花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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番外編

5


 出社して、自分に用意された役員室のデスクに座った。役員なんて言っても、かしらのサポートくらいしか俺にできることはないのだけれど。
 座ってから一息ついて、コーヒーを淹れた頃に、部屋のドアをノックされた。

「はい」

 返事をすると入って来たのはかしらだった。俺はすぐに立ち上がって、挨拶をする。

「おはようございます!」

「おはよう。早速で悪いんだけど頼まれてくれる? 結城がまた面倒を言い出して参ってる」

「はい。何でしょう?」

「事務所を建てたいんだって。どの辺りにするかとかイメージは固まってるみたいだから、それに沿うようで、且つ私が望むような形にして欲しいんだ」

「努力はしてみます」

「それでいい」

 そう言って、かしらがソファに腰を下ろした。まだ何か用があるのだろうか。とりあえず、コーヒーをかしらの分もカップに淹れて出した。

「ありがとう」

 かしらがコーヒーに手を伸ばしたのを確認して、俺も向かいに腰を下ろす。コーヒーを飲みながら俺の顔を見て含み笑いをするかしら。何となく良くない話をされそうな気がして、俺は居住まいを正した。

「今朝、君が出社して間も無くのことなんだけど」

「はい」

「君に会いたいって言う青年が受付に来たらしいんだ。アポは無かったみたいで、もちろん門前払いだったんだけどね。念のためということで、私に報告があった」

「わざわざそんなこと。ご面倒をお掛けして申し訳ありません」

「いや、うん。堅物な風見をからかうネタになるかなと思って実は会って来たんだよ。さっきね。だからわざわざ話してる」

「はい? 何でそんな危険なことをしたんですか。かしらは武闘派じゃないんですから、滅多なことしないで下さい」

「それは大丈夫。盾替わりに結城を連れて行ったから」

「何を……!? 組長に危害を加えられたらどうするんですか!」

「結城も面白がってたし、いいでしょう。というか、本題はそこじゃないんだよ」

 軽い……軽過ぎる! 確かに組長に危害を加えられるような手練れはなかなかいないとしても。鈴音さんみたいな見た目と裏腹な人間だって確かにいるのだから。用心してくれ!
 そもそも俺をからかうネタなんかのために……!

「君に会いに来た青年に、心当たりはある?」

「無い……ですね。俺が出社してすぐってことは、俺の行動を把握していたってことでしょう。もしくは尾けられてたか」

「うん。君が建物に入るのを確認してから、受付に行ったらしいからね」

「本当に危険な人物じゃなかったんですか?」

「そうだね。今は結城と会議室にいるんだけど……」

「は!?」

「何か結城が興味持っちゃったみたいで」

「持っちゃったじゃないでしょう!? あーもう!!」

 俺は即座に会議室に向かった。どの会議室か聞いてないけどまあいい。小さいとこから行けばすぐに当たるはずだ。
 一番小さい会議室のドアをノックもせずに開けた。そしてそこにいたのは、組長と、山下だった。

「山下……」

「風見さん! あーよかったです。来てくれて! ということは、許していただけるんですよね?」

「おう。いいぞ」

 何の話だ。山下は組長に何を許してもらったんだ。というか何で山下がこんなとこにいるんだよ。お前、今朝出て行ったんじゃねぇのか。何で俺に会いに来てんだよ。
 ちょっとした混乱状態で、ドアノブを掴んで半端な位置に立ちぼうけの俺の後ろから、かしらの声がした。

「賭けは不成立です。風見は訪問者が山下くんだと気付いてここに来たのではなく、不審人物と二人きりでいる結城を心配して来ただけなので」

「か、賭けってなんですか? 山下も、何しに来た」

「あーあー、もういい。俺がいいって言ったらそれで話は終わりだ。山下はうちの組に入れる。もう決めた」

 めんどくさそうに組長がそう言い切った。なんだそれ。ありえねぇぞ!
 俺はようやくドアノブから手を離して、一直線に山下の方へ向かった。ヘラヘラしている山下に腹が立つ。胸倉を掴んで思い切り引き寄せた。

「お前何考えてんだ! 組に入るだと? 頭沸いてんのか、アァ!? 半端なことしやがってぶっ殺すぞこの馬鹿野郎が!」

「半端なことなんかしてません! 言うたやないですか。俺は一生風見さんを支えるって。……何でもします! 風見さんのそばに置いて下さい! お願いします!」

 ……何でだ。俺がお前に何をした?
 お前の人生を賭けるほど、俺はお前に何かをしてやったか?
 胸倉を掴む俺の手から逃れて、床に頭を擦り付けるように土下座までする山下に俺は困惑して、何も言えなかった。

「お前は何とも思ってなくても」

 不意に組長の声がした。

「ほんのちょっとのことで救われた気になることもある。山下はお前の無意識の行動に救われた。それだけのことだろう。本人がそうしたいって言ってんだから、そばにいるくらい許してやれ。事務所も建てねぇとだしな」

「別に建てなければならない訳ではありませんよ」

「あ? 俺が建てるっつったら建てんだよ」

 組長とかしらが事務所新設のことで言い合いを始めても、山下は姿勢を変えることもなく、じっと頭を下げ続けている。
 俺はもう何か諦めたような気になって、というか俺の一存では動かせなくなってしまったし、ひとまず頭を上げさせようと山下の肩に手を置いた。
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