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番外編
6(完)
「……俺のために何かしたいって思うなら、料理の道に戻ってくれねぇか」
それでも聞いてみる。料理の道をまた進んで欲しいから。もちろん、そばにいたいと言ってくれる気持ちは嬉しい。でもこっちの人間にはなって欲しくない。山下だからこそ、やめさせたい。
俺の言葉を聞いて、しっかりと考えているような雰囲気が頭を下げたままの姿から伝わってくる。
俺が肩に置いた手をどけると、山下が顔を上げた。もう出会った時みたいなグチャグチャではない、イケメンだと自画自賛するのも頷ける整った顔を綻ばせて。
「風見さんが優しいこと、俺知ってます。風見さんが俺を遠ざけようとする道やからこそ、俺はついて行きたいんです。……俺の料理は、風見さんが食べて下さい。それだけで、俺が腕を磨いてきた意味がありますから」
風見さん、風見さんと繰り返される度に、やめさせるという気が確実に萎んでいく。山下が頭を下げて、俺が止めようとする。そんなものはただの茶番だ。
『俺がいいって言ったらそれで話は終わりだ。山下はうちの組に入れる。もう決めた』
組長の言葉が脳内を回る。それを言い訳にできるし、したいという思いもある。たった一人でも、心から信用できる人間がそばにいてくれたらどれだけ心強いか。そう思うと、このまま山下を……
「風見」
組長が俺の思考を止めるように、俺の名前を呼んだ。
「はい」
「俺が決めた。お前が何を言っても、山下を組に入れるのは決定事項だ。諦めろ」
「組長……」
「お前は真面目過ぎる。たまには俺を利用するぐらいのこと、でかい顔してしてみろ」
「……すみません」
「とりあえず事務所。建てろ」
そう言って、組長は出て行った。それを見たかしらは軽くため息をついて、組長に続いた。
山下と二人残された会議室で、未だに床に膝を付けたままの山下に手を貸して立ち上がらせながら、俺は口を開いた。
「最初からなかなか大仕事だ。ちゃんとついて来いよ」
「はい! ありがとうございます!」
「まずはお前の住む所だな」
「え。また風見さんとこに置いてもら……」
「バカか。お前と同じ部屋でなんか住めるか。ケツが心配でおちおち眠れねぇよ」
「ちょ、ひど! 襲ったりしませんて」
「はいはい。まあ何にせよ、最初は組長のお宅で世話になる。必ず通る道だ。雑用こなして、周りの組員に厳しさを叩き込まれて来い。嫌になったらさっさと逃げろ。後始末は付けてやるから」
「そういうことですか。ほんなら俺、頑張りますよ。待っといて下さい。いつか必ず、風見さんの右腕になってみせます!」
「言ってろ」
そばにいてくれたら嬉しい。極道に関わらせたくない。矛盾する俺の思いは消化されないまま腹に溜まった。
山下をそばに置いても、距離を取っても、どっちにしたって後悔することは目に見えている。でもおそらく、いや絶対に、そばに置く方があとが辛いはず。
それが分かっているくせに、山下の希望を尊重したような顔をして自分の望みを叶える俺をどうか許して欲しい。
ごめんな。ありがとう。
end.
それでも聞いてみる。料理の道をまた進んで欲しいから。もちろん、そばにいたいと言ってくれる気持ちは嬉しい。でもこっちの人間にはなって欲しくない。山下だからこそ、やめさせたい。
俺の言葉を聞いて、しっかりと考えているような雰囲気が頭を下げたままの姿から伝わってくる。
俺が肩に置いた手をどけると、山下が顔を上げた。もう出会った時みたいなグチャグチャではない、イケメンだと自画自賛するのも頷ける整った顔を綻ばせて。
「風見さんが優しいこと、俺知ってます。風見さんが俺を遠ざけようとする道やからこそ、俺はついて行きたいんです。……俺の料理は、風見さんが食べて下さい。それだけで、俺が腕を磨いてきた意味がありますから」
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『俺がいいって言ったらそれで話は終わりだ。山下はうちの組に入れる。もう決めた』
組長の言葉が脳内を回る。それを言い訳にできるし、したいという思いもある。たった一人でも、心から信用できる人間がそばにいてくれたらどれだけ心強いか。そう思うと、このまま山下を……
「風見」
組長が俺の思考を止めるように、俺の名前を呼んだ。
「はい」
「俺が決めた。お前が何を言っても、山下を組に入れるのは決定事項だ。諦めろ」
「組長……」
「お前は真面目過ぎる。たまには俺を利用するぐらいのこと、でかい顔してしてみろ」
「……すみません」
「とりあえず事務所。建てろ」
そう言って、組長は出て行った。それを見たかしらは軽くため息をついて、組長に続いた。
山下と二人残された会議室で、未だに床に膝を付けたままの山下に手を貸して立ち上がらせながら、俺は口を開いた。
「最初からなかなか大仕事だ。ちゃんとついて来いよ」
「はい! ありがとうございます!」
「まずはお前の住む所だな」
「え。また風見さんとこに置いてもら……」
「バカか。お前と同じ部屋でなんか住めるか。ケツが心配でおちおち眠れねぇよ」
「ちょ、ひど! 襲ったりしませんて」
「はいはい。まあ何にせよ、最初は組長のお宅で世話になる。必ず通る道だ。雑用こなして、周りの組員に厳しさを叩き込まれて来い。嫌になったらさっさと逃げろ。後始末は付けてやるから」
「そういうことですか。ほんなら俺、頑張りますよ。待っといて下さい。いつか必ず、風見さんの右腕になってみせます!」
「言ってろ」
そばにいてくれたら嬉しい。極道に関わらせたくない。矛盾する俺の思いは消化されないまま腹に溜まった。
山下をそばに置いても、距離を取っても、どっちにしたって後悔することは目に見えている。でもおそらく、いや絶対に、そばに置く方があとが辛いはず。
それが分かっているくせに、山下の希望を尊重したような顔をして自分の望みを叶える俺をどうか許して欲しい。
ごめんな。ありがとう。
end.
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