」
利用した店舗名が僚介の口から出たところで助手の佑樹に確認させる。
「あ、確かに五反田にありますね。亀頭マッサージ専門のデリヘルみたいです」
「まぁっ、なんなのよそこはっ、変態じみた店の名前ね」
可憐な目鼻立ちの麻耶の顔が徐々に怒りの表情を見せ始めた。
「ご主人の白状した様子では、どうやら、風俗を利用したのは本当のようね。まあ、信じてあげるかどうかは麻耶さん次第だけど」
遥香に言われても妻の麻耶は、まだ納得が出来無い様子で浮気の線を疑っている。
「そのアグネスなんとかに、いつも指名しているお気に入りの風俗嬢がいるわけね、僚介さん」
「い、いや、それは無いよ。初めて使った店だし」
助手の佑樹がスマホで検索した派手なホームページをスクロールさせて、店のサービス内容を確認した院長の遥香が可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ふふふ。初めて利用した割には亀頭マッサージ専門店なんて随分マニアックな所を選ぶのね、僚介さん」
「そ、それは、そのっ」
「専門店だなんて、そんないかがわしい所へ私に黙って行くなんて……」
麻耶夫人の落込んだ訝しげな表情から、夫の僚介に対するショックが意外と大きいことが、傍らに待機する助手の佑樹からも見て取れた。
年数回の海外演奏へ出かけた折、他国の夜の繁華街にたむろする性風俗の女性に関する話題は、同じ楽団の男性演奏家の間でも話題に上がる事がある。それがどんなシステムなのか、ある程度の知識は持っているつもりの麻耶だったが、夫の僚介が利用したという亀頭マッサージ専門店という部分が麻耶の頭にはどうしても引っかかった。
察するに日頃から自分の目を盗んでは、変態的な新手の風俗を舐め尽くすように調べ上げている夫の僚介の姿が浮かび、挙句の果ては亀頭マッサージなる専門風俗をチョイスしている行動を想像するに至った麻耶は、嫌悪感さえ覚えていた。
「よくも、そんな風俗を見つける暇があるのね。私が……きっと、留守が多いせいね」
「い、いや、その、たまたま見つけたんだ」
夫の僚介と眼を合わせようとしない妻の麻耶は怪訝な表情で宙を見つめ続けている。
再び遥香の言葉がそこへ割って入った。
「まあ、僚介さんの本格的な浮気の線はどうやら消えた様ね。但し、風俗を無断で利用するなんて妻に対する冒涜よ。取り敢えず今からすぐに償ってもらうわ」
二人の主治医としてフェムドム婚プランを司る立場として、院長の遥香が方向性を示す言葉を上げる。
「はい、すみませんでした……お仕置きでしょ、それでいいっすよ」
ソファーの前で全裸に近い状態で立たされたままの僚介が、開き直る様に態度を一変する。
「まぁっ、なんて虫酸の走る言い方なのっ、軽く開き直るのねっ。貴方の裏切りで私がどれだけショックを受けているのか解りもしないのね」
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
僚介は実のところ、婚姻当初から遥香のカウンセリングの元で本格的に始まった、このフェムドム婚を新婚時期の手の込んだ遊び程度という感覚が続いていた。
しかし、女性至上主義的な要素が二人の間でこれ以上エスカレートしないように、表面的には、年上の妻に黙って従うようにしていたふしがあった。
裏返せば僚介にとって、心の奥底で軽んじているという事実を妻の麻耶と目の前の遥香に見透かされるような状況が一番恐れる事であった。そしてそれが今、現実となっている
事に内心、診察室にいる誰よりも焦燥しているのだった。
「私、夫を信じることが出来なくなりました。どうすればいいでしょうか遥香先生。すぐに別れるべきでしょうか」
「あぁ、そんな、そこまで考えなくても」
妻の麻耶の言葉が僚介の胸にズッと刺ささり思わず真顔になった口から声が出る。
この展開が意味するものは、単純に風俗遊びがばれた自分に対する怒りと不信感という一過性的なものではなく、フェムドム婚という生活スタイルを神聖で絶対的なものと信じる彼女の価値観を真摯に受け止める覚悟があるのか、という解を求めているものだという事を楽観的性格の僚介にも薄々理解できた。
そして一番厄介なのは、その強制力として存在するフェムドム婚プランナーである葉澤遥香が目の前に居る事だ。
(結局、罪を認めたところで、許されることはないのだろうな……)
傍らで佑樹は目の前の二人に起った問題が、どう決着するのか気になって仕方なかった。
困惑の淵に沈んで押し黙った僚介に、助け舟を出すように遥香が口を開いた。
「どうかしら麻耶さん、今回だけは目をつむってあげたら……。その代わりにと言ってはなんだけど、私にもプランナーとしての監督責任を果たさせてもらうわ」
「えっ、先生の責任って……」
麻耶の反応に遥香はテーブルの上の破損した貞操具を指さしながら言葉を続けた。
「自分で壊せる貞操具を装着させてしまったのは私のミスよ。チャスティティ管理者としてのリスクヘッジが甘かったわ」
妻に風俗通いがバレて縮こまっている夫の構図はありきたりなケースではあるが、自身が設計したプランによるフェムドム的日常が始終する中で、僚介の犯した行為は本人の想像以上の罪となり得る。
その原因の一端は自分にもあると改めた遥香は、今まさに、その償いのための処置を図ろうとしている。
そんな院長遥香の強い意思が診療室の角に立つ助手の佑樹にも伝わった。
(いったい、これから、どんなペナルティを科すのだろうか……)
フェムドム婚において重大な違反行為が立証された夫の僚介は、どうあがいても厳しい罰を免れないだろう。佑樹は樹脂製のペニスケージに閉じ込められた先端辺りが、じゅくじゅくと疼くのを感じた。
ーギルティ(有罪)のゆくえー
「ところで僚介さん。まだ質問は終わっていないわ。目の前の貞操具を壊した理由と、昨日の亀頭マッサージ風俗でして来た事を具体的に詳しく話すのよ」
院長遥香の問い掛けに麻耶夫人も頷きながら耳を傾けた。
「それは、あのっ、貞操具は、い、痛くて我慢が出来なくなってしまい……仕方なく」
全身を揺すりながら、赤いブラを着けた裸の僚介はポツリポツリと答え始める。股間の中央にはピンク色の亀頭の先端を包皮から覗かせたペニスが小さく縮こまっている。
「おかしいわね。リングとペニスケージのフィッティングは充分に行なったはずよ。それ程、強い痛みは出ないはずだけど」
遥香は素早くシリコングローブを右手に嵌めると、僚介の股間に手を伸ばし陰茎の根元から睾丸の付け根まで細かく触診し始めた。
遥香の睾丸を持ち上げる手の感触に僚介の太腿が一瞬ブルッと震える。
「ああ、あのっ、朝がどうしても……裂けそうなぐらい痛かったんです」
「その程度で勝手に壊して外したわけね。私たちの約束を最初から軽く考えてた証拠よっ、許せないわ」
隣で妻の麻耶の声が上がるが、僚介は無言で遥香の触診に身をゆだねている。
(朝勃起の痛みか……それなら同じく経験中だ)
きっと、貞操具を無理やり破壊する衝動が起る程、痛みは非情なものだったのだろう……、切実な訴えに助手の佑樹もついつい反応する。
「ふーん。確かに亀頭周辺に治り掛けの傷跡っぽいのが幾つかあるわね」
「あうっ、せ、先生っ、そんなに擦られると……」
亀頭の傷跡を探る様にやわやわと擦っていた遥香の指先が徐々にペニスの雁首辺りを挟みつけ、擦り上げる動きに変わっていく。
その刺激に、腰の後ろで組んでいた僚介の両手が咄嗟に遥香の手の動きを遮った。
「駄目よ、手を解いては。後ろに組んでいなさい。じっとしていられない様なら保定するわよ」
「ううっ」
保定とはいわゆる拘束される事を意味するのを知っている僚介は、再び背中に回した手を組み直した。
刺繍の入った真紅のブラジャーに下半身丸出しの状態で起立の姿勢を強いられている僚介の姿は、何か艶めかしい色っぽさを漂わせている。
「もう少し血行の具合を診るから、じっとしているのよ」
「はあっ、ああぁっ」
シリコングローブに包まれた遥香の柔らかい指先の滑らかな動きが、ペニスの亀頭部分から雁裏までを包み込むようにクリッ、クリッと小刻みに刺激を与え続けてくる。
僚介のペニスはたちまち硬く充血し、天井を突き上げる勢いで勃起ち上がった。
「あら、萎えている時に比べて、ずいぶん大きくなるのね。勃起時の痛みが強いのは仕方ないわね」
通常、貞操具のフィッティング時には勃起時のサイズはチェックされない。ペニスが萎んだ平常時の状態でケースの長さと径が設定され、更にひと回り小さなサイズが嵌め込まれる。
望月僚介のように平常時と勃起時のサイズに極端な膨張差がある場合は、フル勃起した際に狭小なペニスケージはその充血した海綿体を押し潰すように圧迫することになる。
逃げ場のないペニスは排尿用の僅かなスリットから敏感な亀頭部分を異様にはみ出させ、耐え難い激痛を発生させのだ。
(大きいな……あれが、閉じ込められたのか)
自分でコントロールすることの出来ない明け方の勃起現象は、きっと僚介にとって相当に苦しいものだったに違いない。
診察室の中央で院長遥香の指に翻弄され、はち切れんばかりに隆起した僚介のペニスを傍らで凝視しながら、佑樹は自身の股間に嵌められている器具による毎朝の痛みを思い出していた。
「麻耶さん、ご主人のペニスって勃起させると意外にご立派なのね。使用時以外はコンパクトサイズってわけね」
「ええ……まあ、どちらかと言うと、そうなのかしら……」
突然話しかけられた麻耶夫人は、遥香の指に摘ままれているMAX状態の夫のペニスを複雑な表情で見ている。
「確かにこれじゃ装着したペニスケージのサイズでは少々きつそうね。でも、慣れさせなければ駄目よ。これから、もっと小さいサイズにしていく予定だから」
チャスティティ療法において初期段階の装着では徐々に小型サイズへ移行し、その窮屈さの肉体的負荷に慣らさせる過程も重要事項のひとつとされた。
「えぇっ、そんな、朝以外でもマジで切れそうに痛くなるんですっ、血も出たんですよ」
遥香の話を遮るように貞操具を壊したことを正当化しようとする言い訳が、僚介の口から矢継ぎ早に出る。
ペニスケージの内側で包皮が剥かれた状態で閉じ込められる敏感な亀頭部分の粘膜は、内側の樹脂に常時擦られることで軽い刺激が継続するためにその刺激で無意識な勃起現象が日に何度も起る。
同じ貞操具を装着させられ、日常の業務をさせられている佑樹が、間欠的にミニ勃起を起こして貞操具の先端をカウパー氏液で汚してしまうのはそのせいでもある。
「さて、おおよその事情は判ったけど、この始末をどう着けるかは麻耶さん次第ね」
触診を一旦終えた遥香が麻耶夫人へ夫への処置について問いかけた。
「それは……どうするのが一番いいのでしょうか遥香先生、やはり離婚した方がいいのかしら」
夫の不始末の対処を妻である麻耶に決めさせる過程を踏むことは、フェムドム・カウンセラーとして大切な事柄である。
(ドミナとサブミッシブのポジションを二人に明確に自覚させる良いチャンスだわ……)
遥香はこの展開を二人のフェムドム数値向上のために利用しない手はないと既に確信していた。
「考える時間は充分あるわよ麻耶さん。それよりも先ずは相応のペナルティーを僚介さんに与えることが大切な事よ」
「ペナルティーをですか、先生」
麻耶夫人の曇っていた表情が次第に毅然とした雰囲気に戻り眼が輝き始めた。
「貞操具を壊した罰と許可なく風俗へ通った罰、そして何よりも無断で射精をした罰よ」
(三重のペナルティーだ……これは軽くは済まないぞ)
怖いもの見たさの心の中の期待感が首をもたげてくる。そんな佑樹にスッと立ち上がった遥香が近づいて小声で指示を出し始めた。
「えっ、これからですか」
スパンキングの後に特別な手術をペニスに施す準備を遥香より指示された。
「30分後にできるように準備をお願いね」
「はい、急いで準備します」
いそいそと廊下奥の処置室へ移動した助手の佑樹は手術の準備に取り掛かった。
ーボディブラシとハンブラーー
「麻耶さん、離婚するかどうかの決断はゆっくり検討してもらえばいいわ。勿論、そうなれば契約の罰則通り、僚介さんの二つの睾丸は全摘出になるけれど」
「ああー、そんなの冗談っすよね。そもそも契約だなんて……」
相変わらず、少しおどけた口調で喋る僚介を横に、遥香は無言で壁際のキャビネットから取り出した木製の器具を麻耶夫人の目の前に置いた。
「そういう言葉が出る様では、かなりの荒療治が必要のようね。これを着けさせてもらうわ」
「まあ、先生。それ何かしら、初めて見るわ」
「ふふ。これはハンブラーと言って、睾丸を固定して姿勢を制限するものなの」
聞き慣れない名称が遥香の口からが出てきた。
「ハンブラ……初めて見ますわ」
無垢材で造られた一見、自転車のハンドルの様な形状のその木製器具は、中央から両端まで緩やかなカーブが付けられている。
特徴的なのは、厚みのある二枚重ねの構造になっており、両脇に固定用のためと思われるゼンマイねじのような太いボルトとナットが取り付けられている。
麻耶が何より不思議に思ったのは、二重に重なった中央部分に数センチ程の小さな穴が開いている事だった。
それは何かを挟みこむための様にも見えるが、皆目見当が付かない。
「ふふ、不思議そうね。どんな使い方をするのか今すぐに分かるわよ。あと、これも必要ね」
遥香は同じキャビネットの奥から、ハンブラーと同色の無垢材で出来た柄付きの木製ボディブラシを取り出した。やや短めの柄に厚みのある丸い先端のブラシ部分は、CDやDVD程のサイズだ。
続けて遥香は中央のソファーテーブルをずらすと、壁際に立て掛けてあった折りたたみのパイプ椅子を麻耶夫人と夫の僚介の前に置いた。
「さて、僚介さん、この椅子の座面に腹部を乗せて床に四つん這いになってごらんなさい」
「えっ、四つん這いって、こんな恰好で……それに、それは何ですか」
「すぐ判るわ。早くしなさい」
僚介は院長の遥香がキャビネットから取り出したハンガーの様な器具も気になったが、そんな事より、そろそろ服を着て良いか訊いてみようと能天気に考えていたところだった。
そこへパイプ椅子の上で四つん這いになるように指示された事で、状況を今ひとつ呑み込めず怪訝な表情を見せている。
「僚介さん、私はまだ許していないわよ。先生の言う通りにできないなら、すぐにでも離婚を考えるわ」
「わ、わかったよ……」
妻の麻耶の声音に僚介は、しぶしぶとブラジャーしか付けていない裸体をパイプ椅子の座面に覆い被さるように腰を落とし、四つん這いの姿勢になった。
「ところで、麻耶さん。僚介さんへのお仕置きの時は、拘束をしているのかしら」
遥香が麻耶にスパンキングする際のポーズについて質問してきた。
「えーと、手錠とか足枷の事でしょうか。いいえ、あまりしないですね……」
麻耶夫人は遥香が何を聞きたいのか、主旨が判らず少々戸惑った。
「という事は、基本のポーズを自主的に取らせているのね。それはそれで一番良いことだわ。サブミッシブ精神の育成に効果的ね。でも、スパンキングの回数が嵩むとポーズが崩れてしまわないかしら」
「そうなんです。途中で動き出して、規定の回数が叩けない事もよくあるんです……でも、手錠とか足枷程度だと腰をずらして逃げられるし、縛るのも面倒で……」
事実、乗馬鞭やケインで百回近くもスパンキングすれば、元自衛官の鍛えられた肉体を持つ僚介であっても、激痛に耐えきれず無意識に打擲を逃れようとし、時にはわざと床へ崩れ落ちる事もままあった。
「この道具はね、手足を縛ることなく簡単にスパンキング姿勢の四つん這いポーズを固定させることが出来るのよ」
そう説明した遥香は手にしたハンブラーの両端に付いた丈夫そうなねじ式のボルトを緩めると、パイプ椅子の上で四つん這いになった僚介の尻の間へ手を差し入れて、二つの睾丸の根元を掴み出すように尻の間から引っ張り出した。
「あうっ、何をっ」
突然、後方から二つの玉の根元を引き絞られる感覚に、僚介は仰け反るように椅子の上で上半身を捩じって振り向いた。
「すぐ済むから、じっとしてるのよ」
「うあぁ、そ、それはっ」
引っ張り出された睾丸の根元は緩めた2枚の板の間に挟み込まれ、左右のネジ穴が合わされた。
調度、二つの睾丸の根元がハンブラー中央の小穴に嵌め込まれる形だ。
「さあ、絞めるわよ」
遥香の手で両端のネジが締め上げられ、ブーメランのような形状の二枚の厚板がぴったりと重なった。僚介の睾丸は尻の外へ飛び出したまま、ハンブラーの両端が太腿の後ろ側へ足枷のように食い込み固定された。
「あぅーっ、くぅっ、痛っ」
「ふふ。足腰を動かすとタマが引っ張られて千切れる程に痛いわよ。でも、四つん這いのまま動かなければ、何ともないでしょう」
「あぁっ、ううっ」
装着されたハンブラーの両端は、四つん這いの両腿の裏側にフィットするように湾曲した形状に作られており、少しでも動かそうものなら、中央の穴に固定された睾丸が引き絞られ激痛を引き起こす事になる。
「まあっ、こんな道具があるのね」
僚介の動揺をよそに、ハンブラーの効果を理解した麻耶夫人が感心の声を上げた。
「これは、もともと睾丸のみを打ち据えるハードスパンキング用に開発されたものだけど、使い道は色々あるわ」
遥香は器具について解説しながら、先ほどキャビネットから取り出した入浴用の木製のボディブラシを持つと、豚毛が植えこまれた側でハンブラーから飛び出ている僚介の睾丸を軽く撫で上げてみせた。
「うあっ、そ、そんなっ、玉は打たないでっ、それだけは許してくれっ」
パイプ椅子の上で四つん這いの僚介はブラシのざらざらした毛の感触に慄き、絞りだされた二つの睾丸をふるふる揺らしながら遥香と麻耶に懇願する。
「大丈夫よ。タマは打たないわ。もっとも、このボディブラシで打ち据えたら数回で破裂しちゃうわ」
「あぁ……」
ブラシの毛が更に僚介の尻の表面を撫で上げる様子を見て、興味津々の表情で麻耶夫人が身を乗り出してきた。
「まあ、もしかして、これで叩くのね」
「そう、ただの木製のボディブラシだけどスパンキング道具としては、なかなかの効果があるの。覚えて置いて」
次の瞬間、遥香の手に持たれたボディブラシがびゅっと空を切る音を立てると、ゴム風船が割れる様な破裂音と共に僚介の唸り声にも似た悲鳴が部屋中に響き渡った。麻耶夫人にレクチャーすべく院長の遥香が試し打ちをしたのだ。
ードミナ麻耶の覚醒ー
「ぎゃ、ひぃーっ、くぁーっ、くうう―っ」
1発のスパンキングで僚介の尻には、その激痛の強さを証明するように手のひら大の赤く丸い跡が刻また。
「ブラシの反対側で、こんな風に力いっぱい打ち据えるのよ。インパクトの瞬間、尻肉に押し込める感じにするのがコツよ」
遥香は麻耶夫人に柄を向けて渡すと、2発目のスパンキングを促した。
海外製の入浴用木製ボディブラシはズシリと重いが、いつも使用する乗馬鞭やケインに比べ柄が短い分、座った姿勢でも力を込め易いことを確かめた麻耶夫人は、柄を握る手に力を込めてスパンキングの構えに入った。
ビッシーンと鈍い音を立てて、麻耶夫人による二発目が一発目の丸い痣の隣に炸裂した。
「ぎゃーっ、ぐあっ、ひぃぃーっ」
打ち込まれたその衝撃で右半分の尻朶がブルルッといびつに歪み、のけぞるように身を捩じらせた僚介の悲鳴が上がる。
「ほらっ、続けるわよ、反省させてあげるわっ」
「あぅっ、ひぃーっ」
ビュッと風切り音を立てて三発目が隣の尻朶に命中し、再び肉が飛び散る様な鈍い破裂音が診療室全体に響き渡る。
「ぐあうっ、ひぃーっ……ま、麻耶さん、き、効くっ、も、もう止めてっ」
木製のボディブラシのサイズと重量が麻耶夫人のスイング動作にマッチしたのか、僚介の尻肉を歪ませる程の衝撃が的確に与えられる。
「麻耶さん、いい音させるわね。ケインを教えた時もそうだけど、スナップの効かせ方が相変わらず上手だわ。チェロの弦捌きと似ているかしら」
「い、いえ、先生、そんな、全然違いますわ。でも、これって本当に持ち易くていいですね」
遥香に褒められ照れた麻耶だったが、気を良くしたのか続いて三発目、四発目を容赦なく夫の僚介の双臀に炸裂させ、大殿筋の発達した形の良い左右の尻の丸みを真っ赤に腫れ上げらせていく。
「くぁっ、うぅっ、ぐあっ、ひぃーっ」
普段のスパンキングとは比較にならない程の激甚な痛みに、僚介は四つん這いの身を大きく捩り逃げようとするが、睾丸の根元を嵌め絞るハンブラーが下半身の僅かな動きに合わせて絶大な効果を発揮する。
「ぐうっ、くくーっ、あうぁっ、いぃー痛っぅ」
妻の強烈な尻打ちから、少しでも躰をずらそうと動く度に睾丸がハンブラーで強制的に引き延ばされ、非情の痛みが僚介を襲う。
「ほら、あんまり暴れると睾丸が千切れちゃうわよ」
尻打ちされている僚介に横から遥香が声を掛ける。
「あ、そうか、なるほど。ハンブラーの意味が良くわかりましたわ、先生」
ようやく麻耶夫人がハンブラーの効果を理解し始めた。手錠や足枷をして大げさに拘束をせずとも、単純な構造のハンブラーによって、スパンキングに適した姿勢を固定させられる事に麻耶は感心した。
真っ赤に腫れ上がり始めた僚介の尻肉へ、続く十発目が打込まれた。
「ぐあっ、ひぃぃーっ、も、もうっ止めてっ、許してくださいっ」
一打一打、回数が増えるにつれ痛みは耐えがたいものになっていき、6発目あたりからは打たれる度に、悲鳴と共に口から涎と泡を吹き出している。
「まだダメよ、僚介さん。たった数発じゃないの。まだ反省してないでしょ」
涙と鼻水と唾液でぐしゃぐしゃの顔で全身脂汗まみれの躰を震わせながら、妻の麻耶へ許しを乞う僚介に対し、無慈悲なスパンキングが尚も続く。
「うがっ、ひぃぃーっ、は、反省しましたっ、だ、だからもうっ、止めてっ」
双尻の間からハンブラーで絞り出された二つの睾丸をブルブル揺らし、悲鳴混じりで懇願する僚介をよそに、二十発目の重い破裂音が部屋に響き渡る。
麻耶夫人の顔が赤らみ、額にも薄っすらと汗が滲み出し始めている。
通常の尻打ちに使用されるケインや革製の乗馬鞭と違い倍以上の重量がある木製ボディブラシでのスパンキングは、打つ側にもそれなりの筋力と体力が要求される。従って、慣れていないと数発も打てば疲れてしまうデメリットがある。
ある意味、この効果的なボディブラシでのスパンキングは、フェムドム・ライフに於いて主人としてのミドナである立ち位置を自覚し、服従者を従わせる意欲が試されるものでもあるという側面があった。
木製ボディブラシを勧めた院長の遥香は、麻耶夫人に対し、効果的な尻打ちはスパンキングをする側にも、それなりの負荷があり精神的な強さが必要になることを伝えたいという意図があった。
それはドミナとして単に痛みを与える行為
のみで相手を刹那的に蹂躙したいという表層的な心理とは違う、愛情という深層心理を引き出し昇華させる事であり、遥香が一番伝えたい部分でもあった。
「ぎゃーっ、くうぅっ、ぐうっ、あうぅ」
ビュッと数十回目の風切り音が鳴り、麻耶夫人の右手で振るうボディブラシが僚介の尻に命中する。
ハンブラーによって四つん這いの姿勢で自由を奪われ、両のこぶしを握り締めて耐えて続ける僚介の背中全体には、いつの間にか玉のような汗を噴き出している。
赤く腫れあがった尻には、既に無数の赤黒い丸い痣が重なり、尚もリズミカルにその上へ重ねるようにビッシーンと派手な音を響かせ、ボディブラシの円形のヘッドが振り降ろされてゆく。
「あぐぅっ、ひぃーっ、も、もう許して、許してくださいっ」
「ほらっ、まだよっ、許さないわっ」
最初のレクチャーで院長の遥香から、くれぐれも手前に飛び出ている睾丸は叩かないように注意されたが、興奮して打擲の手に力を込めれば込める程、目の前の二つの膨らみを叩き潰したい衝動に駆られる。
そんな気持ちを抑えながら、四つん這いの姿勢で悲鳴を上げている夫の尻へ、更なる一打を振り上げる時、麻耶夫人はこれまで経験したことの無い、爽快感に似た不思議な感覚が心の奥底から沸々と湧き出てくるのを感じていた。
(ああ、何かしら、これって……でも、ここち良いわ……、夫を裸にして尻を打ち据える行為が、こんなに気持ち良かったなんて……)
そんな思いが麻耶の心に改めて純粋によぎった。
(ああ、打つごとに僚介が永遠に私だけの物になっていく気がするわ……)
「ぎゃーっ、くぁっ、ぐうぅーっ……ゆ、許してっ、麻耶さんっ、もう二度としませんっ、言うこと聞きますからっ、も、もうっ」
僚介は今、改めて自分のこれからの人生を妻、麻耶のサブミッシブ(服従者)として捧げなければならない事を真に悟った。
四十発目が打ち込まれ、半開きの口元からだらしない涎を垂れ流したままの僚介は、こうべを垂れてぐったりと動かなくなった。
「かなり堪えたみたいだから、これで許してあげてもいいわ僚介さん。もう、私を困らせないこと約束できるわね」
「うぅっ……」
麻耶夫人に顔のそばで囁かれ、僚介はううっ、ううっと首を縦に振っている。院長の遥香は、それを横で見守るように眺めていた。
激しいスパンキングが一段落したタイミングでノック音と共に半開きのドア越しに助手の早川佑樹が顔を出した。
「あの、手術の準備は整いましたので、どうぞ」
麻耶夫人のスパンキングがそろそろ終わる状況を見計らって、ドアを開けた佑樹の視界に血を滲ませ赤黒く腫れ上がった僚介の双尻
が入ってきた。
「わかったわ。すぐ行くから向こうで待機していて」
「はい。わかりました」
一瞬、佑樹の視線が僚介の尻に取り付けられているハンブラーに奪われた。
(あぁっ、あれは……)
僚介の尻の下から二つの睾丸が絞りだされ充血してフルフル揺れている。初めてハンブラーの使用状態を見た佑樹は遥香へ生返事を返すほどのインパクトを受けた。
(あんな風に使われる道具だったのか……睾丸があんなに飛び出してる)
ここへ研修へ来てからキャビネットに入っていたハンブラー自体は何度も見ていたものの、佑樹にはそれがどのように使用される物なのかまったく見当が付かなかった。
たった今、ゴム毬のように搾り出された剥き出しの睾丸の状態を見たことで、佑樹は一瞬にその用途を理解することができた。
(まさか……あの状態で睾丸を打ち据えられたら……)
何の変哲もないような木製の器具の恐ろしい用途に佑樹は身震いするような戦慄を覚えた。
「ううぅ……」
「奥様のお仕置きは、かなり堪えた様子ね、僚介さん」
院長の遥香はぐったりと四つん這いになっている僚介の後ろに回り、睾丸を絞り上げているハンブラーのネジを緩め外し始めた。
「あのぅ、何か、すっきりしましたわ、遥香先生。ボディブラシって重いけど、打ちやすいんですのね」
麻耶夫人の顔が心無しか来た時よりも晴れやかになり、声も柔らかい。
「そうね。少し重いけど気に入ったかしら。今度は麻耶さんの膝の上に乗せてスパンキングするといいわよ」
「まぁっ、膝の上ですか先生。子供の折檻みたい」
遥香の前で麻耶夫人の笑顔がこぼれる。
(ふふふ。スパンキングが愛情へ昇華する域に達してきたようね。今日で二人のフェムドム度はかなり上がったわ)
歯を食い縛りながらスパンキングを最後まで耐え抜いた僚介の態度と、真摯にボディブラシを振るった麻耶にフェムドム・カウンセリングが進展した事を遥香は確信した。
そして今後の二人のフェムドム・ライフに問題が起きないように新しい貞操具の装着を実施することにしたのだった。
ー仕上げはピアス式永久貞操具ー
院長の遥香に促され、診察室のドアを出た望月夫妻は廊下を進みスライド扉の処置室へ案内された。
夫の僚介は麻耶のボディブラシによるスパンキングで腫れ上がった尻の激しい痛みでパンツが履けず、下半身を剥き出しのまま移動を余儀なくされた。臀部に簡易処置で貼られた特大の消炎パッドが滑稽にどことなく滑稽に見える。
「こちらへ、どうぞ」
カウンセリングで使われたリビング調の診察室より半分ぐらいの広さの処置室は、壁の上部全体がブルー調の照明になっており隅々を照らす薄青い光が無機質な印象を受ける。
先に入った助手の佑樹が手術用の白いキャップを被り、手術台を白く照らす天井から伸びた円形のLED照明の下でカチャカチャと器具を確認していた。
「用意はOKかしら」
「はい、院長。すぐ始められます」
院長の遥香が、これから行われる処置について改めて説明し始めた。
「先程、奥様から了解を得たのだけど、一応僚介さんにも説明すると、これからペニスへ特製貞操具のための刺環処置をします」
「えっ、あ、あの刺環って……」
「ピアッシングの事よ。そんなに大げさな手術ではないわ」
「えぇっ、まさかっ、そんなっ」
処置室へ連れて来られたのは、激烈なスパンキングで熱を帯びて真っ赤に腫れ上がっている尻への治療をしてもらえるのだろうと考えていた僚介は、状況が呑み込めずに唖然とした。
「僚介さん、あなたに新しいタイプの貞操具を着けてもらうのよ」
「あ、新しいって、どんな……それに、ピアッシングって」
「一生外せない貞操具よ。私以外はね」
妻の麻耶の口から僚介にとって疑いたくなるような様な言葉が出る。
「い、一生って……まさか、冗談だろ」
「ふふ、嘘じゃないわよ。ちょっとした手術が必要みたいだけど」
助手の佑樹が手術台の固定ベルトの位置調整を終えると、おもむろに僚介の肩ごしから患者用の手術エプロンをふぁさっと掛け、手術台の中央へ仰向けに乗るように促した。
「さ、僚介さん。今、奥様から聞いた様に、これから着ける貞操具はチタン合金製のPAタイプという特別なものよ」
妻の意向である事を遥香から説明され、同時に手術用具のトレーから滅菌包装に包まれた鋼色の貞操具を魅せられた。
「えっ、チタン製……」
「通常は樹脂製貞操具の次の段階では、ステンレス製のビキニタイプ貞操帯を装着するのが約束なんだけど、さっき麻耶さんと話してこれに決めたのよ」
僚介の目の前に差し出された、やや黄銅色がかった金属で造られたそれは、小ぶりだが厚みのあるペニスケージの造りから、恐ろしく堅牢に造られていることが想像できた。
更によく見るとペニスケージの先端付近に環ピアスが付いており、特殊な構造になっている事がわかる。
「ああーっ、こんなっ、ピアスなんて嫌だ。いままでのプラスチック製でお願いしますっ」
僚介は天井のLED照明の光を反射して輝く、新しい貞操具に狼狽を隠せない様子で騒ぎ始めた。
「あら、あなたったら、プラスチックじゃ直ぐに壊しちゃうじゃない。だから永久タイプの貞操具を遥香先生に用意してもらったのよ」
麻耶夫人が僚介に充分に検討して選んだ貞操具であることを説明する。
「え、永久って……」
「そうよ。私の許可がなければ、一生涯外す
ことのできない特別な貞操具よ」
麻耶の言葉に困惑して手術台の前で足をすくませる僚介に遥香が急かすように白いマット指をさして指示をする。
「さあ、僚介さん。早くそこへ仰向けに寝てもらえるかしら」
「さ、どうぞ。ここへ腰掛けて下さい」
助手の佑樹が手術台へ寝かせようと僚介の腕を引いて腰掛けさせようとする。
「あぁっ、な、なにをっ……あうぅっ」
尻の痛みのために、すんなり腰掛ける事がままならない僚介は一度マットの上に着いた臀部を持ち上げて中腰になった。
「い、痛くて、仰向けなんかになれない」
「まあっ、お尻の痛みなんて少し我慢できないの。だらしないわね僚介さん」
僚介の渋々とした動きに妻の麻耶がいら立ちを見せ、院長の遥香も同調し始める
「僚介さん。マットに上がれないのなら、そこで立ったまま手術よ。それでいいわね」
「あぁっ、そんなっ」
二人のエスカレートしてゆく雰囲気に、僚介に対して同情したのか傍らで待機する助手の佑樹が、腫れ上がっている尻に負担が掛からぬように手術台の上へ手を貸した。
「あぅっ、うぅっ……」
(熱い……尻がこんなにまだ熱を持ってる)
今日の昼間、自分自身も院長によるスパンキングで疼いている尻のまま業務に着かされている佑樹は、僚介の尻の熱さに他人事ではない感傷を感じたのだった。
「念のため、固定バンドをします」
手術台の上に乗せられた僚介は、佑樹によって仰向けに寝せられ、更に両手両足をそれぞれの両袖に備え付けられたベルトで手早く固定された。
「さあ、準備が整ったようね。尿道口の浅いところにピアッシング用の穴を開けるだけだから、すぐ済むわ」
「ああぁ、ピアスなんて嫌だ、そんなっ、やめてくれっ」
括りつけられ抵抗できない躰を揺すりながらピアスとは言え肉体改造されるという、一抹の恐怖に僚介は声を上げて取り乱した。
「僚介さん、往生際が悪いわよ。たった今、私に誓ったんじゃないの、言うこと聞くって」
取り乱した僚介の耳に妻、麻耶の声も素通りしていく。
「あぁーっ」
僚介の懇願をよそに遥香の手により刺環手術が淡々と始められた。
「貫通位置を決めやすいように、軽く亀頭を勃起させるわよ。大きくさせる刺激の与え方は同性だからわかるわね」」
「はい、大丈夫だと思います院長」
手術の前処置として助手の佑樹へ僚介のペニスを固く膨張させる様に指示を出した。
「僚介さん失礼します。軽く充血させますね」
佑樹の指が僚介のペニスを挟む様に摘まみ、亀頭のカリ首辺りから上部をきゅっきゅっと往復して揉み始めると、萎えていた肉棒は同性の手による刺激にもかかわらず瞬く間に勃起状態にさせられた。
「あっあっ、うふぅっ」
「いい感じね。そのままキープよ」
頃合いを見計い亀頭の裏すじ周辺へ血行促進成分入りの薬液ゼリーが遥香の手によってたっぷり塗り込められ、更にペニスの根元へ止血用のゴムチューブが巻きつけられた。
「あうっ、ううっ、きついっ」
遥香からプリンスアルバート方式というピアス手術を施すと説明を受けていた麻耶夫人
は、一歩後ろから一部始終を興味深げに見ていたが、本格的な出血を伴う手術が始まる気配に口を開いた。
「あの、遥香先生。わたくし廊下に出ていた方が良いかしら」
耳にピアス穴を開ける程度の簡単な処置とは違い、助手の佑樹による亀頭マッサージと血行促進ゼリーでたっぷり充血させた海綿体に肉穴を開けることを想像すると、それなりに大掛かりな手術なのだろうと素人ながらに察した麻耶は遠慮がちに遥香に訪ねたのだった。
「あら、簡便な手術だから別に大丈夫よ。多少は出血するけど嫌じゃなければ、むしろ、ピアス穴の位置を覚えてもらうのに、そこに座って見ていてもらった方がいいわ」
コクリと首を縦に振り、理解の顔を見せた麻耶夫人に遥香は持ち手に細い電気コードが伸びたアイスピック状の器具を見せた。
「貫通の傷を早く塞いで出血を抑えるため、専用のレーザーニードルを使うから僚介さんには少々痛みを味わってもらうけど、我慢してもらうわね」
「ええっ……すぐにやるんですかっ、あ、あの、先生っ」
「何かしら、僚介さん」
不自由な躰を身悶えさせて、僚介が不安そうに遥香に向かって声を上げる。
「あのっ、麻酔とかはしないんですかっ」
「あら、そうよ。麻酔なんかしたら勃起しないから使わないのよ。ものの数分だから麻酔をする程じゃないわ」
「えぇーっ……そんなぁ」
「それに、ピアス穴を開けたらすぐにその貞操具は嵌めてもらうから、痛みで下手に動けない分、傷口が広がらなくていいのよ。後で痛み止めは注射してあげるけど」
(……ピアッシング直後に貞操具を嵌めさせるなんて、さすがに先生も厳しいな……)
他人事ではあるものの手術の直後に、この重厚な金属で造られた貞操具の装着を宣言された僚介に、佑樹は多少の哀れみを感じていたが、何故か数ヵ月間嵌められっぱなしの貞操具の先端がまたも、じくじくと濡れだすのをはっきりと感じていた。
ー銀色の刺環と鮮血とー
「さあ、ちょっと痛いわよ。動かないで我慢してね、僚介さん」
次の瞬間、遥香の手持つ穿孔用レーザーニードルの鋭い先端が僚介の尿道口に突き刺さり、カリ首の裏すじ辺りから鮮血を伴って刺し貫かれた。
「ぎゃっ、ぎいゃーっ、うううーっ、くっひぃーっ、いひーっ」
手術台の上で喉が潰れそうな叫びが吹き上がった。スポットライトに照らし出されているペニスはアイスピック状の器具で無残にも串刺しにされ、貫通している。
「あぅーっ、ううっ」
激しく左右に首を振り、マットの上で仰向けに固定されながら悶絶する僚介の背中に貼りついた手術台の座面は、噴き出した夥しい汗でヌラヌラと輝いている。
数秒後、尿道口から微かな肉の焼ける臭いを漂わせるレーザーニードルが抜き取られると、ペニスの先端から真っ赤な鮮血が滴り始め、白い手術台のマットに小さな血だまりを作っていった。
「うううーっ、くぅーっ」
「直ぐに血は止まるわ。元自衛隊員で鍛えた身体なのだから、少々の痛みくらい平気でしょ」
遥香の言葉に僚介は歯を食い縛り、絶え間ない痛みに耐えている。
(あぁ……麻酔無しは痛いよな)
院長の遥香がわざと麻酔をせず、処置を強行した理由はお仕置き以外の何物でもないと助手の佑樹は研修医の立場から悟っていた。
「あはは。僚介さん、自衛隊にいた頃とは違って堪え性が無くなったわね。でも、それも罰よ、我慢してね」
途中、処置室から出て中座しようとした麻耶夫人だったが、脂汗を滝のように流しながらペニスにピアス穴を開けられて悶絶している夫の僚介を見て可笑しそうにしている。
「さあ、穴が狭まらないうちにピアスを通して永久貞操具を装着するわよ」
遥香が手術台に固定されたトレー皿の上から滅菌袋を手に取り無造作に破くように開けると、中から手のひらに隠れるサイズの半円状の金属部品が出てきた。
「これがペニス用のピアスよ。当分の間、ゲージの太さは6でいいわね。傷が塞がってきたらもう少し太くするわよ」
男性器の最も敏感な陰核の裏側に麻酔なしのピアッシングを受け出血の疼くような痛みに喘いでいる僚介には、それが何をする物なのか考える余裕もなかった。が、数秒後にその痛みの中心に焼ける様な激痛が走り、遥香が手にした金属が何を意味するものなのかを身を持って知った。
「ぐあっ、ひぃーっ、くっ、ひぃーっ」
刺環手術で開けられた肉穴にピアスパーツが強引に押し通され、天井へ悲鳴を上げた。
「ふふ。調度良い具合の位置に開いたわね」
「あぁっ、うぅ……」
貫通させた亀頭の裏スジ付近から尿道口へ縫うように通されたピアスパーツの先端は、僚介のペニスえぐるように鈴口から飛び出た状態に収まった。
「あうぅ、うぅっ」
太さ四ミリ程の銀色のピアスで拡げ割られた鈴口の端から、一時止まり掛けていた鮮血が再びポタリポタリと滴り落ち始め、助手として立ち会う佑樹の見ている前で手術用の滅菌ガーゼを赤く染めてゆく。
(ああ、貞操具を着けるのにこんな手術までされてしまうなんて……)
悲愴な光景を目の前に佑樹はピアッシングの痛感が間接的に自分の股間にもに伝わって来る気がした。股間の貞操具の中へ窮屈に閉じ込められているペニスの先からドクッと何かが漏れる感覚を覚えた。
「早川さん、次はOリングと本体を着けるわよ。ぼーっとしてないで出血を清拭して」
「あっ、はい、すみません」
ふいに遥香から叱咤されて佑樹は慌てて血まみれになった僚介のペニスを綺麗に拭き上げ、根元に巻かれていた医療用ゴムチューブを外し金属製貞操具の本体を滅菌袋から取り出して遥香へ手渡した。
喘ぐ僚介に重厚な金属のペニスケージとやや厚みの薄いOリングが手早く被せられ、血を滴らせながら肉茎を貫いている半月状のピアスの裏スジ側がロックピンで連結された。
「仕上げは専用の精密キーで締めて装着完了よ」
カチャカチャと冷たい金属音の響きに、壁際の長椅子に腰かけて様子を見ていた麻耶夫人が立ち上がって寄って来た。
「終わりましたの、遥香先生。見てもいいかしら」
「ええ、どうぞ。今、仕組みを教えるわね」
手術台の僚介の股間には、金属の冷たい輝きを放った新しい貞操具が装着されていた。それは、これまで装着させていた樹脂製の貞操具とはまるで違う、まさしく鉄の鎧を想像させる堅牢な外観だ。
「まあっ、これがそうなのね」
麻耶夫人が、顔を近づけてまじまじと見ていると院長の遥香が説明を始めた。
「尿道口に飛び出てるピアスは、ここの特殊ロックピンで固定されているわ。同じくペニスケージとOリングのジョイントにも特殊ネジが使われているの」
喋りながら遥香は、僚介の股間に手を伸ばし、取り付けた厚みのある金属製ペニスケースを持ち上げて見せた。
「あら、キーロックじゃないのね。また外してしまわないかしら」
ネジ穴に極小の二重の丸溝があるだけの小さなジョイントは、これまでの錠前タイプからすると一見、簡易的な構造に見える。セキュリティに不安がよぎった麻耶夫人は夫の股間に装着された新しい貞操具を興味深そうに見つめながら質問した。
「心配はいらないわ。そのジョイントは、これがなければ開けることは出来ないわ」
遥香が麻耶夫人の前に二個の小さなT字型のクランクを差し出した。
「へー、はじめて見るタイプの鍵だわ」
手の平に載せられたそれは、小さな溝が幾重にも精巧に加工されており、精密機械の部品のようでもある。
遥香の説明によると、僚介のペニスに貫通させたピアスとペニスケージを連結させている極小のジョイントは特殊なネジ構造になっていて、この専用のクランクキーを交互にさし込まなければ解除出来ないとの事だった。
一ミリにも満たない幅で外側と内側に切られた丸い二重の溝は別々の専用のクランクキーを挿し込んで回すように造られており、一個のキーだけでは外すことは出来ない構造になっている。
「その解除用のクランクキーは、最新の工作機械で精巧に削られていてスペアは造れないの。それだけしかないから、失くさないようにね」
「まあっ、そうなんですね」
麻耶夫人は不思議そうに遥香から渡された二種類の解除用キーを見ている。
「外すこと、あるかしら」
麻耶の冗談交じりの言葉の横で夫の僚介は、股間に装着された新しい貞操具に顔を向け、慄いた表情で呻いている。
「あぁ、ううぅ……」
麻酔なしでピアスを通されたペニスの焼けるような痛みと、ボディブラシのスパンキングで腫れ上がった双尻の二重の痛みに苛まれながら、僚介は股間に嵌め込まれた銀色の貞操具を目をパチパチと瞬かせて見ている。
「もういいわよ。手術台から降ろしてあげて早川さん」
遥香の指示で助手の佑樹が僚介を固定していた両手足の拘束バンドを外しに掛かり、手術台のマットから抱き起こされた。
「あうっ、いっ、痛ぅーっ……」
起こされた際の摩擦で腫れた臀部が鋭く痛み、呼応するかのようにペニスの先端には鈍器で叩き潰された様な激痛が走る。
起こされた僚介は、自分のペニスに肉穴を開けられ装着された、禍々しいピアス式貞操具を改めて見詰めた。
壊した樹脂製貞操具に比べ外観はコンパクトだが、ペニスケージの厚みはまるで鉄の檻のごとく堅牢な造りであることが一目で分かる。僚介は何か途方もない不安に襲われた。
「うぅ……こんなぁ」
院長の遥香はそんな僚介に術後の注意を伝え始める。
「化膿止めの薬を出して置くけど痛みが引くまで3、4日かかるわ。それと雑菌が入らない様に着けたまま毎日洗浄するのよ」
「洗浄って、着けたままでなんてっ……それで傷口が塞がるんですかっ」
僚介は傍らの助手の早川佑樹にも焦燥した顔を向け、心配そうに訴えてきた。
既に装着を終えた僚介の貞操具の先端のスリットからは、太めのピアスが鈴口より飛び出しているのが見える。
確かに手術直後の傷口にピアスを通す院長
の処置は、考えてみればあまりに乱暴にも思えたが、不思議と出血が治まっている状態を再確認した佑樹は、遥香が意図的に太めのピアスを通し、止血効果を狙ったものだと理解した。
「ええ。ちゃんと消毒を怠らなければ、すぐ治りますよ」
佑樹はそう応答した。他人事ではあるが、
ここに居る限りいつかは自分の股間に装着されている貞操具もこれに換えられるのだろうか……。そんな心配を頭の隅によぎらせる佑樹の横で、僚介は院長の遥香から傷パットが痛々しく貼られた尻朶に化膿止めの注射を打たれている。
「尻は二日程度でよくなるわ。ペニスはこまめにシャワーで洗浄して消毒するといいわ」
遥香は麻耶に僚介のペニスの傷口洗浄について指導し始めた。
「あの、先生、洗浄って本当にこのクランクで外してやらなくていいのかしら? 」
「外す必要は無いわ。貞操具ごと消毒液につけると簡単よ。後で消毒液と容器を用意するわね。最初のうちは傷口が染みて痛がると思うけど、慣れてもらってね」
遥香は続けて麻耶が洗浄する際は、両手の拘束はするように念を押す。
「傷口が塞がってきたら、洗浄液に切り替えて専用ポンプを使えば、水流で恥垢も洗えるから、ずっと外す手間はないわ」
「じゃあ、この貞操具は定期的に取り外してのペニスクリーニングは、特にしなくてよろしいのね。早くこれを着けて欲しかったかも」
麻耶はこれまでも几帳面な性格から、僚介のチャスティティ管理を忘れることなくしっかりと行っていた。
フェムドム・カウンセリングによれば主導権を持つ女性がパートナーである男性の性欲を管理するのは義務であり、当然その中には性器の状態管理も含まれるとされている。
これまでの樹脂製貞操具は、最低十日に一度のクリーニングが必要とされていた。この作業が案外、面倒な行事であり、先のクライアントである榎萊美子のように放置してしまうケースも多々あるのも事実だ。
夫の股間へ今、新たに装着されたピアス式の堅牢な貞操具は、そんな煩わしさを解放してくれる器具だと理解した麻耶は気持ちを楽にさせた。
「ペニスケージのサイズは僚介さんの半勃起
状態に合せてあるから、先ずはピアスと重さに慣れることね。今までよりコンパクトな分着け心地は良いはずよ」
遥香の説明ではミクロン単位で表面の凹凸が研磨された極限加工になっており、性器になめらかにフィットし日常生活からスポーツまで問題なくこなせるという事が加えられただ。
「あら、着け心地がいいって。よかったわね僚介さん」
半ば観念した様子を見せる夫の僚介に向けた麻耶の声に何時しか張りが戻り、同時にその柔らかい右手が股間の痛みに震える僚介の手の上に置かれた。
「ああっ、麻耶さんっ、でも時々は外してくれるんだよね……」
「そうね、あなた次第よ僚介さん。今は外すことは考えられないわ」
「なんなら、メンテナンスフリーでこのまま一生着けさせて生活させられわよ、麻耶さん」
僚介の甘えを完全に断ち切らんばかりの遥
香の言葉が割って入る。
「まあっ、ずうっと一生なんて……うふふっ、それもありかも」
遥香の言葉に呼応して夫、僚介に言葉を投げる麻耶の表情に軽く笑顔が見え隠れする。
「この合金はハイテン材だから、プレス機や切削機械にでも掛けない限り、破壊する事はまず無理よ、解除も2個のクランクキーが揃わなければ100%出来ないわ」
続けて、遥香の口から、強制装着されたプリンスアルバートピアス式金属貞操具の剛性や堅牢性の説明がされた。
傍らで見ていた佑樹は、以前に遥香から聞いていた永久タイプの貞操具が存在するという言葉を思い出していた。
(あぁー、一生涯用ってこれのことなのか……なんて貞操具なんだ……)
「もう、壊せないわね。私が許可しないと自分のペニスに触ることも不可能よ僚介さん」
「あぁ、本当に、これで生活させるのか……」
「そうよ、自業自得でしょ。念のためにクランクキーは先生に預かってもらうことにするわ。だから、早く慣れてね」
「そういうなら、こちらで鍵はお預かりするわ。僚介さん、辛い時は妻の麻耶さんに頭を下げて、ここへ来ることね」
「くぅーっ、そんなぁ……」
(あの太いピアスを外さなければ、貞操具は解除出来ないのか……)
僚介の新しい貞操具の先端から飛び出たピアスをまざまざと見ながら、佑樹は永久貞操具の恐ろしさを改めて知った。
二人の会話の通り、ペニスを貫く形で装着されるピアス式貞操具は、見るからに肉厚の重厚な金属光を放ち、恐ろしく頑丈な造りに仕上げられているのが分かる。
中太のピアスは裏スジ中央から尿道を貫き、僚介のペニスの鈴口から飛び出る形でロックしているため、専用の鍵なしでは本体ごとペニスを引き千切るぐらいしか外す方法は無いだろう事も一目で想像がつく。
つまり、鍵なしで外すには、性器に甚大な損傷を与える手段しか選べないという事だ。
「ふふっ、あなたの事だからきっと、何とかして外そうとするわよね。自分の立場を身を持って分からせる迄、当分の間、一切の解除もしないわ」
「当分の間って……」
「最低、半年。ううん、1年かしら。その間は完全放置よ」
「あぁーっ」
僚介の喉から落胆の嗚咽が低く滲むように洩れた。
「あらあら、大変ね、僚介さん。もう二度と貞操具を壊す事など考えないことね。まあ、ペニスを切り落とす覚悟があれば自己解除も可能でしょうけど」
(ああ、なんて残酷な仕打ちなんだ……この人は耐えられるのだろうか……)
傍らで待機している佑樹にも、目の前でうな垂れた表情で佇む僚介の心苦しさが手に取るように理解できた。
「じゃあ、早川さん。後片付けをお願いね」
「はい。わかりました院長」
二人に術後のフェムドムコーチングと言えるべきインフォームドコンセントを一通り伝えた遥香は、以降を助手の佑樹に任せて手術室をあとにした。
手術台の横では悲哀の翳りを全身に漂わせた僚介が、もそもそと身支度を整え始めている。その脇で気分を取り戻した妻の麻耶の僚介を見る可笑しそうな、それでいて愛おしそうな表情が印象的だ。
背の高い妻の麻耶が夫の尻を軽く押すようにして、そのうち二人は手術室を出ていった。
佑樹にとって一つだけ不思議だったのは、尻を押した麻耶の手を僚介の手が強く握り締めるように離さないことだった。
ー「フェムドム」愛のかたちー
手術室で後片付けしながら、助手の早川佑樹は今後の望月夫妻がどのような日々を送るようになるのか考えていた。
午前中の榎カップルと、今しがたの望月夫妻に実施された二件の診療を目の当たりにしたことで、ここ葉沢FDクリニックでは、女性優位の認識と価値観を浸透させるために往々にして医療的常識が無視されるという事実を再確認したのだった。
国内唯一のフェムドムカウンセリング専門の臨床現場で、院長の葉澤遥香の提供するそれは、心療分野でポピュラーに実施される行動認知療法的な手順を踏んではいるものの、痛みや苦しみを伴う賞罰の履行を表裏一体のセットで進行させてゆく。
その方向性はある種の嗜虐性を孕んでいる。
ふと、佑樹は夫の僚介が妻の手を握り返していた光景を思い出し、その時の彼の心情を改めて想像した。
(彼は結局、あの状況を望んで受け入れていたのかもしれない……)
僚介にとって本日の受診は、妻を裏切った行為が白日の下にさらされるに至った想定外の悲惨な展開となった訳だが、今にして思えば、あの過酷とも思える永久貞操具を装着される事態に対して、強い拒絶反応を見せたわけでもなかった。
あの僅かな時間の中で僚介は、事ここに至り、自分を切り捨てて遠ざかろうとし始めた妻の麻耶に対して苦悩した結果、遥香の提案を甘んじて受けたことで、状況の更なる悪化を防いだのかもしれない。
僚介のその選択は、結果的に自身の肉体に麻酔なしで穴をあけられ、激痛の悲鳴を上げながらサブミッシブとしての人生を決定付けるに至る永久貞操具を装着されることになった。
しかし、妻である麻耶の手がペニスの痛みに耐えて震える僚介の手に触れてきた時、彼は自分に対するフェムドムとしての妻の愛情を確信したのだろう。
佑樹はそんな結論に達した。
(冗談抜きで彼は本当に一生涯の装着になるのかも……まさかな)
佑樹は改めて、自らを伝道師「フェムドムエヴァンジェリスト」と称する院長の葉澤遥香の論理と実践が、その嗜虐性さえも甘受させる卓越した技法を有しているという事実を理解した。
それは甘い蜜の味を初めて口にした時の洗脳されるような感覚に近いと佑樹は思った。
(いずれ自分の股間にも、あんなような永久タイプの貞操具が嵌め込まれるのだろうか……)
もしそれが自身に本当に起こったら、そう思った瞬間、全身に鳥肌が立ち始め佑樹は心の中で慌てて否定した。が、そんな気持ちとは裏腹に、ペニスケージの中で亀頭がまたもビクンと疼く感覚に襲われた。
ー研修装着は継続されてー
待合室の窓口で支払いを済ませ帰って行った望月夫妻を見送った佑樹は、本日の診療内容をカルテにまとめていた。院長の遥香は既に帰宅している。
時刻は午後七時を過ぎていたが、夏至が過ぎて間もない空はまだ薄明りを纏っている。
たった今、先刻帰っていった望月夫人から
問い合わせの連絡があり、診察室で夫へのスパンキング時に使用したハンブラーについて新しく装着した貞操具を着けたままでも使えるのかと訊ねてきが、佑樹は知識不足を詫び、改めて院長より直接連絡させる旨を伝えてやり過ごした。
(ううっ……)
戸締りの準備をし始めると、一時治まっていた昼間スパンキングを受けた尻が鈍く痛み出した。そのズキンとする鈍痛に合せて亀頭あたりにも疼きが走る。
帰り際に股間に嵌め込まれた貞操具のクリーニング開錠は尻の腫れが落着く二週間後と言い渡されている。
(あぁ……痒いっ)
透明なペニスケースの内側は、既に見えない程に恥垢で白く汚れ切り、日に何度も掻きむしりたい程の強烈な痒みに襲われ、都度、我慢しなければならなった。
榎萊美子の婚約者が半年越えの射精管理に悶え狂っていた状況に比べれば、まだほど遠いが、佑樹の股間の貞操具は装着されてから丸三ヵ月が過ぎようとしていた。
「あのっ、は、遥香先生っ、も、もういい加減に貞操具は許してもらえないですかっ……」
小一時間前、帰り支度を始めた院長の遥香に佑樹は思い余って懇願した。
痛烈な痒みと並行して、性欲はピークに達したままの状態で毎日が経過している。特に就寝時と明け方には限界だと思うほどの射精欲求が嵐のように襲って来ていた。
そんな佑樹の生理的状態を楽しんでいるかのように、遥香は軽く微笑みながら返事をする。
「出したいし、痒くてたまらないでしょうけど、まだまだ頑張って辛抱してね。チャスティティ療法の効果をしっかり体験するいい機会よ」
「ああ、そんな……」
遥香は佑樹に軽く告げると、さっさと身支度を整えクリニックを出ていってしまった。
思えば四月にここへ研修医として着任して以来、フェムドムカウンセリング臨床を理解するためチャスティティ療法についての座学と実践に明け暮れる日々が続いている。
フェムドム専門の心療を提供する施設として国内唯一の葉沢FDクリニックでは、男性は例外なく初診の段階で剃毛を施された後に樹脂製の貞操具を装着されて射精管理が始められ、受診者は生れてはじめての異質な拘束感にショックを受ける。
初期段階の貞操具はプラスチック材質の初心者向けのタイプだが、日頃自由に触れることのできた自身の性器が窮屈な器具に閉じ込められ、更には根元を括るリングとペニスケージにより、生理的な無意識の勃起反応は容赦なく締め上げられ、特に毎朝の勃起現象時には激痛を呼び目を覚まさせる。
射精を禁じられたことで年齢的な差はあるものの、その後の経過とともに精液が睾丸を膨らませ、否応なしに射精願望と性的欲求がピークへと向かう。更には、恥垢で蒸れたペニスのじっとしていられない程の痒みに耐えることを強いられる。
受診者の中には初めて経験する辛さに強く拒絶反応を起こし、望月僚介のようにペンチなどの工具を使って破壊してしまう者もいるが、逆にフェムドムカウンセリングの治療効果を監修する院長の遥香にとっては、罪を認めさせた上で更に厳しい負荷を与えるための好材料となり、しばしばサブミッシブとしての心理を向上させるために利用される。
そして、貞操具を装着された者はいずれ、開錠の権限を持つキーホルダーの存在を受け入れ、徐々に従属することの受け身の愛を感じ始めるようになり、従順なフェムドムライフへと移行していく。
遥香はその過程を緻密に計算した上で、依頼されたクライアントへチャスティティ療法と称した心理調教を与えるのである。
「サブミッシブって言うのよ。あなたには元々その願望が心の奥に隠れてたのよ」
院長の遥香がフェムドムカウンセリング時によく使うフレーズだ。
診療所の照明を消し戸締りをしながら佑樹は、着任当初は理解できなかった女性へ服従することを受け入れる本当の意味を朧気ながら肌で感じ取り始めていた。
(女性優位のコミュニケーションの刷り込みか……それはそれでありなのか……)
否、肌というよりはペニスで感じ取ったという表現が当てはまるかも知れない。
日々窮屈なケージに閉じ込められて僅かな勃起も許されない状態を強いられる中で、十日に一度の定期洗浄で貞操具のロックが開錠される際、白濁した恥垢がこびり付き悪臭を放つ汚れ切ったペニスを曝け出す切ない程の恥ずかしさは、何度も経験しても慣れるものではない。
しかし、両手を後ろに組まされた姿勢で、その恥垢の汚れを擦り洗われる時の気が狂わんばかりの快感に佑樹は、サブミッシブな自我形成の芽生えをペニスを介して促進させるのが、貞操具の本当の効果でありチャスティティ療法の目的なのだということを悟り始めていた。
(ううっ……)
腰を屈むたびに尻の痛みが疼いて、その疼きに反応するように貞操具に閉じ込められたペニスの掻痒感が増してくる。
そして、尻の疼きとペニスの痒みの中で佑樹は昼下がりのスパンキングの後に強制された足舐め奉仕で嗅いだ、遥香の鼠径部から漂っていた刺激的な芳香を思い出していた。
(あぁ……遥香様……)
チャスティティ療法の効果は、既に佑樹自身にも現れていた。
ー貞操具の愉悦ー
梅雨も終盤に入り、近頃は午後になると曇天が所々千切れてその合間から陽光が差し込み、鬱陶しい季節からようやく解放されつつあることを告げていた。
クリニックは週末の休診日までフェムドムカウンセリングの予約は入っておらず、通常の内科の一般外来が続いている。研修医の佑樹は終日ワンオペの診察をこなしていた。
院長の遥香はこの数週間、フェムドム臨床学会での講演に出張しており、この間の診療を一人で切り盛りするように依頼されているためだ。
三週間前に院長から受けた五十発のスパンキングの尻傷はようやく治癒したが、ペニスの定期洗浄はされることはなく貞操具はロック状態のまま放置されていた。
パンパンに溜まりきった精液を放出できない悶々とした生理に苛まれ、眠れない夜が連日続く中、佑樹は律儀にクリニックへ出勤し業務をこなしていた。
チャスティティ療法用の樹脂製貞操具が、相変わらず嵌め込まれたままの股間は、近くに寄ればツンとくる程、強い臭いを放っている。洗浄されないまま放置されていることでペニスケージの内側は恥垢で白く汚れ切り、時折、気が狂いそうな痒みに襲われる。
かれこれ解錠されないままの状態は4ヶ月になる。体験学習として初めて装着された貞操具は最初の数日間、フィッティングと称されたサイズ合せの期間があり、サイズに余裕を持たせた大き目のペニスケージとリングを着けられたが、日ごとに徐々にサイズの小さなものに変えられていった。
フィッテイング初期の七日間は貞操具の装着感も比較的緩く、入浴時などにペニスがケージから抜けてしまうスリップアウト現象が時々起こることがあった。
研修医として着任して間もない佑樹はこの時期、入浴の度に石鹸で貞操具を滑らせ、わざとペニスをスリップアウトさせてはシャワーを浴びながらマスターベーションに耽っていた。すっきり射精した後に萎え始めたそれをもう一度、ペニスケージに収める作業は比較的簡単に出来た。
(こんな、おもちゃみたいな物がカウンセリング治療用に効果があるなんて、意味があるのか……)
佑樹は当時、そう思ったものだった。
しかし、遥香によるミリ単位のフィッテイングが進むにつれ股間の貞操具はかっちりと男性器を締め付け、意図的にスリップアウト出来たのは僅かな期間だった事をすぐ気づかされた。
本格的に始まった装着の辛さに佑樹は遥香が留守の間、密かに院長室に忍び込んでは机の引き出しを探りスペアキーを物色したが見つけることは出来なかった。今や股間の樹脂製貞操具は躰の一部と言っていい程にピッタリと佑樹の性器に貼り付いている。
戸締りをする時刻になっても昼過ぎからの蒸し返すような暑さは緩むことなく、エアコンを切った途端、診療所内の寒暖計は三十度近くまで上昇した。
蒸し暑い建物から早く出ようと帰り支度をしている最中、佑樹の股間が唐突に疼き始めた。
(うぅっ……まただっ)
ここ数日、佑樹は午後の外来患者の診察が終わる頃になると決まって無意識に起る軽い勃起現象に困惑していた。
院長不在のワンオペ診療による慌ただしい一日のストレスから解放されるせいなのか、仕事が一段落した時間に決まって意識とは無関係にペニスの充血が生理的に起る。
(うぅっ、あぁっ……これ以上勃起するとまずいっ)
股間の狭小のペニスケースいっぱいに膨らんだ亀頭の陰肉は行き場を失い先端の排尿用スリットからいびつにはみ出し激痛が走る。同時に根元のリングが引っ張られて、睾丸の付け根が千切れるほどに締め上げられる。
「あうぅ、痛っぅ」
思わず声が出る程の最も敏感な部分を強く抓り上げられるような辛い痛みに、ユニホームの上から貞操具を拳で何度も叩き、勃起したペニスを鎮まらせようとするのだった。
(くぅーっ、いったい、いつ外してもらえるんだ……)
貞操具の長期装着の効果は帰宅後においても佑樹の生活リズムを変えていた。特にシャワーを浴びながら痒みを何とかしようと、ペニスケージをもどかし気に弄りまくるのが佑樹の日課となっていた。
(ああーっ、痒いっ……)
忙しさを理由にキーホルダーである院長の遥香から定期的な洗浄を先延ばしにされている透明なペニスケージに閉じ込められたペニスは、全体に白濁した恥垢を夥しく付着させ、ふやけたように膨らんでいる。
当然シャワーの水流をペニスケージ越しに掛けたところで、気の狂うような痒みも汚れも洗い流すことは出来ない。
そのもどかしさに佑樹は根元のリングを鷲づかみにしてぐりぐりと揺さぶるが、ケージの中のペニスには羽毛で擦る程の刺激も得られず、痒みは一層増すばかりだ。
(ううぅ……以前のように、なんとか、ずり外れないものかな……)
貞操具の隙間へ大量の石鹸を流し込み、どうだっと思いながら下へずり降ろそうと試みるが、遥香によって完璧にフィッテイングされた貞操具はピッタリとペニスと睾丸の根元に食い込むように絞め込まれているため、スリップアウトで外すことは不可能だ。
しかたなく今日も佑樹は、浴室の棚の上から使い捨ての長尺綿棒を取り出し、先端の繊維の塊を排尿用に空けられたスリットに挿し込んで窮屈な隙間から亀頭を擦りつける。
(あはぁーっ、気持ちいいっ……)
亀頭の表面を綿棒の繊維が軽く搔き上げる快感にため息が洩れるが、しかし、柄を操作して更に奥へ挿し込もうとしても最小サイズに合せられたペニスケージは綿棒を排尿スリットから数センチの位置までしか侵入を許さない。そのうち綿棒に恥垢が絡まり、繊維の凹凸が無くなるため刺戟がなくなる。
佑樹は二本目をスリットへ差し込んだ。
(うっ、まずいっ……)
濡れてふやけた綿棒の先で軽く擦り続ける刺激に海綿体が充血し、窮屈なペニスケージの中で勃起が始まる。
(あぅっ……くうっ……)
最近では精液が溜まりきってひと回り大きく膨らんだ睾丸が、一刻も早い精子の放出を命令しているかの様に、僅かな刺激でペニスが勃起する。
(ぐうぅぅ……)
強化樹脂のケージとリングが強烈に性器全体を締め上げてくる激痛に、腰を屈めて勃起痛が治まるまで耐え忍ばなけばならない。
(うぅーっ……痛っうー)
こうなることは判っているのに帰宅後の毎日シャワーの際は、どうしても綿棒を挿し込んでしまう……まるで、勃起時の痛みを無意識に欲しているかのようだ。
日中でも日に数回、狭いペニスケースの中で激しい痒みを伴って急激に勃起をすることが頻繁にあり、それとは別に小用の際、尿の滴を拭うテッシュがスリットの中の亀頭に触れた途端、その刺激で瞬く間に勃起が始まってしまうこともある。そしてすぐに残酷な痛みが襲って来るのだった。
(あぁーっ、くぅーっ、だめだ、まだ縮まない……)
佑樹は最近、勃起が収まるまでの時間が日に日に長くなってきている事に気付き始めていた。
この繰り返すペニスの苦悩を耐える時、必ずと言っていい程、キーホルダーである遥香の姿が朧気に佑樹の脳裏にフラッシュバックする。そして、彼女の姿が脳裏から消えるまでペニスは充血し膨らみ続けるのだった。
佑樹は遥香の姿を思い出す時、灼けるような何か得も言えない感覚が下半身に湧き出すのを覚え始めていた。
(うぅーっ……あぁっ、まただっ、うぅっ)
そんな日々を繰り返していた週末、佑樹の携帯に長期出張から戻った遥香から連絡が入った。
研修医として着任後、半年経過した佑樹の慰労会を榎萊美子も交えて都内の料亭で催すという誘いだった。
ー予約客はフェムドム新婚中ー
午後からの雨が上がり、外は梅雨時期の長い薄暮が広がっていた。休憩を終えた早川佑樹は、五時半からのクライアントの治療準備に入っていた。
葉沢FDクリニックでは完全予約制で行われるフェムドム・カウンセリングの来院者を一般の保険診療の患者とは区別する意味で客またはクライアントと呼んでいる。
夕方からの予約客は昨年秋に籍を入れ現在、新婚生活九ヵ月目を過ごしている三十一歳の望月麻耶婦人とその夫、二十六歳の僚介氏だ。
今日の昼過ぎに洗浄とミルキング処置で来院した榎萊美子と桐山タツヤのカップル程、歳の差はないものの年上妻と年下夫の典型的なフェムドム素地を備えた組み合わせである。
夫人である望月麻耶は、夫、僚介の配偶者であると共に東欧のプラハ音楽大学をストレートで卒業した実力派チェロ奏者で、国内屈指のフルハーモニー楽団に所属する、いわばエリート音楽家である。
一方、麻耶より七歳年下の僚介は防衛大学を優秀な成績で卒業した後、エスカレーター式に幹部候補生として自衛官の道へ進んだ、こちらもエリート公務員ではあった。
しかし配属先の陸自部隊の厳しさに馴染めなかったのか僚介は数年で退職し、現在は都内に本社を置く大手民間警備会社に勤めている。
もともと二人の共通点には音楽があった。高校時代からブラスバンド部でトランペットにいそしみ、防衛大学ではメディアにも度々取材される自衛官音楽隊の学生予備メンバーとして所属していた僚介が妻である麻耶と接点を持ったのも、そんな音楽活動の縁であった。
麻耶と付き合い始めて間もない頃、僚介は
彼女から或る悩みを打ち明けられた。それは思春期の頃より女尊男卑的指向という性癖が心を支配するようになり、大人になってからも人格を疑われないよう、意図的に男性との関わりを避けて来たという悩みだった。
そして数年前から、葉沢FDクリニックで専門カウンセリングを受けている事を打ち明けられた。
そんな麻耶の真剣な告白に対し僚介は、自身も女性に主導される方がどちらかと言うと好きだと真摯に伝えた。
事実、母子家庭環境で育てられた影響か、僚介もまた物心が付く時期より心の奥に強い年上の女性への憧憬が強く芽生えていた事を自覚していた。
麻耶はそれまで誰にも打ち明けた事のない悩みを明るく受け止めた僚介に、初めて異性に対する安心感を覚え、好意的な感情は愛情へと進展していった。
二人の仲が急速に発展したのは、僚介の心の深層に仕舞い込まれていた甘酸っぱい女尊主義的嗜好が、麻耶のフェムドム指向の告白によって鮮やかに輪郭を得た思いを感じたからに他ならない。そして昨年の秋、式を挙げた際にフェムドム婚のプランニングを葉澤遥香に依頼したのは麻耶の強い要望によるものだった。
壁上の採光用の凹凸ガラスが夕陽に明るく輝いて診療室をほのかに照らし始め、空の雲が切れて四散した事を知らせてせた。
助手の早川佑樹はパラパラと望月夫婦のカルテを捲りながら見ていた。日頃から院長の葉澤遥香から、事前準備の際には予約客のカルテに目を通して置くように指示されているためだ。
二人は婚姻届を役所へ出す際、院長である葉澤遥香のプランニングによるフェムドム婚をスタートさせた数少ないカップルのひとつであった。麻耶にとって夫の僚介は2回目の配偶者で、僚介は婿入りしたのかどうかは定かではないが、配偶者である妻の姓を選んでいる様子である。
佑樹は望月夫婦のカルテの中に、妻である麻耶個人の単独ページが綴られている事にふと気が付く。
(そうか、彼女は独身時代からのクライアントなんだ……)
そこには異性とのコミュニケーションに於いて、可憐な顔立ちと女性的で柔和な容姿が、生来の勝気な性格とは逆の優しく奥ゆかしい印象を与えてしうまうというギャップに悩む麻耶の葛藤が記されていた。
またそれとは別に、それまでの恋愛経験がすべて上手く行かない事に悩み続けていた経緯や一度目の婚姻生活を破綻させている事などがヒアリング項目に記されていた。
そして、その経緯の中で遥香の提供するフェムドム・カウンセリングが、彼女の心の奥で渇望していた価値観を実現するための手段としてリスペクトされた事を佑樹は数ページに渡るカルテの内容から読み取った。
二人が署名捺印をした「結婚契約書」は、先の榎カップルが交わしている婚姻前の覚書きに比べ、より細分化された決まり事が網羅されたもので、フェムドム生活の実践における基本約款とされるものだ。
内容は財産の所有権や家計や仕事分担、離婚時の慰謝料など一般的な取り決めの他に、女性配偶者の肉体への崇拝・奉仕や隷属に関する定款が百数十ページからなる条項として盛り込まれている。
そこには家庭では炊事洗濯等を率先してこなす事やフットマッサージ、爪の手入れ、頭髪のブラッシング等々女性配偶者への日々の献身的ケアを怠らない事が定められており、その他、求められたケースに応じた所作など事細かな生活スタイルにおける規制が文章として明記されている。
更には重要事項として、許可のない射精によるオルガズムスの禁止、アナル調教受諾等など、フェムドム特有の規約が厳格に記されており、当然、そこには貞操器具を使用したチャスティティ管理も含まれている。
また、服装に関しては女性配偶者側にすべての権限がある事や、常時ブラジャーと女性用ショーツを着用する事なども強制出来る内容が記されている。
仔細に渡る制約の条文の後半には、守られなかった場合のペナルティが、やはり同じ様に事細かに綴られているのだった。
(こんな内容が本当に実行されているのだろうか……)
カルテの直近のページには女主人への従属度合いを示すサブミッシブ度というパーセンテージの表記が院長遥香の診断結果として記されてあり、前回の来院時の最後のページにはサブ±30%と記されていた。
佑樹は望月夫妻のフェムドム・マリッジのカルテ資料に目を通し終えると、不思議な高揚感が無意識に心の底に湧いているのを感じた。
ー契約は履行されてー
望月麻耶と僚介のカップルは予約の定刻通りに来院した。
長身で可憐な顔立ちに足元のベージュ色のパンプスのヒールから背筋がスッと伸びた姿勢は、チェリストという弦楽器奏者の職業柄なのだろう。姿勢の良さとは対照的な、なで肩の曲線を包むリバティ柄のワンピースは初夏の季節らしさを感じさせる。夫の僚介は妻に比べて背丈は頭半分低いが、鍛え上げられた元自衛隊員らしい逆三角の骨格にグレー地のサマースーツをノーネクタイで着こなしていた。
このクリニックの特殊性からか、見た目にその組み合わせは、いかにも女性主導の主従関係を感じさせる。
ただ、何かギクシャクした二人の雰囲気から助手の早川佑樹は、カルテに院長遥香の字で記されたサブミッシブ度に進捗停滞気味である状況を示す、プラスマイナス符号が付いていた理由がなんとなく頷けた。
「お待ちしていました。そのままカウンセリング診察室へどうぞ」
エルメスのショルダーバッグから取り出したID診察カードを窓口でスキャンした妻の麻耶を佑樹は診察室へと案内した。夫の僚介はその後ろを付いてくる。
二人は前回の来院時には居なかった早川佑樹を一瞥した後、無言のまま奥へ進んでいく。きびきびした仕草の妻の麻耶に対して、夫の僚介は、後ろをなびくように付いて歩く動きが緩慢で少しおどおどしている様にも見える。
「いらっしゃい。麻耶さん、どうぞ座って」
院長の遥香が出迎え、二人をカウンセリング用のロングソファーへ促した。
「新しい男性の受付が入ったのね。先生」
「ああ、インターン研修医の早川佑樹君よ。いろいろ手伝わせているわ」
「うちの夫と同じ位の年齢かしら」
「そうね。僚介さんは、おいくつでしたかしら」
麻耶の横で静かに座っていた僚介へ、ふいに院長の言葉が振られた。
「えっ」
「あなた、遥香先生が歳はお幾つって、訊いてるわよ」
一瞬、何を尋ねられたのか聞いていなかった様子の僚介に麻耶が、遥香に気を遣う口調で言い直す。
「あ、25です」
「本当に今日は朝からボ―ッとしてるんだから」
妻の麻耶が呆れたように首を軽く振った。
「何か心配事でもある雰囲気ね。話してごらんなさい」
ボーッとしているよりも、さっきから何か落ち着かない表情を見せている夫の僚介に、遥香はカウンセラー医としての観察眼を光らせる。
「あっ、い、いえ。何もないです」
診察室の傍らで待機する助手の佑樹にも、大げさに首を左右に振る僚介の仕草が余計、滑稽に見える。
そんな夫の隣で妻の麻耶が淡々とした口調で唐突に喋り始めた。
「遥香先生、実は契約の決まりごとが最近、ことごとく破られてるんです。大目に見ていた部分もあるんですけど…… 」
そう切り出した麻耶はショルダーバッグから薄手のハンカチで包んだ貞操具を取り出し、テーブルの上に開き始めた。
「あらあら、破損してるわね。ふーん、これは無理やり工具か何かで壊したという感じね」
壊れた貞操具の樹脂製パーツを目の前に出された僚介は罰が悪そうに俯いている。
遥香は、深刻な事態だと言わんばかりの怪訝な表情になり経緯を訊ね始める。
「麻耶さん、これはいつ頃のことかしら?それとペナルティは実行したのかしら」
少しの間を置いた後、妻の麻耶が困ったように状況を説明し始めた。
「実は、このところの演奏旅行で私が家に居ないのをいいことに好き勝手放題で……お仕置きもしてはいるんですが、効いていないみたいです……」
テーブルに置かれた鈍器で叩き壊された様子の強化樹脂製貞操具は、まさしく自身の股間にも嵌め込まれている同タイプの物だと、部屋の隅で待機している佑樹にも一目で判別出来た。
(あれは、余程の力を加えないと、あそこまで割れないはず……)
軍事用の防弾チョッキにも採用される特殊な合成化学繊維で成形された貞操具は、ちょっとやそっとの衝撃を加えたぐらいではひびさえ入らない事を佑樹は身をもって知っている。佑樹はクライアントであり同年齢の僚介が、股間を四六時中苛まれる辛さに耐えられず本気で外したかったのだろうと察した。
ただ、麻耶夫人のドミナとしての雰囲気に似つかわしくない困惑した表情と、おどおどしながらもそれほど悪びれている様子が窺えない夫の僚介を見た佑樹は、根拠はないものの自虐的嗜好の男性のフィーリングとして、主導権を握る妻に対し、むしろワザと事を起こしている情況のようにも思えた。
(これって、実は虐められたいという甘えの願望なんじゃないのか……)
「麻耶さんから、ペナルティのお仕置きは受けているのね僚介さん」
「は、はい……そうです」
ややきつい声音で続けて尋ねる院長の遥香の顔から、反射的に目を反らした僚介の小さな声が返ってくる。
「お仕置きは、どの程度のものを受けているのかしら、僚介さん」
「あ、私、夕べも寝る前に乗馬鞭で30回叩きました」
フォローするように妻の麻耶の返答が入るが遥香はそれを遮った。
「カウンセリングは始まったと思って、麻耶さん。本人の口から答えて欲しいわ。どうなのかしら僚介さん」
「は、はい。い、いつもキツイ鞭打ちを受けてます……」
始終、おどおどした仕草を相変わらず見せながら夫の僚介は院長の問いに答えている。
その表情や声の大きさ、言葉の抑揚、更には全体の雰囲気をつぶさに観察する遥香は、妻の麻耶を困惑させている一連の反抗的行動は、自己承認欲求的な心理が要因のひとつとして働いている事を洞察した。
それはある意味、部屋の隅で一部始終を見ている助手の早川佑樹の僚介に対する印象とも一致した事にもなる。
「キツイって表現じゃ判らないわね。僚介さん、裸になって全身を見せてもらえるかしら」
「えっ、ここでですかっ」
「そうよ。立って下着も全部脱ぐのよ。早くしなさい」
院長の険しい口調と妻の麻耶の無言の圧力に気圧され、僚介はソファーテーブルの前でそそくさとシャツとグレーのスラックスを脱ぎ始めると、すぐに可愛らしい刺繡をあしらったブラジャーとショーツが診察室の照明に晒された。
どちらも筋肉質な僚介の躰には小振りのサイズで、特に股間を包むショーツは中央のクロッチ部分が僚介の男性器をぴったりと締め上げて異様な形に盛り上がっている。
(あ、あんな下着をいつも着けさせられているんだ……)
僚介の筋骨たくましく整った肉体に貼り付く淡い桜色のブラとショーツに佑樹は、自身の躰がきゅうっと締め上げられるような錯覚を覚えた。
「ブラとショーツ着用は守っている様ね。ピンクは麻耶さんの趣味かしら」
「ええ、まあ」
麻耶が照れながら遥香に答える。女性用下着の常時着用はフェムドム婚姻契約書の遵守事項として契約要綱に定められている。
「ブラは外さなくていいわ。その可愛らしいショーツだけ脱ぎなさい」
背中に手を回して、ピッタリ胸にフィットしているレースの花柄模様をあしらった紅いブラジャーを外そうする僚介に遥香はストップを掛けた。
「はい……」
僚介は恥ずかしそうに同じ色の小さめのショーツをおずおずと膝下まで降ろし、片足立ちで脱ぎ取った。
「はーっ……」
僚介は深いため息を吐いて、恥ずかしそうに両手で股間を隠した。部屋の隅でこちらを見ている助手の早川佑樹の視線も気になる様子だ。
この葉沢FDクリニックに於いて、クライアントの男性がこの洋風リビング調に造られた診療室で下半身をさらけ出す光景は、日常的なものであり、数ヵ月前に研修医として着任した佑樹にとっても最近では見慣れた場面だ。但し、裸に剥かれた男性は例外なく、その後に狂乱の悲鳴を上げている。
助手を任せれれた佑樹が院長遥香より伝えられた二人に対する本日の内容は、近況聴取と軽い対処的カウンセリングが主であったが、妻の麻耶の申し出により急遽、診察内容が変えられる予感がよぎった。
(ああ、今日はこれから、どんな展開になるんだろうか……)
「先ず、回ってお尻を見せて頂戴。両手は腰の後ろに」
院長に尻を突き出すように指示され、僚介はくるっと半回転して背中を向けると尻を差し出した。
「お仕置きは、例の鞣し革の乗馬鞭だったわね。見たところでは、しっかり受けている様子ね」
筋肉質で張りのある、地黒肌の僚介の双つの尻の丸みには、背中に近い腰部から大腿部の境目辺りまで、妻の麻耶により付けられた五百円玉程の黒ずんだ乗馬鞭のスパンキング痣が無数に広がっていた。
「腫れはほとんど引いてるわね。痛みはどうかしら」
僚介の痣だらけの尻朶を遥香の手が撫でるように軽く触れてくる。
「はい、ありません……ふぅ」
ため息混じりの声が僚介の喉から漏れる。
当然ながら佑樹の目にも、その浅黒く傷ついた僚介の尻の様子が飛び込んで来た。
(なんて痣だらけの尻なんだ。いったい何発受けたらあんなになるんだ……ああ)
数時間前、院長遥香から受けたケインでの尻打ちの火照りと、妻の麻耶から厳しいスパンニングを日常的に受けているという僚介の痛々しい双臀が頭の中でリンクし、治まっていた尻の疼きが再びピリピリと熱を帯びてざわつくのを覚えた。
「もういいわよ。前を向きなさい」
スパンキング痣で凸凹した臀部の肌を軽く撫でるように触診した遥香は、納得したような表情で僚介を自分の方へ向かせた。
俯き加減の僚介の顔色に同調しているように、股間のペニスもだらんと下を向いている。
その股間は丁寧に剃毛処理がされており、ドミナント妻の麻耶の几帳面な性格が見て取れた。
「ところで、僚介さんに訊くけど、どうして貞操具を壊したのかしら」
目の前のテーブルには、妻の麻耶が証拠の物件を提示するかのように広げた貞操具の破損した部品が置いてある。
「そ、それは、その」
妻の麻耶と院長遥香の視線に硬直するかのように口ごもる僚介は押し黙り、その数十秒の沈黙の間が診療室の空気を重くする。
「遥香先生、実を言うともう一つ大きな問題があるんです……これがその証拠です」
ソファの隣に並んで座り夫の僚介を静観していた妻の麻耶が、沈黙を突いて声を上げるとバックの中から一枚の派手なカードを取り出しテーブルの壊れた貞操具の横に並べた。
その銀色にコーテイングされた見た目に豪奢なカードには、最近都内を中心にチェーン展開しているハイクラスな会員制シティホテルの名前が洒落たレタリング文字で入っている。
「あら、旅行でもないのに洒落たホテルへ行かれてるのね僚介さん」
「あっ、それはっ……い、いえ、これは違うんですッ」
いつの間にか財布の奥に忍ばせるように隠し持っていたカードを妻の麻耶に抜き取られていた事実に、僚介は職場の同僚に貰ったものなどと言い訳をして取り繕う。
「……僚介さん、違うわよね。本当のことを言って」
「えっ、ほ、本当のことって」
「何を言ってるかわからない?じゃあ教えてあげるわ」
やや俯き加減で発した妻の麻耶が声が、どことなく哀しみを帯びている様に佑樹は思えた。取り繕う僚介に対して麻耶はため息を吐きながら言葉を並べ始めた。
ーカウンセリングは陰部剥き出しでー
窓に薄暮の採光が徐々に弱くなり、天井の照明が明るさを増した診察室のソファーで、妻、麻耶の事細かな説明が始まった。
二人で所有する小型高級輸入車で買い物へ外出した際、助手席のフロアマットに僚介の財布が落ちていた事に気づいたのは、土日を挟んだ数日間の演奏旅行から、ひとり戻った三日前の火曜の午後の事だった。
車は普段、麻耶が演奏旅行の間は夫の僚介が終日使用しており、車内の忘れ物は互いによくある事だと言う前置きの後、更に麻耶の説明が続いた。
十数枚近いカードが重ね入れられ厚みが増した僚介の財布から、不審な銀色のカードがはみ出ているのを偶然に見つけた麻耶は、そのカードだけを抜き取り財布はリビングのテーブルに戻しておいた。
麻耶はその夜、以前にも何度かセッションに呼ばれている警視庁と近隣県警を含む一都三県合同で編成された警察音楽隊との音楽祭イベントのリハーサルのため出かけた際、気心の知れた友人の夏目美優に相談を持ち掛けた。演奏会では軽快なフルート奏者の彼女の日頃の業務は事件現場の証拠品解析が主だという。
麻耶は無理を承知で夫が財布に忍ばせた銀色のカードの件を話し、利用履歴のチェックが出来ないかと訊ねてみた。同世代の夏目美優は以外にも気さくに分析を快諾してくれ、その日の内に解析結果が麻耶の元へ届いた。
結果はカードを見つけた前日の昼間に使用した磁気記録が残っているとの事だった。前日の月曜は夫の警備会社勤務が非番の日だ。
つまり、僚介は平日の昼間、ホテルに居た事になる。
説明を終えると麻耶は哀しい目でキッと夫の僚介を睨んだ。
「ああっ、麻耶さん、そんな、なんで解析なんか」
「僚介さん。確か月曜は警備会社の仕事は休暇日だったはずよね。どういうことか納得いくように報告して……」
ソファーの横に座る妻の麻耶は哀愁を帯びたような声音で、夫に向かって静かに言葉を綴る。
「ああっ、それは、そのっ」
「あらあら、これは言い訳ができないわねぇ、僚介さん。いったい誰とホテルに居たのかしら?説明の義務があるわねぇ」
院長の遥香が輪をかけて僚介に言葉をかぶせる。二人のフェムドム・カウンセリングの主治医である遥香は横で聞きながら意外な展開に興味をそそられていた。
「い、いえっ、それは、そのっ、誤解です」
狼狽しながら窮する僚介は、テーブルに置かれている破損した貞操具と銀色の高級シティホテルの会員カードを目の前に俯いて押し黙ってしまった。
胸板にピッタリ貼り付いた赤いブラジャーと下半身を剥き出しにした姿で直立のまま、焦燥に身を小刻みにブルブル震わせている僚介の様子はどこか滑稽に映る。
(えっ、この償いは……、いったい、どうなるんだ)
単に僚介のマゾヒステックな嗜好から、愛しい配偶者のスパンキングをもっと多く受けたいがためにフェムドム婚姻契約をわざと破ったのだろうと、漫然とした推察をしていた佑樹だったが、事態はそんな生易しいものではないという展開に他人事ながらハラハラし始めていた。
そして院長遥香の眼が心無しか輝きを増してゆくような気がした。
「貞操具を壊す行為のみなら、多少大目に見ることもあるけど、これは問題ね。婚姻解消になった場合はどうなるか、覚えているかしら僚介さん」
遥香にとって、僚介が妻の目を盗んで誰とホテルに居たのかを問い詰める事自体は、それ程の意味は持たなかった。が、敢えて罪に対する刑罰を本人に納得させた上で償わさせるという心理的負荷のプロセスを重要視した。
「黙っていては、解らないわよ僚介さん。あなたは今、明日からの人生が180度マイナスに動くか、それとも回避できるかの選択に迫られているのよ」
「……」
俯いたままの僚介に院長の遥香が更に言葉を載せてくる。
これまでの臨床データの中でも、フェムドム婚が離婚に至る場合に於いてペナルティ・プランを実行できるケースはそれ程多くは無い。
遥香はそのプランを実行に移せる可能性が出てきた二人の意外な展開を目の当たりにし、日頃心の奥深くに閉じ込めている個人的な嗜虐性を密かに膨らませていた。
「そうね。遥香先生の言う通り、僚介さんの弁解次第では、離婚も含めて色々考えなくてはならないかしら」
ソファーに背筋を伸ばし姿勢よく座っていた妻の麻耶の真摯で抑揚のない言葉の響きが診療室の壁に反響した。
二人が合意して取り交わしている結婚契約の離婚に纏わる条件は、公証している部分でさえ、夫の僚介にとっては経済的に一生涯の負債を背負う程、極めて不利なものである。
更にはフェムドム部分の公約条件では、実際に履行することは現実的では無いと思える程、過酷なものである事は遥香の説明によって二人共に一応は理解している。
離婚時の条件を定めた過失度合いによって、
一部または全部の睾丸摘出手術を受けなけらばならない、というフェムドム条項などは、僚介にとって実際には書面上だけのものと思っているふしがあったが、自分達のフェムドム婚プランニングを管理している、この葉沢FDクリニックの臨床現場では現実に実行されてしまいそうな怖さがある事を僚介は改めて思い出した。
「いや……そ、そのっ、正直に言うから離婚だけは……」
目の前の遥香と妻の麻耶へ弱弱しい表情を向けながら、僚介は観念したように話し出した。
「た、確かにホテルに行った。けど、誓って浮気なんかしてない」
僚介の口から出た最初の言葉に院長の遥香は首を傾げ、妻の麻耶は眉間に皺をよせた。
「僚介さん、そんなこと訊いているわけじゃないわ。昨日誰と居たの」
隣で妻の麻耶の声が高ぶる。
「うう、それは……」
麻耶の夫を睨みつける圧力が更に僚介の自白を引き出す。
「デ、デリヘルでっ、じょ、女性を呼んだ、呼びましたっ」
「まあっ。デリヘルって何よ、どちらにしてもホテルに呼んだのは、きっと知り合いの女性なんでしょ」
(ははぁ……大体のことが読めたぞ)
傍らで一部始終を見聞きしていた佑樹は、夫の僚介が性欲を抑えきれず、貞操具を破壊してまで風俗サイトにアクセスし、デリバリー型のヘルス嬢をホテルに呼んだのだろう経緯をすぐに理解できた。同様に院長の遥香も
それを感じている風だ。
しかし、一般社会とは壁を隔てたチェロ演奏家という多忙な日常を過ごしてきた麻耶夫人にとっては風俗業界のことなど知るはずもなかった。ましてや、HPへアクセスして予約した初対面の風俗嬢が、ホテルの部屋まで訪ねてくるシステムなど到底理解できる訳もなかった。
「どんな店からデリ嬢を呼んだのか、話してもらえるかしら」
戸惑う麻耶夫人を横に遥香が僚介へ質問を始める。
「そ、その、専門サイトで探した店で……」
「店の名前は? 」
「五反田のア、アグネスジュエル」
遥香に矢継ぎ早に問い質され、僚介も答えざるを得なくなった風体でボソボソッと口に出した。
「早川さん、アグネスジュエルを検索してみて」
利用した店舗名が僚介の口から出たところで助手の佑樹に確認させる。
「あ、確かに五反田にありますね。亀頭マッサージ専門のデリヘルみたいです」
「まぁっ、なんなのよそこはっ、変態じみた店の名前ね」
可憐な目鼻立ちの麻耶の顔が徐々に怒りの表情を見せ始めた。
「ご主人の白状した様子では、どうやら、風俗を利用したのは本当のようね。まあ、信じてあげるかどうかは麻耶さん次第だけど」
遥香に言われても妻の麻耶は、まだ納得が出来無い様子で浮気の線を疑っている。
「そのアグネスなんとかに、いつも指名しているお気に入りの風俗嬢がいるわけね、僚介さん」
「い、いや、それは無いよ。初めて使った店だし」
助手の佑樹がスマホで検索した派手なホームページをスクロールさせて、店のサービス内容を確認した院長の遥香が可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ふふふ。初めて利用した割には亀頭マッサージ専門店なんて随分マニアックな所を選ぶのね、僚介さん」
「そ、それは、そのっ」
「専門店だなんて、そんないかがわしい所へ私に黙って行くなんて……」
麻耶夫人の落込んだ訝しげな表情から、夫の僚介に対するショックが意外と大きいことが、傍らに待機する助手の佑樹からも見て取れた。
年数回の海外演奏へ出かけた折、他国の夜の繁華街にたむろする性風俗の女性に関する話題は、同じ楽団の男性演奏家の間でも話題に上がる事がある。それがどんなシステムなのか、ある程度の知識は持っているつもりの麻耶だったが、夫の僚介が利用したという亀頭マッサージ専門店という部分が麻耶の頭にはどうしても引っかかった。
察するに日頃から自分の目を盗んでは、変態的な新手の風俗を舐め尽くすように調べ上げている夫の僚介の姿が浮かび、挙句の果ては亀頭マッサージなる専門風俗をチョイスしている行動を想像するに至った麻耶は、嫌悪感さえ覚えていた。
「よくも、そんな風俗を見つける暇があるのね。私が……きっと、留守が多いせいね」
「い、いや、その、たまたま見つけたんだ」
夫の僚介と眼を合わせようとしない妻の麻耶は怪訝な表情で宙を見つめ続けている。
再び遥香の言葉がそこへ割って入った。
「まあ、僚介さんの本格的な浮気の線はどうやら消えた様ね。但し、風俗を無断で利用するなんて妻に対する冒涜よ。取り敢えず今からすぐに償ってもらうわ」
二人の主治医としてフェムドム婚プランを司る立場として、院長の遥香が方向性を示す言葉を上げる。
「はい、すみませんでした……お仕置きでしょ、それでいいっすよ」
ソファーの前で全裸に近い状態で立たされたままの僚介が、開き直る様に態度を一変する。
「まぁっ、なんて虫酸の走る言い方なのっ、軽く開き直るのねっ。貴方の裏切りで私がどれだけショックを受けているのか解りもしないのね」
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
僚介は実のところ、婚姻当初から遥香のカウンセリングの元で本格的に始まった、このフェムドム婚を新婚時期の手の込んだ遊び程度という感覚が続いていた。
しかし、女性至上主義的な要素が二人の間でこれ以上エスカレートしないように、表面的には、年上の妻に黙って従うようにしていたふしがあった。
裏返せば僚介にとって、心の奥底で軽んじているという事実を妻の麻耶と目の前の遥香に見透かされるような状況が一番恐れる事であった。そしてそれが今、現実となっている
事に内心、診察室にいる誰よりも焦燥しているのだった。
「私、夫を信じることが出来なくなりました。どうすればいいでしょうか遥香先生。すぐに別れるべきでしょうか」
「あぁ、そんな、そこまで考えなくても」
妻の麻耶の言葉が僚介の胸にズッと刺ささり思わず真顔になった口から声が出る。
この展開が意味するものは、単純に風俗遊びがばれた自分に対する怒りと不信感という一過性的なものではなく、フェムドム婚という生活スタイルを神聖で絶対的なものと信じる彼女の価値観を真摯に受け止める覚悟があるのか、という解を求めているものだという事を楽観的性格の僚介にも薄々理解できた。
そして一番厄介なのは、その強制力として存在するフェムドム婚プランナーである葉澤遥香が目の前に居る事だ。
(結局、罪を認めたところで、許されることはないのだろうな……)
傍らで佑樹は目の前の二人に起った問題が、どう決着するのか気になって仕方なかった。
困惑の淵に沈んで押し黙った僚介に、助け舟を出すように遥香が口を開いた。
「どうかしら麻耶さん、今回だけは目をつむってあげたら……。その代わりにと言ってはなんだけど、私にもプランナーとしての監督責任を果たさせてもらうわ」
「えっ、先生の責任って……」
麻耶の反応に遥香はテーブルの上の破損した貞操具を指さしながら言葉を続けた。
「自分で壊せる貞操具を装着させてしまったのは私のミスよ。チャスティティ管理者としてのリスクヘッジが甘かったわ」
妻に風俗通いがバレて縮こまっている夫の構図はありきたりなケースではあるが、自身が設計したプランによるフェムドム的日常が始終する中で、僚介の犯した行為は本人の想像以上の罪となり得る。
その原因の一端は自分にもあると改めた遥香は、今まさに、その償いのための処置を図ろうとしている。
そんな院長遥香の強い意思が診療室の角に立つ助手の佑樹にも伝わった。
(いったい、これから、どんなペナルティを科すのだろうか……)
フェムドム婚において重大な違反行為が立証された夫の僚介は、どうあがいても厳しい罰を免れないだろう。佑樹は樹脂製のペニスケージに閉じ込められた先端辺りが、じゅくじゅくと疼くのを感じた。
ーギルティ(有罪)のゆくえー
「ところで僚介さん。まだ質問は終わっていないわ。目の前の貞操具を壊した理由と、昨日の亀頭マッサージ風俗でして来た事を具体的に詳しく話すのよ」
院長遥香の問い掛けに麻耶夫人も頷きながら耳を傾けた。
「それは、あのっ、貞操具は、い、痛くて我慢が出来なくなってしまい……仕方なく」
全身を揺すりながら、赤いブラを着けた裸の僚介はポツリポツリと答え始める。股間の中央にはピンク色の亀頭の先端を包皮から覗かせたペニスが小さく縮こまっている。
「おかしいわね。リングとペニスケージのフィッティングは充分に行なったはずよ。それ程、強い痛みは出ないはずだけど」
遥香は素早くシリコングローブを右手に嵌めると、僚介の股間に手を伸ばし陰茎の根元から睾丸の付け根まで細かく触診し始めた。
遥香の睾丸を持ち上げる手の感触に僚介の太腿が一瞬ブルッと震える。
「ああ、あのっ、朝がどうしても……裂けそうなぐらい痛かったんです」
「その程度で勝手に壊して外したわけね。私たちの約束を最初から軽く考えてた証拠よっ、許せないわ」
隣で妻の麻耶の声が上がるが、僚介は無言で遥香の触診に身をゆだねている。
(朝勃起の痛みか……それなら同じく経験中だ)
きっと、貞操具を無理やり破壊する衝動が起る程、痛みは非情なものだったのだろう……、切実な訴えに助手の佑樹もついつい反応する。
「ふーん。確かに亀頭周辺に治り掛けの傷跡っぽいのが幾つかあるわね」
「あうっ、せ、先生っ、そんなに擦られると……」
亀頭の傷跡を探る様にやわやわと擦っていた遥香の指先が徐々にペニスの雁首辺りを挟みつけ、擦り上げる動きに変わっていく。
その刺激に、腰の後ろで組んでいた僚介の両手が咄嗟に遥香の手の動きを遮った。
「駄目よ、手を解いては。後ろに組んでいなさい。じっとしていられない様なら保定するわよ」
「ううっ」
保定とはいわゆる拘束される事を意味するのを知っている僚介は、再び背中に回した手を組み直した。
刺繍の入った真紅のブラジャーに下半身丸出しの状態で起立の姿勢を強いられている僚介の姿は、何か艶めかしい色っぽさを漂わせている。
「もう少し血行の具合を診るから、じっとしているのよ」
「はあっ、ああぁっ」
シリコングローブに包まれた遥香の柔らかい指先の滑らかな動きが、ペニスの亀頭部分から雁裏までを包み込むようにクリッ、クリッと小刻みに刺激を与え続けてくる。
僚介のペニスはたちまち硬く充血し、天井を突き上げる勢いで勃起ち上がった。
「あら、萎えている時に比べて、ずいぶん大きくなるのね。勃起時の痛みが強いのは仕方ないわね」
通常、貞操具のフィッティング時には勃起時のサイズはチェックされない。ペニスが萎んだ平常時の状態でケースの長さと径が設定され、更にひと回り小さなサイズが嵌め込まれる。
望月僚介のように平常時と勃起時のサイズに極端な膨張差がある場合は、フル勃起した際に狭小なペニスケージはその充血した海綿体を押し潰すように圧迫することになる。
逃げ場のないペニスは排尿用の僅かなスリットから敏感な亀頭部分を異様にはみ出させ、耐え難い激痛を発生させのだ。
(大きいな……あれが、閉じ込められたのか)
自分でコントロールすることの出来ない明け方の勃起現象は、きっと僚介にとって相当に苦しいものだったに違いない。
診察室の中央で院長遥香の指に翻弄され、はち切れんばかりに隆起した僚介のペニスを傍らで凝視しながら、佑樹は自身の股間に嵌められている器具による毎朝の痛みを思い出していた。
「麻耶さん、ご主人のペニスって勃起させると意外にご立派なのね。使用時以外はコンパクトサイズってわけね」
「ええ……まあ、どちらかと言うと、そうなのかしら……」
突然話しかけられた麻耶夫人は、遥香の指に摘ままれているMAX状態の夫のペニスを複雑な表情で見ている。
「確かにこれじゃ装着したペニスケージのサイズでは少々きつそうね。でも、慣れさせなければ駄目よ。これから、もっと小さいサイズにしていく予定だから」
チャスティティ療法において初期段階の装着では徐々に小型サイズへ移行し、その窮屈さの肉体的負荷に慣らさせる過程も重要事項のひとつとされた。
「えぇっ、そんな、朝以外でもマジで切れそうに痛くなるんですっ、血も出たんですよ」
遥香の話を遮るように貞操具を壊したことを正当化しようとする言い訳が、僚介の口から矢継ぎ早に出る。
ペニスケージの内側で包皮が剥かれた状態で閉じ込められる敏感な亀頭部分の粘膜は、内側の樹脂に常時擦られることで軽い刺激が継続するためにその刺激で無意識な勃起現象が日に何度も起る。
同じ貞操具を装着させられ、日常の業務をさせられている佑樹が、間欠的にミニ勃起を起こして貞操具の先端をカウパー氏液で汚してしまうのはそのせいでもある。
「さて、おおよその事情は判ったけど、この始末をどう着けるかは麻耶さん次第ね」
触診を一旦終えた遥香が麻耶夫人へ夫への処置について問いかけた。
「それは……どうするのが一番いいのでしょうか遥香先生、やはり離婚した方がいいのかしら」
夫の不始末の対処を妻である麻耶に決めさせる過程を踏むことは、フェムドム・カウンセラーとして大切な事柄である。
(ドミナとサブミッシブのポジションを二人に明確に自覚させる良いチャンスだわ……)
遥香はこの展開を二人のフェムドム数値向上のために利用しない手はないと既に確信していた。
「考える時間は充分あるわよ麻耶さん。それよりも先ずは相応のペナルティーを僚介さんに与えることが大切な事よ」
「ペナルティーをですか、先生」
麻耶夫人の曇っていた表情が次第に毅然とした雰囲気に戻り眼が輝き始めた。
「貞操具を壊した罰と許可なく風俗へ通った罰、そして何よりも無断で射精をした罰よ」
(三重のペナルティーだ……これは軽くは済まないぞ)
怖いもの見たさの心の中の期待感が首をもたげてくる。そんな佑樹にスッと立ち上がった遥香が近づいて小声で指示を出し始めた。
「えっ、これからですか」
スパンキングの後に特別な手術をペニスに施す準備を遥香より指示された。
「30分後にできるように準備をお願いね」
「はい、急いで準備します」
いそいそと廊下奥の処置室へ移動した助手の佑樹は手術の準備に取り掛かった。
ーボディブラシとハンブラーー
「麻耶さん、離婚するかどうかの決断はゆっくり検討してもらえばいいわ。勿論、そうなれば契約の罰則通り、僚介さんの二つの睾丸は全摘出になるけれど」
「ああー、そんなの冗談っすよね。そもそも契約だなんて……」
相変わらず、少しおどけた口調で喋る僚介を横に、遥香は無言で壁際のキャビネットから取り出した木製の器具を麻耶夫人の目の前に置いた。
「そういう言葉が出る様では、かなりの荒療治が必要のようね。これを着けさせてもらうわ」
「まあ、先生。それ何かしら、初めて見るわ」
「ふふ。これはハンブラーと言って、睾丸を固定して姿勢を制限するものなの」
聞き慣れない名称が遥香の口からが出てきた。
「ハンブラ……初めて見ますわ」
無垢材で造られた一見、自転車のハンドルの様な形状のその木製器具は、中央から両端まで緩やかなカーブが付けられている。
特徴的なのは、厚みのある二枚重ねの構造になっており、両脇に固定用のためと思われるゼンマイねじのような太いボルトとナットが取り付けられている。
麻耶が何より不思議に思ったのは、二重に重なった中央部分に数センチ程の小さな穴が開いている事だった。
それは何かを挟みこむための様にも見えるが、皆目見当が付かない。
「ふふ、不思議そうね。どんな使い方をするのか今すぐに分かるわよ。あと、これも必要ね」
遥香は同じキャビネットの奥から、ハンブラーと同色の無垢材で出来た柄付きの木製ボディブラシを取り出した。やや短めの柄に厚みのある丸い先端のブラシ部分は、CDやDVD程のサイズだ。
続けて遥香は中央のソファーテーブルをずらすと、壁際に立て掛けてあった折りたたみのパイプ椅子を麻耶夫人と夫の僚介の前に置いた。
「さて、僚介さん、この椅子の座面に腹部を乗せて床に四つん這いになってごらんなさい」
「えっ、四つん這いって、こんな恰好で……それに、それは何ですか」
「すぐ判るわ。早くしなさい」
僚介は院長の遥香がキャビネットから取り出したハンガーの様な器具も気になったが、そんな事より、そろそろ服を着て良いか訊いてみようと能天気に考えていたところだった。
そこへパイプ椅子の上で四つん這いになるように指示された事で、状況を今ひとつ呑み込めず怪訝な表情を見せている。
「僚介さん、私はまだ許していないわよ。先生の言う通りにできないなら、すぐにでも離婚を考えるわ」
「わ、わかったよ……」
妻の麻耶の声音に僚介は、しぶしぶとブラジャーしか付けていない裸体をパイプ椅子の座面に覆い被さるように腰を落とし、四つん這いの姿勢になった。
「ところで、麻耶さん。僚介さんへのお仕置きの時は、拘束をしているのかしら」
遥香が麻耶にスパンキングする際のポーズについて質問してきた。
「えーと、手錠とか足枷の事でしょうか。いいえ、あまりしないですね……」
麻耶夫人は遥香が何を聞きたいのか、主旨が判らず少々戸惑った。
「という事は、基本のポーズを自主的に取らせているのね。それはそれで一番良いことだわ。サブミッシブ精神の育成に効果的ね。でも、スパンキングの回数が嵩むとポーズが崩れてしまわないかしら」
「そうなんです。途中で動き出して、規定の回数が叩けない事もよくあるんです……でも、手錠とか足枷程度だと腰をずらして逃げられるし、縛るのも面倒で……」
事実、乗馬鞭やケインで百回近くもスパンキングすれば、元自衛官の鍛えられた肉体を持つ僚介であっても、激痛に耐えきれず無意識に打擲を逃れようとし、時にはわざと床へ崩れ落ちる事もままあった。
「この道具はね、手足を縛ることなく簡単にスパンキング姿勢の四つん這いポーズを固定させることが出来るのよ」
そう説明した遥香は手にしたハンブラーの両端に付いた丈夫そうなねじ式のボルトを緩めると、パイプ椅子の上で四つん這いになった僚介の尻の間へ手を差し入れて、二つの睾丸の根元を掴み出すように尻の間から引っ張り出した。
「あうっ、何をっ」
突然、後方から二つの玉の根元を引き絞られる感覚に、僚介は仰け反るように椅子の上で上半身を捩じって振り向いた。
「すぐ済むから、じっとしてるのよ」
「うあぁ、そ、それはっ」
引っ張り出された睾丸の根元は緩めた2枚の板の間に挟み込まれ、左右のネジ穴が合わされた。
調度、二つの睾丸の根元がハンブラー中央の小穴に嵌め込まれる形だ。
「さあ、絞めるわよ」
遥香の手で両端のネジが締め上げられ、ブーメランのような形状の二枚の厚板がぴったりと重なった。僚介の睾丸は尻の外へ飛び出したまま、ハンブラーの両端が太腿の後ろ側へ足枷のように食い込み固定された。
「あぅーっ、くぅっ、痛っ」
「ふふ。足腰を動かすとタマが引っ張られて千切れる程に痛いわよ。でも、四つん這いのまま動かなければ、何ともないでしょう」
「あぁっ、ううっ」
装着されたハンブラーの両端は、四つん這いの両腿の裏側にフィットするように湾曲した形状に作られており、少しでも動かそうものなら、中央の穴に固定された睾丸が引き絞られ激痛を引き起こす事になる。
「まあっ、こんな道具があるのね」
僚介の動揺をよそに、ハンブラーの効果を理解した麻耶夫人が感心の声を上げた。
「これは、もともと睾丸のみを打ち据えるハードスパンキング用に開発されたものだけど、使い道は色々あるわ」
遥香は器具について解説しながら、先ほどキャビネットから取り出した入浴用の木製のボディブラシを持つと、豚毛が植えこまれた側でハンブラーから飛び出ている僚介の睾丸を軽く撫で上げてみせた。
「うあっ、そ、そんなっ、玉は打たないでっ、それだけは許してくれっ」
パイプ椅子の上で四つん這いの僚介はブラシのざらざらした毛の感触に慄き、絞りだされた二つの睾丸をふるふる揺らしながら遥香と麻耶に懇願する。
「大丈夫よ。タマは打たないわ。もっとも、このボディブラシで打ち据えたら数回で破裂しちゃうわ」
「あぁ……」
ブラシの毛が更に僚介の尻の表面を撫で上げる様子を見て、興味津々の表情で麻耶夫人が身を乗り出してきた。
「まあ、もしかして、これで叩くのね」
「そう、ただの木製のボディブラシだけどスパンキング道具としては、なかなかの効果があるの。覚えて置いて」
次の瞬間、遥香の手に持たれたボディブラシがびゅっと空を切る音を立てると、ゴム風船が割れる様な破裂音と共に僚介の唸り声にも似た悲鳴が部屋中に響き渡った。麻耶夫人にレクチャーすべく院長の遥香が試し打ちをしたのだ。
ードミナ麻耶の覚醒ー
「ぎゃ、ひぃーっ、くぁーっ、くうう―っ」
1発のスパンキングで僚介の尻には、その激痛の強さを証明するように手のひら大の赤く丸い跡が刻また。
「ブラシの反対側で、こんな風に力いっぱい打ち据えるのよ。インパクトの瞬間、尻肉に押し込める感じにするのがコツよ」
遥香は麻耶夫人に柄を向けて渡すと、2発目のスパンキングを促した。
海外製の入浴用木製ボディブラシはズシリと重いが、いつも使用する乗馬鞭やケインに比べ柄が短い分、座った姿勢でも力を込め易いことを確かめた麻耶夫人は、柄を握る手に力を込めてスパンキングの構えに入った。
ビッシーンと鈍い音を立てて、麻耶夫人による二発目が一発目の丸い痣の隣に炸裂した。
「ぎゃーっ、ぐあっ、ひぃぃーっ」
打ち込まれたその衝撃で右半分の尻朶がブルルッといびつに歪み、のけぞるように身を捩じらせた僚介の悲鳴が上がる。
「ほらっ、続けるわよ、反省させてあげるわっ」
「あぅっ、ひぃーっ」
ビュッと風切り音を立てて三発目が隣の尻朶に命中し、再び肉が飛び散る様な鈍い破裂音が診療室全体に響き渡る。
「ぐあうっ、ひぃーっ……ま、麻耶さん、き、効くっ、も、もう止めてっ」
木製のボディブラシのサイズと重量が麻耶夫人のスイング動作にマッチしたのか、僚介の尻肉を歪ませる程の衝撃が的確に与えられる。
「麻耶さん、いい音させるわね。ケインを教えた時もそうだけど、スナップの効かせ方が相変わらず上手だわ。チェロの弦捌きと似ているかしら」
「い、いえ、先生、そんな、全然違いますわ。でも、これって本当に持ち易くていいですね」
遥香に褒められ照れた麻耶だったが、気を良くしたのか続いて三発目、四発目を容赦なく夫の僚介の双臀に炸裂させ、大殿筋の発達した形の良い左右の尻の丸みを真っ赤に腫れ上げらせていく。
「くぁっ、うぅっ、ぐあっ、ひぃーっ」
普段のスパンキングとは比較にならない程の激甚な痛みに、僚介は四つん這いの身を大きく捩り逃げようとするが、睾丸の根元を嵌め絞るハンブラーが下半身の僅かな動きに合わせて絶大な効果を発揮する。
「ぐうっ、くくーっ、あうぁっ、いぃー痛っぅ」
妻の強烈な尻打ちから、少しでも躰をずらそうと動く度に睾丸がハンブラーで強制的に引き延ばされ、非情の痛みが僚介を襲う。
「ほら、あんまり暴れると睾丸が千切れちゃうわよ」
尻打ちされている僚介に横から遥香が声を掛ける。
「あ、そうか、なるほど。ハンブラーの意味が良くわかりましたわ、先生」
ようやく麻耶夫人がハンブラーの効果を理解し始めた。手錠や足枷をして大げさに拘束をせずとも、単純な構造のハンブラーによって、スパンキングに適した姿勢を固定させられる事に麻耶は感心した。
真っ赤に腫れ上がり始めた僚介の尻肉へ、続く十発目が打込まれた。
「ぐあっ、ひぃぃーっ、も、もうっ止めてっ、許してくださいっ」
一打一打、回数が増えるにつれ痛みは耐えがたいものになっていき、6発目あたりからは打たれる度に、悲鳴と共に口から涎と泡を吹き出している。
「まだダメよ、僚介さん。たった数発じゃないの。まだ反省してないでしょ」
涙と鼻水と唾液でぐしゃぐしゃの顔で全身脂汗まみれの躰を震わせながら、妻の麻耶へ許しを乞う僚介に対し、無慈悲なスパンキングが尚も続く。
「うがっ、ひぃぃーっ、は、反省しましたっ、だ、だからもうっ、止めてっ」
双尻の間からハンブラーで絞り出された二つの睾丸をブルブル揺らし、悲鳴混じりで懇願する僚介をよそに、二十発目の重い破裂音が部屋に響き渡る。
麻耶夫人の顔が赤らみ、額にも薄っすらと汗が滲み出し始めている。
通常の尻打ちに使用されるケインや革製の乗馬鞭と違い倍以上の重量がある木製ボディブラシでのスパンキングは、打つ側にもそれなりの筋力と体力が要求される。従って、慣れていないと数発も打てば疲れてしまうデメリットがある。
ある意味、この効果的なボディブラシでのスパンキングは、フェムドム・ライフに於いて主人としてのミドナである立ち位置を自覚し、服従者を従わせる意欲が試されるものでもあるという側面があった。
木製ボディブラシを勧めた院長の遥香は、麻耶夫人に対し、効果的な尻打ちはスパンキングをする側にも、それなりの負荷があり精神的な強さが必要になることを伝えたいという意図があった。
それはドミナとして単に痛みを与える行為
のみで相手を刹那的に蹂躙したいという表層的な心理とは違う、愛情という深層心理を引き出し昇華させる事であり、遥香が一番伝えたい部分でもあった。
「ぎゃーっ、くうぅっ、ぐうっ、あうぅ」
ビュッと数十回目の風切り音が鳴り、麻耶夫人の右手で振るうボディブラシが僚介の尻に命中する。
ハンブラーによって四つん這いの姿勢で自由を奪われ、両のこぶしを握り締めて耐えて続ける僚介の背中全体には、いつの間にか玉のような汗を噴き出している。
赤く腫れあがった尻には、既に無数の赤黒い丸い痣が重なり、尚もリズミカルにその上へ重ねるようにビッシーンと派手な音を響かせ、ボディブラシの円形のヘッドが振り降ろされてゆく。
「あぐぅっ、ひぃーっ、も、もう許して、許してくださいっ」
「ほらっ、まだよっ、許さないわっ」
最初のレクチャーで院長の遥香から、くれぐれも手前に飛び出ている睾丸は叩かないように注意されたが、興奮して打擲の手に力を込めれば込める程、目の前の二つの膨らみを叩き潰したい衝動に駆られる。
そんな気持ちを抑えながら、四つん這いの姿勢で悲鳴を上げている夫の尻へ、更なる一打を振り上げる時、麻耶夫人はこれまで経験したことの無い、爽快感に似た不思議な感覚が心の奥底から沸々と湧き出てくるのを感じていた。
(ああ、何かしら、これって……でも、ここち良いわ……、夫を裸にして尻を打ち据える行為が、こんなに気持ち良かったなんて……)
そんな思いが麻耶の心に改めて純粋によぎった。
(ああ、打つごとに僚介が永遠に私だけの物になっていく気がするわ……)
「ぎゃーっ、くぁっ、ぐうぅーっ……ゆ、許してっ、麻耶さんっ、もう二度としませんっ、言うこと聞きますからっ、も、もうっ」
僚介は今、改めて自分のこれからの人生を妻、麻耶のサブミッシブ(服従者)として捧げなければならない事を真に悟った。
四十発目が打ち込まれ、半開きの口元からだらしない涎を垂れ流したままの僚介は、こうべを垂れてぐったりと動かなくなった。
「かなり堪えたみたいだから、これで許してあげてもいいわ僚介さん。もう、私を困らせないこと約束できるわね」
「うぅっ……」
麻耶夫人に顔のそばで囁かれ、僚介はううっ、ううっと首を縦に振っている。院長の遥香は、それを横で見守るように眺めていた。
激しいスパンキングが一段落したタイミングでノック音と共に半開きのドア越しに助手の早川佑樹が顔を出した。
「あの、手術の準備は整いましたので、どうぞ」
麻耶夫人のスパンキングがそろそろ終わる状況を見計らって、ドアを開けた佑樹の視界に血を滲ませ赤黒く腫れ上がった僚介の双尻
が入ってきた。
「わかったわ。すぐ行くから向こうで待機していて」
「はい。わかりました」
一瞬、佑樹の視線が僚介の尻に取り付けられているハンブラーに奪われた。
(あぁっ、あれは……)
僚介の尻の下から二つの睾丸が絞りだされ充血してフルフル揺れている。初めてハンブラーの使用状態を見た佑樹は遥香へ生返事を返すほどのインパクトを受けた。
(あんな風に使われる道具だったのか……睾丸があんなに飛び出してる)
ここへ研修へ来てからキャビネットに入っていたハンブラー自体は何度も見ていたものの、佑樹にはそれがどのように使用される物なのかまったく見当が付かなかった。
たった今、ゴム毬のように搾り出された剥き出しの睾丸の状態を見たことで、佑樹は一瞬にその用途を理解することができた。
(まさか……あの状態で睾丸を打ち据えられたら……)
何の変哲もないような木製の器具の恐ろしい用途に佑樹は身震いするような戦慄を覚えた。
「ううぅ……」
「奥様のお仕置きは、かなり堪えた様子ね、僚介さん」
院長の遥香はぐったりと四つん這いになっている僚介の後ろに回り、睾丸を絞り上げているハンブラーのネジを緩め外し始めた。
「あのぅ、何か、すっきりしましたわ、遥香先生。ボディブラシって重いけど、打ちやすいんですのね」
麻耶夫人の顔が心無しか来た時よりも晴れやかになり、声も柔らかい。
「そうね。少し重いけど気に入ったかしら。今度は麻耶さんの膝の上に乗せてスパンキングするといいわよ」
「まぁっ、膝の上ですか先生。子供の折檻みたい」
遥香の前で麻耶夫人の笑顔がこぼれる。
(ふふふ。スパンキングが愛情へ昇華する域に達してきたようね。今日で二人のフェムドム度はかなり上がったわ)
歯を食い縛りながらスパンキングを最後まで耐え抜いた僚介の態度と、真摯にボディブラシを振るった麻耶にフェムドム・カウンセリングが進展した事を遥香は確信した。
そして今後の二人のフェムドム・ライフに問題が起きないように新しい貞操具の装着を実施することにしたのだった。
ー仕上げはピアス式永久貞操具ー
院長の遥香に促され、診察室のドアを出た望月夫妻は廊下を進みスライド扉の処置室へ案内された。
夫の僚介は麻耶のボディブラシによるスパンキングで腫れ上がった尻の激しい痛みでパンツが履けず、下半身を剥き出しのまま移動を余儀なくされた。臀部に簡易処置で貼られた特大の消炎パッドが滑稽にどことなく滑稽に見える。
「こちらへ、どうぞ」
カウンセリングで使われたリビング調の診察室より半分ぐらいの広さの処置室は、壁の上部全体がブルー調の照明になっており隅々を照らす薄青い光が無機質な印象を受ける。
先に入った助手の佑樹が手術用の白いキャップを被り、手術台を白く照らす天井から伸びた円形のLED照明の下でカチャカチャと器具を確認していた。
「用意はOKかしら」
「はい、院長。すぐ始められます」
院長の遥香が、これから行われる処置について改めて説明し始めた。
「先程、奥様から了解を得たのだけど、一応僚介さんにも説明すると、これからペニスへ特製貞操具のための刺環処置をします」
「えっ、あ、あの刺環って……」
「ピアッシングの事よ。そんなに大げさな手術ではないわ」
「えぇっ、まさかっ、そんなっ」
処置室へ連れて来られたのは、激烈なスパンキングで熱を帯びて真っ赤に腫れ上がっている尻への治療をしてもらえるのだろうと考えていた僚介は、状況が呑み込めずに唖然とした。
「僚介さん、あなたに新しいタイプの貞操具を着けてもらうのよ」
「あ、新しいって、どんな……それに、ピアッシングって」
「一生外せない貞操具よ。私以外はね」
妻の麻耶の口から僚介にとって疑いたくなるような様な言葉が出る。
「い、一生って……まさか、冗談だろ」
「ふふ、嘘じゃないわよ。ちょっとした手術が必要みたいだけど」
助手の佑樹が手術台の固定ベルトの位置調整を終えると、おもむろに僚介の肩ごしから患者用の手術エプロンをふぁさっと掛け、手術台の中央へ仰向けに乗るように促した。
「さ、僚介さん。今、奥様から聞いた様に、これから着ける貞操具はチタン合金製のPAタイプという特別なものよ」
妻の意向である事を遥香から説明され、同時に手術用具のトレーから滅菌包装に包まれた鋼色の貞操具を魅せられた。
「えっ、チタン製……」
「通常は樹脂製貞操具の次の段階では、ステンレス製のビキニタイプ貞操帯を装着するのが約束なんだけど、さっき麻耶さんと話してこれに決めたのよ」
僚介の目の前に差し出された、やや黄銅色がかった金属で造られたそれは、小ぶりだが厚みのあるペニスケージの造りから、恐ろしく堅牢に造られていることが想像できた。
更によく見るとペニスケージの先端付近に環ピアスが付いており、特殊な構造になっている事がわかる。
「ああーっ、こんなっ、ピアスなんて嫌だ。いままでのプラスチック製でお願いしますっ」
僚介は天井のLED照明の光を反射して輝く、新しい貞操具に狼狽を隠せない様子で騒ぎ始めた。
「あら、あなたったら、プラスチックじゃ直ぐに壊しちゃうじゃない。だから永久タイプの貞操具を遥香先生に用意してもらったのよ」
麻耶夫人が僚介に充分に検討して選んだ貞操具であることを説明する。
「え、永久って……」
「そうよ。私の許可がなければ、一生涯外す
ことのできない特別な貞操具よ」
麻耶の言葉に困惑して手術台の前で足をすくませる僚介に遥香が急かすように白いマット指をさして指示をする。
「さあ、僚介さん。早くそこへ仰向けに寝てもらえるかしら」
「さ、どうぞ。ここへ腰掛けて下さい」
助手の佑樹が手術台へ寝かせようと僚介の腕を引いて腰掛けさせようとする。
「あぁっ、な、なにをっ……あうぅっ」
尻の痛みのために、すんなり腰掛ける事がままならない僚介は一度マットの上に着いた臀部を持ち上げて中腰になった。
「い、痛くて、仰向けなんかになれない」
「まあっ、お尻の痛みなんて少し我慢できないの。だらしないわね僚介さん」
僚介の渋々とした動きに妻の麻耶がいら立ちを見せ、院長の遥香も同調し始める
「僚介さん。マットに上がれないのなら、そこで立ったまま手術よ。それでいいわね」
「あぁっ、そんなっ」
二人のエスカレートしてゆく雰囲気に、僚介に対して同情したのか傍らで待機する助手の佑樹が、腫れ上がっている尻に負担が掛からぬように手術台の上へ手を貸した。
「あぅっ、うぅっ……」
(熱い……尻がこんなにまだ熱を持ってる)
今日の昼間、自分自身も院長によるスパンキングで疼いている尻のまま業務に着かされている佑樹は、僚介の尻の熱さに他人事ではない感傷を感じたのだった。
「念のため、固定バンドをします」
手術台の上に乗せられた僚介は、佑樹によって仰向けに寝せられ、更に両手両足をそれぞれの両袖に備え付けられたベルトで手早く固定された。
「さあ、準備が整ったようね。尿道口の浅いところにピアッシング用の穴を開けるだけだから、すぐ済むわ」
「ああぁ、ピアスなんて嫌だ、そんなっ、やめてくれっ」
括りつけられ抵抗できない躰を揺すりながらピアスとは言え肉体改造されるという、一抹の恐怖に僚介は声を上げて取り乱した。
「僚介さん、往生際が悪いわよ。たった今、私に誓ったんじゃないの、言うこと聞くって」
取り乱した僚介の耳に妻、麻耶の声も素通りしていく。
「あぁーっ」
僚介の懇願をよそに遥香の手により刺環手術が淡々と始められた。
「貫通位置を決めやすいように、軽く亀頭を勃起させるわよ。大きくさせる刺激の与え方は同性だからわかるわね」」
「はい、大丈夫だと思います院長」
手術の前処置として助手の佑樹へ僚介のペニスを固く膨張させる様に指示を出した。
「僚介さん失礼します。軽く充血させますね」
佑樹の指が僚介のペニスを挟む様に摘まみ、亀頭のカリ首辺りから上部をきゅっきゅっと往復して揉み始めると、萎えていた肉棒は同性の手による刺激にもかかわらず瞬く間に勃起状態にさせられた。
「あっあっ、うふぅっ」
「いい感じね。そのままキープよ」
頃合いを見計い亀頭の裏すじ周辺へ血行促進成分入りの薬液ゼリーが遥香の手によってたっぷり塗り込められ、更にペニスの根元へ止血用のゴムチューブが巻きつけられた。
「あうっ、ううっ、きついっ」
遥香からプリンスアルバート方式というピアス手術を施すと説明を受けていた麻耶夫人
は、一歩後ろから一部始終を興味深げに見ていたが、本格的な出血を伴う手術が始まる気配に口を開いた。
「あの、遥香先生。わたくし廊下に出ていた方が良いかしら」
耳にピアス穴を開ける程度の簡単な処置とは違い、助手の佑樹による亀頭マッサージと血行促進ゼリーでたっぷり充血させた海綿体に肉穴を開けることを想像すると、それなりに大掛かりな手術なのだろうと素人ながらに察した麻耶は遠慮がちに遥香に訪ねたのだった。
「あら、簡便な手術だから別に大丈夫よ。多少は出血するけど嫌じゃなければ、むしろ、ピアス穴の位置を覚えてもらうのに、そこに座って見ていてもらった方がいいわ」
コクリと首を縦に振り、理解の顔を見せた麻耶夫人に遥香は持ち手に細い電気コードが伸びたアイスピック状の器具を見せた。
「貫通の傷を早く塞いで出血を抑えるため、専用のレーザーニードルを使うから僚介さんには少々痛みを味わってもらうけど、我慢してもらうわね」
「ええっ……すぐにやるんですかっ、あ、あの、先生っ」
「何かしら、僚介さん」
不自由な躰を身悶えさせて、僚介が不安そうに遥香に向かって声を上げる。
「あのっ、麻酔とかはしないんですかっ」
「あら、そうよ。麻酔なんかしたら勃起しないから使わないのよ。ものの数分だから麻酔をする程じゃないわ」
「えぇーっ……そんなぁ」
「それに、ピアス穴を開けたらすぐにその貞操具は嵌めてもらうから、痛みで下手に動けない分、傷口が広がらなくていいのよ。後で痛み止めは注射してあげるけど」
(……ピアッシング直後に貞操具を嵌めさせるなんて、さすがに先生も厳しいな……)
他人事ではあるものの手術の直後に、この重厚な金属で造られた貞操具の装着を宣言された僚介に、佑樹は多少の哀れみを感じていたが、何故か数ヵ月間嵌められっぱなしの貞操具の先端がまたも、じくじくと濡れだすのをはっきりと感じていた。
ー銀色の刺環と鮮血とー
「さあ、ちょっと痛いわよ。動かないで我慢してね、僚介さん」
次の瞬間、遥香の手持つ穿孔用レーザーニードルの鋭い先端が僚介の尿道口に突き刺さり、カリ首の裏すじ辺りから鮮血を伴って刺し貫かれた。
「ぎゃっ、ぎいゃーっ、うううーっ、くっひぃーっ、いひーっ」
手術台の上で喉が潰れそうな叫びが吹き上がった。スポットライトに照らし出されているペニスはアイスピック状の器具で無残にも串刺しにされ、貫通している。
「あぅーっ、ううっ」
激しく左右に首を振り、マットの上で仰向けに固定されながら悶絶する僚介の背中に貼りついた手術台の座面は、噴き出した夥しい汗でヌラヌラと輝いている。
数秒後、尿道口から微かな肉の焼ける臭いを漂わせるレーザーニードルが抜き取られると、ペニスの先端から真っ赤な鮮血が滴り始め、白い手術台のマットに小さな血だまりを作っていった。
「うううーっ、くぅーっ」
「直ぐに血は止まるわ。元自衛隊員で鍛えた身体なのだから、少々の痛みくらい平気でしょ」
遥香の言葉に僚介は歯を食い縛り、絶え間ない痛みに耐えている。
(あぁ……麻酔無しは痛いよな)
院長の遥香がわざと麻酔をせず、処置を強行した理由はお仕置き以外の何物でもないと助手の佑樹は研修医の立場から悟っていた。
「あはは。僚介さん、自衛隊にいた頃とは違って堪え性が無くなったわね。でも、それも罰よ、我慢してね」
途中、処置室から出て中座しようとした麻耶夫人だったが、脂汗を滝のように流しながらペニスにピアス穴を開けられて悶絶している夫の僚介を見て可笑しそうにしている。
「さあ、穴が狭まらないうちにピアスを通して永久貞操具を装着するわよ」
遥香が手術台に固定されたトレー皿の上から滅菌袋を手に取り無造作に破くように開けると、中から手のひらに隠れるサイズの半円状の金属部品が出てきた。
「これがペニス用のピアスよ。当分の間、ゲージの太さは6でいいわね。傷が塞がってきたらもう少し太くするわよ」
男性器の最も敏感な陰核の裏側に麻酔なしのピアッシングを受け出血の疼くような痛みに喘いでいる僚介には、それが何をする物なのか考える余裕もなかった。が、数秒後にその痛みの中心に焼ける様な激痛が走り、遥香が手にした金属が何を意味するものなのかを身を持って知った。
「ぐあっ、ひぃーっ、くっ、ひぃーっ」
刺環手術で開けられた肉穴にピアスパーツが強引に押し通され、天井へ悲鳴を上げた。
「ふふ。調度良い具合の位置に開いたわね」
「あぁっ、うぅ……」
貫通させた亀頭の裏スジ付近から尿道口へ縫うように通されたピアスパーツの先端は、僚介のペニスえぐるように鈴口から飛び出た状態に収まった。
「あうぅ、うぅっ」
太さ四ミリ程の銀色のピアスで拡げ割られた鈴口の端から、一時止まり掛けていた鮮血が再びポタリポタリと滴り落ち始め、助手として立ち会う佑樹の見ている前で手術用の滅菌ガーゼを赤く染めてゆく。
(ああ、貞操具を着けるのにこんな手術までされてしまうなんて……)
悲愴な光景を目の前に佑樹はピアッシングの痛感が間接的に自分の股間にもに伝わって来る気がした。股間の貞操具の中へ窮屈に閉じ込められているペニスの先からドクッと何かが漏れる感覚を覚えた。
「早川さん、次はOリングと本体を着けるわよ。ぼーっとしてないで出血を清拭して」
「あっ、はい、すみません」
ふいに遥香から叱咤されて佑樹は慌てて血まみれになった僚介のペニスを綺麗に拭き上げ、根元に巻かれていた医療用ゴムチューブを外し金属製貞操具の本体を滅菌袋から取り出して遥香へ手渡した。
喘ぐ僚介に重厚な金属のペニスケージとやや厚みの薄いOリングが手早く被せられ、血を滴らせながら肉茎を貫いている半月状のピアスの裏スジ側がロックピンで連結された。
「仕上げは専用の精密キーで締めて装着完了よ」
カチャカチャと冷たい金属音の響きに、壁際の長椅子に腰かけて様子を見ていた麻耶夫人が立ち上がって寄って来た。
「終わりましたの、遥香先生。見てもいいかしら」
「ええ、どうぞ。今、仕組みを教えるわね」
手術台の僚介の股間には、金属の冷たい輝きを放った新しい貞操具が装着されていた。それは、これまで装着させていた樹脂製の貞操具とはまるで違う、まさしく鉄の鎧を想像させる堅牢な外観だ。
「まあっ、これがそうなのね」
麻耶夫人が、顔を近づけてまじまじと見ていると院長の遥香が説明を始めた。
「尿道口に飛び出てるピアスは、ここの特殊ロックピンで固定されているわ。同じくペニスケージとOリングのジョイントにも特殊ネジが使われているの」
喋りながら遥香は、僚介の股間に手を伸ばし、取り付けた厚みのある金属製ペニスケースを持ち上げて見せた。
「あら、キーロックじゃないのね。また外してしまわないかしら」
ネジ穴に極小の二重の丸溝があるだけの小さなジョイントは、これまでの錠前タイプからすると一見、簡易的な構造に見える。セキュリティに不安がよぎった麻耶夫人は夫の股間に装着された新しい貞操具を興味深そうに見つめながら質問した。
「心配はいらないわ。そのジョイントは、これがなければ開けることは出来ないわ」
遥香が麻耶夫人の前に二個の小さなT字型のクランクを差し出した。
「へー、はじめて見るタイプの鍵だわ」
手の平に載せられたそれは、小さな溝が幾重にも精巧に加工されており、精密機械の部品のようでもある。
遥香の説明によると、僚介のペニスに貫通させたピアスとペニスケージを連結させている極小のジョイントは特殊なネジ構造になっていて、この専用のクランクキーを交互にさし込まなければ解除出来ないとの事だった。
一ミリにも満たない幅で外側と内側に切られた丸い二重の溝は別々の専用のクランクキーを挿し込んで回すように造られており、一個のキーだけでは外すことは出来ない構造になっている。
「その解除用のクランクキーは、最新の工作機械で精巧に削られていてスペアは造れないの。それだけしかないから、失くさないようにね」
「まあっ、そうなんですね」
麻耶夫人は不思議そうに遥香から渡された二種類の解除用キーを見ている。
「外すこと、あるかしら」
麻耶の冗談交じりの言葉の横で夫の僚介は、股間に装着された新しい貞操具に顔を向け、慄いた表情で呻いている。
「あぁ、ううぅ……」
麻酔なしでピアスを通されたペニスの焼けるような痛みと、ボディブラシのスパンキングで腫れ上がった双尻の二重の痛みに苛まれながら、僚介は股間に嵌め込まれた銀色の貞操具を目をパチパチと瞬かせて見ている。
「もういいわよ。手術台から降ろしてあげて早川さん」
遥香の指示で助手の佑樹が僚介を固定していた両手足の拘束バンドを外しに掛かり、手術台のマットから抱き起こされた。
「あうっ、いっ、痛ぅーっ……」
起こされた際の摩擦で腫れた臀部が鋭く痛み、呼応するかのようにペニスの先端には鈍器で叩き潰された様な激痛が走る。
起こされた僚介は、自分のペニスに肉穴を開けられ装着された、禍々しいピアス式貞操具を改めて見詰めた。
壊した樹脂製貞操具に比べ外観はコンパクトだが、ペニスケージの厚みはまるで鉄の檻のごとく堅牢な造りであることが一目で分かる。僚介は何か途方もない不安に襲われた。
「うぅ……こんなぁ」
院長の遥香はそんな僚介に術後の注意を伝え始める。
「化膿止めの薬を出して置くけど痛みが引くまで3、4日かかるわ。それと雑菌が入らない様に着けたまま毎日洗浄するのよ」
「洗浄って、着けたままでなんてっ……それで傷口が塞がるんですかっ」
僚介は傍らの助手の早川佑樹にも焦燥した顔を向け、心配そうに訴えてきた。
既に装着を終えた僚介の貞操具の先端のスリットからは、太めのピアスが鈴口より飛び出しているのが見える。
確かに手術直後の傷口にピアスを通す院長
の処置は、考えてみればあまりに乱暴にも思えたが、不思議と出血が治まっている状態を再確認した佑樹は、遥香が意図的に太めのピアスを通し、止血効果を狙ったものだと理解した。
「ええ。ちゃんと消毒を怠らなければ、すぐ治りますよ」
佑樹はそう応答した。他人事ではあるが、
ここに居る限りいつかは自分の股間に装着されている貞操具もこれに換えられるのだろうか……。そんな心配を頭の隅によぎらせる佑樹の横で、僚介は院長の遥香から傷パットが痛々しく貼られた尻朶に化膿止めの注射を打たれている。
「尻は二日程度でよくなるわ。ペニスはこまめにシャワーで洗浄して消毒するといいわ」
遥香は麻耶に僚介のペニスの傷口洗浄について指導し始めた。
「あの、先生、洗浄って本当にこのクランクで外してやらなくていいのかしら? 」
「外す必要は無いわ。貞操具ごと消毒液につけると簡単よ。後で消毒液と容器を用意するわね。最初のうちは傷口が染みて痛がると思うけど、慣れてもらってね」
遥香は続けて麻耶が洗浄する際は、両手の拘束はするように念を押す。
「傷口が塞がってきたら、洗浄液に切り替えて専用ポンプを使えば、水流で恥垢も洗えるから、ずっと外す手間はないわ」
「じゃあ、この貞操具は定期的に取り外してのペニスクリーニングは、特にしなくてよろしいのね。早くこれを着けて欲しかったかも」
麻耶はこれまでも几帳面な性格から、僚介のチャスティティ管理を忘れることなくしっかりと行っていた。
フェムドム・カウンセリングによれば主導権を持つ女性がパートナーである男性の性欲を管理するのは義務であり、当然その中には性器の状態管理も含まれるとされている。
これまでの樹脂製貞操具は、最低十日に一度のクリーニングが必要とされていた。この作業が案外、面倒な行事であり、先のクライアントである榎萊美子のように放置してしまうケースも多々あるのも事実だ。
夫の股間へ今、新たに装着されたピアス式の堅牢な貞操具は、そんな煩わしさを解放してくれる器具だと理解した麻耶は気持ちを楽にさせた。
「ペニスケージのサイズは僚介さんの半勃起
状態に合せてあるから、先ずはピアスと重さに慣れることね。今までよりコンパクトな分着け心地は良いはずよ」
遥香の説明ではミクロン単位で表面の凹凸が研磨された極限加工になっており、性器になめらかにフィットし日常生活からスポーツまで問題なくこなせるという事が加えられただ。
「あら、着け心地がいいって。よかったわね僚介さん」
半ば観念した様子を見せる夫の僚介に向けた麻耶の声に何時しか張りが戻り、同時にその柔らかい右手が股間の痛みに震える僚介の手の上に置かれた。
「ああっ、麻耶さんっ、でも時々は外してくれるんだよね……」
「そうね、あなた次第よ僚介さん。今は外すことは考えられないわ」
「なんなら、メンテナンスフリーでこのまま一生着けさせて生活させられわよ、麻耶さん」
僚介の甘えを完全に断ち切らんばかりの遥
香の言葉が割って入る。
「まあっ、ずうっと一生なんて……うふふっ、それもありかも」
遥香の言葉に呼応して夫、僚介に言葉を投げる麻耶の表情に軽く笑顔が見え隠れする。
「この合金はハイテン材だから、プレス機や切削機械にでも掛けない限り、破壊する事はまず無理よ、解除も2個のクランクキーが揃わなければ100%出来ないわ」
続けて、遥香の口から、強制装着されたプリンスアルバートピアス式金属貞操具の剛性や堅牢性の説明がされた。
傍らで見ていた佑樹は、以前に遥香から聞いていた永久タイプの貞操具が存在するという言葉を思い出していた。
(あぁー、一生涯用ってこれのことなのか……なんて貞操具なんだ……)
「もう、壊せないわね。私が許可しないと自分のペニスに触ることも不可能よ僚介さん」
「あぁ、本当に、これで生活させるのか……」
「そうよ、自業自得でしょ。念のためにクランクキーは先生に預かってもらうことにするわ。だから、早く慣れてね」
「そういうなら、こちらで鍵はお預かりするわ。僚介さん、辛い時は妻の麻耶さんに頭を下げて、ここへ来ることね」
「くぅーっ、そんなぁ……」
(あの太いピアスを外さなければ、貞操具は解除出来ないのか……)
僚介の新しい貞操具の先端から飛び出たピアスをまざまざと見ながら、佑樹は永久貞操具の恐ろしさを改めて知った。
二人の会話の通り、ペニスを貫く形で装着されるピアス式貞操具は、見るからに肉厚の重厚な金属光を放ち、恐ろしく頑丈な造りに仕上げられているのが分かる。
中太のピアスは裏スジ中央から尿道を貫き、僚介のペニスの鈴口から飛び出る形でロックしているため、専用の鍵なしでは本体ごとペニスを引き千切るぐらいしか外す方法は無いだろう事も一目で想像がつく。
つまり、鍵なしで外すには、性器に甚大な損傷を与える手段しか選べないという事だ。
「ふふっ、あなたの事だからきっと、何とかして外そうとするわよね。自分の立場を身を持って分からせる迄、当分の間、一切の解除もしないわ」
「当分の間って……」
「最低、半年。ううん、1年かしら。その間は完全放置よ」
「あぁーっ」
僚介の喉から落胆の嗚咽が低く滲むように洩れた。
「あらあら、大変ね、僚介さん。もう二度と貞操具を壊す事など考えないことね。まあ、ペニスを切り落とす覚悟があれば自己解除も可能でしょうけど」
(ああ、なんて残酷な仕打ちなんだ……この人は耐えられるのだろうか……)
傍らで待機している佑樹にも、目の前でうな垂れた表情で佇む僚介の心苦しさが手に取るように理解できた。
「じゃあ、早川さん。後片付けをお願いね」
「はい。わかりました院長」
二人に術後のフェムドムコーチングと言えるべきインフォームドコンセントを一通り伝えた遥香は、以降を助手の佑樹に任せて手術室をあとにした。
手術台の横では悲哀の翳りを全身に漂わせた僚介が、もそもそと身支度を整え始めている。その脇で気分を取り戻した妻の麻耶の僚介を見る可笑しそうな、それでいて愛おしそうな表情が印象的だ。
背の高い妻の麻耶が夫の尻を軽く押すようにして、そのうち二人は手術室を出ていった。
佑樹にとって一つだけ不思議だったのは、尻を押した麻耶の手を僚介の手が強く握り締めるように離さないことだった。
ー「フェムドム」愛のかたちー
手術室で後片付けしながら、助手の早川佑樹は今後の望月夫妻がどのような日々を送るようになるのか考えていた。
午前中の榎カップルと、今しがたの望月夫妻に実施された二件の診療を目の当たりにしたことで、ここ葉沢FDクリニックでは、女性優位の認識と価値観を浸透させるために往々にして医療的常識が無視されるという事実を再確認したのだった。
国内唯一のフェムドムカウンセリング専門の臨床現場で、院長の葉澤遥香の提供するそれは、心療分野でポピュラーに実施される行動認知療法的な手順を踏んではいるものの、痛みや苦しみを伴う賞罰の履行を表裏一体のセットで進行させてゆく。
その方向性はある種の嗜虐性を孕んでいる。
ふと、佑樹は夫の僚介が妻の手を握り返していた光景を思い出し、その時の彼の心情を改めて想像した。
(彼は結局、あの状況を望んで受け入れていたのかもしれない……)
僚介にとって本日の受診は、妻を裏切った行為が白日の下にさらされるに至った想定外の悲惨な展開となった訳だが、今にして思えば、あの過酷とも思える永久貞操具を装着される事態に対して、強い拒絶反応を見せたわけでもなかった。
あの僅かな時間の中で僚介は、事ここに至り、自分を切り捨てて遠ざかろうとし始めた妻の麻耶に対して苦悩した結果、遥香の提案を甘んじて受けたことで、状況の更なる悪化を防いだのかもしれない。
僚介のその選択は、結果的に自身の肉体に麻酔なしで穴をあけられ、激痛の悲鳴を上げながらサブミッシブとしての人生を決定付けるに至る永久貞操具を装着されることになった。
しかし、妻である麻耶の手がペニスの痛みに耐えて震える僚介の手に触れてきた時、彼は自分に対するフェムドムとしての妻の愛情を確信したのだろう。
佑樹はそんな結論に達した。
(冗談抜きで彼は本当に一生涯の装着になるのかも……まさかな)
佑樹は改めて、自らを伝道師「フェムドムエヴァンジェリスト」と称する院長の葉澤遥香の論理と実践が、その嗜虐性さえも甘受させる卓越した技法を有しているという事実を理解した。
それは甘い蜜の味を初めて口にした時の洗脳されるような感覚に近いと佑樹は思った。
(いずれ自分の股間にも、あんなような永久タイプの貞操具が嵌め込まれるのだろうか……)
もしそれが自身に本当に起こったら、そう思った瞬間、全身に鳥肌が立ち始め佑樹は心の中で慌てて否定した。が、そんな気持ちとは裏腹に、ペニスケージの中で亀頭がまたもビクンと疼く感覚に襲われた。
ー研修装着は継続されてー
待合室の窓口で支払いを済ませ帰って行った望月夫妻を見送った佑樹は、本日の診療内容をカルテにまとめていた。院長の遥香は既に帰宅している。
時刻は午後七時を過ぎていたが、夏至が過ぎて間もない空はまだ薄明りを纏っている。
たった今、先刻帰っていった望月夫人から
問い合わせの連絡があり、診察室で夫へのスパンキング時に使用したハンブラーについて新しく装着した貞操具を着けたままでも使えるのかと訊ねてきが、佑樹は知識不足を詫び、改めて院長より直接連絡させる旨を伝えてやり過ごした。
(ううっ……)
戸締りの準備をし始めると、一時治まっていた昼間スパンキングを受けた尻が鈍く痛み出した。そのズキンとする鈍痛に合せて亀頭あたりにも疼きが走る。
帰り際に股間に嵌め込まれた貞操具のクリーニング開錠は尻の腫れが落着く二週間後と言い渡されている。
(あぁ……痒いっ)
透明なペニスケースの内側は、既に見えない程に恥垢で白く汚れ切り、日に何度も掻きむしりたい程の強烈な痒みに襲われ、都度、我慢しなければならなった。
榎萊美子の婚約者が半年越えの射精管理に悶え狂っていた状況に比べれば、まだほど遠いが、佑樹の股間の貞操具は装着されてから丸三ヵ月が過ぎようとしていた。
「あのっ、は、遥香先生っ、も、もういい加減に貞操具は許してもらえないですかっ……」
小一時間前、帰り支度を始めた院長の遥香に佑樹は思い余って懇願した。
痛烈な痒みと並行して、性欲はピークに達したままの状態で毎日が経過している。特に就寝時と明け方には限界だと思うほどの射精欲求が嵐のように襲って来ていた。
そんな佑樹の生理的状態を楽しんでいるかのように、遥香は軽く微笑みながら返事をする。
「出したいし、痒くてたまらないでしょうけど、まだまだ頑張って辛抱してね。チャスティティ療法の効果をしっかり体験するいい機会よ」
「ああ、そんな……」
遥香は佑樹に軽く告げると、さっさと身支度を整えクリニックを出ていってしまった。
思えば四月にここへ研修医として着任して以来、フェムドムカウンセリング臨床を理解するためチャスティティ療法についての座学と実践に明け暮れる日々が続いている。
フェムドム専門の心療を提供する施設として国内唯一の葉沢FDクリニックでは、男性は例外なく初診の段階で剃毛を施された後に樹脂製の貞操具を装着されて射精管理が始められ、受診者は生れてはじめての異質な拘束感にショックを受ける。
初期段階の貞操具はプラスチック材質の初心者向けのタイプだが、日頃自由に触れることのできた自身の性器が窮屈な器具に閉じ込められ、更には根元を括るリングとペニスケージにより、生理的な無意識の勃起反応は容赦なく締め上げられ、特に毎朝の勃起現象時には激痛を呼び目を覚まさせる。
射精を禁じられたことで年齢的な差はあるものの、その後の経過とともに精液が睾丸を膨らませ、否応なしに射精願望と性的欲求がピークへと向かう。更には、恥垢で蒸れたペニスのじっとしていられない程の痒みに耐えることを強いられる。
受診者の中には初めて経験する辛さに強く拒絶反応を起こし、望月僚介のようにペンチなどの工具を使って破壊してしまう者もいるが、逆にフェムドムカウンセリングの治療効果を監修する院長の遥香にとっては、罪を認めさせた上で更に厳しい負荷を与えるための好材料となり、しばしばサブミッシブとしての心理を向上させるために利用される。
そして、貞操具を装着された者はいずれ、開錠の権限を持つキーホルダーの存在を受け入れ、徐々に従属することの受け身の愛を感じ始めるようになり、従順なフェムドムライフへと移行していく。
遥香はその過程を緻密に計算した上で、依頼されたクライアントへチャスティティ療法と称した心理調教を与えるのである。
「サブミッシブって言うのよ。あなたには元々その願望が心の奥に隠れてたのよ」
院長の遥香がフェムドムカウンセリング時によく使うフレーズだ。
診療所の照明を消し戸締りをしながら佑樹は、着任当初は理解できなかった女性へ服従することを受け入れる本当の意味を朧気ながら肌で感じ取り始めていた。
(女性優位のコミュニケーションの刷り込みか……それはそれでありなのか……)
否、肌というよりはペニスで感じ取ったという表現が当てはまるかも知れない。
日々窮屈なケージに閉じ込められて僅かな勃起も許されない状態を強いられる中で、十日に一度の定期洗浄で貞操具のロックが開錠される際、白濁した恥垢がこびり付き悪臭を放つ汚れ切ったペニスを曝け出す切ない程の恥ずかしさは、何度も経験しても慣れるものではない。
しかし、両手を後ろに組まされた姿勢で、その恥垢の汚れを擦り洗われる時の気が狂わんばかりの快感に佑樹は、サブミッシブな自我形成の芽生えをペニスを介して促進させるのが、貞操具の本当の効果でありチャスティティ療法の目的なのだということを悟り始めていた。
(ううっ……)
腰を屈むたびに尻の痛みが疼いて、その疼きに反応するように貞操具に閉じ込められたペニスの掻痒感が増してくる。
そして、尻の疼きとペニスの痒みの中で佑樹は昼下がりのスパンキングの後に強制された足舐め奉仕で嗅いだ、遥香の鼠径部から漂っていた刺激的な芳香を思い出していた。
(あぁ……遥香様……)
チャスティティ療法の効果は、既に佑樹自身にも現れていた。
ー貞操具の愉悦ー
梅雨も終盤に入り、近頃は午後になると曇天が所々千切れてその合間から陽光が差し込み、鬱陶しい季節からようやく解放されつつあることを告げていた。
クリニックは週末の休診日までフェムドムカウンセリングの予約は入っておらず、通常の内科の一般外来が続いている。研修医の佑樹は終日ワンオペの診察をこなしていた。
院長の遥香はこの数週間、フェムドム臨床学会での講演に出張しており、この間の診療を一人で切り盛りするように依頼されているためだ。
三週間前に院長から受けた五十発のスパンキングの尻傷はようやく治癒したが、ペニスの定期洗浄はされることはなく貞操具はロック状態のまま放置されていた。
パンパンに溜まりきった精液を放出できない悶々とした生理に苛まれ、眠れない夜が連日続く中、佑樹は律儀にクリニックへ出勤し業務をこなしていた。
チャスティティ療法用の樹脂製貞操具が、相変わらず嵌め込まれたままの股間は、近くに寄ればツンとくる程、強い臭いを放っている。洗浄されないまま放置されていることでペニスケージの内側は恥垢で白く汚れ切り、時折、気が狂いそうな痒みに襲われる。
かれこれ解錠されないままの状態は4ヶ月になる。体験学習として初めて装着された貞操具は最初の数日間、フィッティングと称されたサイズ合せの期間があり、サイズに余裕を持たせた大き目のペニスケージとリングを着けられたが、日ごとに徐々にサイズの小さなものに変えられていった。
フィッテイング初期の七日間は貞操具の装着感も比較的緩く、入浴時などにペニスがケージから抜けてしまうスリップアウト現象が時々起こることがあった。
研修医として着任して間もない佑樹はこの時期、入浴の度に石鹸で貞操具を滑らせ、わざとペニスをスリップアウトさせてはシャワーを浴びながらマスターベーションに耽っていた。すっきり射精した後に萎え始めたそれをもう一度、ペニスケージに収める作業は比較的簡単に出来た。
(こんな、おもちゃみたいな物がカウンセリング治療用に効果があるなんて、意味があるのか……)
佑樹は当時、そう思ったものだった。
しかし、遥香によるミリ単位のフィッテイングが進むにつれ股間の貞操具はかっちりと男性器を締め付け、意図的にスリップアウト出来たのは僅かな期間だった事をすぐ気づかされた。
本格的に始まった装着の辛さに佑樹は遥香が留守の間、密かに院長室に忍び込んでは机の引き出しを探りスペアキーを物色したが見つけることは出来なかった。今や股間の樹脂製貞操具は躰の一部と言っていい程にピッタリと佑樹の性器に貼り付いている。
戸締りをする時刻になっても昼過ぎからの蒸し返すような暑さは緩むことなく、エアコンを切った途端、診療所内の寒暖計は三十度近くまで上昇した。
蒸し暑い建物から早く出ようと帰り支度をしている最中、佑樹の股間が唐突に疼き始めた。
(うぅっ……まただっ)
ここ数日、佑樹は午後の外来患者の診察が終わる頃になると決まって無意識に起る軽い勃起現象に困惑していた。
院長不在のワンオペ診療による慌ただしい一日のストレスから解放されるせいなのか、仕事が一段落した時間に決まって意識とは無関係にペニスの充血が生理的に起る。
(うぅっ、あぁっ……これ以上勃起するとまずいっ)
股間の狭小のペニスケースいっぱいに膨らんだ亀頭の陰肉は行き場を失い先端の排尿用スリットからいびつにはみ出し激痛が走る。同時に根元のリングが引っ張られて、睾丸の付け根が千切れるほどに締め上げられる。
「あうぅ、痛っぅ」
思わず声が出る程の最も敏感な部分を強く抓り上げられるような辛い痛みに、ユニホームの上から貞操具を拳で何度も叩き、勃起したペニスを鎮まらせようとするのだった。
(くぅーっ、いったい、いつ外してもらえるんだ……)
貞操具の長期装着の効果は帰宅後においても佑樹の生活リズムを変えていた。特にシャワーを浴びながら痒みを何とかしようと、ペニスケージをもどかし気に弄りまくるのが佑樹の日課となっていた。
(ああーっ、痒いっ……)
忙しさを理由にキーホルダーである院長の遥香から定期的な洗浄を先延ばしにされている透明なペニスケージに閉じ込められたペニスは、全体に白濁した恥垢を夥しく付着させ、ふやけたように膨らんでいる。
当然シャワーの水流をペニスケージ越しに掛けたところで、気の狂うような痒みも汚れも洗い流すことは出来ない。
そのもどかしさに佑樹は根元のリングを鷲づかみにしてぐりぐりと揺さぶるが、ケージの中のペニスには羽毛で擦る程の刺激も得られず、痒みは一層増すばかりだ。
(ううぅ……以前のように、なんとか、ずり外れないものかな……)
貞操具の隙間へ大量の石鹸を流し込み、どうだっと思いながら下へずり降ろそうと試みるが、遥香によって完璧にフィッテイングされた貞操具はピッタリとペニスと睾丸の根元に食い込むように絞め込まれているため、スリップアウトで外すことは不可能だ。
しかたなく今日も佑樹は、浴室の棚の上から使い捨ての長尺綿棒を取り出し、先端の繊維の塊を排尿用に空けられたスリットに挿し込んで窮屈な隙間から亀頭を擦りつける。
(あはぁーっ、気持ちいいっ……)
亀頭の表面を綿棒の繊維が軽く搔き上げる快感にため息が洩れるが、しかし、柄を操作して更に奥へ挿し込もうとしても最小サイズに合せられたペニスケージは綿棒を排尿スリットから数センチの位置までしか侵入を許さない。そのうち綿棒に恥垢が絡まり、繊維の凹凸が無くなるため刺戟がなくなる。
佑樹は二本目をスリットへ差し込んだ。
(うっ、まずいっ……)
濡れてふやけた綿棒の先で軽く擦り続ける刺激に海綿体が充血し、窮屈なペニスケージの中で勃起が始まる。
(あぅっ……くうっ……)
最近では精液が溜まりきってひと回り大きく膨らんだ睾丸が、一刻も早い精子の放出を命令しているかの様に、僅かな刺激でペニスが勃起する。
(ぐうぅぅ……)
強化樹脂のケージとリングが強烈に性器全体を締め上げてくる激痛に、腰を屈めて勃起痛が治まるまで耐え忍ばなけばならない。
(うぅーっ……痛っうー)
こうなることは判っているのに帰宅後の毎日シャワーの際は、どうしても綿棒を挿し込んでしまう……まるで、勃起時の痛みを無意識に欲しているかのようだ。
日中でも日に数回、狭いペニスケースの中で激しい痒みを伴って急激に勃起をすることが頻繁にあり、それとは別に小用の際、尿の滴を拭うテッシュがスリットの中の亀頭に触れた途端、その刺激で瞬く間に勃起が始まってしまうこともある。そしてすぐに残酷な痛みが襲って来るのだった。
(あぁーっ、くぅーっ、だめだ、まだ縮まない……)
佑樹は最近、勃起が収まるまでの時間が日に日に長くなってきている事に気付き始めていた。
この繰り返すペニスの苦悩を耐える時、必ずと言っていい程、キーホルダーである遥香の姿が朧気に佑樹の脳裏にフラッシュバックする。そして、彼女の姿が脳裏から消えるまでペニスは充血し膨らみ続けるのだった。
佑樹は遥香の姿を思い出す時、灼けるような何か得も言えない感覚が下半身に湧き出すのを覚え始めていた。
(うぅーっ……あぁっ、まただっ、うぅっ)
そんな日々を繰り返していた週末、佑樹の携帯に長期出張から戻った遥香から連絡が入った。
研修医として着任後、半年経過した佑樹の慰労会を榎萊美子も交えて都内の料亭で催すという誘いだった。
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